慶大は序盤の前半5分、相手ボールのラインアウトからモールを組まれ、HO・荒川駿(政1・東海大仰星)のトライで先制される。11分、山田響(総4・報徳学園)の中央に飛び込むトライとコンバージョンで同点に追いつくも、その後はトライを立て続きに奪われ、7−35で前半を折り返す。後半7分、佐々仁悟(総4・國學院久我山)の前進から山田にパスが回り、後半最初のトライを慶大が奪うも、その後は一進一退の攻防に。45分に途中出場の渥美和政(経2・慶應)がトライを取るなど意地を見せ、慶大は後半だけで5トライをあげ同大を猛追した。しかし、前半の失点が響き、36−49で敗れた。
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第104回定期戦 同志社大学戦 @静岡県草薙総合運動場
今年で第104回目となる同大との定期戦。3年連続静岡で行われているが、今年は過去2年会場であった静岡エコパスタジアムから北東約50km、静岡県草薙総合運動場に舞台を移し開催された。試合開始前から大勢の観客で場内は熱気に溢れていた。本試合前には、慶應義塾高校vs静岡県高校選抜の試合があり、試合以外にもラグビースクールに通う少年がエスコートキッズとして参加したり、ハーフタイムでは地元のチアリーディングチームに通う少女たちが演技を披露したりと、様々な人々がこの静岡の地で「ラグビー界」を盛り上げていた。
対するは「関西の雄」、同志社大学ラグビー部。慶大、京大に続き日本で3番目に古いラグビー部であり、大学選手権54回出場は早大に次ぎ2番目。1982〜84年にかけて「ミスターラグビー」こと、故平尾誠二氏をはじめとした「紺グレ軍団」が当時史上初の3連覇を成し遂げたことは、多くのラグビーファンの脳裏に焼き付いていることだろう。伝統校同士の戦い、そのプライドをかけ、静岡で激戦は始まった。
同大のキックオフで幕を開けた本試合。開始後前半3分、早速ファーストスクラムとなるが、ここは慶大がペナルティーを取られ、タッチで自陣深くまで攻められる。ラインアウトからモールを組まれると、荒川が最後インゴールにグランディングされ先制される。慶大は9分、同大のノットロールアウェイからチャンスを作り、佐々にボールが渡るもここはトライに持ち込めず。しかし、11分に山田が相手のディフェンスラインを縦に突破しトライ。山田がコンバージョンも成功させ7−7の同点とする。
勝ち越したい慶大は15分、相手FW陣との激しいブレイクダウンでの攻防の中、ノットリリースザボールを取られ、FL・奥平都太郎(政3・東海大仰星)に勝ち越しトライを許す。24分には、スクラムでコラプシングを取られるとBK陣に展開され、WTB・上嶋友也(スポ1・東福岡)に走り切られ追加点を許し、7−21となる。
反撃の糸口を見出したい慶大は26分、マイボールスクラムの機会を得る。グラウンド外から「仁悟、大悟(=山本、環2・常翔学園)丁寧に!」とBK陣に激励の声が飛ぶ。しかし、無念にもターンオーバーされ、攻撃に持ち込むことはできなかった。すると、29分には途中出場のWTB・村岡麟太郎(文3・東海大仰星)、37分にはFL・木村圭佑(政3・大分舞鶴)に連続トライを許し、7−35で前半を折り返した。
ハーフタイム、三井大祐ヘッドコーチがBK陣に対し、「全部出し切ろうぜ」と檄を入れた。この言葉に発奮したい慶大、後半は山田のキックオフで始まった。学生コーチの豊島健太郎(商4・茗溪学園)から「ブレイクダウン!ブレイクダウン!」と掛け声がグラウンド中に響き渡った。守りから前に出たい慶大が、必死に接点でプレッシャーをかける中、後半1分に相手のノックオンを誘った。マイボールスクラムを成功させSH・小城大和(商3・北嶺)からPR・岡広将(総4・桐蔭学園)、そして山田からHO・中山大暉(環3・桐蔭学園)へと連続アタックを仕掛けていく。しかし、同大は自陣からの「ノーペナ!」という声を背に守り続けていた。
後半最初のトライを奪ったのは慶大だった。後半5分、山田が自陣からハイパントを上げ、争奪戦に持ち込むと、相手のノックオンでアドバンテージを得る。山本が一気に前線を駆け上がると、サポートもしっかりついていた。佐々、そして山田がフィニッシュした。後半初スコアは慶大が上げ、14−35と追い上げる。
この勢いのまま攻め込みたい慶大だが、同大FW陣がそれを許さない。13分にはコラプシングを許すと、相手はスクラムを選択。するとそのスクラムでプッシュされ、最後は石田太陽(政2・東海大仰星)が抜けてトライ。
