対抗戦開幕特集の最終回を飾るのは和田康二監督。昨季、チームを大学選手権ベスト4に導いた指揮官は、さらなる高みを目指し今季の対抗戦に臨む。今季の取り組みやその手応え、勝利への熱い思いを語っていただいた。
――今シーズンこれまでを振り返っていかがですか
本番はこれからですので、いろんな経験ができました。
――春シーズンは中々結果が出ませんでした
客観的にみると、春シーズン敗れた帝京大、早大、明大、流経大、同大、大東大は全て高校の実績や選手の力量を考えると慶大が負けて当たり前のチームで、苦しんだという表現は当てはまらないと思います。今季は厳しいシーズンになるということは予想していていましたが、自分たちの立ち位置を知ることができて、春の負けが選手たちの心に火をつけたので、これからの秋シーズンでその借りを返していきたいです。
――和田監督の監督就任2年目となり、昨年と違う点はありますか
1年目は監督としても初めてで分からないこともありましたが、他校と比較してフィジカルが劣っているのでそれを改善するために環境面や食事を改善するなど分かりやすく手を打ちやすい改善点が多かったです。しかし今年はハード面での変化が少ないので今季は数値に残しにくいものを中心に取り組んできたのですが、数値に残らないので強くなっているという実感が湧きにくかったので、難しい面もありました。
――この春シーズン重点的に取り組んできたことはありますか
昨年は大学選手権ベスト4という目標は達成することができましたが、一方で早慶戦や帝京大戦など大量失点で敗れた試合もありました。慶大はディフェンスのチームであり、ああいう試合はしてはいけないので、そこの意識を植え付けました。
――その中で大東大に大敗してしてからチームが変わったように思います
あそこで敗れてから自分たちを客観視することができました。昨年大学選手権ベスト4に入ったメンバーがそこそこ残っていますが、自分たちが強くないということを身をもって知ることができました。そこの自分たちはあまり強くないということを自分自身は危機感をもって思っていましたが、学生が思っているかどうか見えてこなかったんです。しかし、この敗戦をきっかけに学生にもその意識が芽生え始め、今は良い雰囲気になっています。今年はスーパースターみたいな選手はいないですが、持ってるポテンシャルは高いと思うので、それを発揮してくれれば去年よりもいいチームになると思います。
――夏合宿で重点的に取り組んできたことはありますか
7月がオフだったので最初はラグビーできる体に戻すことをしました。その後網走に行って他大学との合同練習を行いました。その中で春はディフェンスを重点的に取り組んできたので、アタックの整備を行いました。あとはセットプレーですね。
――後半の練習試合で得たことはありますか
帝京大戦では初めて帝京大と戦ったメンバーも多くいましたが、思ったよりもやれるという手応えを感じたみたいです。後半はこちらがシンビンで1人欠けていたことに加え、相手がメンバーを全員入れ替えたこともあり点差が広がってしまいました。しかし後半20分からは無失点に抑えたことには手応えを感じています。その中三日でやった法大戦はやはり疲労によりパフォーマンスが落ちており、特に前半は集中力を欠いていました。しかし後半はよかったです。次の立命大戦は、夏の結果を個人的にはそんなに意識していなかったのですが、選手は勝ちにこだわりたかったのでその意思を尊重したところ試合内容は置いといて勝てたのでよかったです。
――その中でチームの仕上がりはどうですか
昨季はレギュラーがある程度固定化されていましたが、今年は上の30人くらいはメンバーの実力差がほとんどなく、レギュラーの座が確約されている選手がいないです。そう言う意味で選手層は厚くなりました。その中でも佐藤大、金澤、田畑、廣川、眞鍋が特に成長しました。
――日本代表のスクラムが高い評価を得ていますが、慶大のスクラムはいかがですか
日本代表が注目を浴びることでスクラムの重要性も再認識されており、来週には日本代表のダルマゾコーチも3日間来てくださるのですが、昨年ルールが変わり8人でスクラムを組む重要性が増してきました。これまでは押されなければいいという考え方もありましたが、今年はスクラムにこだわっていきたいです。(※このインタビューは9月10日に行いました)
――大学選手権優勝のために必要な対抗戦の過ごし方はありますか
一戦一戦をトーナメントのような意識で戦うことと、12月までまだあと3ヶ月ありますので、対抗戦のなかで成長することが大切になってきます。3ヶ月から4ヶ月でチームは大きく変わります。まだまだ成長できますね。
――特に成長の余地があると感じる点はどこですか
