【バレーボール(男子)】元気隊長の異名を持つ努力人 苦しい経験の先で得た宝物/4年生卒業企画「光るとき」 No.39・平山一之心

バレー企画

平山無くして、慶大バレー部の熱狂は生み出されない。平山一之心(商4・甲南)は1年生からチーム内の応援副団長に抜擢され、さらに練習へのストイックな姿勢を見て彼に惹きつけられた仲間と一体となり、4年間を通して応援の面から慶大バレー部の熱狂を作り出してきた。プレー面でも自他ともに認める程「絶対に練習をさぼらない」彼は入部当初から大きく技量を伸ばした。平山は4年間を終えた今、「つらい経験以上に成長できた」と語るが、その言葉の奥底に眠る膨大な努力の軌跡をたどる。

 

「引っ張り引っ張られ」た大学1・2年生 

 小生が先輩記者から平山選手について教えてもらった際、彼の異名は「元気隊長」であった。実際に試合前には重厚な三色旗を持ちながらコートを縦横無尽に走り回り、試合中にはプレーする仲間に誰よりも熱いエールを送り、周囲を巻き込みながら大きな声援を生みだしている姿を何度も目にした。チームの中で大きな存在感を放つ平山だが、強豪・慶應義塾高校からの進学者が多い慶大バレー部の中で、附属校出身ではない彼は特に入部当初において「周りの技術力に圧倒されてこのままだったら埋もれてしまうという危機感を抱えていた」という。
 平山は慶大バレー部に入部し、そこでは幼少期からバレーボールに携わり日本代表などの輝かしいキャリアを持った人、慶應義塾高校をはじめとした全国大会常連校に身を置いていた人たちと関わり、勝利に対する執着や競技への泥臭さについての自身が持つものとの違いを感じる。それは平山が決して勝利に対して鈍感であったということではなく、これまで絶対に練習をさぼらず真剣にバレーボールと向き合ってきた平山を超えるほど、周囲は練習・試合以外でも常にバレーボールのことを考えるような根っからのバレーボール好きだったのだ。練習時間を問わずバレーボールと向き合い、さらには下級生ながらチーム方針について考えを巡らせる周囲の姿勢には大きな衝撃を覚えたという。そうした環境の中で平山は組織とバレーボールに対する姿勢を吸収し、大学1、2年生のうちはまさに自身が振り返るように「引っ張り引っ張られ」る存在であっただろう。同期を誘って自主練習を行い、さらに練習外では頻繁に同期を誘ってご飯に行き同期間の絆を深めようと動いた。一方で周囲からは練習方法をはじめとした表面的な部分よりもむしろ、勝つためにはどうするか、埋まらない経験の差をどうするべきかといった根本的な部分について自身よりも圧倒的な経験量を持つ同期に引っ張られながら学んでいった。そして自身の価値を発揮する方法を模索する中で見つけたうちの一つが「元気隊長」だった。正式には応援副団長を監督から名付けられ、3年生が務める応援団長に次ぐ重要なポジションを1年生のうちに抜擢された平山は、プレーのスキルを磨きつつ練習・試合双方でチームの士気を高める「火付け役」を担うようになる。

 

大学2年次の全日本インカレでの勇躍 

 大学2年生になり後輩ができても決して気を緩めることなく、全体での練習はもちろん自主練習にも励んでいた平山。ここまで試合の出場経験はなかったものの、下半期からはチームメイトの病欠などもあり出場を果たす。努力が実り徐々にチャンスが転がり込むようになり、そして大学1・2年生の集大成だったと振り返るのが秋季リーグ戦後に行われた全日本インカレである。平山は1回戦の愛知学院大戦で途中出場でリベロとしてコートに立つと、先にも後にも「あんなにスパイクレシーブできることは無いというくらいボールに反応できた」という。愛知学院大は前の年にも同大会で対戦し先輩を引退させた因縁の相手であったため、チームに貢献できたのではないかという自信を獲得できたとともに、ちょうどディグ(スパイクをレシーブすること)を磨いていた時期に練習通りのプレーができたため練習は裏切らないということを再確認するきっかけにもなり、これが平山のストイックな練習姿勢をさらに揺るぎないものとした。

 

チーム運営にまい進した大学3・4年生 

 大学1、2年生と応援面でチームの火付け役を担っていた平山だったが、3年生になると組織運営の面でチーム全体を引っ張ることを徐々にイメージし始める。そして同期の間でも上級生としてどのようにチーム作りに貢献していくべきか話し合う機会が増えていき、それは先輩が引退しチームを先導すべき4年生になると喫緊の課題となった。自分たちの代だけで突っ走ることはできない、下級生との信頼関係の構築が欠かせないという考えが同期の共通認識であり、そこで円滑なチーム運営のために大きく貢献したのが平山だった。元々練習前後で学年を問わずチームメイトと積極的にコミュニケーションを取り度々チームに笑いをもたらしていた平山は、上級生と下級生の橋渡し役を担い、チーム内の信頼関係の構築に大きく貢献した。従来から活発にコミュニケーションを取っていた平山がそうした役割を担うようになったのは自然な流れだったが、「自分たちの代だけでは成し得ないことを成し遂げるために信頼関係を構築して、部として何か大きいものを残そうという目的」も強く意識していたと語る。

学年を問わないコミュニケーションを大事にした

 

