【ソッカー(男子)】開幕前特集第6弾! 再建を託された若き新指揮官、冨田賢監督インタビュー

提供・慶應義塾体育会ソッカー部

慶大は昨季の関東大学リーグ1部で最下位に沈み、10年ぶりの2部降格という屈辱を味わった。「再建」を期して2月から始動した新チーム。2部優勝、昇格を目指し、シーズン開幕に向けて牙を研いでいる。ケイスポでは、新チームの中心を担う選手、スタッフに意気込みを語ってもらった。

 

第6弾は、今季から新たに指揮を執る冨田賢監督の単独インタビューをお届けする。長年慶大を指揮し続けた須田芳正前監督が去り、若くして伝統ある荒鷲軍団を指揮することとなった冨田監督。チーム再建、1部昇格の大きな期待と重圧がのしかかる中、どんなチーム作りを見せてくれるのか。新指揮官の覚悟と信念に迫った。

(取材日:3月2日)

 

――新監督に就任された経緯を教えてください

僕は選手としてザスパ草津で3年間プレーしたんですが、引退する時に須田さんに「コーチとして来てくれないか」と要請を頂いて、6年間慶應でコーチをやっていました。そして去年のシーズン前に、女子サッカーでなでしこリーグに多くの選手を輩出している武蔵丘短期大学から、「サッカーが指導できて授業も持てる教員を探している」というお話があって、すごく悩んだんですけど急遽監督としてそちらに行くことになりました。そんななかで、慶應が2部に落ちてしまったこともあり、長らくソッカー部に貢献してこられた須田監督が退任するということで就任のお話を頂きました。僕としては本当に色々な意味で覚悟を持ってやらなければいけないなと思って、色々な思いもありながら、それでも慶應を今年1部に上げるという覚悟を持って来ました。

 

――須田前監督の退任は以前から決まっていたわけではないと思いますが、このお話はいつ頃あったのですか

去年の暮れですね。2部降格が決まったのが最終節だったので、それから少ししてからですね。

 

――武蔵丘短期大では結果的に1年間しか指揮を執らなかったわけですが、そこでの経験はどのようなものでしたか

僕の中ではもっと長く貢献したい思いがあって、ご迷惑をおかけしたと思っています。本当に伝えたいことなんですけど、とても感謝しています。1年間でしたけど、そこで僕が学ばせていただいたものは本当に僕の宝物です。僕は幼稚舎から慶應で、何も分からないような自分に声を掛けていただいて、学生に指導していましたけど、それ以上に僕がたくさん学ばせていただきました。先生たちも今回の話を快く了承して送り出してくれて、慶應が1部に上がって日本一になるために頑張れと背中を押してくれたので、本当に感謝の気持ちが強いです。そこで何を学んだかと言うと、一番はサッカーを楽しむ心です。武蔵丘短期大学は伝統校ですけど、彼女たちは本当にサッカーが好きで、スタイルもポゼッションの攻撃的なもので見ていて楽しくて、それが自分の中では経験として生きたなと思います。あとは授業も結構担当して、これまではサッカーを教えるだけだったんですけど、学生に指導をするということを学ばせていただきました。

 

――武蔵丘短期大のサッカーを楽しむ姿勢というのは、慶應にも持ち込んでいきたいところですか

そうですね。慶應の伝統はひたむきにハードワークをすることで、スタイルは少し違うと思うんですけど、厳しさの中でチャンピオンを目指していく姿勢が楽しさにつながると僕は思います。エンジョイだけではなくて、サッカーを追求することを楽しんでもらいたいなと思います。

 

――須田前監督から何かお言葉はありましたか

「今まではコーチだったけど、これからはあなたがすべて決定するんだ。自分自身で決断しろ。」というアドバイスを頂きました。須田監督から学ぶことはすごく多くて、僕の中では、須田監督の一番すごいところは決断する力だと思います。監督というのはどういう決断をするのかというのが仕事だと思うんですけど、僕なりに何が最善なのか、どういうことをやっていかなきゃいけないのかというのを色々考えていきたいと思います。

 

