大学選手権出場権5枠を争う全7戦の関東大学対抗戦を終え、4位通過で見事切符を手にした慶大。大学選手権出場決定を記念して、注目選手の対談企画を数回に渡ってお届けします。
第3弾は、この二人なくしては蹴球部は回らない、山際主務と中村トレーナーにお話を伺いました。スタッフとしてチームを支える彼らの葛藤、そしてチームに対する愛について語っていただきました。
山際毅雅(法4・県立浦和)
中村彰伸(看4・國學院久我山)
ーーまずは他己紹介をお願いします!
中村:他己紹介!?恥ずかしいなぁ(笑)えーと、山際は浦和高校という進学校でラグビーを続けてきて、今は慶應ラグビー部で主務をやっています。最初は選手として入部して、慶應の環境で厳しい練習にも耐えて頑張ってきて、その中で、主務を決めなきゃいけないってなった時に、色々とチームのことを全員が考えて誰に頼みたいかってなったらみんなから山際の名前が出てきたっていうのは、今までの信頼があったのかなっていうのがあって。でも本人は多分相当苦しい思いをしたし、その苦しさは多分誰にも理解できないところがあると思うんですけど、そういった苦しみを抱えながらもこうして今は主務に専念してくれて、僕としては尊敬というか、できないことをしてくれてるなっていう思いもあります。それに、そういった気持ちを抱えながらそれを上手くチーム全体に伝えて、それに対してチーム全体も応えてくれようだとか、山際のために頑張ろうって言われてるのは、彼の人柄の良さがあるからで、真面目で、良い意味ですごく熱くて、愚直な感じなのがすごく出てる人間だなという風に、4年間関わってきてすごく思いますし、素晴らしい良い男です!
山際:ははは(笑)すごいすごい(笑)
中村:先言った方がいいね〜これ(笑)
山際:彰伸はー…
中村:ちょうだいちょうだい!
山際:結構壮絶な過去を持っていて。僕も全て知っているわけではありませんが、高校の時に病気でラグビーができなくなってしまって。そこから自分で切り替えたっていうか、高校の時から久我山(國學院大学久我山高校)でスタッフとして活動しています。大学入った時もトレーナーとして入部してきたので、僕とはまた立場の違ったスタッフですね。僕はプレーヤーをやっていたので。そして彼はラグビーに対する思いが人一倍強いんですね。僕も(ラグビーを)やりたくてもできなくなったという点では彰伸と同じなんですけど、僕の場合はなんとなく自分が(主務に)選ばれるんだろうな、と心の準備もできましたし、さっき彰伸も言ってくれましたけど、主務になるということを信頼されてるとか、チームのためにっていう風に思えるので、前向きに捉えやすい要素はいくつかありましたけど、彰伸の場合は、自分がやりたくても「病気だからできない」とお医者さんに告げられてしまったわけで。僕は主務になる前に選手と副務を1年間兼任してたり、やっぱり選手として未練があったりした中で1年かけてようやく切り替えられたんですけど、彰伸はパッと切り替えなくてはいけない状況だったので、そういう意味ですごいなと思ってます。達観してるんですよ、人生。なんか「生きてるだけで丸儲け」じゃないですけど、僕より彼はもう1個先の人生観を持って生きてるので。人としてやっぱこいつはすごいな、尊敬できるなと思いますね。おもろいし、なんか興味をそそられる人間だなと思います。
ーー今の4年生の中で、もしなれるなら誰になりたいですか?
