3月26日(月)に慶應義塾大学の卒業式が行われた。
慶應蹴球部の一員として4年間を過ごした部員も新たなステージへと歩みを進める。主将を務めた佐藤大樹(H30総卒)も同様だ。
佐藤は1年次から黒黄のジャージーに袖を通し、数多くの試合に出場して経験を積んできた。そして、4年次には主将として慶大を引っ張る。そのチームは明大からの勝利、帝京大にあと一歩に迫るまでに至った。惜しくも大学選手権準々決勝で日本一への目標は絶たれたが、彼らのプレーは観客に感動を与えたに違いない。
今回は主将としてチームを支えた佐藤に、慶大蹴球部生として最後にインタビューさせていただいた。主将として意識していた部分やこれからの慶大蹴球部への思いについて伺った。
——大東文化大に負けて思ったことは
最初は正直自分でも向き合えていないというか、受け入れられていませんでした。でも、負けてもしっかりした態度をしなければいけないというのはキャプテンになった頃から意識していたことなので、あまり情けない姿は見せないようにと思っていました。数日過ぎてからだんだんと自分達の引退を意識し出したと言いますか、「あー終わっちゃったな」というのを思い始めて、応援してくださる方には少し申し訳ない気持ちがありました。今年は特に去年の反省を踏まえて、良い試合というよりは勝って恩返しするというのを意識していたのでそこはすごく。帝京と明治の試合を見ても、決勝の舞台に立てるだけの実力は僕たちにはあったのではないかなと思いましたし、その分、その舞台に立てなかったのが申し訳ないなと思っています。
——わずかに及ばなかったのは何故か
スクラムなどであれほど劣勢に立たされたり、前半から自陣からのポゼッションが上手くいかなかったのに、ギリギリまで接戦に持ち込めたのは自分達にそれだけ実力があったからだと思います。だからこそ、スクラムやポゼッションをしっかりできていれば、全く違った試合展開になったのではないかなと思います。
——全員が納得して終われたか
全員が納得できるのは日本一を取れた時だけだと思うので、達成できていないですし、それは僕も納得できていないです。
みんな上手く折り合いをつけているのではないかと思います。
——日本一に向けてどういった意識で練習していたか
日々の練習で少しずつ上手くなっていくしかないし、体づくりをしていくしかないので、練習だったら練習前のミーティングでフォーカスすることをみんなにも意識できるように考えていました。急にこうしたらうまくいく、強くなるというのはありません。日々の練習で一日一日、昨日よりよくなっていれば良いと思うのでそれは結構意識しました。
——大学選手権決勝を見て感じたことは
悔しいし、もっとやれたと思っています。やはり負けた直後に自分で振り返るよりも、他の試合を見たり、お世話になった方に報告した時に「お前らもっと上にいけたのにな」と言わるとすごく悔しい思いが溢れました。ただ自分で引退したんだなって振り返るより、そういう試合を見たりとか、いろんな人と話したりとかした時の方が実感が湧きました。
——目指していた主将像は
僕は(主将のスタイルが)2種類だと思っています。背中で引っ張る人と、声掛けとかで周りを上手く鼓舞する人です。
僕はできるだけ両方できればいいなと思っていたつもりです。だから理想としていたキャプテン像というのはそういうところだと思います。僕はやはり口だけになりたくないし、キャプテンだから言わなければいけな
いことがあると思っていました。いろいろ言わなければいけない立場で自分がしっかりとしていなかったら周りは聞いてくれないと思うので、言動が一致していることを意識しました。
——私生活からか
そうです。わかりやすい話だと遅刻は絶対してはいけないと気をつけていました。
——キャプテンになってから厳しいことをいうのを抑えたのは何故か
僕としては厳しいことを言える人は必要だと思いますが、それだけをするのはキャプテンの役目ではないと思います。
キャプテンとして考えると、発破をかける意味を込めて厳しく言うだけではなくて、モチベーションを保つのはすごい難しいところだと思うので、相手に寄り添ったりしました。特に下のグレードなど、(Aチームの)試合に出られないような人たちがどれくらい日本一を意識して頑張れるかによって、結構チームの雰囲気が変わってきます。厳しいことを言ってるだけだとやはりモチベーションを維持しづらいと思うので、そういうところを意識した結果少し丸くなったと言われるような感じになったと思います。
——副将二人体制というのはどうだったか
支えてくれてる人がいると頑張れる感じはありました。やはりどうしても一人対大人数になることが多いので、そういうときにそばに誰かいると心強いというか、そういうのはあります。
——明治に勝った時、帝京、早稲田に負けた時を振り返って
明治に勝った時は、僕が出場している明治戦で初めて勝った試合だったので、すごく嬉しかったです。そして、試合の内容としても割と上手くいったなと思います。試合の後半の方に少し反省することはありましたが、比較的上手くいった試合で結果も伴いました。
帝京戦は、帝京だから少し負けてもしょうがないみたいなのが若干あったなと今では思います。3点差で、みんな良い意味だと自分達の手の届く範囲だというのは思えました。しかし、3点差で勝ちきれないというところはもう少し全員で真摯に受け止めて、練習や次の試合にもっと生かさなければいけなかったのかなと思います。