――2年前までは慶應のトップチームのコーチとともにBチームの指揮を執っていたそうですね

はい。そこで直接指導していた選手たちにはある程度僕の考え方を分かってくれている選手たちもいて、何か縁を感じてますね。彼らと一緒にひたむきに一つになって1部昇格を目指したいと思います。

 

――この若さで伝統ある慶大ソッカー部の監督に就任することにプレッシャーは感じていますか

自身をよく理解するコーチ陣に大きな信頼を寄せる

当然大きなプレッシャーがありますね。このお話を頂いた時も、自分に務まるのだろうかということは非常に考えました。一方で、選手としてもコーチとしても長く慶應にいて、さらに言えば小学生の頃から早慶戦を見ていて、FC東京のユースでプレーしていましたけど、いつか慶應のユニフォームを着てプレーしたいと思っていました。色々なプレッシャーはあるけども、自分がこのチームにできることがあるんじゃないかという強い気持ちが出てきました。それからコーチ陣も、髙橋一真GKコーチ、新しく入った僕の1つ下の慶應OBの浅海友峰コーチ、そして戸田和幸さんが就任してくれることになって、あとはマネージャーを中心に指導してくれている人見秀司さんなど、僕のことをよく理解してくれている人たちがいることも、就任を決めた一つのきっかけになりました。

 

――冨田監督の指導者としての信念を教えてください

僕としては今年みんなに求めていきたいことは、当たり前かもしれないけど、日々成長すること。もちろん勝利を追求するけども、毎日毎日選手としてもチームとしても成長して、最終戦で開幕戦よりも良いサッカーをすること。これは一つ自分の中でも大事にしていきたいと思います。

 

色々な戦い方ができるというのは僕のストロングポイント

――昨季の慶大の試合はどの程度ご覧になっていましたか

結果ではもちろん見ていましたし何試合かは見ていました。ただ全試合は見られていなかったので、昨季の早慶戦とかのビデオを見ながら振り返っています。

 

――昨季見た試合や今ビデオで見ている試合の中で、どのようなことを感じましたか

僕は去年関わっていないので、あまり僕からどうこうは言えないですね。

 

――新チームについて伺います。実際に指導し始めて、今年のチームの印象はいかがですか

選手たちがすごくひたむきにやろうとしているのは初日から伝わってきました。だからシーズンを通してこの気持ちを忘れないでやっていけるかどうか。恐らく困難なことが起きてくると思います。当然1部昇格を目指すけれども、2連敗するかもしれない。そうなった時にチームとしてその気持ちを持ち続けられるかどうか。バラバラにならずにチーム一丸となってやっていけるかが大事になってくるかなと思います。

 

――悪い時期が来ても、ということですね

そうです。そういう時こそ。これも僕の一つの信念なんですけど、うまくいかない時こそ人間性が出るんです。だからこそ僕もチームも困難に立ち向かう人間としての強さを大事にして、求めていきたいと思っています。

 

――今年のチームの強みと弱みはどこですか

間違いなくひたむきにハードワークできることですね。慶應の伝統ですけど、全員が守備をひたむきにすることは強みだと思うので、それをしっかり生かしていきたい。あんまり弱いところは言いたくないけども、あえて挙げるとすれば…言われたことを素直に聞いてプレーする。これは指導者としては非常にありがたい。一方で、サッカーはこっちが「こういう戦い方をしよう」と大枠を決めても、それとは違う状況がピッチ上で起こるかもしれない。僕の信念としては、そこでベンチの顔色をうかがって「どうしたら良いですか」というチームにはなってほしくない。今見てると選手が自分たちで判断して解決していこうという姿勢は見えるかな。ただ、少し真面目に聞きすぎてしまって、例えば相手が強くかけてきた、早く蹴ろうと言ったら全部そのプレーになってしまったり、「ボールを大事にしよう」と言ったら全部つなごうとなったりしてしまっていて、それは状況に合わせて判断していかないといけない。そこは僕も伝え方としては非常に難しいんだけど、選手たちにはもっともっと、言われたことではなく自分が今すべきことをしてほしい。だからそのためのトレーニングはしていかなきゃいけないんだけど、判断力をつけて、勇気を持ってミスを恐れないでプレーしてほしい。どうしても安全に、正確にやろうとすると横パスやバックパスが増えてしまうと思うけども、サッカーはやっぱり縦に、ゴールに向かわなきゃいけない。そういうトライする気持ちが、もしかしたら今は少し足りないと言えば足りないかもしれない。そこを求めていきたいと思っています。