まずはリアクションです。フィジカル面ではだいぶ強くなってきていますので、後はより動けるようにしていきたいです。そうすれば運動量の多い慶大らしいラグビーが展開できると思います。今の4年は1年時から4年間本格的に体作りを始めた初めの代で、今年のFWは歴代でもフィジカルでの強さは1番だと思います。だけど慶大のラグビーは運動量を武器にどこのチームよりも走り回るラグビーなので、それを今のフィジカルでも体現できるように今取り組んでいます。
――今季の大学ラグビーの展望はいかがですか
今季は帝京大が飛び抜けていて、次に明大がいて、その後は慶大、早大、筑波大、大東大、東海大、法大、同大、立命大、関西学院大、天理大とかなり団子状態でどこが勝ってもおかしくないと思います。
――昨季慶大は大学選手権ベスト4に入り、他大も研究してくると思います
まさにその通りで、他大も意識してくるのでそこは昨季と違います。帝京大の組織的な強さを、プロ的な運営を見て他の大学もそれに倣っています。そしてその成果が実を結び始めています。慶大はサラリーマン出身の監督の私しかフルタイムの人間はいませんが、他の大学にはトップリーグを引退したフルタイムのコーチが2~3人います。昔はコーチがいないことが多く、平日の練習は大抵学生だけで運営されていました。昨季は大学選手権ベスト4に入りましたが、対抗戦で青学大に敗れ明大にも敗れれば大学選手権自体にも行けませんでしたし、大学選手権も最終節で明大が立命大に敗れなければベスト4に入れませんでした。昨季もかなりギリギリの戦いを強いられていますし、危機感は強く持っています。今慶大は大学選手権に16年連続で出場していますが、これより長く連続で出場しているのは早大(30回連続)だけで他の大学は大学選手権に出られなかった年があります。環境面などで劣る慶大がこれだけ連続で出ていることはすごい一方で大学選手権に出ることが当たり前だと思ってはいけません。これは学生にもよく言っています。
――和田監督が1年の時は大学選手権に出られませんでした
本当にその通りで、大学選手権に出るのは当たり前ではありません。例えば青学大とかは出身高校だけを見れば東福岡とか名門校ばかりでそのポテンシャルの高い選手が集まってフルタイムのコーチがたくさんついて環境面を整備すれば強くなるのは当たり前。慶大も危機感をもってやらないとすぐ大学選手権に出られない時代に逆戻りしてしまいます。
――しかし和田監督が3年時には大学選手権優勝されています。短期間で劇的によくなる可能性もあると思います
でも当時はまだ今のようにプロ的な運営がなされていなくて、いい選手が集まりきちんと練習すれば必ず強くなる時代でした。当時で言うと上田監督の下で林HCが学生だけで運営されることが多かった平日の練習からコーチングして、最新の理論に基づくラグビーをしたりとある意味慶大が今の流れを作りました。しかし、今は環境面でもコーチング面でも各大学がかなり力を入れているのでその中で違いを出して短時間で劇的によくなることは以前よりも難しくなっていると思います。また、今帝京大は医学部と連携していますが、慶大もスポーツ医学研究センターと提携し、科学的なアプローチを行っています。環境面ではグラウンドにウエイト器具をOBの協力で置かしてもらいました。今までは他の部活との共用で、使用が制限されることもありました。今はウエイトとグラウンドと練習を交互にやる流れになっているので、ようやくそれができるようになりました。しかしそれすら少し遅いという感じです。また、それに伴って日本ラグビー発祥の地という記念碑をグラウンドの入口に動かしました。
――最後にWebをご覧の方々にメッセージをお願いします
2015年のラグビーW杯に向け今日本代表が注目を浴びていますし、2019年日本でラグビーW杯が開催されます。また、トップリーグも世界有数の選手が多数在籍し、ラグビー人気が再燃しようとしています。その中で慶大ラグビー部は日本最古のチームとしての誇りを持ち、慶大が勝つことで日本のラグビーがさらに盛り上がると思いますしその使命があると思います。そのプライドを持って昨年よりもいいチームにします。ラグビーは面白いスポーツですのでグラウンドに足を運んできてください!
――お忙しい中、ありがとうございました!
(取材 住田孝介)
和田 康二(わだ・こうじ)
2000年総卒。最後に慶大が大学選手権優勝を果たした時は3年ながら副将を務めた。卒業後はゴールドマンサックスに入社し昨季より監督に就任。現役時代のポジションはSO。
今回をもちまして、対抗戦開幕特集は終了となります。お忙しい中、快く取材を引き受けて下さった監督、選手の皆様、マネージャーの皆様に厚くお礼申し上げます。
慶應スポーツ新聞会蹴球班一同
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