【ラグビー】母校監督に聞く、高校から慶應への飛躍④/尾道高校・梅本(前)監督

ラグビー

慶應義塾大学蹴球部には毎年日本中の名門高校から数多くのラガーマンが”日本一”の野望を胸に入部する。そんな慶應選手を輩出する高校で指揮を執る監督に当時の選手の姿や現在の成長を聞く取材企画。第4弾は広島県尾道市の尾道高校で長年指導し、現在は倉敷高校で監督を務める梅本勝監督。チームの中心で存在感を発揮する多彩なプレイヤー・高武俊輔選手を送り出した名将に、インタビューを敢行した。

連続テレビ小説「てっぱん」の舞台として全国にもよく知られる広島県尾道市。中心部にある尾道駅からほど近い場所に尾道高校は位置する。ほど近いとは言っても、駅と学校の間には瀬戸内海が広がり、生徒はそこをフェリーで通学するという一風変わった通学だ。そんな尾道高校は早慶や九大に合格者を出すなど進学にも力を入れる一方で、ラグビーでは広島県で無類の強さを誇り、昨年は決勝戦で完封勝ちを収め15年連続16回目の花園出場を成し遂げた、まさに文武両道校である。

そんな尾道から上京し、慶應に足を踏み出したのが現在No.8として活躍する高武俊輔だ。彼は高校時代を振り返って「日本で1番厳しい環境だった。冷暖房のない寮に、超理不尽な監督。だからこそ特別な思い出」(※蹴球部イヤーブックより一部を引用。詳細はぜひ早慶戦会場にてお買い求めの上お楽しみください!)とまで言うほど。その言葉だけを見たら一見悪く言っているようにも映るかもしれないが、これはきっと監督との信頼関係があってこその言葉に違いない。そう考えた我々は当時の監督、現在は倉敷高校で指導する梅本監督にお話を伺った。

 

ー自己紹介をお願いします

倉敷高校でラグビーを指導させていただいています梅本勝といいます。年齢はもう間も無く還暦を迎えます。3年と6ヶ月ほど前から倉敷に来て、これから花園予選に向けてチームを仕上げていっています。去年倉敷高校で初出場させていただいたので、2年連続の出場目指して、子供達と一緒に充実した時間を過ごさせてもらっています。倉敷高校の前は尾道高校で17年間、高武も含めて指導させていただきました。

ー<共通質問>教え子たちが慶應のみならず関東、全国のラグビー部に羽ばたき活躍している。送り出した監督としての受け止めや感想など

非常に嬉しいですね、活躍してもらうというのは。大学がラグビーの華のような気がします。高校で大活躍しても、大学で怪我とかで活躍しなかったら辛いだろうとは思うので、高校は逆にステップアップにしてもらって、大学でラグビーを挑んで、充実させてもらって。勝負を楽しんでもらいたいなと。更に言えば次のステップ、社会人やプロ。世界的選手も来てますから我々の頃の社会人とはレベルが違ってきてますから、そこは真剣勝負で。本格的なラグビーになりますから、それをやるためであれば大学四年間でプロフェッショナルな意識を持ってそこに挑む。もしくは大学で、ラグビーと勉強の両立をして、今度は仕事に切り替えるとか、四年間で自分で方向性を決められる非常に大切なタイミングと思うので、高校では仲間づくり、18歳までは子供扱いであり大人の仲間入りするタイミングとしてやってるので。

ー高校と大学以降の違い、大学ラグビーで身につけて欲しいことなど

高校の時には子供たちによくいうのは「段取りはせなあかんが、ずるい駆け引き・ずるい計算をするな」と、あとは「正々堂々と」とか。そういう純粋な気持ちで子供心を持って大人の世界に行って欲しいなと。大人の世界では結果重視ですから、ちょっとシビアな部分のもあるので、高校ではプロセスを重視してやって欲しいと。そこで大学で大人の世界を知りながら、純粋さと大人の厳しさを持って活躍して欲しいと。社会人になって、ラグビー選手って違うよねとか、命を賭けて仲間のために体を張ってプレーする、のようにラグビーの道徳的教育の要素もあるので。そういうものを大学を通じて社会人でラグビースピリッツのようなものを継承していってもらいたいです。大人の仲間入りの最後の準備期間の四年間、高校ではできなかったような大人のチャレンジをして、厳しい大人社会に出ていくための失敗をしながら学んでほしいです。それを見た仲間や当時の敵が「あいつが頑張ってるから俺もしっかりとやらなあかんな」と影響を与えられるような人間になって欲しいなと思うので、結局繋がってると思うので。自分がある意味いろんな人に影響を与えているのと同時に見られているので、正々堂々と。素晴らしい人格を見ていただいて、ラガーマンって違うよね、という道徳的要素もあるので。それを持ってラグビーやってなくても「この子違うな、ラグビーやってるのか!ラグビー選手って違うね」と思ってもらえる人間性を身につけて欲しいな、そしていろんな人を喜ばせて欲しいなという思いで選手を送り出しています。

ー高武選手は今やチームの主軸として活躍しています

活躍してますか?(笑)

POM取ったりもしています

それは嬉しいですね!

