右サイドを駆け上がり、数々の好機を演出するのが溝渕雄志(環4・流通経済大学付属柏高)だ。慶大の右SBとして君臨して4年目。ポジションへのこだわりや自身最後の早慶定期戦を迎える今の心境を語ってくれた。
「少しずつチームとして良くなってきている」
――チームとして前期を振り返っていかがですか
結果から言うと、あまり満足できない結果です。優勝を目指す中で、首位と勝ち点差が2試合分以上離れているということもあるし、5位という順位も目標としていた4位以内という順位に1つ届いていないです。最終節勝ちきれなかったことや、スタートでうまく波に乗り切れなかったことが前期うまくいかなかった要因ですし、納得できない結果です。ただ、スタートの頃に比べれば、明らかに前期の後半戦の方が、サッカーが少しずつ形になってきているし、結果にも出てきていて、最後の5試合は黒星がついていないので、そういう結果には出ているということはプレーしていて感じることもあります。少しずつチームとして良くなってきている流れを作れたことは、すごくいいかなと感じます。
――開幕で出遅れた中、最終的に5位で終わりました。ターニングポイントはありましたか
大きいのはキャプテンです。(宮地)元貴を休ませて、(井上)大にキャプテンマークを渡したのが一番のターニングポイントかなと思っています。決して元貴が悪かったわけではないけれど、監督・スタッフ陣が見ての判断だったので、4年生の僕らとしてはむしろあまり変わらずにキャプテンを支えるという意味で練習から引っ張るということはずっと考えていました。それを機に順大戦から負けていないので、もしあそこで負けていたら取り返しがつかなかったということもあったので、結果で支えられえたというのを考えると、キャプテン代行というのが前期の分岐点かなと思います。
――チーム内の雰囲気はいかがですか
いいと思いますよ。今は特に。リーグ戦が一段落してサブの選手たちが、リーグ戦中も練習試合で結果を残していたので、そういう選手がここにきて一息ついて、アミノバイタルカップというところでチャンスをつかもうという下からの圧力もありますし、上の選手もそれに対してアミノバイタルで結果を出すためにもひたむきにどんどん取り組んでいるので、雰囲気はすごくいいと思います。
――チーム内の競争も激しいですか
そうですね。専門職という考えはなくて、監督も2つ以上のポジションをこなせることが選手として大事な要素となるので、いろいろなポジションをみんなやりますし、そういう点で、端的に自分のポジションの出ている選手を食えばいいのではなくて、自分にもいろいろなところで出る可能性があって、逆に出ている選手も今やっているポジションではないポジションで出る可能性もあって、全体として11人としてだれが出るかという競争も起きていると思うので、いい効果を与えていると思います。
――その中で右SBにこだわりはありますか
いろいろなポジションをやってみたいし、やることで幅が広がるとは思いますけど、右SBを専門とするということにはこだわりはありますし、右サイドで出せる自分の良さにはすごく自信があります。そこのポジションで結果を出すことにこだわってやっています。
――今季で印象に残っている試合は
やっぱり一番は早大戦ですかね。早慶戦でああいう形で自分たちのポゼッションサッカーができたというのは今までではなかったことなので。前期で一番良かった試合をみんなに聞いてもみんな早慶戦かなと答えるくらい。特に前半は自分たちのサッカーができていて、なおかつ結果が出た試合だったので、それだけでもすごく印象に残りますし、あの「早慶戦」というプレッシャーでガチガチになる中で、あれだけ自分たちのサッカーができたというメンタルとかを含めてすごくいい試合だったと思います。あそこからもっと何かを得て後期につなげられればと思うくらい良かった試合だと思います。
――ゴールをあげた流経戦については
劇的な同点ゴールを決めたという意味では僕にとってアツい試合だったと思いますが、いかんせん同期が大けがしたのであまりいい印象かというと、そこまで言えないというか、僕にとって複雑というか、サッカーができるだけでどれだけ幸せかということを感じた試合でもあります。
――けがという面では、少し離脱するときもありましたが、現在の状態はいかがですか
現在は痛みもないのでコンディション的にはいいですし、毎日毎日コンディションが上がっていっているという実感があるので、リーグ戦中よりもコンディションはいいです。離脱するのに対して、特に順大戦でも焦って復帰するのではなく、しっかりコンディションを戻してから復帰したことも結果的にいい方向につながっていると思います。けがが多いとあまりいい選手ではないので、なるべくしないようにケアしながらコンディションを上げていかないといけないと思います。
