ドラマの筋書きのような大逆転劇だった。12月3日、慶大日吉キャンパス日吉記念館で行われた第60回早慶ボクシング定期戦。軽量級で3連敗を喫し、早々に追い込まれた慶大だったが、田中和樹前主将(総4)が早大・淡海昇太主将との同期主将対決を制すと、流れは一気に慶大側に。3対3で迎えたミドル級で徳山雄太(理3)が大接戦の末判定勝利を収め、4-3で早大に逆転勝利。慶大のホームで2年ぶりの早慶戦勝利を飾った。
結果
○ | 慶大 | 4-3 | 早大 | ● |
階級 | 勝敗 | 慶大選手名 |
| 相手選手名 |
LF | ● | 熊谷拓磨(理1・聖光学院) | TKO 1R | 岩田将吉 |
F | ● | 宮内龍ノ介(法2・慶應湘南藤沢) | 3-0(26-30,26-30,26-30) | 馬場友成 |
B | ● | 折敷出陸(法3・慶應義塾) | 0-3(27-30,28-29,27-30) | 井上稜介 |
L | ○ | 田中和樹(総4・鎌倉学園高) | 3-0(30-27,30-27,30-27) | 淡海昇太 |
LW | ○ | 杉山知義(商3・大宮) | 3-0(30-27,30-27,29-28) | 藤田裕崇 |
W | ○ | 古山貫太郎(経3・慶應義塾) | 2-1(28-29,29-28,29-28) | 土田大輔 |
M | ○ | 徳山雄太(理3・南山) | 2-1(29-28,29-28,29-28) | 垂水裕嵩 |
第60回早慶ボクシング定期戦
2016/12/03@慶應義塾大学日吉キャンパス日吉記念館
ライトフライ級 熊谷拓磨
今日がデビュー戦の熊谷。1R。序盤はお互い相手の出方を伺うが、コンビネーションを立て続けに顔面にもらったところで、早くもタオルが投げ入れられた。「パンチがすごく強いですね。あと踏み込みが早くて、圧倒されました」と話した熊谷。元高校王者の早大・岩田将吉に一矢報いることはできなかった。
フライ級 宮内龍ノ介
試合前の作戦について、「相手がサウスポーの大きい選手だったので、まずワンツーでボディに入ってから3つ目4つ目を当てるというイメージだった」と宮内。1R。クリンチを駆使しながら相手の懐に入りコーナーに追い込んでボディを右で打ち込む。ここまでは思い通りだったが、肝心のダメージをなかなか与えられない。逆に離れたときに手痛い打撃をもらうことがしばしば。2R以降もパンチがやや大振りになりながらも、粘り強く相手に食らいついたが、終始試合の主導権を握った相手に軍配が上がった。
バンタム級 折敷出陸
1R。開始早々から攻勢に出る相手選手の気迫に、少々押され気味ではあったものの、相手のガードの間を撃ちぬく右で反撃をなんとか反撃を試みる。2R。左ストレートからのコンビネーションをもらい、劣勢。徐々に顔面のガードを甘くなる。3Rは完全に勢いに乗った相手選手の激しいラッシュにあった。結果は0-3の判定負け。試合後に「相手の気持ちにちょっと押されてやられちゃったかなってのが素直な感想です」と語った折敷出。これで3連敗。慶大の勝利に暗雲が立ち込めた。
ライト級 田中和樹
もう後がない慶大からは満を持してエース・田中和樹が登場。切れ味鋭いワンツーを主体に早大・淡海主将の守りを突き崩していく。相手の負けじ力強い右フックもしっかり見切った。攻守共に相手を上回った田中が主将同士白熱の一戦を制した。引退試合、そしてキャリア80戦目となる結びの一戦を白星で飾った。
ライトウエルター級 杉山知義
1R。強烈な右フックでいきなりダウンを奪う。一気にKOまでいくかというところで額から血が出て一時試合が中断。「ダウンを取って自分も少し熱くなってしまって、すぐに決めにいきたいと思っていたんですが、逆に冷静になれました」と杉山。2R以降は右ジャブで間合いをはかりながら、豪快な左フックをボディに当てていった。大差の判定勝ちに、「試合前の打ち合わせで確認していたことを試合でもしっかりとできて、作戦通りに戦えたので、今日はすごく満足のいく結果になりました」と充実感をみなぎらせた。
ウエルター級 古山貫太郎
普段から階級を一つ上げて臨んだ古山。奇しくも対戦相手は昨年の早慶戦と同じ土田大輔(早大)。「去年は相手が守って僕が攻めるという展開でしたが、相手も対策をしてきていて、相手も前に出て打ち合う展開になりました。階級を上げていてパンチも強くて、最初はダメかなと思いました」と古山。序盤は闘志を前面に押し出し攻める相手選手に受けに回りつつも、固いガードと軽快なステップワークでクリーンヒットをもらわない。3Rは上下にパンチを打ち分け、体格で上回る相手を下した。
