ラグビーワールドカップが日本で開催され、例年にも増してラグビーが話題になるであろう今年、慶應義塾體育會蹴球部は創部120周年を迎える。
5月12日(日)には春季大会初戦を迎え、いよいよ新チームが動き出した。多くのスタープレイヤーを擁した昨年とは違い、今年はチーム全員が一体となって戦う。それに先立ち、慶應スポーツでは開幕前取材“UNITY”と題して、インタビューを実施した。
最終回となる連載第5回は、今シーズンから就任した栗原徹HC(ヘッドコーチ)。慶大を卒業後、トップリーグ、日本代表と華々しい経歴を歩んできた男が指揮官として蹴球部に帰ってきた。ご自身のこれまでの経歴から、蹴球部がこれから目指すチーム像までをたっぷり語ってもらった。
(取材は5月9日に行いました)
――栗原HCは今日がケイスポ初登場です。簡単な自己紹介をお願いします
茨城県鹿嶋市の清真学園中学でラグビーを始めました。中高一貫で、そこを卒業した後はAO入試で20年ほど前に慶大の環境情報学部に入学しました。卒業したあとはサントリーに入社して、3年間社員としてプレーした後にプロに転向し、そこからまた4年間プレーしました。そのあとNTTコミュニケーションズに移籍して6年間プレーして、引退後に5年間そこでコーチをして慶應に帰ってきたという形です。
――ヘッドコーチが現役の頃はケイスポとの関わりはありましたか
僕は別にキャプテンとかをやっていたわけじゃないので取材されたことはないですが、仲間が紙面に載ったのを読んだりはしていました。
――慶大でラグビーをすることになったきっかけは
高校時代の慶應のイメージはというと、敷居が高かったです。それに、建築を学べる大学を志望していたので慶應は志望校には入っていませんでした。ですが慶應の方からお誘いを受けて初めて慶應に興味がわき、SFC(環境情報学部のある湘南藤沢キャンパスの略称)の勉強の環境であったり、慶應のラグビーの歴史を調べたりして、建築の勉強よりも大学でラグビーをしてみたいなと思うようになりました。SFCでも建築を学ぶことはできたのですが、ラグビーで忙しいことにかまけてしまって、できなかったです。ラグビーとは別の軸をしっかり持てるような人生を歩んでみたかったなと思うこともあります。今は学生に対してそうするように話していますね。もちろんラグビーをしっかりやるのも大切ですが、大学生活で他のこともできる時間を確保できるくらいの練習日程に、今はなっています。
――ラグビーに限らず、学生時代の思い出は何かありますか
ここ(合宿所)は今みたいにこんなに綺麗じゃなかったし、ラグビー部専用だったんです。なので部員同士の結束は強かったなと思っています。だけど、やはり人間関係がそこだけになっていたので、もっと大学にも顔を出したかったかな。(SFCの最寄り駅の)湘南台の方に一人暮らしの家を借りていたのに、ずっと日吉にいて湘南台に帰るのはまれでした。ラグビーどっぷりでした。そこはあまりよくなかったかなと思います。
大事な試合は14時キックオフなので、僕らの時代はそれに合わせて練習開始が14時でした。そのため授業にあまり出られなかったり、練習に合わせて時間割を組んだりしていました。今でもみんなラグビー中心でやってくれていますが、僕の頃の方がもっと大学生活は希薄でした。残念です。大学でたくさん知り合いができるという機会が少なかったですね。
――大学時代で印象に残っている試合はありますか
4年生の時、2連覇をかけて臨んだ大学選手権の準決勝ですかね。そこは問題なく勝つと思っていたんですけど負けてしまって。とても悔いが残る試合でした。
――では、日本一になるチームはどんなチームだと思いますか
やはり学生なので、シーズンを通して成長していくようなチームだと思います。
――卒業後に進んだサントリーやNTTでの思い出は
サントリーからNTTにチームを移ったということはいい経験ですね。その2チームではまた文化が全然違うので、言ってしまえば「郷に入らば郷に従え」で、色々なことを経験することで人間として大きくなれるような気がしています。慶大からサントリーに行ってラグビーを続けたこと、そこからまた違うチームでもプレーしたこと、それぞれ大きいですね。