早慶戦は、特に何がすごく悪かったというようなところはありませんでしたが、場に飲まれてしまった部分はあると思います。そして、良い流れできた分少し浮ついていたのかなと思います。
——慶應に入学した時の目標、目指していた選手像は
やはり慶應というと低いタックルや激しいプレーみたいなものが強みであるし、チームカラーだと思っていました。そこに憧れていた部分もありました。あまりアタックについては考えていませんでした。低いタックルが強みの選手になりたいなと思っていました。
——低学年から期待されて出場していたがプレッシャーを感じたりすることはあったか
そこまでプレッシャーを感じたことはありませんでしたが、もちろん試合に出るときに1年生一人のみの時に少しドキドキしたりするというのはありました。しかし、期待されてプレッシャーを感じたことは特にありませんでした。
——主将になって大変だったことは
周りの話を聞くというのは主将になってからすごく意識したことかなと思うのでそれは大変でした。
——大学4年間で思い出に残っている出来事や試合は
結構試合の内容とかを忘れてしまう人で。結果だけで言うなら勝利した明治や、1年生試合の早慶戦です。タックルミスをした日体大戦は悪い意味で覚えています。
——お兄さんはどういった存在か
僕はあまり自分を追い込みきれないところがあります。しかし、兄は割と自分を追い込む人ですごいストイックな人です。そういったところは自分にない部分なので目標だと思います。
——連絡を取り合ったりは
そんなにベタベタはしていないですけど、普通に話したり、ラインをくれるときもあります。
——それはラグビーについての話か
そうです。ほとんどラグビーです。
——精神面だけではなく、技術面についてもか
技術面ももちろんあります。結構僕の試合を見てくれています。
——小学校6年生から始めて、最初はそこまで好きではなかったラグビーをいつから好きになったか
最初は慣れない環境や、友達がいない中で自分だけ初心者だったこともあり、そういう部分が嫌だったのかなと今は思います。でも最初の試合(小学校六年生の時)に出させてもらった時にほとんどパスの仕方もよく分かりませんでしたが、タックルなどをすごく褒めてもらえて、それがすごく嬉しくてその辺からだんだんとラグビーにのめり込んでいったのかなと思います。
——来年のチームの魅力的な部分は
来年のチームは僕たちと結構違って、まとまっているというかすごい仲のいい代というか。だから、いいチームになると思ってます。
仲のいいことがいい反面、少し悪い面もあると思うのでそこが少し心配です。しかし基本的には、僕らの代はまとまりがなかったこともあり、すごく羨ましいなというか、いいチームになりそうだなと思います。
——成績や試合に関して後輩に期待することは
日本一をぜひ取って欲しいことに加えて、試合内容に関しては慶應らしい試合をして勝って日本一になって欲しいなと思います。
——日本一に何が必要か
来年のチームも含めてですが、厳しいことも勝つためには必要だと思うので、ラグビーに真剣に向き合って欲しいです。もちろん今も真剣に向き合っていないとは言いませんが、他のチームに負けないだけのラグビーへ懸ける思いが必要だと思います。
——古田京新主将(新医4・慶應)に伝えたいこと、あるいはすでに伝えてあることは
後輩たちにこうして欲しいみたいな話にも少し似ていますが、慶應はもっと厳しい声があっていいと思っていたのでそういったところです。練習からもっとミスに厳しくするように伝えました。
古田ではない周りの新4年生に、古田を支えてあげて欲しいという話をしました。古田にも話したミスの話をして、一人でそういう空気を作るのは難しいので、4年生で協力してほしいということを言いました。
——慶大では全体的に厳しい声がなかったか
ミスをなあなあにしてしまう雰囲気がありました。
桐蔭学園の頃は自分がミスをしたら全力で取り返さなければいけないし、ミスをしたボールには必ずセービングしたり、そういったところを僕は当たり前だと思っていましたが、慶應ではそれが徹底されていないように感じました。そもそもミスに対して桐蔭学園では厳しい声とかもあったりしました。しかし、慶應では「ミスしたボールにちゃんとセービングしよう」という程度の声掛けだったので最初は少し歯がゆいというか、戸惑ったところはあります。
——1年次と4年次を比べて、若干厳しい雰囲気になったなど変化はあったか
僕は言ったつもりでしたが、チーム全体としてまだまだそういう雰囲気になりきれていない思います。
——社会人に向けての抱負は
まずはしっかりと試合に出れるように頑張りたいと思います。
——最終的にどういったラグビー選手になりたいか
今まで高校や大学とかでいろいろ教わってきたものがあります。それをしっかりと体現して、周りの人からも「あいつはやっぱり慶應の選手だなとか桐蔭の選手だな」と思われるようになりたいです。
——大学4年間での学びは
慶應にはいろいろな人がいました。桐蔭の時はラグビーに必死にぶつかってる人たちばかりという感じでしたが、慶應ではラグビーにもぶつかってるけど、少し癖のある人とかもいました。すごいそういう面では、ラグビーも上達しましたが、それよりも人間的にいろいろと考えたりすることが多くて、その分それは人間として成長できたのではないかなと思いました。
佐藤さんありがとうございました。
そして、卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。
(取材:重川航太朗、田中壱規)