日本フィギュアスケート界希望の光-。高橋成美選手(総)は、木原龍一選手(中京大)と2013年1月にペアを結成し、わずか一年でソチ五輪のフィギュアスケート団体戦と個人戦に出場した。激動の日々、試合を重ねるたびに演技を進化させ五輪という大舞台で羽ばたいた二人は、人々に感動を呼んだ。世界選手権(3月26日)が終わってまもなくした3月29日、ケイスポでは慶應塾生新聞会さんと共同で、高橋選手にお話しを伺った。練習で多忙にもかかわらず、特技は語学という文武両道の高橋選手は、いま何を思い、どんな生活を送られているのだろうか。
「自分のことだけじゃなくて、相手のことも考えながら」
―ソチ五輪は高橋選手にとってどのような舞台でしたか。
「再結成してちょうど一年経ったときに出させてもらった大きな舞台で、まだまだ実力が足りないのはわかっていてすごく不安だったのですが、その中でも自分たちのできることをしっかりやることに集中して、とても充実した試合にすることができました。」
―団体戦が新しく導入されましたが、その影響はありましたか。
「団体戦だと責任を感じて緊張しましたが、チームのみんなと励まし合って楽しく試合に臨めました。」
―日本の選手は仲がいいように見受けられますが、どのようなお話をされましたか。
「あまりスケートについて(話を)することはないんですけど、一緒にゲームしたり、歩いたりしました。」
―他国の選手とはどのような交流がありましたか。
「世界選手権でもフィギュアスケーターみんな仲が良くて、会うメンバーもいつも同じなので、一緒にご飯食べたりもするんですけれども、オリンピックの時はフィギュアスケート以外のショートトラックの選手だったり、スピードスケートの選手の方と食堂とかで一緒にご飯食べたりしました。」
―五輪終了後、世界選手権まで短い期間でしたが調整は大変でしたか。
「五輪が終わって、自分たちの出番が終わったあと、すぐ練習拠点のデトロイトに戻って練習していたので、逆にシーズン中よりも集中して練習することができて、新しい技に挑戦したり陸上のトレーニングメニューも変わったりして、オリンピックから世界選手権に向けていろいろなことをしました。」
―話が変わりますが、フィギュアスケートの何が一番好きですか。
「ジャンプが好きです。」
―怖くはありませんか。
「怖くないです。」
―SP(サムソンとデリラ)、FS(映画『レ・ミゼラブル』より)の選曲はどのようにされましたか。
「ショートは(佐藤)有香先生と振り付け師のマリーナ(・ズエワ)が相談して決めて、フリーは有香先生と私と龍一で相談して決めてマリーナに持っていきました。」
―特に好きなプログラムは何ですか。
「フリープログラムが好きです。特に後半部分の盛り上がりが好きです。」
―先ほどはジャンプが好きで怖くないとおっしゃっていましたが、他に好きな技や嫌いな技などはありますか。
「好きな技はジャンプとスロージャンプで…あ、でもリフトも好きです。ツイストも好きだし。嫌いな技は、ないです。」
―特に二人で合わせるのが難しい技はありますか。
「二人で一緒に、サイドバイサイドのスピンがあるんですけど、それは難しいです。」
―ペア競技をやるうえで大事にしていることはありますか。
「たくさんありますが、自分のことだけじゃなくて、相手のことも考えながら毎日練習したり、スケートを滑るときも二人の動作が調和するようにいつも考えています。」
「マックを食べると元気が出ます」
―今までで最も印象的だった大会は何ですか。
「やっぱりオリンピックが一番印象的でした。」
―休日は何をしていますか。
「体が疲れていないときはサッカーしたりいろいろしますが、だいたい体が疲れていて、そのときはプラモデル作ったり本を読んだりしています。」
―プラモデルはどうして始められたのですか。
「プラモデルは、昔は全く興味がなくて、1年前デトロイトに渡ったときにたまたま知人に勧めてもらって、始めたらすごく面白くて、それからハマっていきました。」
―海外生活が長いですが体調管理はどうされていますか。
「バランスのいい食事をとることにはいつも気をつけていて、あとはよく寝ます。」
―たくさんの国を行き来していらっしゃいますが、一番スケートを練習しやすい環境がそろっている国はどこでしたか。
「今練習しているデトロイトはいろいろな国の選手が集まっていたり、3面のリンクがあったり、常に練習できる状態なので、よくわからないですけど今のところ一番環境がそろっていて、自分に合っていると思います。」