ミドル級 徳山雄太
3対3。絶対に負けられない局面で迎えた徳山は「折敷出が負けたあたりからヤバイとおもいましたが、和樹さんから3人は絶対に勝ってくれると信じていました。そうしたら実際に勝ってくれてこれはもう負けられないと、いいとこ取りでしたね」と試合前の心境を振り返った。相手選手の力強い左右のフックを警戒しながら、左のリードジャブからのワンツーを中心に攻撃を組み立てていく。3Rはお互いの意地と意地がぶつかった激しい乱打戦。「応援がしっかり聞こえてきて、応援の力の大きさを感じました。ここでへばる訳にはいかねぇ、最後の1分は気持ちでいきました」。大接戦を最後は気持ちで制した。
頼れるエースが試合を決めた。軽量級での3連敗。同じく開幕3連敗を喫し、早々に慶大の敗北が決まった昨年の悪夢が脳裏によぎった。そんな敗色濃厚の様相を一気にひっくり返したのはやはり田中だった。的確にワンツーを当ててポイントを稼ぎつつ、巧みなステップワークとブロッキングで早大・淡海主将の力強い打撃を封じ込めた。「今日が80戦目で、(しかも)引退試合なので、今までのすべてを出し切ろうという思いで臨みました。自分の戦いと言うか、培ってきたものがすべて出せたかなと思います」。注文のつけようのない完璧な試合運びに、3年ぶりの最優秀選手賞も付いてきた。
また、大逆転劇の立役者となった後ろの3選手はいずれも3年生。来季のリーグ戦に向けても大いに期待の膨らむ内容だった。なかでも杉山は技能賞を受賞。「丁度1ヶ月前の関学大戦で左手をけがして、それからはずっと右腕を鍛えていました。今までは左9割、右1割という感じだったんですけど、今日は右も左も同じくらい出たので、そこはすごく成長した部分だと思います。」と手応えをつかんだ。課題だった右でダウンを奪い、充実ぶりを印象づけた。
まさしく「一丸」となって掴んだ勝利だった。毎年開催地が入れ替わるボクシング早慶戦。慶大のホーム日吉記念館で行われた今年は、記念すべき第60回目の開催となるメモリアルイヤーだった。例年以上に重圧のかかる状況のなか、選手たちを鼓舞したのが会場に詰めかけた慶大側観衆だった。クリーンヒットの度に沸き上がる大歓声。この声援もまた、後半の大逆転劇を呼び込んだ一因だろう。
この早慶戦をもって4年生は引退。残された下級生もシーズンオフに入る。選手たちにとってはしばしの充電期間になるが、冬季に地道な基礎トレーニングをどれだけ積めるかが来季のリーグ戦での戦いを占う上で重要になってくる。勝利を決めた徳山は「今のチームは本当に強くなっていると思っていて、リーグ戦でもAクラスにいけると思っています。その中でも2位、1位を狙えると信じています。」と自信を見せる。来季こそ悲願の2部Aクラス入りなるか。慶大ボクシング部の挑戦から今後も目が離せない。
(記事:江島 健生)
以下、選手コメント
熊谷拓磨(理1・聖光学院)
(今日の試合を振り返って)デビュー戦をこんないい舞台でできるってことはとてもいい経験だったなと思います。あと、相手の岩田さんもすごい強い方なので、そういう選手とできたこともいい機会になりました。
(相手の印象は)パンチがすごい強いですね。あと踏み込みが早くて、圧倒されました。
(デビュー戦ということでどんな気持ちで臨んだか)最初は訳もわからない感じだったんですけど、みんなが応援してくれたおかげでがんばろうと思いました。そのおかげで今日を気持ち良く迎えることができました。
(今後の目標は)今日出場した先輩方がとてもかっこよかったので、将来そういう風になれるように精進していきたいです。
(特に鍛えたい点は)全部ですね。まだまだなので。
宮内龍ノ介(法2・慶應湘南藤沢)
(今日の試合を振り返って)勝とうという気持ちが前に出過ぎたのか、ずっとやろうと思っていたことができませんでした。泥仕合にするという意味では予想通りだったのですが、やりたいことがフルにできなかったというのもあって、完敗でした。