山際:同期かー、難しいなこれは(笑)
中村:難しいね(笑)
山際:うーん、僕は別ベクトルで2人いて、1人はラグビーの話として、(中山)大暉ですね。僕もHOなので、同じポジションとして憧れというか、追いかけていたプレイヤーだし、彼の目線やスキルを持ってプレーしてみたいなと、世代最高峰のHOとしてやっぱり憧れる部分はあります。
こいつおもろいな、と思うのは渡邉海人ですね。恐れないというか、怖いものなしというか、自分が思ったことはパッと言うし、違うと思ったら違うって言うし。もちろんダメなことはダメって言いますけど、僕は結構人の顔をうかがっちゃうタイプで、それに対して海人は思いきりがいいなと思うシーンが多くて、考え方とか物事の捉え方がすごく面白いので、どういう考えをしているんだろうなっていうのを彼になって考えてみたいなと思いました。
中村:僕も2人いて、1人は同じ渡邉海人です。彼の面白いところは、普通人間が考えない選択肢をまず取るんですよ。面白い例を挙げるとすると、ある時海人が「気持ち変えたい」って言っていて、何を変えるんだろうと思っていたら、刈り上げの高さを高くしてきたんですよ(笑)
山際:やってたね(笑)
中村:プラス何か変えたいって言って、毎日部屋の物を1個ずつ捨てるっていうのを始めて。こんな感じで、考えの出てこないことをするんですよ。でもそれをふざけてとかじゃなくて、自分でしっかり考えて信念を持ってやっているので、それもすごいなと思います。あとは僕自身、高校で病気になってから学生コーチをやっていて1番きつかったのが「できなくなった上で人にラグビーを教える」ことだったんですけど、自分はもうできないのをわかっていながら、目の前で自分がやりたいことをやってるっていうのを、彼の場合はすごく楽しんでいて、コーチの仕事に対する向き合い方が素晴らしいなっていう風に思います。こういう変化を遂げた後の気持ちの切り替え方とかがすごいなっていうのはすごく尊敬するので、どういう気持ちでやってるのかなっていうのが気になりますね。
もう1人は、田沼英哲という男です。やっぱ同じ高校っていうのもあって、どういう思いで今慶應のジャージを着てやってるのかなっていうのもありますし、あとは彼のプレースタイルとして、中山大暉や小野澤(謙真)みたいにあまり目立つプレーヤーではないと思うんですけど、トライとか得点には絡まないけど1つのすごいタックルだとか、ボールを持って当たるシーンのようなところで、そこに対してプライドを持ってやってる姿がすごく尊敬できます。それに、普段の練習でのキツいトレーニングも英哲は自分からやろうぜ、とみんなを引っ張っていってくれる人で、メンタリティーの強さがある選手なので、そういう選手の気持ちの持ちようは、一度経験してみたいなっていうのはありますね。
ーー山際さんが主務に転向するとなった時のトリガーになったのが渡邉海人さんだったんですよね?
山際:そうですね。同期と1人ずつ話すというのを去年の10月ぐらいからシーズン終わるまでずっとやっていて。その中で「来年は選手として絶対いけるから頑張れよ」って言って応援してくれる人が結構多かったんですけど、当時もうスタッフに転向してた海人とは順番的に最後の方で話して、そこで「来年選手やるの?」と少し否定的に聞いてきたんですよ。もちろん手を抜いたつもりは一切無いですけど、選手と主務を兼任することに対する不信感を抱かせるような1年間の過ごし方だったのかなと少し反省しました。僕としてはやっぱり選手をやりたいという気持ちが強かったんですけど、海人はそこで厳しい言葉を僕にかけてくれたんです。30人近くと1対1で話してきた中で、選手を辞めろって言ってきたのは海人が初めてだったので、最初は悔しくて受け入れがたかったんですけど、海人は僕より1年早く選手を辞めてコーチとして動いていて、1番近くで僕を見てきた人だったから、その海人に言われるってことはダメだったんだなと思いました。僕は真面目にやってるつもりでも、中途半端なことをやってる僕は彼の目には良く映っていなかったんでしょうし、それを続けるのは選手を辞めてスタッフになった彼らに失礼だなと思ったので、それが自分の中で1つ大きなきっかけになりました。
ーーそのエピソードがあったので、先ほどなりたい人に山際さんが渡邉さんの名前を挙げたのが意外でした
山際:あー、でもそういうところこそ尊敬できるんですよね。(海人に)辞めさせられたっていう気持ちは全く無くて、僕があるべき方向を示してくれたっていうか、それをちゃんと言ってくれる人って絶対貴重だと思うんですよ。30人がいけるって言ってくれたからといってそうとは限らないし、僕のこともちゃんとわかってくれて、そしてチームのことも考えてくれてる真っ直ぐなやつがいるっていう、そういう存在はすごくありがたいなって思います。そういう風に思うようになったのも海人がきっかけなので、海人はやっぱすごいやつだなと思いますね。
まあ、直接は言わないですけど(笑)記事読んでびっくりするんじゃない?彰伸も俺も海人の名前出してて(笑)
中村:俺のこと好きすぎだろ!ってね(笑)
山際:嘘だよって言っとこ(笑)
ーースタッフとして體育會の厳しい環境の中で活動していく中での原動力とは何ですか?