――1ゴール1アシストという結果については
結果が出るか出ないかは紙一重なところで、大事なのは結果に加えて結果に値するくらいのプレーができているかということだと思います。例えば、アシストってFWがゴールを決めるからアシストとして残るけど、ゴールを決めるか決めないかに対する自分のパスがアシストになるかならないかはあまり関係なくて、アシストにならなくても決定的なパスは出せるし、あとは決めるか決めないかはFWの問題なので。そういうパスがどれだけあったかと思うと、まだまだもっと出せたと思うし、チャンスメイクという面でももっとできたと思います。ゴールへの意識はすごく強くなっていてペナルティーエリアに侵入したりというのはいい点だと思いますが、もっともっとチャンスメイクできたらと思います。
「警戒されたほうが自分にとって成長できるし、崩し甲斐があります」
――課題は何かありますか
ビルドアップと中へのオプションという2つですかね。後ろからボールを動かすという点でビルドアップは僕の特長ではないですけど、確実にやらなければいけないところですし、シンプルにミスなく自分のフィールドではない分、簡単にできるかということはすごく大事です。そこができないと選手として短所になってしまうし、そこをこなすくらいにできれば自分の前での長所が生きるので、そういう点でビルドアップは1日1日意識して早く改善していきたいです。中へのオプションは、上がった時に研究されると読まれて縦を切られるので、シーンによっては「俺にボールが入るな」っていう状態からボールが来てそこから勝負しなければならない時もありますが、そこでは確実にDFはスタートが切れているので、そこで自分がどれだけ仕事ができるかというのは自分の能力次第だし、縦も中もいける選手のほうがDFは絶対に嫌なので、縦にクロスだけではなくて、カットインからクロスもカットインからシュートも精度を上げていかないと、今はもちろんこの先に目指すプロの世界でも選手として上のいける可能性を縮めてしまうと思ったので、縦か中かというオプションの精度を上げていくことは、課題かなと思います。
――学年を追うごとに研究されているという印象はありますか
そうですね。確実に。自分がいいプレーをすれば相手にとって抑えるポイントになってくるし、もちろん止めに来られることはすごくありがたいことで、逆に警戒されたほうが自分にとって成長できるし、崩し甲斐があります。
――様々なタイプのSBがいますが、目指すSB像は
僕はまず守備で1つ形を作れるSBというのが大前提です。今のサッカーで攻撃を重視するSBが多いのは歴然なのですが、まずはそこではなくDFライン4枚の1枚としてどれだけできあがれるかというのが大事で、カバーや1対1もそうだし、ポジショニングもそうだし、それこそ周りの選手との関係性をうまく作れるかというのも能力だし、守備の選手としてどれだけ色々なことをできるかということがすごく大事だというのが僕のSBのイメージです。攻撃だけできるけど、そこにハイボールを蹴ったら収まるというのはいいSBではないし、守備の強さを持ったSBで、そこにプラスαでどんどん前に推進力を持って上下動をできるということがポイントと思います。この前の代表戦でも長友選手みたいにあれだけ守備をタイトにやりながらも、あれだけ前にスプリントできて、最後に結果をアシストとして出せるし、あれくらいタイトに守備ができて、前にスプリントができて、クロスで仕事ができるというSBを目指しています。
――目指していたり参考にしていたりする選手はいますか
色々います。最近はけがしていますが内田選手はけがする前はずっと見ていました。Jからドイツに行って、ドイツで守備があれだけ強くなって、攻撃は元々うまいので、ずっと見ていました。最近は、長友選手のプレーを見ていて、クロスの時に普通のSBは右サイドなら右足のアウトで縦に行ってクロスを上げたり、サイドチェンジに対して右サイドでちょっと内側くらいにボールを運んでクロスを上げたり、割とまっすぐから内側に運んで上げるのですが、長友選手は内側の足で外向きにボールを引っ張ってから腰をひねってクロスを上げるので、あれはすごく有効で、クロスをブロックする脚の上を越えることが多くて、ブロックが届かないんです。届いていても、1個離れている分当たる位置が遠いので、ボールの勢いが死んでいなくて、ある程度コーナーをとれるので、それを参考にずっと練習して僕も左足で外に引っ張って腰をひねって上げるというのをやります。海外にはいい選手がいるので、一番好きなのはブラジル代表のマルセロです。あれだけうまくなるのは無理なので諦めています。でも、内田選手とか長友選手やマルセロのプレーはすごく参考にして練習しています。
――長友選手の研究を試合で実践して手ごたえはありますか
