主将であり、絶対的エースであり、そして不動のシングルス1。そんな唯一無二の存在だが、それでも孤独ではなかった。アツく静かに拍手を送る部員たち、そして隣のコートで勝利を信じてプレーする近藤(環3=湘南工科大附属高)の存在。沢山の思いが見守る中、自身最後の関東リーグで志賀主将(政4=秀明八千代高)が慶大の勝利をもぎ取った。
2013/09/06 関東大学リーグ第3戦@有明テニスの森公園
○慶大6−3法大
ダブルスD1 | ○ | 志賀・近藤 | 7-5,6-4 | 松森・大友 |
D2 | ○ | 矢野・髙田 | 6-0,6-2 | 伊藤・中島 |
D3 | ○ | 井上・谷本 | 7-5,6-4 | 戸田・塚越 |
シングルス
S1 | ○ | 志賀正人 | 7-6,6-0 | 戸田義人 |
S2 | ○ | 近藤大基 | 3-6,7-5,6-4 | 竹内遥丞 |
S3 | ● | 谷本真人 | 3-6,4-6 | 大友優馬 |
S4 | ● | 髙田航輝 | 3-6,4-6 | 小村拓也 |
S5 | ○ | 権大亮 | 3-6,6-2,6-2 | 大塚拳之助 |
S6 | ● | 渡邉将司 | 6-7,6-3,3-6 | 中島佑介 |
この嵐のような一日を振り返ったとき、やはりまず明暗を分けたのは最初のダブルス3試合だった。法大のオーダーは初日と変わらず。慶大もまた、寸分違わぬ顔ぶれを揃えたため、まさに真っ向勝負となった。
ここで慶大に流れを呼び込んだのは、意外にもここまで楽な試合が無かったダブルス2の矢野(環3=出雲高)・髙田(環2=湘南工科大附属高)だ。前回の試合から中二日を挟んだことがいい方向に作用したのか、第1セットでは6-0と相手を圧倒。第2セットでも勢いは衰えず、6-2で取り切って慶大の勝利一番乗りとなった。この快勝によって慶大に流れが舞い込む。互いに隣接した3面のコートで同時に試合が進むため、一つの試合の流れが他面での試合に影響を与えるというのも大学リーグならではの面白さ。ここでもやはり、接戦を争っていた残り二組も一気に勢いづいた。
第1セットで5-4の局面を迎えていた志賀主将・近藤(環3=湘南工科大附属高)のダブルス1は、力強いストロークが発揮されるツーバックの作戦で相手のサービスゲームを崩す。ここでペースを作ると、7-5で第1セットを奪った。好リターンは第2セットに入っても変わらず、5-4で迎えたリターンゲームのブレークポイント。叩きつけた気迫のリターンが相手のラケットを弾いてラインを割る。堅実な相手サーブを破って慶大に2勝目をもたらした。
残すところはダブルス3の井上(経3=慶應義塾高)・谷本(環2=名古屋高)のみ。法大主将・戸田率いる相手ペアとデッドヒートを繰り広げ、第1セットはタイブレークに突入した。ここでなんとか競り勝つと、第2セットでもやはりリードから追い上げられ、ゲームカウント4-4で並ぶ。迎えた第9ゲームはサービスゲームだったが、いきなり3ポイントを連取され、ブレークポイントを握られる苦しい展開に。
しかし慶大ペアはここからタフな勝負強さを見せた。まず連続でネットプレーを決めデュースに持ち込むと、待望のナイスサーブも飛び出す。さらに攻勢を緩めず、井上がネット前で豪快に躍動し、圧倒的な劣勢からの逆転キープとなった。これで流れは完全に慶大ペース。最後の相手サービスゲームも難なくブレークすると、慶大のダブルス全勝が決まった。
前半を最高の形で折り返した慶大は、下位シングルスの6、5に今大会好調の渡邉(総2=名古屋経済大市邨高)、権(総3=秀明英光高)を送り込み、さらに4には亜大戦で温存した髙田(環2=湘南工科大附属高)を、満を持して登場させ、団体勝利までの残り2勝を取りに急いだ。その期待に応え、渡邉は序盤素晴らしい立ち上がりを見せる。持ち味の気迫あふれるプレーをいかんなく発揮して4-1と差をつけると、次第に落ち着いてきた相手にパスショットを取られるなど反撃にあいつつも、タイブレークに突入。ここでは惜しくも取られてしまったが、ひるまず第2セットでも攻勢をかけてセットカウント1-1として運命の最終セットへ。しかしここでは序盤のようなスタートダッシュは切れなかった。2-4と逆にリードを許すと、その差をついに縮めることができず、3-6で敗れた。
一方のシングルス5、権は序盤慎重な立ち上がりを見せた。先にエンジンをかけてきた相手に3-6と先取を許したが、すぐに6-2と取り返して勝負を最終セットに持ち込んだ。足元に突き刺さる相手の深いストロークをかわしつつサービスキープに成功すると、リターンゲームでは好リターンをワイドに突き刺し、相手を振り回す。1ブレークアップで3-0と波に乗ると、その勢いのまま6-2で勝利。今大会で発揮している勝負強さが本物であることを証明した。
