慶應義塾大学トライアスロン部Team J.は、長年の悲願である慶應義塾體育会への加盟申請を目前に控えている。組織としての進化を遂げようとする今、2026年度の新主将・副将は何を思うのか。伝統の門を叩く彼らの覚悟に迫った。
2026年度スローガンは結闘。
「強い個人の牽引に頼るチームから、全員が『Jを強くしよう』という意志で切磋琢磨し、互いを引き上げ合う集団へ。その決意をこの二文字に込めた。」
そう力強く語ったのは、トライアスロン部Team J.の2026年度主将・池田優太(経2・桐蔭学園)。

「今までは個人でやってきたトライアスロンという競技を、今後はもっとチーム一丸となって戦っていきたい。練習という場でチームを引っ張っていけるような心強い主将になりたいと思ってます」と、主将としての意気込みを語ってくれた。
今回、体育会加盟を目指した背景として、副将・石黒佑(経2・浅野) は「競技の性質上、どうしてもみんながバラバラの方向に向かっていってしまう部分があった」と語る。

「それ自体が悪いことではないが、皆が持つエネルギー全てを統合できればチーム全体がもっと上を目指していける。体育会加盟を目指すことは、チームとして一枚岩になるための契機になると思います。」
体育会加盟の申請を契機に、チームが一体となって進化しようとしている一方、石黒は「Team J.というチームの雰囲気は決して変わらないと思う」と語る。
それを体現するのが、チーム名”J”の由来にもなっている“Joy and Japan”だ。
「Joyは、純粋に競技を楽しむ心。Japanは、日本一を渇望する志。この二つの側面を共存させられるのがTeam J.の真髄だと思う」と池田は述べる。

「体育会という枠組みに入っても、競技至上主義にのみ囚われることはない。トライアスロンという競技を楽しみたい人から、トライアスロンで全国を目指す人まで、全ての競技者が集う場所であり続ける。それが我々の誇りですから。」
組織形態の進化のなかで、チームのアイデンティティを保ち続ける。池田の決意は堅かった。
続いて、主将・副将の二人に2026年度の競技目標を伺った。
「6月にある関東インカレで男女アベックの3位入賞が目標。また全日本インカレへの男女合計10人以上の進出。そしてその全日本インカレでは、男子団体での6位入賞を目指しています。」
主将・池田は団体入賞の原動力となるべく、個人としても「全日本インカレ20位以内」を至上命題に掲げる。主将としてチームを牽引し、男子団体の6位入賞に貢献することを強く誓った。
「関東インカレで、本当にラスト1kmで、熱中症の症状で緊急搬送されてしまって。2025年はもどかしいシーズンだった。」
その眼差しにはその「屈辱」を糧にした、静かな闘志が宿っていた。苦杯を喫した昨年を背に、チームを指揮し続ける熱い男がTeam J.を高みへと導く。

前に出てチームをまとめ上げる主将・池田に対し、副将・石黒は結果でチームを引っ張る。
「個人としては6月の神奈川県選手権で上位2名に入り、神奈川県代表として国民スポーツ大会に出場することが1つの目標。」

「そして全日本インカレ個人6位入賞。僕が個人で6位以内を争う位置まで上がれば、チームの6位入賞は確実に見えてくる。」
石黒の言葉には、緻密な計算と揺るぎない自信が同居する。トライアスロンの第一種目であるスイムを得意とする彼にとって、序盤でいかにリードを広げ、後続に有利な展開を作れるかが勝負の鍵だ。自分がトップ集団でレースを支配すれば、チーム全体に勢いが生まれる――。冷静沈着に、しかし誰よりも熱く、彼は勝利への方程式を描いている。

背中で語り、精神的支柱としてチームをまとめ上げる池田。圧倒的な結果を叩き出し、実力で道を切り拓く石黒。対照的なスタイルを持つ二人のリーダーが今、Team J.の両輪となって力強く回り始めた。
體育会加入を目指す組織――。その響きに、峻烈な上下関係を想像し、入部を躊躇する新入生もいるかもしれない。
しかし、池田はそれを明確に否定する。
「ストイックであることは前提ですが、オンとオフの切り替えを大切にしたい。全力を尽くすからこそ心から楽しめる。そんな理想の体育会像を体現したいと思っています。」
厳しく努力を続けながらも、そこには常にトライアスロンという競技を楽しみ続ける部員たちの姿がある。そんな体育会を目指していきたいと語った。

最後に、トライアスロン部の門戸を叩く未来の1年生たちへ言葉をくれた。
副将・石黒は、トライアスロンという競技の「奥深さ」を強調した。
「競泳出身の僕や陸上出身の池田のように、多様な背景がそのまま強みになる。」
実際石黒はスイムで圧倒的なプラスを、そして池田は陸上競技で圧倒的なプラスを叩き出し、結果を残してきたという。

「トライアスロンはまだまだ歴史の浅いスポーツ。トライアスロンの3種目である競泳、自転車、陸上に限らず、サッカーや野球など多様なバックグラウンドを持った選手たちが在籍する。まだ『研究され尽くしていない』スポーツだからこそ、どんな競技経験も化学反応を起こす余地がある。」
多様なバックグラウンドを持つ選手が集う競技、トライアスロン。大学から始めた選手がほとんどという珍しい種目であり、主将・池田は実際に「Team J.は、新しいことを大学でやりたいと集った人たちが活躍している場所」だという。
大学というステージで新たな風を起こしたい。そんな若者たちにとって、Team J.の門戸は常に開かれている。伝統ある慶應義塾體育会にトライアスロンという新たな「熱狂」が刻まれる日は、もうすぐそこまで来ている。
(取材:神戸 佑貴)
※競技写真は部より提供いただきました。