 

――松木駿之介(総4・青森山田)主将が「主体的なサッカーを目指している」と言っていたのもそういう意味か

今は理想のサッカーを選手たちに伝えている最中だ

これを言うと「スタイルが分かりづらい」と言う人もいるんだけど、僕は本当にそう思ってる。堅守速攻だけで勝てるか、ポゼッションだけで勝てるかと言うと、僕はそれは難しいと思う。もしかしたら僕らのストロングポイントかもしれないけど、頭を使って、今は前から行った方がいい、今はセットした方がいいと。色々な戦い方ができるというのは僕はストロングポイントだと思ってる。人によっては「スタイルがない」と思うかもしれないけど。サッカーというのは色々な状況があって、例えば0-1なのに堅守速攻をやり続けるのか、いや取りに行かなきゃいけない。そうなった時に、僕は色々な戦い方ができる。今はまず守備をトレーニングしているけど、そこでも主体的にというのを求めたい。相手がボールを動かすから後手で対応するのではなく、自分たちから主体的に動き出して誘導して、サッカーの言葉で言えばMFとDFがまずしっかり寄せて、予測をしながら、原則やチャレンジの優先順位を頭の中に入れながらプレーする。それが良い攻撃につながる。だから守備と言っていてもそれは攻撃と一緒だし、攻撃と言っていてもそれは守備なんだと。今のサッカーはそこの境目が本当になくなってきているからこそ、自分たちから主体的に奪って攻撃につなげていく。攻撃でも、相手が寄せてきたから出す、だと難しい。相手が的を絞れないくらい、自分たちが早い判断でプレーする。それが主体的だと僕は思う。攻守にわたってそういうプレーをしていかなきゃいけない。そのためには絶対に考えなきゃいけないし、見なきゃいけない。ピッチの状況がどうなっているのか。サッカーには同じシチュエーションがないから。だから「こういう戦い方でいく」という決め打ちはできない。そういう監督もいると思うけど、僕はあまり好んでない。ある程度の大枠を共有することは必要だけど、その中で選手たちが観察しながらプレーしなきゃいけない。相手がもし同じ位置に立っていても、前を狙っているのか、構えて立っているのか、それによっても判断は変わってくる。スペースはどこにあるのか。味方がどういう体の向きをしているのか。それから、質の高いサッカーをするためには、自分とボールの関係だけでは難しいと思う。3人目の選手が関わっていかなきゃいけない。トレーニングでもやっているんだけど、こういったことは非常に難しいんだよね。彼らが毎日のトレーニングで、見て、判断して、それを積み重ねることによって少しずつ出てくるもの。当てて、落として、その時にはもう次の選手が動き出している。そうするともうDFは対応できない。理想としてはそういうサッカーを求めていきたい。ただ、一方で現実も見ていかなきゃいけないというのはシーズンが始まって今感じていることで、その辺りはしっかりと選手たちと話し合いながら、方針を決めていきたいなと。

 

――今は練習試合なども通して、監督の考え方を伝えていっている途中ですか

やろうとしてくれていると思う。非常にそれはありがたい。3人目の動きも出てきたし、守備もまずまずできている。練習試合で失点が多いのはセットプレーのところで、これはしっかりやっていかなきゃいけない。現代サッカーでは3割4割のゴールがセットプレーで決まる。その重要性は僕も選手たちも理解していると思うけど、まだまだ徹底できていない。シンプルに考えたら、まずそういうシーンを作らないために無駄なファウルをしないこと。そこは求めたい。あとはゾーンにするのかマンツーマンにするのか、あるいは組み合わせるのか。そこは色々トライして、開幕までにはある程度決めていきたいですね。

