ラグビーワールドカップが日本で開催され、例年にも増してラグビーが話題になるであろう今年、慶應義塾體育會蹴球部は創部120周年を迎える。
4月28日(日)に関東大学ラグビー春季大会が開幕し、慶大の属するAグループは2試合が行われた。そして来たる5月12日(日)、いよいよ我らが慶大が初戦に臨む。多くのスタープレイヤーを擁した昨年とは違い、今年はチーム全員が一体となって戦う。それに先立ち、慶應スポーツでは開幕前取材“UNITY”と題して、インタビューを実施した。
連載第3回は、FR(フロントロー)リーダーの安田裕貴(政4・慶應)と、BK3(バック3)リーダーの高木一成(商4・慶應)。慶應義塾高時代に主将・副将としてチームを率いた2人の対談だ。
(5月7日に取材を行いました)
——最初に、お互いについての紹介をお願いします
安田:高校から一緒です。彼はもともと野球をやっていたのですが高校からラグビーを始めました。運動神経がすごく良かったのでとても初心者とは思えなかったです。今でも「運動神経いいな」、「アスリートだな」、と思うことがすごくあります。彼の一番の特徴はばねのある動きで、最近体も大きくなって、強くなったな、と感じています。
高木:高校時代に大阪から塾高に来て、当時からめちゃくちゃ体が大きくて、それを活かしたパワープレーが得意でした。高校三年からは前3をやり始めて、セットプレーの核になり、いつもいいスクラムを組んでいるのですごいなと思っています。フィールドプレーでもこの大きな体を活かして前に出ることができるので、そういった部分でもとても頼りになるプレーヤーです。
——昨年を振り返って
安田:チームとして「日本一」という目標があったのですが、それを達成できなかったのが悔しかったです。それでも対抗戦で明治に勝って、その明治が大学選手権では優勝したという意味では目標としていた「大学日本一」が最も見えた年だったのかな、とは感じています。個人としては、もちろん出られた試合もありましたが、怪我が多くて、シーズン途中に復帰し、そのあとまたシーズン途中に怪我をして離脱することになってしまいました。今年一年は怪我なくやり切りたいと思っています。
高木:昨年は、最後の早稲田戦もラストのワンプレーまでわからないような試合で、日本一になれるような力を持っていたチームだったと思っています。その分、今年はぎりぎりで勝つのではなく圧倒して勝つ、運の部分に左右されずに実力でしっかり上回って勝つ、ということを目標に掲げています。個人としては、同じく怪我が多く去年はほとんど試合に出られなかったので、今年は自分がしっかりと試合に出てチームの勝利に貢献していければ、と思っています。
——昨年で印象に残っている試合は
安田:シーズン直前に怪我をしてしまって、その復帰戦となった明治との試合です。この試合では復帰戦ということもあり16番というリザーブの背番号をつけていました。セットプレーを安定させなければならないという自分自身の役割があり、前日に監督からはセットプレーが苦しくなったら早い段階で交代させていくから準備をしておけ、と言われていました。実際、前半からスクラムが厳しく何度も明治にターンオーバーされ、後半10分という早い段階で自分は投入されました。自分が入ってからは、劣勢だったスクラムの状況から後ろを優先できるぐらいに変えることができました。結果チームとして勝つことができましたし、出場機会が少なかった昨年の中でも貢献できた試合かなという風に思っています。
高木:僕が印象に残っているのは最後の早稲田戦です。僕自身は怪我のためその試合には出ることができず、早稲田戦の次の週の試合から復帰する予定だったので、観客席からただただ祈ることしかできませんでした。この試合は本当にあと一歩のところで勝つことができなかったのがとても悔しかったです。僕も明治戦には出場することができたのですが、その試合で勝てた嬉さよりも、この早稲田戦での悔しさがどうしても忘れられないです。
——新体制になり、現在のチームの雰囲気は
安田:監督、コーチ陣含めて楽しく練習をさせてくれているというか、すごく風通しのいいチームになったな、というのが今年の印象です。上下間のコミュニケーションが、選手の中での上級生・下級生関係なくというものもなんですが、選手とコーチ陣とのコミュニケーションもだいぶ増えて、チームの雰囲気はすごく明るくなっているように感じます。
高木:その点は僕もすごく感じています。あとはチャレンジをするという面で、グランドの上ではいろいろなプレーをやっても怒られるということほとんどなく、しっかり自分たちで指摘をしあえば様々なプレーに挑戦することができるので、その部分でのびのびとラグビーができているなと思っています。またグラウンド外でも様々なチャレンジをしていて、こういったところが去年とは大きく違うな、と感じています。
——グラウンド外でのチャレンジとは