サントリーで言えば、僕がいた当時はとても恵まれていました。仕事もしっかりやる会社で、例えば僕の学生時代はさっき話したように、授業はあるけども練習は14時からでしたが、サントリーは9時から17時まで仕事をして、19時から練習、家に着いたら日付が変わっているのが普通でした。大学4年生の頃は授業もほとんどなかったので、午前中ゆっくりして14時から練習、夜も何もないといったようなゆったりした生活だったんですけど、それとは違ってちゃんとした環境に置かれたら仕事もするし、練習もするし、体も大きくなりますね。学生の時には時間はありましたが環境が整っていなかったので、成長する度合いが全然違いました。
スケジュールが違うところに入って、中身も全然違ったので、サントリーに入った最初の3ヶ月くらいは息をつく暇もないというか。引越しの時の段ボールが家にそのまま置かれているくらいでした(笑)。そんな厳しい生活のおかげで、3ヶ月で10キロほど体重が増えて、ラグビーの理解も深まりました。その経験が、こんな歳までラグビーに関わっている自分を作ったんじゃないのかなと感じています。
サントリーはご飯も出るし、洗濯もしてくれるんですよ。ホテルみたいですよ。ラグビーをするためにできるサポートは会社が全力で、何でもしてくれるのであなた達は一生懸命やりなさいという環境でした。もちろん、アマチュアで部活動である慶大にそれを求めているわけではありませんけどね。そういう環境に置かれて自分が対応していくのを感じましたし、練習のレベルもとても高くて。大学時代は自分が試合に出るメンバーだったのでメニューも余裕をもってこなせていたんですが、サントリーではついていくのがいっぱいいっぱいでした。
移籍したNTTは2部リーグに所属していたので、施設や待遇がサントリーとは180度違いました。サントリー時代は車で練習に行っていたのですがNTTは車で通うのは禁止。洗濯も自分でするので、洗濯物をリュックに入れて電車で練習に通う日々でした。海外に留学した時も誰もそんなことをしてくれないので、似たような感じでした。サントリーでは何もかも用意されて、練習終わったらご飯を食べてマッサージしてもらって帰るみたいな。逆にNTTは何もなかったので、電車に乗って帰ってましたね。そこは会社やチームの考え方があるので、どっちの方がいいとか、そういうことはないです。30歳で移籍することで、1からやり直すじゃないですけど、多様な生活に触れられた経験が生きてるんじゃないかなと思います。今では新浦安にすごく大きいクラブハウスができてますけどね。
――その中でも印象に残った試合、場面はありますか
NTTに移籍してから2年間は2部だったんです。そんな中(2010年に)NTTがトップリーグに昇格してサントリーと対戦した試合ですね。結果としては負けたんですが、感慨深かったですね。それまで意識しているわけではなかったんですが、試合が始まる直前にこみ上げてくる思いがありました。「自分はここを目指していたのかもしれない」と。実はそれからもNTTはサントリーに勝てていないんですよ。僕はもうNTTを離れましたが、残ったメンバーにはなんとか勝利してほしいですね。
――そして今回HCに就任されたのはどのような経緯ですか
大学から打診がありました。前任の金沢さんから候補の中に名前を挙げていただいたこともあり、運営と現場の方で話をまとめていただきました。
――卒業してからも慶大蹴球部と関わりはありましたか
卒業してすぐはなかったんですが、アドバイザーを務めたりして関わりはありました。見られる範囲で試合は見ていましたし、来られる時は日吉にも練習を見に来ていました。
――これまでに指導者の経験はありますか
NTTで選手を引退してそのままコーチになったので、選手との距離は近かったです。5年もやっていると、入団した時から僕がコーチとして関わるというような選手がほとんどでした。そうなるとまた選手との距離感も変わってきました。NTTが下の方から上位に上がっていく真っ最中のチームだったので、才能のある選手もたくさん入ってきましたし、楽しかったです。
