25年度に卒業を迎える4年生を特集する特別企画「光るとき」。第52回となる今回は、ラグビー部の主務・中井優(政4・慶應)。中井の大学生活は、入部前に思い描いていたものとは大きく異なる4年間となった。けがでの長期離脱を経てスタッフへ転身し、副務・主務としてチームに必要不可欠な存在に。「思い通りにならなくても人生は作り変えられる」。黒黄チームを陰で支え続けた中井主務の歩みを振り返る。
幼稚園でラグビーを始めた中井にとって、慶應での日々は「想像もしなかった4年間」だったという。1年時は試合にも出場し、選手としてラグビーを楽しんだ。一方、1年の冬には膝の靭帯にけがを負い、2年時はプレーから離れる期間が続く。その頃から、副務(4年になると主務)決めのミーティングが始まった。慶大蹴球部では、主務になるということは「選手人生に終止符を打つ」ということ。選手を引退し、主務としてチームのために捧げることが伝統だ。求められる資質から何度も話し合いを重ね、中井にその座が託された。「同期とは全く違う、自分だけの4年間だったのでとても貴重でした」。1年ごとにまったく異なる経験を重ねた時間は、中井にとって他にはない濃密な4年間だったという。
主務としてチームの前に立つ機会が増える中で、中井の変化を感じたと語るのはチームメートのSH橋本弾介(法4・慶應)だ。「昔からすごく真面目な人ですが、主務になってからは周りに対してより強く言えるようになったと思います」。愚直に組織と向き合い続けるなかで役割を確立し、存在感はより大きくなったという。組織として1人の選手生命に責任を持つ重要性を噛み締めながらも、「いろいろなことに気を配りながらやってくれて、本当に主務が中井で良かったと思います」と厚い信頼を口にした。

4年間で特に印象に残っている場面として中井が挙げたのは、4年時の明大戦だ。試合終盤、相手に攻め込まれながらも守り切った場面だった。「普段なら絶対押し込まれてしまう場面で、守り切った瞬間に『勝てるぞ』って感じて。ボルテージの上がり具合が尋常じゃなかったです」。主務としてピッチ外の役割の多くを担ってきた中井にとって、その瞬間にベンチサイドで感じた熱量は特別なものだったのだろう。
大学生活を通して中井は「人生は思い通りにならないことが多い」と語る。入学当初に思い描いていた選手としての道は、けがや任される立場の変化によって大きく変わった。それでも「思い描いていた通りでなくても、人生はどんどん作り変えられる。自分で道を切り開いていくものだと思う」と前を向く。ピッチから離れる決断も「自分にとってもチームにとっても凄く必要なことだった」と振り返った。この決断は、結果としてチームの結束にもつながったのだ。「思い通りにいかない状況の中でどう成長するかを考えることこそが、自分の人生を楽しむことにつながる」。中井は、選手ではなく主務としてチームをけん引するなかで、自分なりの「光るとき」を見いだした。

中井は、一貫校の頃から慣れ親しんできた慶應のラグビーを「いろんなものが混ざり合ったチーム」と表現する。歴史あるチームでありながら、集まる選手たちの背景はさまざまだ。高校日本一を経験してきた選手もいれば、大学からラグビーを始めた選手もいる。そうした多様な選手たちが同じ黒黄ジャージを着て、強豪校に挑んでいくところに慶應ラグビーの醍醐味があるという。
また、OBをはじめとする多くの支えの存在にも触れた。「黒黄のジャージを着てピッチに立つのはたった15人。でもその裏には本当に多くの人の思いが込もっていました」。主務としてOBと関わる機会が多かったからこそ、その重みを実感することができた。

選手として、そして主務として過ごした4年間。思い描いていたものとは異なる出来事も、変化も、中井の4年間を形づくった大切な時間だった。主務としてチームと向き合う中で見いだした、自分なりの「光るとき」。その瞬間は、仲間ともに過ごした4年間の中で確かに輝いていた。
(取材:神谷直樹、島森沙奈美、髙木謙 記事:愛宕百華)