(具体的にやりたかったこととは)相手がサウスポーの大きい選手だったので、まずワンツーでボディに入ってから3つ目4つ目を当てるというイメージだったのですが、距離を詰めすぎて自分のパンチも当たらない距離にしてしまったのと、3つ目の意識が弱かったというのもあって、あまり次に繋がらないパンチばかりで終わってしまいました。
(相手の印象は)同じ神奈川なので何度か試合を見ていたのですが、やはり色々な選手が苦戦しているだけあるなと思いました。距離も長くて、しっかりパンチを見ていて、カウンタパンチャーの鑑だな、と思いました。
(この冬の練習は)僕はサウスポーが苦手なのですが、苦手意識だけで負けたわけではないと思うので、まずはサウスポー対策をしっかり立てて、来年のリーグ戦、早慶戦に向けて練習していきます。自分は接近戦をやる選手なので、接近戦でのテクニックを身につけて、修正していこうと思います。
折敷出陸(3・慶應義塾)
(今日の試合は)相手の気持ちにちょっと押されてやられちゃったかなってのが素直な感想です。
(四年生と一緒に出れる最後の試合でしたが)ライト級の和樹さんは高校の時から見てる先輩で、いつも背中を追って練習をしていて、最後一緒に試合に出れたのはすごい嬉しく思います。また、他にもシモンさんや木村さん、岩田さん、大学1年生の時からお世話になっている先輩と一緒に最後の早慶戦に向けて練習してこれたのは、とても誇らしく思います。だから最後負けちゃったのは本当に残念です。
(折敷出選手の後の4人が全勝して早慶戦勝利となりましたがその点に関しては)僕は助けられる主将だなと思っています。今回の試合も僕まで負けちゃって3連敗という形で、和樹さんから4連勝。結果的に勝てたのは助けられたかなというのが素直な感想で、僕の力ではなくて、チーム全体で、周りのみんなが頑張ってくれたってのがすごい嬉しいです。
(セコンドの和樹さんのアドバイスを受けて)試合中のことは終わってしまった今、あまり覚えていません(笑)。
(次の試合に向けてなにかありますか?)次はリーグ戦の第1戦になるんですが、去年負けた明治と当たる事になると思います。今度はしっかり主将としてもチームとしても勝ちたいと思います。
田中和樹(総4・鎌倉学園)
(2年ぶりの早慶戦勝利おめでとうございます。今の心境を)いやー。本当に最高、嬉しいの一言ですね。最後を飾れて良かったと、その一言に尽きます。
(盤石の試合運びでした。試合を振り返って)今日が80戦目で、(しかも)引退試合なので、今までのすべてを出し切ろうという思いで臨みました。自分の戦いと言うか、培ってきたものがすべて出せたかなと思います。
(どういった試合運びをしようと考えていた)相手の距離が長いので、相手の距離に入らないように離れて戦うか、距離を詰めるかどっちかで戦うというのは意識していました。ポイントを取るところはまとめて、こっちのポイントにするというのは意識していました。
(そこは上手くいったと)1R、2R通して完璧に行けたかなと思います。
(3連敗で迎えたときの心境は)本当に焦りました。去年の早慶戦も3連敗で回ってきて、嫌な流れのまま負けてしまったので、(去年と同様に)3連敗で回ってきたときは、去年の負けが頭をよぎったというか、嫌な感じはしましたね。
(最優秀選手賞も受賞した)最優秀選手賞は1年生に取らせていただいたんですけど、それ以来取ってなくて。最後にチームとして勝てたことが一番嬉しいかなと思います。
(この早慶戦をもって引退になるが、チームの皆に伝えたいことは)主将としてプレッシャーを感じながらいっぱいいっぱいでやってきたんですけど、その背中で見せてきた部分は(後輩たちにも)伝わったと思うので、後輩には、早慶戦は2連覇してほしいし、リーグ戦でも今年の2部リーグ4位という成績を超えて、歴史を作ってほしいなと思います。
杉山知義(商3・大宮)
(2年ぶりの早慶戦制覇となった)めちゃくちゃ嬉しいです。去年は早大の赤井元主将と当たって判定で負けて、それがチームの負けにも繋がってしまいました。すごく悔しい思いをしたので、今年は絶対に勝とうという気持ちでした。それで事前の打ち合わせで確認していたことを試合でもしっかりとできて、作戦通りに戦えたので、今日はすごく満足のいく結果になりました。
(相手の印象は)藤田選手が相手というのは予想通りでした。すごくパンチ力のある選手で、前の試合ではKO勝ちするくらい。特に右のパンチが強かったので、それをもらわないように意識しながら試合を進めました。