――コーチングをする上で学生と社会人の違いはあるのでしょうか
違うといえばそれまでですが、本質としては同じものがあると思います。ラグビーのコーチングというのは、戦術を落とし込む部分と、人間力を高める部分の2つの軸があると思っていて。
NTTでコーチをしていた頃も、社会人を相手にラグビーのプレーを教えていたのは半分くらいです。他の競技と比べても、痛い、怖い、逃げたい、隠れたいというような気持ちが起きてくるような、人間力が問われる部分の多いスポーツなので、選手が自分としっかり向き合ってそういった感情を消していくという作業はやはり必要だと思います。そこにアプローチしていくことが社会人をコーチングしていてもとても多かったので、学生はまた多くなるんじゃないかなと思います。社会人にはラグビーのプレーだけを教えて、学生が相手になったらこちらが先生となって人格を指導する、なんてことはないです。
――その「人間力の形成」のためにはどのようなことをするのですか
こうしたら上手くいくというものがあるわけではないので手探りでやっているのですが、目標を掲げるときに具体的な作戦ではなく、今年のスローガンにもあるような“Unity”、そこを大前提に掲げて、なぜ結束(=Unity)すれば強くなるのか、なぜ結束できなければ強くないのかをラグビーの練習を通じて選手に感じてもらえるようにアプローチしています。また、ラグビーではないグラウンド外でアクティビティを行ったりすることで、「なぜラグビーではなくこんなことをするのか」と思う選手もいると思いますが、その意図を説明して、色々な角度から人格形成をできるようなアプローチをしています。
――指導、コーチングをする上での何か目標のようなものはありますか
自分がコーチを目指すきっかけになったのは、サントリーで最初に出会ったアンディコーチです。大学でももちろん教わっていましたが、そこでまたラグビーとは何かを多く学びました。いい指導者に巡り会えて、いい時間を過ごした経験を僕はもっていますが、周りを見渡せば、指導者と合わない人もいます。おこがましいですが、学生にも同じような経験をさせてあげたいなと思いますね。何かを克服して、自分が上達していく過程というのは自分に自信が持てるので、そういう経験をラグビーを通じてしていってほしいですね。
――これまでの取材で、選手達に栗原HCの印象を聞くと、みなさん第一に「優しい」との声がありましたが
「優しい」か(笑)。
心がけていることとしてまず第一に、生徒と先生という感覚ではないです。彼らの後ろ、もしくは下にいて背中を押してあげる存在だと思っています。ラグビーに関しては所属するカテゴリー(A,B,Cチームなど)によって教えるべきことの数は変わってくるでしょう。上のカテゴリーに近づくほど、教えることは少なくなるはずです。慶大の学生を見た時に、非常に強い部分と、また弱い部分ももっているチームだと感じました。その強さ、弱さの認識が僕と彼らでは逆だと思います。ラグビーが上手くないと思っているんですよ、みんな。でも気持ちの部分は強いと。僕からしたら逆で、ラグビーはとても上手い。気持ちの部分、中身がまだ伴っていないんです。彼らは今まで厳しく指導されてきたので、その指導に対して従順についていくということには非常に長(た)けています。ラグビーは、試合中にコーチが「次はこうしろ、ああしろ」と指示を出せるものではなく、自分達でやっていかなければいけないスポーツなので、ラグビーに対する考え方を変えないと日本一はとれないと考えていますし、逆に変えられれば日本一はそんなに難しいものでもないと思います。目標は日本一だと選手みんな言っていますが、その日本一をどうとるのかをもっと考えてほしいなと思いますね。とらせてもらうものだと思っている人もいるんじゃないかと。日本一は自分でとりにいくものです。僕らがすべきことは「こうした方がいい、こうしたら目標に近づく」と言うことであって、そうしなければ日本一になれないわけではありません。それをひとつの意見として参考にして自分で考えて、考えた結果そう思うからそうする、というのも良いですし、違うと思えばまた違った方法があるのであればそうするのも大切だと思います。そういう、自分で考えるということが足りてない。目の前の問題を解くことは出来るんですが、自分で問題を探してそこにアプローチして、というプロセスが欠けていると思います。やっぱり慶應生なので、みんな頭はいいはずなんです。
