今春卒業を迎える4年生に焦点を当てて体育会の活動を振り返る〈4年生卒業企画〉。第3弾となる今回の主役は、今年度の慶應義塾大学アメリカンフットボール部を率いた鎌田泰成(政4・慶應、背番号52)。彼の主将として歩んだ1年間はまさに茨の道だった。彼が責任ある立場として、アメフトを楽しむために奔走した330日間を取材した。
昨年度に絶体絶命のピンチから入れ替え戦を勝利で飾り、辛うじてトップリーグを死守したチームは、鎌田を主将とする新チームに移行。鎌田は「UNITE」をスローガンに掲げた。これに込めた想いは、昨季2022年度のチームにおいて、チームに活動停止もあった中で方向性が上手く揃わなかった経験をもとにしている。策定において、日本一を目指すからこそ、チーム全員で同じ方向を向くことの重要さを同期とも話し合った。「UNITEには一体感という意味があり、日本一を目指す我々にとってあるべき姿に合致すると思い、チームの土台としてこのスローガンを掲げました」と振り返る。
冬の期間はアメフトの実践的な練習は少なく、フィジカルアップを狙った練習が中心となる。春に向けて目標にしたのは、慶大の弱点として鎌田が注目した「ある点」であった。鎌田は慶大に対し、試合の終盤になってリズムが出てくる尻上がりのチームである、という印象を持っていた。逆に言えば慶大の弱点は「試合の序盤、特に第1クォーターで試合を作れない」ところだった。その為、「第1クォーターに先制し自分たちのリズムを掴むこと」、これこそが重要なことだと考え、これを春シーズンの目標として据えた。チームとしての練習時間は多くなかった中で、一つ一つのプレーの最初の一歩にこだわり、手を抜くことなく練習を主導した。また自らも今まで以上に鍛錬を積み、来たる春に備えることとなった。
春には久しぶりに早慶戦の開催も決定し、活動にも熱が入っていたアメフト部。しかし対外試合のため訪れた関西で一部部員が不祥事を起こしてしまい、突然の活動休止を余儀なくされてしまった。しかも時期は早慶戦の1週間前であった。最初にこの話を知った鎌田は、にわかには信じ難いという気持ちで頭が真っ白になったという。直前に試合を急遽中止としてしまった早稲田大学に申し訳が立たないのはもちろんのこと、自分が先輩やOBから受け継いだUNICORNSのバトンを次の世代に繋ぐことが出来なくなるのではないかとの思いに駆られ、大きなショックを受けた。
部のトレーニングルームなどの施設は使用禁止となったため、部員は各自でジムとの契約を行うなどして自主トレに励んだ。人によっては、他大学の練習に個人的に混ぜてもらうこともあったという。それに加えて、再発防止策の考案にも部員一同全力で取り組んだ。この最も辛い時期を振り返り、鎌田は「もう一度やりたいかと言われればもちろん二度とやりたくないが、いい経験をさせていただいた」と語る。学生の間に三田会はじめ多くの人の助けを得ながら、組織の未来のために行動するという得難い経験を積むことができたことは、鎌田にとって非常に大きかったと当時を振り返る。
さらに鎌田はこの期間が、自分がアメフトをする意味を見つめ直すきっかけにもなったという。普段の部活が当たり前にできる環境から離れたことで、裏でどのくらいの人に支えられて自分たちの活動が行われているかを痛感した。それまでの鎌田は、アメフトが楽しい、アメフトが好きだから、やりたくてやっている、というのがメインのモチベーションであった。もちろんその気持ちは持ち続けなければならないがそれに加えて、自分たちにアメフトをやらせてくれている、支えてくれている人のために頑張らなければならない、という気持ちを、この期間にさまざまな人と対話したことで再認識した。
部員たちが、再発を防止しUNICORNSをより良い組織にしようと取り組んだ甲斐あって、7月をもって活動休止は解除された。UNICORNSは8月初頭から活動を再開したが、チームとしての練習は3,4ヶ月できていない状況にあった。初戦が9/3と間近に迫る中、「アメフトに対する士気を上げ、その熱を試合に持って行かせること」を鎌田は目指した。一筋縄ではいかない道のりをチームとして少しずつ進んでいたが、少なからず良いこともあった。4年生が減った分、3年生以下がチームを引っ張る機会が増したのだ。鎌田は「3年生以下の部員が自主的にリーダーシップを取って活動することができるようになったのは、4年の僕らから見ていてもとても頼もしく、チームとして成長できた部分ではないか」と当時を回想する。怪我の功名というわけではないが、新生UNICORNSは一歩一歩確実に進化を続けた。
明日(3/29)午前11時公開の後編にて、いよいよ鎌田にとっての集大成、2023秋シーズンが始まります!
(記事:東 九龍)
(写真:☆→慶應義塾大学アメリカンフットボール部提供、表記なし→東九龍)