(今日は右がよく効いていたように見えた)丁度1ヶ月前の関学大戦で左手をけがして、それからはずっと右腕を鍛えていました。今までは左9割、右1割という感じだったんですけど、今日は右も左も同じくらい出たので、そこはすごく成長した部分だと思います。
(これからのプレースタイルにも影響するか)そうですね。来年は左だけの杉山ではなく、左右使える杉山としてリーグ戦でもっと勝っていきたいです。
(早い時間から額の出血があった。試合に影響はあったか)ダウンを取って自分も少し熱くなってしまって、すぐに決めにいきたいと思っていたんですが、逆に冷静になれました。頭を切ってあまり突っ込めなくなったので、その分しっかり落ち着いて戦うことができました。
(技能賞を受賞されたが)全然似合わない賞を貰ったなと。自分では技能があるタイプではないと思っていたので、すごく嬉しいです。でも和樹さんが貰ったMVPのトロフィーはもっと大きかったのでちょっと悔しいです。来年はMVPを取りに行きます。
(これから来季に向けて取り組みたいことは)また5月からリーグ戦が始まるので、それに向けてもう一度体作りをやりたいです。最近は、いつもより重いライトウェルター級で出ているので、そこでも戦えるようにもっと体を大きくしたいです。なので、よく食べよく練習するというのを頑張ろうと思います。
古山貫太郎(経3・慶應義塾)
(試合を振り返ると)去年もやった相手でした。去年は相手が守って僕が攻めるという展開でしたが、相手も対策をしてきていて、相手も前に出て打ち合う展開になりました。階級を上げていてパンチも強くて、最初はダメかなと思いましたが、自分の土俵で戦えた事が勝つ事が出来た要因だと思っています。
(一番の勝因は)気持ちですね。今まで4年生にお世話になってきた分、恩返しという面で最後まで出し尽くす事が出来たと思います。
(もう後が無い状況でしたが)絶対落とせないという気持ち、絶対に勝つという気持ちでした。3ラウンド目までその気持ちを持ち続けて闘い抜けた事が一番の勝因です。
(勝った感想)マジで気持ちいいです。本当にボクシングをしてて良かったです。
(これからの目標)来年はラストのリーグ戦なので、2部Aクラス入りという目標を達成したいです。そのためにこれから練習をさらに積んでいきます。
徳山雄太(理3・南山)
(3対3で回ってきました)折敷出が負けたあたりからヤバイとおもいましたが、和樹さんから3人は絶対に勝ってくれると信じていました。そうしたら実際に勝ってくれてこれはもう負けられないと、いいとこ取りでしたね。
(それも仲間たちのお陰ですかね)本当にそうですね。和樹さん、杉山、古山には本当に感謝です。
(折敷出選手が負けたときは)僕自身折敷出は絶対勝つと思っていたので、1人で焦っていました。
(最後の試合は)僕自身すごく調子が良かったのですが、思ったよりも相手が強くて、気合いも入っていたのでヤバイと思いました。でも2ラウンド目から冷静に試合を進める事が出来てどこでポイントを取りながら考えて試合を進めました。
(詳しく振り返ると)1ラウンド目はジャブを当てて自分のペースで進められると思っていたら、意外と相手のパンチをもらってしまいました。なので、1ラウンド目でポイントを取れているか分からない際どい立ち上がりになりました。落ち着いて試合を進めないと絶対に負けてしまうと思ったので2ラウンド目からは落ち着く事を考えて試合を進めました。すると、2ラウンド目のハーフタイムを超えた辺りから相手の動きが見えるようになって、優位に進めました。3ラウンド目はお互いに気持ちの勝負でしたね。3ラウンド目でポイントを奪えた事が一番の勝因だと思います。
(判定を待っている時は)長かったですね。ひたすら青、青と念じ続けて、勝った時は重圧といった色々なものから解放されて良かったなと。嬉しさよりも安心したという気持ちから泣いてしまいました。重圧は重かったですが、今は感謝しか感じていないです。仲間、監督、コーチに感謝です。あとは応援がしっかり聞こえてきて、応援の力の大きさを感じました。ここでへばる訳にはいかねぇ、最後の1分は気持ちでいきました。
(これからに向けて)今のチームは本当に強くなっていると思っていて、リーグ戦でもAクラスにいけると思っています。その中でも2位、1位を狙えると信じています。僕自身や同期、後輩も強くなっているのでそこを目標に頑張りたいです。