 

――練習試合の結果に納得していない選手もいるようでしたが、雰囲気はどうですか

僕は内容はまずまずだと思います。まあもちろんもっとやらなきゃいけない。上に上がるって選手たちもよく口にしているのは良いことだと思うけど、日々のトレーニングの強度だったり姿勢だったりはまだまだ。僕は成長するためにはトレーニングしかないと思ってるから、2時間を本当に集中してやること。その積み重ねでしか成長できなくて、近道はないと思う。僕がサッカーのベースになると思っているのは守備の強度で、練習中からゲーム以上の強度でできるかどうか。それができていればゲームになったときに楽にプレーできるし、そこが疎かな状態ではどんなにボールが回せても自己満足で意味がない。全然違うんだよね。その強度があった上でそれをはがせているのとは。その点はまだまだ足りない。これは1年間言い続けたい。なんとなく行ってますよという守備のアプローチではなく、ハントして奪い切るんだという姿勢。これもいきなりはできないんだ。でも、相手がプレッシャーを感じる間合いに入っていくというのは、僕はサッカーで本当に大事なことだと思う。そこをもっともっと求めたい。それがないと良い攻撃の練習にもならない。

 

――主将の松木選手と副将の岩崎湧治(商4・ベガルタ仙台ユース)選手にはどのような働きを求めますか

松木は慶應の魂を受け継ぐ選手だと思う。ハードワークすること、ひたむきにチームのためにプレーすることは、古臭いかもしれないけど伝統として忘れちゃいけないことだと思う。それは上手い下手ではなくメンタリティ。彼にはそれをピッチ内外において発揮してもらいたい。慶應の伝統を背負ってプレーしてもらいたいなと。まあ意識は持ってると思うけどね。もっともっと良いところを出してほしいし、そのなかで松木には成長してもらいたい。彼は1トップで出すのと左サイドで出す構想があるけど、ヘディングだったり球際だったりが非常に良い。そしてさらにもっと良くなっていくためには、1タッチ2タッチでプレーする、3人目で関わっていく。難しいけれど、そこができるようになれば、もっと選手として幅が広がっていくと思う。彼はここ(大学サッカー)で終わらないかもしれないから。でもちょっとずつだけどそういうプレーは出てきたね。意識としてやろうとしているなと感じる。だからそういったところも成長してもらって、もっとチームに良い影響を与えられる選手になってほしい。湧治はBチームの頃から一緒に戦ってきた選手で、たぶん僕の思ってることとかを他の選手たちよりも分かってる。僕は抽象的に言ってしまうことが多いから伝わらないこともあると思うんだけど、彼は他の選手たちよりも分かってることが多いと思う。もちろんまずは試合に出てプレーで貢献してもらいたいけど、その上でそういった役割もしてくれたらと思う。

 

――今年のチームの中で監督がキーマンだと考える選手、頑張ってほしい選手などはいますか

全員がキーマンだね。試合に出る選手だけじゃなくて、170人の選手たちが本当に1つになること。僕はそれが慶應の良さだと思ってる。30人だけ取って少数精鋭でというのではなくて。出てくるんだよ。Cチームからトップで試合に出る選手が。上手いとか下手とかじゃなくて、本当に泥臭くやってくる。下のチームにいることは、苦しいことも多いと思うんだよね。そういう環境の中でも「このチームに貢献する」という強い気持ちを持った選手が本当に試合に出て貢献してる。それは絶対に良いところだと思う。だからこそBチームは浅海コーチに、Cチームは戸田コーチっていうあれだけ経験のある人に見てもらってる。どのカテゴリーにいても、「自分がキーマンなんだ。自分が試合に出てやる」っていうのを忘れないでほしいし、それを見たい。そういうのをちゃんと見ておきたい。そのために社会人スタッフに見てもらってる。それだって相当な労力だよ。だけどそういう人たちが見てくれる環境に感謝してる。全員がキーマンだと思ってほしい。これからある程度メンバーを決めていかなきゃいけないけど、リーグ戦が始まっても連戦もあるしケガ人も出てくるし、出てる11人だけで戦うというのはあり得ない。そうなった時に、本当に調子の良い選手だったり、チームのために戦ってくれる選手を見極めて出していきたいなと思ってます。