シングルス4・髙田の対戦相手は同年代で屈指のストローカーである小村だった。壮絶なラリーの応酬の中で、一級品のフォアハンドが時折相手コートを貫いたが、それでも次第に相手ペースの低い弾道のラリーに引きずりこまれていく。劣勢を覆そうと髙田はワイドなコースを狙って揺さぶりをかけるが、そのたびにカウンターを深いところに返され、自分の流れに繋がらない。最後まで相手の展開から抜け出せないまま、4-6、4-6のストレート負けを喫した。
さらにシングルス3に登場した最後の2年生、谷本(環2=名古屋高)も、これまでにない逆境に立たされた。ミスが出て安定しない立ち上がりから、ストローク戦でも劣勢に陥る。たくましいバックハンドのアプローチショットからスマッシュを叩き込むというおなじみの豪快なプレーも見られたが、リードを守れず3-6で第1セットを落としてしまった。第2セットではうって変わって好調なスタートダッシュを切り、4-1とリードを広げる。あと2ゲームでこのセットを取れば、最終セットで挽回できる、そんな青写真が見えていたはずだった。しかし思い通りにいかないのが法大戦のこわさであり、奥深さだ。リードを握り、優位に立っているにも関わらず、谷本のサーブ、アプローチがことごとく決まらず、返されてしまう。相手の粘りにあって流れが滞ると、あっという間に5ゲームを連続で落とし、悔しい初黒星に沈んだ。
やはりプレッシャーのかかる大勝負がこの二人に回ってきた。シングルス2・近藤、そしてシングルス1・志賀主将だ。
法大のシングルス2はインカレで早大の古田を破り、第2戦では明大・小野とのS1対決を制して「ノっている」(近藤)という竹内。序盤から自信のにじみ出るようなショットでまくしたてられると、「緊張したこともあってパニクってしまった」という近藤は、最大の武器であるサーブですら相手の勢いを止めることができず、3-6で第1セットを奪われてしまった。第2セットに入っても、相手の勢いは衰えず、2ゲームのビハインドを負った近藤。だが、どうしてもこのセットを取らなければならない。「僕が負けたら志賀さんにかかる」という背水の陣で、近藤は「一回頭を0に」リセットした。そこからはみるみるプレーの精度が研ぎ澄まされていく。ストロークにも伸びが出、強烈な相手サーブに苦しんでいたリターンゲームもブレークするように。ついに形成逆転で第2セットを奪取。勝負は運命のファイナルセットに突入した。
近藤が第1セットで劣勢に陥っているとき、隣のコートでは志賀主将もまた苦しんでいた。相手の戸田とは個人戦で何度も対戦しているが、そのたび圧倒的な実力差で下してきた。それが今、積年の借りを返されるような勢いで追い込まれていた。一球一球魂のこもったショットを叩き込み、決まるたびに法大サイドの観客たちに大きくアピールして会場の雰囲気すら味方にしていく戸田。対する志賀は全く精彩を欠く。ストロークで珍しくもミスが連発し、相手に引き離されないようにするので精いっぱいという様子。近藤と同様に相手に5-4と第1セットを取られそうになった時にはあわやという空気が流れた。しかし、近藤の調子が上向くのとほぼ同じタイミングで、志賀にもいつもの調子が戻り始める。まず5-5と追いつくと、2ゲーム連取で逆境をひっくり返し、このセットをつかみ取った。そこからは、リーグ戦大一番で異様な強さを発揮し、いつもチームにとって一番欲しかった勝利をものにしてくれる不動のシングルス1の姿がそこにあった。慶大が待っていた不動のエースの姿だ。戸田の体重の乗ったサーブも軽々とさばいてラリーで翻弄したと思えば、軽いステップからリターンエースを量産。コーナーに照準を合わせて迷わず打ち抜き、オンラインに落とし込むと、ネットダッシュを図る相手をあざ笑うようなパスショットも飛び出した。魔法のような数々のスーパーショットは、その一球一球が目に見えて相手の勢いを削ぎ落していく。最後の一瞬まで相手の思うようなプレーを全くさせず、ついに自らの手で自身最後の法大戦に終止符を打った。
なおも試合が続いていたシングルス2の近藤も完全に流れを手中に収めていた。「第3セットからはもうあんまり負ける気がしなくて」と振り返る通り、相手の足元に重い強気のストロークが突き刺さる。6-4と粘る相手を振り切って慶大にダメ押しの6勝目をもたらした。