ー色々なポジションをできる。高校時代からこのような練習を

そうですね。私がいろんなポジションをわざとやらしますんで。やっぱり能力的に引っ張る力があるので、15人メンバー揃えるのも難しいので、伸びてきた子がいたら、高武君は違う能力もあるので、違うところに持っていき戦力の充実を図るというのでいろんなポジションをさせました。彼はゲームメイクできる力を持たさなあかんということで、ゲームを作れるというところでわざとスタンドオフにさせたり、逆にフランカーやNo8でもボールに直接絡めなければラインに残ってゲームメイクして、相手の弱いところを見つけるのもリーダーの役割なので、先を見越してゲームを読めるように敢えて経験させました。レベルの高い大学でもそこを評価されてチームに貢献できているのは嬉しいことですね。

必死にタックルで食らいつく高武

ー当時から主将を?

はい、キャプテンでした。体を張っていくので、自分についてこいというタイプでね。自分が体を張って示すキャプテンだったんで、素晴らしいキャプテンシーだったと思います。ただその、如何せん冷静さをなくすところがあるので、カーッとなるところがあるので、そこはもう少しコントロールできるように見てあげればよかったなあという反省はありますね。ただそこは悔しい気持ちは大事なので、ディフェンスで激しさを出してアタックでは冷静に。そこをもう少し仕込んでやればよかったという反省はあります。

ー高校卒業後に連絡などは

大学卒業後一回かな。そのあと就職先が決まりました!という連絡をいただきました。たまにゲームのこととかも連絡が来たり、プレーを見て気になった点をアドバイスしたことはあります。LINEとかで。

ー振り返りを直接お二人でする

もっとこうしたほうがいいんちゃうか、とか、お前サボりすぎやぞ、とか。(笑)映像で見た感じのところを。声出していけるよなとか、このシーンは良かったよなとか。

ー4年生はこれでラストシーズン

後悔は絶対にすると思うんですよ、なんぼ努力しても。負けたりすればね。その後悔や失敗を活きる時が絶対に来るので、その失敗から学ばないといかんと。失敗や結果が出なかったりした時に、やり残したことはない、やってきた結果こうなったんだと言い切れるくらいに挑んで時間を大事にして。学生として最後のタイミングなので、ラストを誰よりも充実させて、親御さんに頼れない次の社会人っていうステップに進んでいって欲しいです。

ー高武選手のエピソードなど。そして高武選手へのメッセージを!

エピソードと言えば!俊輔くんの前のキャプテンが文武両道を目指して朝3時起きで勉強していたんですね。彼は進学クラスにいたので質問したり国立なら全教科やったりで時間がないと。夜はクタクタだろうから、一旦6時間寝て3時くらいから勉強して、というサイクルでやってました。結果センター1問差で国立大で涙をのんで関西の大学に彼は進んだわけですが、それを見た俊輔くんが、じゃあなんて言ったと思いますか?(笑)

ーじゃあ僕も続かないと!とかでしょうか??(笑)

そう。「じゃあ僕は2:59に起きてトライアルします!」って。(笑)たった1分ですけど、その1分を大切に。すごいことだと思いませんか?

とは言ってもオチがあって、その前のキャプテンは毎日必ず3時からやりました。俊輔くんも2:59からやってたんですけど、こいつたまにチョンボ(=ズル)するんです。これがなんとも彼らしいでしょ、人間性ね。「もし慶應で2:59をずっと続けてたら世界No.1のラガーマンになっとったと思います」、とエールを送りたいです。(笑)

まあそれは彼も努力を絶対にしていると思うんでいいんですけど、ラスト。大学ラグビーで引退と聞いてますから、充実に向けて、悔いのないようにやりきったという大学生活で次の生活へ。仲間と、慶應グループの皆さんと、感動の中へ。感動をプレゼントしてあげて欲しいと思います。

ーありがとうございました!

 

梅本監督の話からは、高校から大学、さらに社会人やプロへと繋がる「ラグビー一貫教育」の信念を垣間見ることができた。自身の教え子たちが大学で羽ばたいていることこそ、この信念の何よりの根拠になっているのであろう。そして彼らが進学した後も試合を見てはアドバイスするなど、選手思いの一面ものぞかせた。現役当時はともかく、現在はさながら教え子たちを見守る第2の父親のごとく、成長を嬉しく受け止めている姿が印象的だった。最後に高武選手が笑って報告に来てくれるのを、梅本監督はきっと待っている。

 

(取材:東 九龍)

タイトルとURLをコピーしました