 

2部なら勝てる、上がれるというのはない

 

――これから始まる新シーズンですが、目標はやはり優勝、昇格ですか

それしかないですね。

 

――昨季も早大や神奈川大に完敗したように、2部での戦いも簡単なものではないと思います

おっしゃる通りです。はっきり言って本当に困難な道だと思う。みんながそれを認識すべきだし、僕自身も感じてる。だからこそ毎日毎日後悔しないように質の高いトレーニングが必要で、そのためには絶対に休養が必要だし、栄養管理が必要。これは選手たちに絶対にやってもらいたい。だから今年から新しい取り組みで、栄養管理のアプリを採用していて、まあ1つの試みだからどうなるかわからないけども…。本当はそんなのなくても選手たちが自己管理できるのが理想なんだけど、まあアプリを使ってそれをモチベーションにしながらという。それは僕やスタッフも見られるんだけど、面白いのは、ちゃんとした食事を摂ってる選手は本当に練習中の動きが良いんだよね。やっぱり大事だなって。結果として出てるから。あとはケアをしっかりしてほしい。僕も現役の時ケガに泣かされて、そういう気持ちも兼ね合いの難しさもわかるけども、僕の感覚だと、本当にトップレベルでやるならトレーニングの倍の時間はケアが必要。やっぱり日々のトレーニングの強度を求めるから、それぐらい身体のメンテナンスやコントロールをしないとケガしちゃう。それからメンタルのコンディションも大事。これは僕の感覚だけど、毎日どういうメンタルになっているかはピッチ上で全部出るんだよね。だから日々の生活でも、前向きでいることだったり、時にはサッカーを離れてリラックスすることも大事かもしれない。メンタルの調整方法は人それぞれ違うから、自分はこうすると良くなるぞっていうのを見つけてもらいたい。

 

――2部での戦いは環境面などの違いも出てくると思います

大学のグラウンドでプレーすることが増えますよね。今まではものすごく恵まれた環境でプレーできていて、でも今いる選手たちは入った時からずっと1部にいたわけだから、もしかしたらそれが当たり前と思っているかもしれない。だけど、改めてそれは当たり前じゃないんだよと。またもう一度西が丘だったりでプレーするというのは、自分たちでつかみ取るしかない。戻さなきゃいけない。これまでの1部の舞台というのは、OBの方々が本当に血が滲むような思いで掴んだものだから、それを今の選手たちには忘れないでほしい。もう一度その血が滲むような努力をして上がりたい。

 

――1部に戻さなければいけないという意識はありますか

もちろん。それが責任だよね。それが自分の役割で、僕が引っ張っていかなきゃいけない。

 

――今の時点で自信はどの程度ありますか

自信は無かったらやってない。でも過信はしてない。危機感の方が強い。自信は奥底にはあるけど、もっともっとやっていかなきゃいけないという危機感がある。選手たちにも自信よりも危機感を持ってほしい。僕は一歩間違ったら逆に降格もあり得ると思ってる。2部も甘くないから。こんなこと思ってる選手はいないと思うけど、もしちょっとでも「なんとかなるだろう」「戻れるだろう」と思ってる選手がいたら、難しい。もちろん目標は絶対に昇格だけど、降格もあるという危機感は全員に持ってもらいたい。

 

――関東リーグは上位と下位の実力差が小さいと須田前監督もよくおっしゃっていました

今はもう本当に変わらないと思う。昔は1部と2部には差があったけど、僕の中ではここも。

 

――1部と2部の間もですか

慶應の伝統を背負い、1部復帰への困難な道のりを乗り越えられるか

そう。今は2部もどのチームも力をつけてきて、1部のチームとも遜色なくできるようになってると思う。そこの境目も曖昧になってるのかなって。だからこその危機感。2部なら勝てる、上がれるというのはないね。簡単な試合はたぶん1試合もないと思う。本当にハードワークしてすべて出し切って、初めて勝ち点3が取れるか取れないか。それを積み重ねて、最終的にはたぶん3敗、4敗がボーダーラインになってくると思う。かなり難しいことにチャレンジしてる感覚はある。だけどだからこそやりがいがあるなと思うし、慶應を戻さなきゃいけないと思う。