今年も期待を裏切らない激闘となった法大戦が幕を閉じた。振り返れば6-3と例年より差を広げての勝利。メンバーに並ぶ顔ぶれは昨年より減ってはいても増えてはいないので、この結果は紛れもなく慶大男子庭球部の一年間の汗と涙の結晶だと言えるだろう。だがもちろん選手たちのゴールはここではない。繰り返し繰り返し彼らが口にしてきたのは早慶戦勝利、そしてその先の日本一だ。選手たちも「今日ではなくて明日に、自分の中では重点を置いている」(近藤)と表情を引き締めている。今日ここで得た、宿敵を倒す感覚を忘れずに、再び見せて欲しい。越えられなかった壁を乗り越える瞬間を、そして何年間も掲げ続けてきた夢を実現する喜びの瞬間を。
(写真 高井千敬、記事 伊藤明日香)
◆選手コメント
近藤大基(環3=湘南工科大附属高)
今日のシングルスを振り返って
シングルス2として絶対に勝たなきゃいけなかったし、下位の二つが取られてて、僕が負けたら志賀さんにかかるっていう状況で、第1セットは疲れもあったんですけど、全然自分の思い通りに足も動かないし、体も動かないし、相手もこの前小野を倒したりしていてノッているので、春関のときにもあいつとやっているんですけど、全然プレーが変わっていて、最初はそれに戸惑ったし、緊張したこともあってパニクってしまって1stセットを落として、2ndセットも0-2までいって、どうしようかと思って、一回頭を0にしました。とりあえず自分が全然足が動かなかったので、とりあえず足を動かすことだけを意識したり、0の視点から一つ一つ意識を上げていって、最終的にはやることが明確になってきて、第3セットからはもうあんまり負ける気がしなくて、結構危ないときもあったんですけど、自分から積極的に打ってみたり、しこるところはしこって、打たないところは打たない、打つときは打つということができたので、それが勝ちにつながったのかなとは思います。
1stを落として、2ndセットに入ったとき志賀主将もとなりのコートで劣勢になっていて、慶大全面に悪い流れがありましたが、それを変えてやろうという気持ちがあったんですか
そうですね。まあ、実際志賀さんが劣勢になっていたのも多分僕が第1セットを落としたからで。そこはやっぱり最後に残るのはシングルス2と1なので、すごく申し訳ない気持ちで、そこで僕が1セット目をちゃんと取っていれば志賀さんも心置きなくやれたと思うし、やっぱりそういうのが団体戦だと思うので、もう2ndセットはなんとしても、死んでも取ろうっていう気持ちでしかなかったですね。そうすれば絶対志賀さんも楽になるだろうと。そしたら案の定2ndセット0−6というスコアで取れたので、そういう団体戦の流れっていうのをすごく感じられた試合でした。まあ今回は僕がすごく申し訳なかったですけど。
例年、法大にはリーグで勢いのある選手が存在しますが、第1セットではそういったこわさを感じましたか
ノっているな、というのは感じましたね。やっぱり小野に勝っているし、僕に対してすごく向かってくるというか。前に春関でやったときは諦めていたように感じたんですけど、今回はやっぱり諦めている感じはしなかったし、「近藤大基なら勝てる、小野も倒したし」っていう感じでやってきたのが身にしみてわかりました。そこをどう崩してやろうかというか、まあやっぱりあいつ、ファイナルセットでは負けるんじゃないかっていう感じが伝わってきて、それで負ける感じがしなかったですが、やっぱり最初はそういうところが嫌だった。自分が攻めてもしっかり返してくるし、前だったらミスしてくれたのに、メンタルが変わるだけであんなに変わるんだっていうのが印象です。
今回の法大戦が王座進出の鍵であると同時に、リーグの折り返し地点だったと思いますが、今日までを振り返って
やっぱりそんなに楽な戦いじゃなかった。まあ勝てたことは良かったんですけど、法政を倒すために僕はやってきたわけではないので、やっぱり田川・遠藤を倒すために練習してきたので、体重も落としたし、やっぱり今日ではなくて明日に、自分の中では重点を置いています。試合をやっている中でも、こんな相手に負けていたら遠藤くんには勝てないと思ったので、今日はとりあえず勝てて良かったけど、自分自身は竹内とファイナルをやっているようでは田川・遠藤は倒せないだろうし、そういう反省のほうが大きいですね。
それでは、より大事な明日の早慶戦に向けて、意気込みをお願いします
ダブルスはインカレの決勝と同じ相手になるだろうし、単複ともに絶対勝つ、というか全て出し切れば絶対勝てると思うので、全て出すことだけに集中したい。勝ちたい勝ちたい勝ちたいって思ったときに多分いいプレーは出るんですけど、結局それでは勝てないので、勝ちが見えてきたときに萎縮しちゃう、「あっ、勝っちゃう…」という感じで。なので、1ポイント目から自分の力を120%ぐらいの勢いで出せるように、勝ちを意識していきたいと思います。
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