しかし、ここから慶大が息を吹き返す。17分、佐々がインターセプトに成功すると、一気に同大陣に走りこむ。相手のハイタックルもあり、タッチして前進、絶好のチャンスを掴む。ラインアウトはLO・藤井大地(経3・慶應)に合わせると、最後は中山がトライ。30分には、キック合戦の中攻めるしかない慶大は岡、LO・浅井勇暉(総3・仙台)、途中出場のSH・橋本禅介(法2・慶應)が倒れることなくノンストップで相手ゴールまで走り切りトライを上げる。行徳冠生(総4・東福岡)のコンバージョンも決まり、26−42と差を縮める。35分には、CTB・三木海芽(総4・城東)が相手の強烈タックルを受けるも押し返し、行徳がゲインすると、最後は山田がこの日3つ目のトライを上げた。45分、既に試合終了のホーンは鳴っていたが試合は続いていた。同大がボールをキープし、タッチに蹴り出せば試合終了だったが、故意に投げてボールをタッチに出したためペナルティーとなった。それにつけ込んだ慶大は渥美がトライ。勝敗は決まっても、最後まで集中力を切らさなかった慶大が36−49まで追い上げたところで、この試合は幕を閉じた。
本試合では、前半に5トライを許してしまい、そこでの失点が勝敗に直結する形となったが、内容としてはほぼ互角であり、課題がはっきり見えた試合だったと言えるだろう。前半の慶大の失点パターンとして、スクラムでのコラプシング、ノットリリースザボールから攻め込まれてトライを許していた。それだけ同大のFW陣が強く、スクラムでは3番を崩され、ブレイクダウンの攻防では圧力をかけられる場面が多かった。一方後半は、山田の再三のキック、ランでボールを動かし、自ら走って攻めていくことができた。ボールが広い範囲で動く中、FW陣、BK陣ともに運動量を落とすことなく戦い続けたことが、後半の5トライにつながったと言えるだろう。また、最後の渥美のトライは、ペナルティー獲得後も集中力を切らさなかったということで今後につながっていき、早慶戦などの競った終盤の場面で力を発揮するためのキーになるだろう。
本試合で3トライを上げた山田は、司令塔として試合を支配できていた。今季から本格的にSOに転向し、5月末には「自分の持ち味だったランを出すことができていないと感じている」と語った山田。しかし1ヶ月経てその言葉がまるで嘘かのように、キック、パス、そしてラン全てを駆使し縦横無尽に駆け回っていた。
前試合では京大、本試合では同大と戦った慶大。日本ラグビーを発展させてきた、そしてこれからもそれは変わらぬであろう伝統校同士での試合を経た中で、改めて慶大蹴球部の伝統を再確認した6月最後の週末となっただろう。日本のラグビーのルーツである慶大蹴球部は、ただ試合に勝つだけのチームにとどまらず、多くの方々に応援されるチームとしてラグビーの魅力を発信し、その伝統文化を後世に伝え続けるはずだ。9月にはラグビーW杯、11月23日には新国立競技場で100回目の早慶戦が控えている今季。慶大蹴球部は、ルーツ校としてのプライドとパイオニア精神を胸に、今季を戦い、そして未来を切り開いていく。
(取材:野上賢太郎)
——本試合の総括
青貫浩之 監督
今日はスコアの通り、前半は同志社大学さんにセットプレーでプレッシャーを受けて、それをそのまま改善できずに大差になってしまいました。後半そこの部分を改善でき、かつBKについてもやりたいことができたのですが、結果として負けたということを、今後の反省点として深く受け止めて、成長したいと思います。
岡広将 主将
慶應内で課題になっている前半部分の入りのところで、セットプレーなどの部分でアドバンテージを取られたので、こういう点差になったかなと思います。ただ後半、巻き返せた部分に関して成長はあると思うので、今後秋に向けてチームを作っていければなと思います。
——この試合のために多くのボランティア、ラグビースクールに通う少年、チアリーディングの少女たちなどが試合を盛り上げていました
青貫浩之 監督
大人だけで盛り上がるのではなくて、小さい子ども、例えば小学生のチアリーディングなど、いろいろな人たちに協力してもらえて、支えられていてすごく盛り上がった、静岡県の方々のホスピタリティーが溢れた招待試合だったと思います。本当に感謝を申し上げたいと思っています。
岡広将 主将
静岡県では合宿をさせていただいていますし、ホスピタリティに溢れた対応をしてくださっています。地域活性化にラグビーを結び付けられていければなと思います。感謝していますし、小学生や慶應幼稚舎ラグビースクールの方々が来ていて、慶應らしい縦のつながりを再確認できた機会でした。