【フェンシング】「全身の血液が沸騰する感覚」 宮脇花綸選手 オリンピアンインタビュー③

フェンシング

慶應義塾體育會からはこれまで数々の塾生が世界へと羽ばたき、そのプレーで多くの人々に勇気と感動を与えてきました。今年8月に開催されたパリ五輪にてフェンシング女子フルーレ団体で史上初の銅メダル獲得に貢献された宮脇花綸選手もその一人です。宮脇選手は慶大フェンシング部のOGであり、在塾時から国内外の大会にて活躍されてきました。ケイスポでは、12月8日に行われるフェンシング早慶戦を前に宮脇選手にインタビューを行いました。

 

最終回となる今回は、宮脇選手の競技人生を振り返り、フェンシングそしてスポーツの魅力に迫ります。

「5歳から姉と同じ道場に通い始めました」

Q:宮脇選手がフェンシングという競技を始めたきっかけは?

宮脇:私が始めたのは5歳ぐらいの時です。きっかけは姉がフェンシングをやっていたことでした。元々は剣道をやってみたかったんですけど、家から車で5分のところにフェンシングの練習場があって、当時流行っていた「キューティーハニー」の影響も受けて、西洋版剣道みたいで面白そうだということでまず姉が道場に通い始めました。姉と同じような流れで、私も小学校受験が無事終わった後にその道場で競技を始めました。

 

 

Q:フェンシングという競技の魅力・難しさというのはどのあたりに感じますか?

宮脇:魅力は、誰にでもプレーの長所が見つかることですね。フェンシングにはサーブル・フルーレ・エペと3種目があり、それぞれ攻撃範囲や戦術が異なるので、自分のスタイルに合った種目でプレーできます。私の専門であるフルーレの場合は、3つの中で最も攻撃範囲が狭いので、スピードやパワーだけでなく戦術や突きの正確さも重要となります。運動能力が高い方ではない私みたいな選手には特にこの種目が合っています。戦術・スピード・パワー・トリッキーさなどいろんな要素が複雑に絡み合うところがフェンシングの魅力であり難しさでもあると思っています。

「様々な要素が絡み合うことが魅力であり難しさ」

 

Q:プレーする上での自身の強みはどのあたりにあると思われますか?

宮脇:私は相手のプレースタイルや自分の調子を踏まえて柔軟に戦術を変えることが自分の強みだと思っています。試合の序盤/中盤/終盤、リード・ビハインド時などいかなる状況でも、攻撃・守備どちらにも常に複数の選択肢を持っていることが心の余裕に繋がっていると思います。

 

 

 

Q:フェンシング選手は勝つためにどのように試合を組み立てていくのですか?

宮脇:1番理想的な展開は、序盤でしっかりリードを作り、中盤・終盤と追いつかれることなく勝ち切る形ですが、私の場合は試合序盤は相手のリズムや癖を探り、中盤以降に少しずつ対応して得点を重ねリードを作るという展開が多いですね。リードする展開でも、休憩を挟んで相手が作戦を変えてきたりするので、そこにも上手く対応しながら戦う必要があります。その意味でフェンシングはかなり頭を使う競技だと思います。

 

 

Q:競技人生で1番幸せだった瞬間・苦しかった瞬間を教えてください

宮脇:1番幸せだった瞬間はやっぱりパリ五輪で銅メダルを獲った時です。やっと自分の中で1つ何かを成し遂げたっていう感覚がありましたし、そこに至るまでの過程も「本当に頑張ったんだな」と納得できる内容だったので、そういう意味で結果と内容がどちらも伴っていたのがパリの銅メダルだったと思います。

「やっと自分の中で1つ何かを成し遂げることが出来た」(宮脇・写真左)

1番苦しかったのは、2016年にリオ五輪の出場権を逃した時です。それが人生で初めての大きな挫折でした。まだ大学生だったこともあり、挫折への対処法をよく分かってなくて「あ、もう人生すべて終わりだ」という感じでしばらくパニック状態になっていました。自分の感情を上手くコントロールできなくて本当に一番苦しかったです。

 

――その挫折をどのようにして乗り越えたのですか?

宮脇:少し落ち着いて過ごしたいと思い、日本代表の試合も何回か欠場したりと、しばらくの間フェンシングから距離を置きました。もう一つは、環境を変えようと思い一人暮らしを始めました。自立するような環境に敢えて身を置いたことは、自分を見つめ直すいい機会になりましたし、そのおかげで少しずつ心も回復したと思います。

「リオ五輪落選が人生初の挫折でした」

 

Q:競技者としてフェンシングを続ける1番の原動力は?

宮脇ここまで喜怒哀楽を爆発させる瞬間が人生でないからです。普段の生活でも“絶叫するほど嬉しいこと”や“感涙するほど悔しいこと”、“癇癪を起こすほど怒ること”って私の場合全然ないんですよね。でもフェンシングだけは違って、「全身の血液が沸騰するような感覚」といいますか、プレーしていると本当に一瞬で感情がグッと上がったり下がったりすることがあるんです。そういう心が揺さぶられる瞬間を大事にしたいと思っていて、だからこそ今でも競技を続ける事が出来ていると思います。

パリ五輪では喜びを爆発させた

 

Q:フェンシングという競技が今後発展して行くためにはどういったことが大切だと思われますか?

宮脇:競技人口を増やすことも大切ですが、フェンシングをやりたい子供たちへの練習環境がまだ足りていないと感じるので、練習施設をもっと増やす必要があると思っています。また、競技者だけではなく、それを見る側に配慮した工夫をもっと考えていくべきだと思います。フェンシングは結構ルールが複雑なので、経験したことのない人達にとっては何が起こっているのか解りにくいと思うんです。テレビ中継であれば得点シーンをスロー再生してその際に解説者が軽く補足説明をすることなど、フェンシングに興味を持った方々にストレスなく試合を観戦してもらうための試みを増やして行く必要があると思います。

 

 

Q:「フェンシングで1番になりたい」、「オリンピックでメダルを獲りたい」というように、宮脇選手が勝利に対してそこまで強い思いを抱いているのは何故ですか?

宮脇勝利へのこだわりこそがスポーツの価値を高めると思うからです。もちろん、全ての参加者にそれぞれのストーリーがあり、勝利だけに意義があるわけではありません。ただ私は、勝利や記録更新など更なる高みを目指して努力する姿勢を持つことが、観客に自身の生き様を少しでも記憶してもらうことに繋がると思っています。選手が勝利のために互いにベストを尽くして戦うからこそ、観客はその試合の一瞬一瞬に心を奪われます。私たち競技者が勝ちへの執念を胸にプレーすることが、スポーツをより美しくさせると思うんです。

「勝ちへの執念がスポーツを美しくさせると思うんです」

 

最後までご覧いただきありがとうございました。ケイスポでは今後も慶應義塾體育會について様々な記事を投稿していきますので、今後ともよろしくお願いします。

以下の記事も是非ご覧ください!

【フェンシング】「悔いのないプレーを」宮脇花綸選手 オリンピアンインタビュー① | KEIO SPORTS PRESS

【フェンシング】「私がオリンピックを目指す理由」 宮脇花綸選手 オリンピアンインタビュー② | KEIO SPORTS PRESS

 

【お知らせ】

第77回フェンシング早慶戦が12月8日に早稲田大学・戸山キャンパス早稲田アリーナにて開催予定です。ぜひ皆さん会場で選手たちに声援を送りましょう!

 

(記事:竹腰環 写真提供:日本フェンシング協会)

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