安田:今チームで“3V”という、“Victory“、“Varsity“、“Value“の3つの言葉を大きく掲げているんですが、その中の”Varsity”と”Value”という部分で、学生スポーツの価値を高めていこうというと様々な活動をしていて、そこがグラウンド外でチャレンジしている部分です。
varsity:
プログレッシブ英和中辞典(第4版)の解説
1 ((主に米))(高校・大学などの, 特にスポーツの)代表チーム
2 ((しばしばV-))((主に英古風))大学(特にOxfordとCambridge)
——栗原新HCはどんな方ですか
安田:とにかく優しくてのびのびとラグビーをさせてくれて、それでも熱い、というような人です。この人についていきたい、勝ってこの人と一緒に喜びたいなと僕は感じています。
高木:本当に一言でいうなら、めちゃくちゃいい人です。誰かを見捨てるということは絶対にせず、誰に対しても同じような目線で接してくれます。そういった部分でチームの一体感を出すのがうまい人だなと思っています。
——リーダーになった経緯は
安田:2人とも下級生のころから試合に出ていてその経験が買われたというのもありますし、実は塾高時代に僕が主将で高木が副将だったというのもあり、そういった面も含めて選んでいただいたと思っています。
——リーダーになられての心境は
安田:ラグビーにおいて重要なセットプレー、特にスクラムは去年の最後の早稲田戦でスクラムから逆転されたというのもあって、スクラムが勝利に大きく関わってくるな、というのを僕はすごく実感しています。FRのリーダーとして、自分自身がそこを最前線で引っ張っていきたいなと思っています。
高木:僕はリーダーになったからといって特別に意識していることはありません。リーダーになっていなかったとしても、僕がBK3のポジションの力の底上げをやっていければいいなと感じています。BK3は守備の外側を守ることと、トライを取り切ることが課題だと思っているので、そこにしっかり貢献していきたいと思っています。
——リーダー陣ではどのようなことを話し合われていますか
安田:コーチ陣がすごく優しいというか、選手を主体にさせてくれていて厳しくないといえば厳しくないので、選手がそのことに甘えて練習の雰囲気が甘くなるような傾向になるのは良くないね、という風には話しています。それでも監督やコーチ陣に締めてもらうのではなく、選手が主体となって引き締めていけるように、特にリーダー陣がそこを引っ張っていこうという話し合いはしました。
高木:そのほかに意識していることとしては、今年は「慶應プライド」というのが大きなテーマになっています。これはコーチ陣の方々が僕たちに提示してくださって、慶應蹴球部としてのプライドを持った行動をしていこう、というものです。自分達で主体的に物事をするということにもつながってくると思うのですが、これをリーダー陣が率先して体現していければいいなと感じています。
——ここまでシーズンに向けてはどのような練習をされてきましたか
安田:チーム全体としては昨年度までとは体制も変わったので戦術も全く違うものを取り入れてきました。練習ではその新しい戦術に慣れていくといいますか、とにかくその落とし込みをしてきました。アタック、ディフェンスともに全く新しいシステムをやってきたので、今はこれからそれを試合でやっていくという段階です。
高木:それに付け加えて、基礎練習を繰り返しやっています。最後に試合の勝敗を分けるのはラグビー選手がラグビー選手として当たり前にやらなければいけないことだと思っているので、ラグビー選手全員ができるような簡単なことを誰も怠ることなくできるように基礎の練習をしてきました。
——新しいシステムとは
安田:わかりやすく言えば、去年は順々にアタックをするというシステムだったのですが、今年はアタックでは全員が均等に散ってグラウンドを幅広く使い、フォワードもパスを放ることで相手に的を絞らせないようなアタックをしようという風に今チームでやっています。
高木:去年は順々にアタックをしていく「走り勝つラグビー」、というようなものだったのですが、今年は幅広くグラウンドを使うことによって空いているところを効率よく攻められるようにして、その部分が大きな違いだと思っています。
——今年のチームの武器は
安田:まだ試合をしていないので何とも言えないですね(笑)でも今やっていることがうまくできればやっぱり勝てるはずだとは思っています。パスが増える分そこでの難しさは増えるとは思うのですが、そこをなんとかうまくやっていきたいと思います。
高木:去年はフォワードからパスをするということが極端に言ってしまえば無かったのですが、今年はフォワードがパスをするというのが大きな違いなのでその部分を強みにしていけたらより良いチームになって力を発揮していけるのではないかと思います。
——フォワード、バックスそれぞれの注目してほしいプレーは
安田:僕はやっぱりスクラムでお願いします。慶應はほかの大学と比べてそこまで体は大きくないですが、その分スクラムの低さとまとまりにこだわって練習をしてきているのでそこをしっかり見ていただければな、と思います。