他大と比べたら体も小さいし、スポーツ推薦もなくスター選手も少ないのでラグビーに関して他大に劣っているように考えていると思いますが、そんなことはないです。才能のあるタレントはいますし、自分では上手くないと思っている選手も実際はとても上手いです。自己認識ができていないんだと思います。それがしっかりできたら慶大は100%の力を発揮できます。まだそれが完全でない状態で昨シーズンは大学選手権ベスト8だし、日本一になった明大にも対抗戦では勝っているので、そこの認識を一致させていきたいなと思っていますね。
――2月にイギリスに視察に行ったと聞きました
エディ・ジョーンズさんと慶大は長く関わりがあり、彼を頼ってイングランド代表の練習に帯同させてもらえることになったので、(主将の栗原)由太と(副将の川合)秀和も連れていきました。2人がイングランドから帰った後も、僕とコーチはアイルランドにも行きました。イングランドは代表チームでしたが、アイルランドではクラブチームにお邪魔して、練習を見させてもらいました。
僕は情報をインプットしたいんですよね。NTT時代には毎年オフになると海外や、Jリーグなど他競技にも視察に行って情報交換をしていました。
――ゴールデンウィークは練習がなかったそうですが
このゴールデンウィークはオフにして、選手達のアウトプットの期間にしました。練習で得たものを母校の後輩に指導したりすることで、教わったことが自分の中で腑に落ちると思います。勉強することも大切ですがそれをまた吐き出す、アウトプットすることも同じくらい大切だと考えています。そうする時間を与えたいと思ってゴールデンウィークは8日間オフにしたんです。選手達からはもちろん「大丈夫ですか」との声もありました。大丈夫かどうかはまだわからないです。でも大丈夫だと僕は思っています。学生への信頼ですよね。ただ、オフ明けに長距離のタイムを計測すると通達しておきました。母校で後輩と一緒に練習していればそこまでタイムが落ちることもないでしょうし、実際に一緒にプレーすることで得るものがあると思っていたので。母校が遠いとか、そういう事情がある場合はそれに代わるものを見つけてくれとも伝えました。
実際に計測してみると、自己ベストを出す選手なんかも何人かいて、いいオフを過ごしてくれたんだなあと実感しています。練習を終えると選手は「今までできていたことができなくなっている」とか話していましたが、失ったものと得たもので比べれば、得たもののが大きいと思いますね。
――昨シーズンの慶大を見ていて感じたことは
昨シーズンは4年生が塾高時代に花園に出ていましたし、タレント揃いでいいチームだったなと思いますね。その中でも古田がすごすぎました。さっき話したような、自分で考えて何かをやるという能力に長けていました。慶大にはあまりいないタイプなのかな。そんな古田がいたので、そこに頼りすぎたかなという印象もあります。ポジションリーダーの制度も新しく作られていましたが、結局古田に集約されていたような感じです。それはポジションリーダーが悪いというわけではないんですけどね。1つにまとまっている、統一感のあるいいチームだったと思います。結果が出なかったのが残念ですよね。
――そんな昨シーズンのチームから4年生が卒業し、栗原さんはヘッドコーチに新たに就任されました。指揮官が変わるとチームの「変化」に注目されると思いますが、まず最初に変えようと思ったことは何ですか
先ほど言ったような「考え方を変えてもらう」ことですかね。
例えば、僕とジャンケンをするとします。グー、チョキ、パーで勝ち負けは必ず決まりますよね。僕が必ずグーを出すと言ったら何を出します?