あります。周りの人も評価する人は評価してくださって、「ああいう上げ方できる人はあまりいないよね」っていう評価してくれるので、それはすごく嬉しいですし、だいぶ形になったので、けっこう手ごたえあります。
――同学年の室屋選手が五輪予選で活躍していましたが、刺激やライバル心はありますか
少なからず同じサッカー選手としてそうですし、ああいう大舞台で結果を出せるのはすごいところだと思います。ただ、同年代で現状は五輪かもしれないですが、プロに入ればサッカー選手としては誰にも負けることを考えていないので、ライバルというか、負けられない相手というか、自分が超えていく相手だと思います。
――プロの練習や全日本大学選抜で得られたことは
単純に自分ができることが見つかったけど、まだまだ課題があることも見つかって、次にずっとその危機感を持っていた時にだんだんできるようになることがあったという3つがあるのですが、できた点、自分のこれが強みだと確認できた点はさっき言ったことで、それを全日本であったり、プロチームの練習でもそうで、守備の選手としてのプレーとか、前にスプリントして最後にクロスで仕事をしてくるところの精度は自信を持てた感覚はありました。逆にビルドアップとかは周りの選手に比べてまだまだ自分がうまくないということを感じたので、それは明確な課題だと思いますし、あとは全日本とかで名前が少しずつ上がっていくときに研究されていくときに、さっき言ったような中のオプションとかは二次的、三次的な効果かなと思うので、選抜に入ったからこそちゃんと見えてくる課題だと思います。そういう点ですごくいい経験だったと思います。
「悔いを残さずにプレーしたい」
――5月に久々に早稲田大学に勝利した時の気持ちはいかがでしたか
やっぱりうれしいですよね。早慶戦に勝って「若き血」を歌うということは、すごく感慨深いことだし、早大に勝ったのが久し振り過ぎて、「勝った後どうすればいいんだっけ?」ってなるくらいだったのですが、やっぱり気持ちいいし、試合中に勝っている状況も気持ちいいし、終わった後も寝られないですからね。それくらい早大との試合に勝つのは最高でしたね。
――今年の定期戦へのモチベーションになるのではないですか
そうですね。僕が入学してから前期のリーグ戦で勝ったことがなかったので、勝った状態で迎える定期戦が初めてなので、そういう意味では僕らはいいイメージだし、早大にとっても慶大に負けたというイメージがあるだろうし、もちろん死に物狂いで来るとは思いますけど、それでも僕らも自信を持ってやっていけるので、負けていたら勝つイメージができていなかったかもしれません。そういう意味ではかなり大きい勝利だと思います。
――過去3年間とは違う感覚で臨めそうですか
そうですね。1年目はあまり参考にならないですが、2年目、3年目は0-1、0-1なので、チャンスがなかったかというとあったし、決めるところを決められなかったという試合が多かったので、そういう試合から今年を考えると、0-1のイメージはあまりないかな。点をとれる自信はみんなあると思うし、あとはどれだけ守備を作るかということですね。相手もこの前の戦術では来ないと思うし、何かしら修正してくると思うので、そういうところも予測しつつ、何が来てもいいという準備をする立場になったことが今までから考えたら新しい早慶戦への入り方ができると思います。
――昨年の定期戦の悔しさは忘れていないですか
90分を通して仕事ができたかというと、結局結果につながっていないので、それに対して悔しさはありました。特に前半を通して自分たちのやりたいことをやれたかというと、絶対やれていないし、どっちがやりたいことをやれたかというと早稲田大学なので、トータルの流れでそうなるから、だからこそ悔しいです。悪い時は11人全員が良くないから結果が出ないので、余計に悔しいですね。
――今年の定期戦で「ここを見てほしい!」というところは
運動量や激しく戦うプレーは個人として見てほしいところです。慶應としては、見ていて楽しいというか、「すごくボール動くじゃん」っていうくらいわくわくするサッカーをしたいし、前期のイメージでいえばできると思うので、そういう点を楽しみにしてもらえればと思います。早稲田よりいいサッカー、楽しいサッカーをして最後僕らが勝って証明したいと思うので、そこを見に来てもらえればと思います。
――最後に意気込みをお願いします
3年間1勝もできずに最終学年を迎えたので、あの環境で勝つ喜びを味わえていないので、おそらく格別なものだろうし、ひたすらその喜びを味わいたいという一心で準備から全身全霊でやらなければならないと思っています。最後にみんなが喜びあえるように、何より自分たちのサッカーをできて納得して終われるように、悔いを残さずにプレーしたいと思います。
(取材 小林将平)