 

――最大の目標はリーグの昇格ですが、早慶定期戦の連敗も止めなければいけないですよね

それはもちろんあるね。なんなんだろうね…この思いは。ダービーのようなものかな。練習の雰囲気とかも何か特別なものがある。僕らの時からそうだけど、ピリピリ感というか、自然発生的に出てくるんだよね。早慶戦は色々な人が見に来てくれると思うから、良い試合がしたい。もちろん勝つためにやるけど、見に来た人が、良い試合だった、素晴らしかった、元気をもらった、感動したと思えるような。そのためには、さっき言ったことにつながるけど、主体的にプレーすること。監督とかコーチの言ってることをただやるサッカーは、俺はつまらないと思う。指導者として見てても、つまらないなーって。勝てるかもしれないけどね。あと早慶戦は、声がまったく聞こえないんだよ。僕は大学1年の時から4年間すべてフル出場させてもらって、これはもしかしたらあんまりいないんじゃないかなと思って僕の誇りなんだけど(笑)。だからその雰囲気は人一倍分かってる。監督の声も、選手間の声すらも聞こえない。そんな中でプレーするには、自分で判断するしかない。そして見てる人はそこに面白さを感じると思う。「ああ、あの子たちは本当に自分で考えてイキイキとプレーしてるな」と。サッカーはミスのスポーツだから、ミスを恐れないでほしい。ミスを恐れてバックパスばかりじゃつまらないよね。ボールは回って誰もミスしてないかもしれないけど、そうじゃなくて、もちろんボールを失わない中で縦にどう入れていくか、背後をどう取っていくか、ゴールをどう奪っていくか。そのための技術だよね。話が少し脱線してしまうけど、技術って何なのかということ。60mのパスを正確に通す。これは技術だよね。12mのパスを当たり前につなぐ。これも技術で、僕は練習でもこれを大事にしてる。サッカーの基本はインサイドキックで、正確に速くボールを扱えることは絶対に大事な技術。でも技術だけでは良いサッカーはできないんだよね。そこに状況判断が加わって初めて良いサッカーになる。判断と技術が伴うことで、本当にサッカーで使える力になる。これを選手たちに求めたい。見ること、判断すること、サッカーの本質を知ること。抽象的になってしまうけど、それが成長につながる。それをみんなが理解して、良いサッカーができるようにしていきたいなと思います。

 

――開幕に向けて意気込みをお願いします

毎日毎日を積み重ねて、日々成長していく。1日1日を無駄にしない。関東リーグの前にまず学生トーナメントで1部の東洋大と試合があって、そこを僕は開幕として考えてるんだけど、この試合に強い気持ちを持って向かっていきたい。やっぱり近道はないからね。「リーグ戦が始まったら頑張るぞ」ではなくて、毎日の積み重ねを今からしていくこと。日々のトレーニングを本当にしっかりとやって、チーム一丸となって頑張っていきたいと思います。

 

――最後に慶大のファンの皆様にメッセージをお願いします

選手たちが本当にひたむきにプレーすることは、僕も求めていくし、約束する。そのための最善の努力をしていく。だから、2部になって環境も少し良くなくなるかもしれないけども、ちょっとでも足を運んでもらいたいなと。そういう人たちが本当に「見て良かったな」と思えるゲームをやりたいと思うので、忙しいかもしれないけど見にきていただけたらありがたいなと思います。

(取材、写真:桑原大樹)

冨田賢(とみた・けん)

須田芳正前監督のもと6年間慶大ソッカー部のコーチとして経験を積み、昨季は女子サッカーの名門、武蔵丘短期大で指揮を執った新進気鋭の監督。大学時代は慶大で主将を務めるなど中心選手として活躍し、卒業後はザスパ草津で3年間プレーした経験を持つ。現役時代のポジションはDF。

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