慶應義塾体育会には現在、43の部活がある。そんな体育会各部は普段どのような雰囲気で、どのような練習を行っているのか。試合などでは見られない、体育会の知られざる日常に迫る。第7回となる今回取り上げるのは卓球部。今回は練習に伺い、部員に取材に応じてもらった。
*「突撃!慶應体育会2022」は「突撃!慶應体育会」として本年以降も連載いたします
エース兼主将として
慶大卓球部(男子)は、関東学生リーグ2部に所属している。他の2部のチームはスポーツ推薦で高校時代に活躍した選手を取っている中で、慶大男子は3位を、女子は所属する3部で3勝を目標に日々練習に励んでいる。主将の田坂宗次郎(環3・武田)は、「一人一人の実力差や全員のニーズに応えないとスケジュールなどを組めないと思う」と語り、一人一人と向き合うことを大事にしつつも、「今は部内で1位なのでエース兼主将として、『これをする』と決めたら理由を説明して、みんなに信じてやってもらう」とチームを背中で引っ張る姿勢も見せている。
リーグ戦では格上選手とも戦うことが多い。そこで練習では「相手にうまく返されないようにしたり、相手が入れるだけのボールを決めに行くなど、一本一本を大事にする意識を持っている」と実践を想定して取り組んでいる。
平日の練習は練習場所である日吉キャンパスのスポーツ棟地下1階の道場が使える15時から21時までの間、授業時間にも配慮しつつ行っている。休日は1日練習または半日練習を行い、強さや男女で分けて目標に向かい励んでいる。
平日は45分練習・15分休憩を繰り返し、17時から18時のコマは筋トレを行っている。45分間の練習は基本的には自分でメニューを考える。また、卓球部では「長期班」という取り組みを行っている。4人1グループで練習の管理やビデオを見て研究し合うなどし、班長がメニューを提示することもある。このように自分自身に向き合って課題を見つけるとともに、必要なメニューも取り入れている。様々な工夫をし、強豪校打倒に向け精進していた。
熱心に取り組む部員たち
ここで部員の具体的な練習メニューを一部紹介したい。川辺旺慧(文2・本郷)は16時15分からの45分のコマでは、左右に動くフットワークの練習を多く行っていた。「自分はテクニックよりも動きが持ち味だと思っているのでそこの練習、特にファオハンドの攻撃と、自分の弱点を補うための守りの練習の大きく2つに分けてやっています」。自分の長所と短所を把握しレベルアップを図っていた。さらに一球ごとにどこでミスをしたのか瞬時に考えていた。卓球は「100mを走りながらチェスをするスポーツ」と呼ばれ、試合中でも頭を使う必要があるだけに、実践を想定する部員の意識の高さがうかがえる。
前野友花(経1・豊島岡)は多球と一球練習を繰り返していた。多球練習とは、一人が連続でボールを出し続け、練習者はひたすら打ち続ける練習である。一球練習とは異なり、多くの球を連続して打つことができるメリットがある。「自分は基礎がまだ完ぺきではないと思っているので、最初は多球で毎日同じ基礎技術のメニューをしています。毎日繰り返すことで、基礎力を向上させて、そこから一球でその技術を基に試合に近い練習をしようとしています」と川辺と同じく自分の課題を克服しようとしていた。
渡辺竜士(理3・新潟)は基礎練習やフットワークを行った後、自分の課題である早い打点で打つ練習を行っていた。打点を落とす癖があるというが、「そうすると相手に戻る暇を与えてしまうので、それを与えないように、すぐ打つということを意識していました」と一つ一つのメニューに目的を持っていた。
下克上
主力の4年生が抜け、「雰囲気的にも持ち上げるのが難しいと思うのですが、その中でも自分の色を出しつつ、勝ちに貪欲になってほしさもあります」と田坂。ただ、「卓球を楽しく取り組んでほしいですし、強くなる過程も楽しんでほしい」と語り、「リラックスした状態で、でも意識は高く持つ雰囲気で取り組みたいと思っています」と意気込みを力強く話した。
部員一人一人の意識の高さ。互いに刺激し合う仲間。強くなる環境は整っている。「推薦でなくても自分たちはやれるんだ」、道場の壁に掛けてある個人の目標を書いた色紙からはそんな思いが伝わってくる。今年も卓球エリートたちへの下克上に挑むのだ。
(記事:長沢美伸)