高木:バックスは、相手のスペースを見てそこにパスを放ってラインブレイクをし続けるというのが今年の目標であり魅力だと思うので、その部分に一番注目してほしいです。
——現在のチームの状態は
安田:春の最初の段階では慣れていないことが多くてすごくミスも多かったのですが、週を追うごとにどんどん良くなってきて、ゴールデンウィーク前にもかなりいい練習ができていると感じました。引き続き向上していければなと思います。
高木:春は、これから中心となっていくであろうU20のメンバーや、怪我をした主力の上級生がいない中でも、いい練習ができているなと感じていました。さっきもあったように春の序盤は落とし込みの練習をしていたのですが、そこから後半になるにつれてその部分にはどんどんと自信がついてきたのではないかと思っています。
——慶大FW陣、BK陣それぞれでの注目選手は
安田:山本凱(経2・慶應義塾)はやっぱりすごいです。もう言うことがないというか(笑)言葉に言い表せないくらい強いです。あと去年試合に出ていなくて、でも期待しているメンバーでいうと、濱野剛己(総3・桐蔭学園)ですね。新入生だと今野優久(総1・桐蔭学園)はすごくいいなと感じています。
高木:バックスは2人います。まずポジションリーダーをやっている三木亮弥(総3・京都成章)で、彼は慶應のタックルを体現するようなすごいタックルを持っていて、そういったところで信頼していてディフェンス面で活躍してくれるのではないかと思っています。もう一人は新入生の中楠一期(総1・國學院久我山)っていうSOの子で、いまアタックの部分でセンスの良い動きをしているのでこのまま成長してくれれば良いSOになってくれるのではないかという期待を込めて、2人目に選びました。
——他大に意識している選手はいますか
安田:僕は明大のHOの松岡健太です。中学の選抜で同じチームで、今もライバル校同士で同じポジションなので意識する相手ですね。
高木:僕も明大の選手で、WTBの山崎と矢倉が意識している相手です。その2人はU17日本代表の合宿の時に同じ部屋に泊まってから仲良くなりました。2人ともアタックで相手にいると嫌なプレーヤーなので、彼らをしっかりと止められるようにしたいという点で意識している選手です。
——最上級生として迎えるシーズン、今の心境は
安田:最上級生ですけど、まあ、平常心で(笑)頑張りたいと思います。
高木:春シーズンはいろいろと試す機会だと思うので、もちろん最上級生として引っ張っていかなきゃいけない自覚もありますが、それよりもしっかりとチームが良い方向に向かえるように試合でのプレーや言動などをしっかり意識してやっていきたいなと思います。
——今年の目標は
安田:チームの目標は去年に引き続き「大学日本一」で変わりはないです。個人としては、FRのリーダーを任せてもらっていて、このポジションとして求められていることはスクラムの安定だと思うので、慶應が強いスクラムを組めるように自分自身が貢献できればと思っています。セットプレー以外のフィールドプレーでも、アタックではしっかり前にでて、ディフェンスでも激しいタックルで体を張って、チームに貢献していきたいと思います。
高木:このチームの目標はやはり「大学日本一」です。個人の目標は、BK3の選手でトライをより多く取るということのサポートができたらいいなと思っています。またプレーでは、慶應のWTBはすごい、と周りから言われたり、メンバーからも、あいつが出ていれば安心、という風に思われたりするようなプレーヤーを目指して頑張っていきたいと思います。
(企画)
――今回の連載はみなさんに「今までで1番印象に残っている春の思い出」をお聞きしています。今までで印象に残った春はどんな春ですか?
高木:僕は中学から高校に上がった春です。さっき(安田が)言ってくれていたように、僕は中学まで野球をやっていて、高校からラグビーを始めました。ラグビーはそれまでやったことがなくて、正直どんなスポーツかも分からずに入部しました(笑)その時はそういった点ですごく緊張していたのですが、春を通してだんだんとスポーツに慣れていって、楽しい部分も徐々に知ることができました。この春は僕にとって転機でもあって、より印象に残っている春だなと思います。
安田:被ってしまいますが、僕も高校一年生の春です。僕は地元が大阪で、高校生になるときに上京してきたので、環境が大きく変わったという意味ですごく印象に残っています。
(取材:松嶋菜々美 写真:竹内大志)
関東大学春季大会Aグループ 慶大日程
5月12日(日)vs流通経済大@流経G 13:00 K.O.
5月19日(日)vs帝京大@帝大G 13:00 K.O.
5月26日(日)vs早稲田大@南長野運動公園12:30 K.O.
6月9日(日)vs大東文化大@慶大G 13:00 K.O.
6月16日(日)vs東海大@東海大G 13:00 K.O.
応援よろしくお願いします!