25年度に卒業を迎える4年生を特集する特別企画「光るとき」。第19回となる今回は、蹴球部の石垣慎之介(政4・慶應志木)。2年時に公式戦初出場を果たして以降複数の試合で活躍を見せるも、ラストシーズンは怪我に悩まされた時間も過ごした。「負ける場面が多かった」高校時代から4年後、「石垣にボールが渡ればなんとかなる」と観客の誰もが思うような“慶大の中心プレイヤー”へ――石垣の軌跡を振り返る。
ラグビーからは何度も離れかけた 苦しい高校時代
地元・栃木県内でラグビースクールのコーチを務めていた父親の影響で3歳からラグビーを始めた石垣。当時は「気づいたときにはラグビーに触れていた」、そんな感覚だったという。幼少期から“ラグビーが当たり前の日常”を過ごした石垣だが、高校進学時にはラグビーを続けようか真剣に考えていた時期もあった。そんな中慶應志木高に進学し、黒黄ジャージに袖を通すことを決意した。コロナ禍も経験した高校3年間は、全国高等学校ラグビーフットボール大会埼玉県予選において決勝に進むことすら叶わず、「花園は目指しても全く手が届かなかった場所。何度もラグビーをやっている意味を見失いかけた」と振り返る。一方で、何度も薄れたラグビー熱だったが高校卒業時には「もっと高いレベルでラグビーがしたい」気持ちへ変化した。こうして慶大蹴球部の門を叩いた。126代の慶應志木高出身者は石垣のみ。初めての寮生活で慣れない日常、そして高校時代に試合で打ち負かされてきた慶應高をはじめとするライバルたちとの生活に戸惑いを覚えつつも、個性豊かで気さくな126代の同期と共に楽しく部活動に励むことができたという。公式戦初出場は2年時の春季大会法大戦。同期の山本大悟(環4・常翔学園)や伊吹央(経4・慶應)と共にスタメンに名を連ね、勝利に貢献した。しかしその後は名だたる上級生のライバル相手にもがき、黒黄の11番の座からは少し遠ざかった。

徐々に“慶大蹴球部の顔”へと――飛躍の1年
山本や伊吹の他に、二学年下に小野澤謙真(新環3・静岡聖光学院)が入部し、より一層慶大WTB陣の層が厚くなった3年時。春季大会は3試合にスタメン出場し、計2トライを記録。秋季対抗戦では一学年上の廣瀬瞭(令7環卒・慶應)らと11番のポジションを争いながら、立大戦で1トライ、日体大戦で2トライを決めたほか、早慶戦の舞台にも立ち、徐々に安定した活躍をアピールできるようになった。さらに第61回全国大学ラグビーフットボール選手権大会(以下、選手権)東洋大戦での後半チーム初トライ、帝京大戦での点差を詰める貴重なトライを見せ、大学ラグビーファンに名を馳せたともいえる飛躍のシーズンとなった。一方「ベスト4以上」を目標に掲げていたチームはこの帝京大戦をもってシーズンが終了。フル出場した石垣は試合後、悔し涙を浮かばせていた。

リベンジを誓った矢先の絶望から這い上がる 怒涛のラストイヤー
涙した敗戦から約4ヶ月。年々成長を遂げ、最終学年のシーズンが開幕する直前、石垣に早速試練が訪れる。春季大会前の練習で鼻を骨折。鼻を守る形となり万全ではなかったものの、初戦は2トライ、そして圧倒的走力で敵陣を走り抜く打開力を見せ、存在感を放った。その後4試合でも11番を背負い、4年生の多い最強のBK陣の一角を堂々と担った。ところが、春季大会最終節前に再び怪我に見舞われ、仲間の悔敗をピッチの外から見守った。

夏合宿中、最終節前の怪我から復帰しラストシーズンにフォーカスを当て始めた矢先、もう一度怪我が石垣に降りかかる。このときのことについては「悩んだし、しんどかった」と口にした。この時支えとなったのが、チームメイトの存在だ。苦しいリハビリをするにも仲間がいて、お互いに励まし合える環境が整っているのが大学でチームスポーツをやることの大きな利点。このとき「色々な人に支えてもらった」と謙虚に語る石垣だが、「(怪我で)もう試合に出られないかと思った」苦境から、10月19日に実戦復帰、そして11月23日の早慶戦で本格的にチームの戦線に再合流を果たしたのは、紛れもなく目の前のことを黙々とこなす堅実な練習を積み重ねた石垣の努力の結晶があってこその結果だといえるだろう。

石垣が「魂のぶつかり合い」と表現した早慶戦の舞台は自身二度目の経験となった。大舞台で「自分のランで観客を沸かせたい」と意気込んだ石垣は途中出場し、宣言通り走力を生かして反撃のトライを決め、意地を見せた。翌週の帝京大戦、さらに第62回選手権の京産大戦でもトライを収めた。1年間の取材を通して何度も「自分はチームを前に進める役目」、「自分はトライを決めないと起用してもらっている意味がない」と分析していた石垣は、誰よりも最後までその言葉を体現し、自他ともに誇れるプレーを一貫した。結果としてラグビー人生最後の試合となった京産大戦は「楽しむ」ことを意識して入ったという。高校時代届かなかった憧れの花園で、「ラグビーの新しい世界を見せてくれた」126代の同期と、「生意気だけど良い仲間」と可愛がる後輩たちと共に執念で決めたトライは、石垣の謙虚で堅実な人柄と、4年間で積み重ねた内に秘めるラグビーと仲間への情熱を示していた。

(取材:神谷直樹、髙木謙 記事:島森沙奈美)