もう一度、「元気隊長」として 

 最上級生として自身の役割を果たそうと励んでいた2025年の夏、チームとして本気で勝利を取りに行き1部昇格を果たすという目標を再確認した上で練習する人間を絞るという方針が取られることになった。練習できるメンバーの選出は監督が行ったが、そこに平山の名前はなかった。選ばれなかった自身を認めたくない気持ちや練習できないなら何のためにチームにいるのかといった負の感情を引きずる日々が続き、これが平山の大学4年間の中で一番大きな大きなターニングポイントとなる。チームの中での自分の価値や役割をもう一回深く考える契機となり、より強くなるとともに原点でもある応援の面もさらに強化していこうと決意を固めた。平山はこの出来事について、つらいながらも「なくてはならない期間だった」と振り返る。

3、4年生になっても熱い応援を体現し続けた

 

大きかった同期の存在 

 元々中学・高校と続けてバレーボールと接し、慶大のバレー部のレベルの高さとその中で練習していくことの厳しさは承知していたが、大学4年間は人生で最後にスポーツに本気で打ち込める期間であるという強い考えから入部を決めた。しかしストイックな印象を周囲に与え、実際に自身も「絶対に練習はさぼらない」と語る平山ですら、入部当初は努力では埋められない周囲との経験の差を痛感してこのまま部にいることへの不安もあったという。そんな中で平山を思いとどまらせたのが同期の存在だった。バレーの技量に加え、広い視野とそれを活かした高い洞察力を兼ね備えた同期を入部当初から尊敬しており、この同期との関係を終わらせたくないという思いが平山を部に留めさせた。
 同期は他の代と比較するとプレー面での絶対的なエースや強いキャプテンシーを持った人物がいる訳ではなかったが、平山は「それぞれがそれぞれの輝くべきところで輝いてた」代だったと振り返る。誰かが中心となるのではなく常に同期7人で並走し、平山はその中で絆を深めるべく時に周囲を引っ張り、一方で組織運営・バレーボールへの姿勢といった点では大きな影響を受け、7人全員で一緒になって成長した4年間となった。

2023年秋季リーグ戦後に実施した同期との対談

 

4年間の努力で掴んだ確かな成長 

 平山は慶大バレー部での4年間を通して成長した部分について、ポジティブになったという点とともに「他者の多様性を通じて自身の視点や視野が広がった」と明かす。大学には自身とは違う価値観を持つ様々な人がいるが、部として一つの方向に向かうにはそうした人々との価値観の確認とすり合わせが欠かせない。慶大バレー部の一員として色々な人と関わり合う中で、他人の視点や視野を自分に吸収して、その上で自分の考えや価値観をより研鑽するという姿勢が身に付いたという。チームメイト全員と意見を交わすことを心掛け、その調整役を担っていた平山だからこそ自身と他者の視点や視野の違いに気付け、さらにその違いを乗り越えて入部前には想像もつかなかった程の広い視野の獲得という自身の成長に繋げられたのだろう。
 周囲との力量の差に苦しんだ入部当初、練習に参加できなかった4年生の夏のようにつらい時期も多かったが、「引退した今、また現役と同じ練習ができると言われたらどうするか?」と問われると「やります」と即答した。「人生の中で大学4年生でしかできない経験だと思うので、もしできると言われるならば喜ばしいこと」と語る姿からは、平山が慶大バレー部の4年間で苦しい経験以上の大きな成長を得られたと自負していることがうかがえた。

 

ケイスポとの思い出 

 チームの士気を高める元気隊長として、そして熱さと冷静さを兼ね備えた平山はチームの中でも特に大きな存在を放っており、大学1年生から4年生に至るまでケイスポの取材を受けることも多かった。その中でも印象に残っているのが、大学2年生のの秋季リーグ終盤の入替戦での取材だという。それは当時1部リーグに所属していた慶大バレー部が、亜細亜大とのフルセットの接戦の末に勝利を収めて残留を決めた際の取材である。試合後に取材を受けるメンバーがマネージャーから告げられるも、平山選手を含めて同期全員の名が上がらず、平山選手が腹を立てて同期がなだめるという当時お決まりの冗談を交わしていた際、「それを見ていたケイスポが気遣って急いで取材しに来た(笑)」という。「『一言でも良いのでぜひ』と言われるも取材を受ける嬉しさのあまり10分ぐらい喋り続けた」として、それも良い思い出だと平山は楽しそうに語った。

出身校である甲南高校と慶大の頭文字であるKポーズ

 
もっと知りたい!平山選手情報


――読書が趣味である平山選手、おすすめの本はありますか?

平山:最近読んだ中だと『一次元の挿し木』と『コンビニ人間』がおすすめです。前者は科学ミステリーのジャンルでもうめちゃくちゃ面白くて、簡潔にあらすじを説明するとインドで見つかった人骨が二百万年前のもので、その人骨のDNA が4年前に失踪した主人公の妹のものと一致したという筋立てです。背表紙のあらすじを読んで決めましたが、これは本当におすすめです。もう一つの『コンビニ人間』は現代で生きるための普通って何なんだろうということを問いかける物語で、考え方の多様性を実感できた本でもありますね。読書をするときは、分散させると集中力が持たないので一気に読み通す派です!

――卒論のテーマにもつながった?!慶大バレー部の文化「ケイオウユ」とは何ですか?
平山:日吉で練習終わりにお風呂に入りに行くことが多くて、それは慶大バレー部ならではの文化だと思います。そこでより綿密なコミュニケーションも取れましたし、バレーボールに関する話もぶっちゃけトークも同期・後輩間でできたのであの時間はなくてはならない時間だったんじゃないかなと、今振り返って思います。それもきっかけで、僕は卒業論文のテーマを「組織における非公式組織」としました。部活という公式的な組織の中でケイオウユは非公式組織と呼ばれ、要はフランクなコミュニケーションがある方が組織の目的が達成されやすいのではないかという研究です。

 

平山選手、ご卒業おめでとうございます!

(取材・記事:五關優太)

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