―そんなグローバルな高橋選手。語学堪能だそうですが、何ヶ国語話すことができますか。
「日本語と英語と中国語で、あとはほかの言語をちょびちょびっと(笑)。」
―塾生の中には語学に関心のある学生がたくさんいます。他の言語はどのようなものを勉強されているのですか。
「大学ではロシア語を取っていて、フランス語も前住んでいた場所がケベックだったので、聞き取りは少しできます。」
―勉強してみて何が一番難しかったですか。
「フランス語の発音は無理でした(笑)。」
―海外で練習するときは、皆さん英語で話されるのですか。
「はい。」
―現地の言葉を使ったりもしますか。
「そうですね。今練習しているデトロイトのスケートクラブは、イタリアとかロシア、メキシコ、カナダ…いっぱい選手とか先生たちが集まっているので、朝はイタリア語でチャオ!で、何か物をもらったら(ロシア語で)スパシーバ!で。たくさんいろいろな言葉が飛んでいて、単語とか結構覚えやすいです。」
―練習中や試合前に聴く音楽はありますか。
「練習中は、結構一緒に練習している子たちが流しているのをただ聴いているんですけど、いつもそのとき自分が好きな曲を聴いています。外国の曲と日本の曲だったら、断然日本の曲のほうが多いです。」
―好きな歌手はいますか。
「好きな歌手は特にいないんですけど、『なぞの転校生』というドラマの主題歌の(清水翔太さんの)『DREAM』という曲がすごく好きです。それは最近すごく気に入りました。」
―試合前に聴きますか。
「はい。」
―ドラマはよく見られますか。
「あまり見ないです。」
―海外では日本のニュースも見られますか。
「はい。」
―特に仲がいい選手は誰ですか。
「本当にいろいろな選手と仲がいいんですけど、親友なのはアリッサ・シズニーというアメリカの女子選手です。今一緒に練習しています。」
―アリッサ・シズニー選手のようなシングルスケーターから何か影響を受けることはありますか。
「影響受けまくりです。」
―陸上ではどのようなトレーニングをされていますか。
「去年肩と膝を手術して、そこの強化だったり、スロージャンプで降りるときの衝撃が大きいので右足首の強化だったり、バランスを強化しています。」
―ショーの楽しいところは何ですか。
「一番好きなところは、照明やフィナーレが好きです。」
―ショーのときはお客さんを楽しめることに重きを置いていますか。
「ショーのときは自分が楽しむことのほうが大きいです。」
―ショーナンバー(Fireflies)の選曲はどのようにされましたか。
「いろいろな選手がいるんですけど、今回の自分たちの曲は有香先生が選びました。」
―これを食べれば元気が出るというものや、試合前に必ず食べるものはありますか。
「大会前は強くなれるように肉系をどんどん増やしていったり、特にこれを、というものはないんですけど、なるべく炭水化物みたいなパワーになるものをいっぱい食べるようにしています。」
―では、試合前のゲン担ぎはありますか。
「ゲン担ぎはないんですけど、マックを食べると元気が出ます。」
―ソチ五輪のときにもマックを食べられたとブログで拝見しましたが。
「オリンピック前・中・後に食べていました。会場はタダだったんですよ、マックが。」
―どんなメニューが一番好きですか。
「普通のハンバーガーが一番好きです。」
―ペア競技だと特に女性選手は体重コントロールもしないといけないと思うのですが、その点で気を付けられていることはありますか。
「揚げ物ばっかりにならないようにしています。」
―パートナーともし試合前に喧嘩をしてしまうようなことがあれはどう対処しますか。
「まだ喧嘩をしたことがないのでわからないんですけど、今後そういうことがあったときは…ないように気を付けます。」
―衣装にこだわりはありますか。
「個人的なこだわりはそんなにあるほうではないんですけど、ペアなのでパートナーと(身体を)持ったりすることが多いので、腰のあたりにあまりストーンを付けないとか、スカートが長すぎないとか、そういうことには気を遣っています。機能性重視です。」
―メイクは工夫されていますか。
「アイスショーのときにメイクアップアーティストの方がメイクをしてくれて、やってもらっている最中に「ここはこうしたほうがいいよ」とか、「今年のコスチュームだったらこのアイシャドウがいいよ」とか教えてもらって、参考にしています。」
―文武両道の印象を受ける高橋選手ですが、子供時代はどのように過ごされてきましたか。
「普通の感じだったんですけど、小学校の頃から父の仕事の関係でいろいろな場所に行ったので、移動慣れはしています。」