――パーですね
そのパーを、グーでぶち破ろうとするのがこれまでの慶大。ジャンケンのルールではグーでパーに勝つことはできないですよね。でもラグビーはグーで押し通して勝てちゃうこともあるんですよ。相手がパーを出してきても、こちらがとんでもなく強いグーを出せばパーでも倒せる!と言ったような。
よく言われるように、今年の慶大は他大に比べてタレントが少ない。でもその(相手チームの)タレントがパーを出してきた時に、グーを貫き通すのではなくて適切にジャンケンのルールにのっとってチョキを出せば勝てるんですよね。そうした判断をする能力と、それを出し切る能力を慶大の選手達はもっているはずです。自分達はグーだからグーをひたすら磨くしかない!と思っているのかもしれない。それに対して、そうじゃない。
ボクシングをするとして、右のパンチしかしないみたいな。圧倒的な実力差があればそれでも勝てますけど、僕らが相手にするのは実力が拮抗して、お互い切磋琢磨し合うライバル校達。そうなると、右のパンチをひたすら磨くのではなくて、じゃあボディを出そうとか。ひたすらグーや右のパンチを磨いて、僅差で負けたり、勝ったり、大敗もしたり、圧勝したり。それを繰り返してきたチームに、オプションを作ることの大切さを伝えたいですよね。
――ヘッドコーチが就任し、これまでの数ヶ月を経てチームの雰囲気はいかがですか
オプションを作るという点では相当よくなりました。僕が注目したのは大学選手権準々決勝の早大戦です。あの試合を分析して思ったことを選手に伝えました。ジャンケンを何十回かやってる内のほとんどでグーを出すような状態。それで1点差で負けた。もっと適切にオプションを使い分ければ、大差で勝てたと思っています。
――違う角度からものを見られるようになったということでしょうか
そうですね。最後のスクラム(慶大は4点リードで試合終了まで1分を切ったスクラムで反則をとられ、そこから逆転のトライを許した)でレフリーの判定がどうとか、そういうレベルの話をするべきではないんだと。ラグビーは80分あるから、もっと広い目で見ればあそこでとられるべきではなかった、あそこでもっと行くべきだったということが見つかります。だとしたら、もっと大差がついた状態であのスクラムを迎えていたので、1トライがどうこう言う状況ではなかったと思っています。
――ヘッドコーチは現役時代はポジションはBK(バックス)でしたが、FW(フォワード)を見たりもしていますか
学生コーチに鷲司仁(わしづか じん=環4・東海大仰星)という部員がいて、彼が獅子奮迅の活躍をしてくれています。FWのユニット練習などにも僕は顔を出して、専門的なところはわからないなりにも集中力の面などを見るようにしていますね。あと、スクラムは斉藤展士(さいとう のぶじ)コーチ、ラインアウトは木曽一(きそ はじめ)コーチという専門のコーチもいます。
――そんな今年のチームのテーマは
3つ挙げていて、チームが1つになる”Unity”、相手を圧倒する”Dominate”、そして”Balance”ですね。
さっきのジャンケンの例えのように、グーを貫いても勝てるような、慶大が今まで持っていたものはなくしたくないと思っています。それで相手を圧倒する”Dominate”。
“Balance”はその逆で、グーチョキパーをバランスよく使いましょうという、言わば「柔と剛」ですね。
――安田選手は”Victory”と”Value”、”Varsity”の”3V”と仰っていました
そこに目をつけましたか(笑)。いいですね(笑)。
“Unity”のためには先ほどから話すような人格形成が大事だと思います。慶應の大学院生に、ファシリテーターとして来てもらっています。選手の中にある考えや思いを具現化してもらうということに取り組んでいます。
“Varsity”は学生生活、”Value”はラグビー部の価値、”Victory”は勝利だけど、それらの究極は何かなと。”Victory”の究極は日本一。じゃあ他の2つ、”Varsity”と”Value”は何なのか。学生生活でも、人によって目標は変わってくると思います。交友関係を広げることかもしれないし、単位を落とさないことかもしれないし、はたまた留年しない、かも。”Value”もまた人それぞれ違った究極があります。例えばラグビー部の価値を高めたいとなった時、日吉に住んでいる皆さんや、慶應に通う学生に、誇らしく思ってもらえるようなチームになれればいいですよね。
その3つを極められたら日本一はとれると思っています。そのために、選手に何かを考えてもらって、実際にアクションを起こしてもらいたいです。無駄なく24時間を過ごしてほしいですね。
――キーマンを挙げるとしたら
たくさんいますけど、リーダー陣の7人ですね。主将副将はもちろん、バランスよくチームを支えてほしいです。去年も8人のリーダーがいましたけど、結局古田に集中してしまった。他のリーダーが悪いとかでは決してないんですが、今年はこのリーダー陣が全体で上手く機能してくれたらいいですね。
――蹴球部は今年で創部120周年を迎えます
「120」という数字そのものには注目しないです。それが119だろうが120だろうが121だろうが関係なく「こんなに長く続いているのか」と。改めて考えた時に非常に重いものを感じますし、選手達にも感じてほしいです。何世代も前から先輩方が築き上げてきた、積み上げたものの先に自分達がいる。その上にまた何かを重ねて、価値を積み上げることができるかどうか。そういう気持ちをもっているかどうかですね。その歴史の上に乗っかって気持ちよくなって終わるのか、自分もひとつの歴史になろうとしているのか。その2つは全く違うものだと思います。後者の考えになるだけでも、慶大はもっと成長できると思います。
――ワールドカップも行われますが
最高ですよね。この時期に日本代表になれている選手はめちゃくちゃ幸せですよ。それだけで親に感謝してほしいくらい(笑)。
僕もラグビー関係者として日本で仕事していますし、部員たちも選手という、ひとつの関係者としてラグビーに関わる中で日本でワールドカップが行われる。しかも決勝はここ(日吉)と同じ港北区。その幸せを噛み締めてほしいです。練習もありますけど、機会があれば実際に試合も見に行ってもらいたいです。もう「チケット買ったんですよ」と話してくる選手もいて、「まだその日に練習あるかどうかわからないだろ」とは思いますけど(笑)。
色々なものに触れてもらうという点では大事だと思います。
――今シーズンの意気込みをお願いします
目指すところは日本一なので、順風満帆にいくわけはないです。一喜一憂せずに、上手くいかないときもしっかり目標を見失わないように一歩一歩進んでいきたいです。
――最後に、全国のラグビーファン、慶大ファンにメッセージをお願いします
いつも応援していただいていることはすごく感じていますので、それは選手の力にもなりますし、その声援に答えられるラグビーをしたいと思っているので、引き続き、より一層、周りの人も誘って応援に来てください。
選手達にはいつも満員の会場をイメージさせているので、秩父宮だけでなくても、実際に足を運んで声援をいただけたらなと思います。
――お忙しい中ありがとうございました!
(企画)
――今回の連載ではみなさんに「印象に残っている春の思い出」をお聞きしています。今までで1番印象に残っている春はどんな春ですか?
春って桜が咲くじゃないですか。小さい頃は親が「桜だ、綺麗だね」なんて言いますよね。でもその時は何も思わないわけですよ。だけど歳をとってきて、桜を見ると色々思うことがあるんです。春はやはり出会いと別れ、慣れ親しんだところから新しいところへ出向くというような旅立ちの時期なので、そのタイミングに咲く花ですよね。だから桜を見ると色々な思い出が蘇ってきますね。特に「この春」っていうのがあるわけではないですけど、桜を見て感慨深くなる歳になったのかなあと思います。
(取材/写真:竹内大志)
関東大学春季大会Aグループ 慶大日程
5月12日(日)vs流通経済大@流経G 13:00 K.O.
5月19日(日)vs帝京大@帝大G 13:00 K.O.
5月26日(日)vs早稲田大@南長野運動公園12:30 K.O.
6月9日(日)vs大東文化大@慶大G 13:00 K.O.
6月16日(日)vs東海大@東海大G 13:00 K.O.
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