―慶大はいつから目指されるようになりましたか。
「うーん…覚えていないです。」
「BE IN THE MOMENT」
―高橋選手・木原選手組の強みだと思うことはありますか。
「二人とも小さい頃から長い間スケートをやっているので、スケートの基礎がしっかりしているところです。」
―反対に、これから改善していきたいと思うところはありますか。
「やっぱりまだ結成して一年目なので、他のペアに比べて一体感であるとか、ユニゾンとかが足りないと思うので、そこは滑り込んで追いついていきたいと思います。」
―日本ではペアはシングルと比べてまだ競技人口が少ない中、高橋選手・木原選手組の活躍はペアの活性化につながると思いますが、その点に関してはどうお考えですか。
「自分がペアを始めたきっかけが、スター選手を間近で見て、その選手に憧れて、というかたちだったので、自分たちが頑張ってスター選手になって、今スケートをやっている小さい子たちが、自分たちを目指してペアを始めてくれたらいいなと思っています。」
―今改めて思うペアの魅力とは何ですか。
「ペアの魅力は、一人ではどうしても作り出せないダイナミックなところだと思います。」
―世界選手権が終わったばかりですが、来季の目標としていることはありますか。
「来季は、まずエレメンツを、今一緒に戦っている選手たちと同じくらいまで完成させて、トップ10を目指したいです。」
―では4年後の平昌五輪の目標はどのようにお考えですか。
「今はまだ漠然としていてわからないんですけど、まずは一年一年ステップアップしていって、表彰台を目指したいと思います。」
―ペアを再結成してからわずか一年での五輪出場。フィギュアスケートに関わらず、短時間で物事を上達させるコツはありますか。
「自分で考えたわけではなくて、先生に教えてもらったんですけど、時間がないときこそ焦らず基本をしっかり。逆に焦ってケガしている時間はない、と言われました。」
―フィギュアスケートに関わらず、高橋選手なりの困難を乗り越える方法はありますか。
「教えてもらったことなんですけど、深く考えないで今自分がやっていて正しいと思うことを続けるだけだ、ということ。このことを教えてもらってから、先のことばかり考えないで目の前のことをやっていったら、そんなにストレスにならないかな、と思いました。」
―尊敬する人は誰ですか。
「スケーターとしてだったら、タチアナ・ボロソジャルというロシアのペアの(ソチ)五輪チャンピオンです。スケーターとしてじゃなくても、彼女ですね。尊敬しています。スケートの技術とかはもちろんなんですけど、まじめなところとか、世界チャンピオンなのに誰にでも気さくに挨拶したりしゃべったりしたり。人間性とか、全部尊敬しています。」
―座右の銘は何ですか。
「いつもコーチに言われるのが“BE IN THE MOMENT”です。それはいつも覚えておくようにしています。過去のこととか後のこととかを考えるよりもその場に集中するということで、いつも今やることに集中するように覚えています。」
―同世代の塾生にメッセージをお願います。
「大学でもし見かけたら多分困っていると思うので、助けて下さい(笑)。」
(取材:窪山裕美子、脇田直樹、須佐奈月)
高橋 成美(たかはし・なるみ)
総合政策学部。木下クラブ所属。カナダ国籍のマービン・トランとペアを組み、2012年世界選手権では日本ペア史上初となる銅メダルを獲得。その後トランとのペアを解消し、2013年1月にシングル選手でペア未経験だった木原龍一とペアを再結成。結成わずか一年にして高橋・木原組はソチ五輪団体戦で日本チームに貢献し、個人戦では18位と健闘した。3月26日の世界選手権ではSP17位となり、上位16組が出場できるFSには惜しくも進出できなかったが、SP49.54点は自己ベスト。困難を乗り越えながら成長を続ける一方、ショーやリンク外で元気いっぱいの姿を見せる高橋選手は、多くのファンを引き付けている。
将来を見つめるようなまっすぐな瞳で、それでいてときおり気さくな笑顔を見せながら、インタビューに応じて下さった高橋選手。インタビュー後、昨年度スケート部フィギュア部門主将の近藤琢哉選手(商卒)と仲がいいというエピソードも伺うことができました。お忙しい中本当にありがとうございました。高橋選手のご活躍を今後とも楽しみにしています!
慶應スポーツ新聞会 フィギュアスケート班一同
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