中村:久我山時代にお世話になっていた先輩も結構慶應にいましたし、原動力としては最初は先輩とのそういう繋がりだなと思ってたんですけど、やっぱり同期の頑張りだとか成長を見てるとそれがやりがいになってるなと感じます。もちろん試合に勝ったらすごい嬉しいですし、その中でも特に同期が出るとか、例えばリザーブから同期が出ていく姿は僕自身結構嬉しいものがあったり、試合の中で同期同士でパスしてトライを取りそうみたいになると、おぉ〜ってスタッフとしてなったり、そういった直接的な勝利とか大きいものじゃなくて、そういう小さな同期の活躍とかが多分日々の原動力なんだなっていう風に、今振り返ると思いますね。
山際:そうですね、僕は周りの人、特に家族と大学の同期と高校の同期です。
親はまず僕にすごい時間とお金をかけてくれて、ここまで好きなことやらせてくれていて、本当はプレーをしてる僕を見たいとは思うんですよ。だけどこうなった以上はどうしようもないのに、自分がいつまでもそれを引きずってガタガタやってる姿を親が見たらどう思うかって考えた時に、やっぱり前向きにやってることが1番だなと。もうプレーできないっていう状況の中で多分1番ベストな選択肢だと思うし、それは親だけじゃなくて高校の同期とか大学の同期にも言えることで、高校の時は僕が学年で唯一の経験者として引っ張っていたんですけど、そんな僕が縮こまってやってるのはらしくないって言われたし(※)、大学の同期も信頼して僕を選んでくれて、その唯一の立場としての僕が前向きにやってない状態だとチームが回っていかないと思うので、周りの人に対して僕がどうあるべきかっていうのを考えた時に、よし頑張ろうっていう風に思えます。
※このエピソードは、朝日新聞運営メディア「4years.」に掲載していただいた弊会の記事の中でもお話しいただいているのでぜひそちらもご覧ください。
(https://4years.asahi.com/article/15510130)
ーーでは最後に、大学選手権という大会の魅力を教えてください
山際:対抗戦とはまた違う緊張感がある大会だし、負けたら終わりのトーナメント制で、次があるっていう状況じゃない中で戦う人たちの気迫があるんじゃないかと思います。かつて対抗戦4位からの出場で日本一になった人たちもいて、慶應だけではなくどのチームも「負けたら終わりだ」っていうプレッシャーの中で戦ってると思うので、特に負けたら引退の4年生の思いっていうのが1番伝わる、そんな試合を繰り広げてくれる大会なんじゃないかなと思ってますし、やっぱラグビー選手にとってはちっちゃい頃からの憧れの場でもあるので、そういう意味のある大会かなと思います。
中村:そうですね。ラグビーにとっての選手権は、野球でいったら甲子園、サッカーで言ったら高校サッカー選手権ぐらいの物だと思っていて、早明戦で4万人近く集まって、多分今回の決勝戦もほぼ満員になると思うので、それくらい注目度があって、人気がある大会です。そこに5年連続出させていただいてるっていう慶應のすごさと、負けたら終わりっていう4年生のプライドがぶつかり合うのは、リーグ戦とは異なる楽しさがあるなっていうのは思うので、そういった部分を見てもらうと面白いと思います!
1つ前の冨永×浅井ペアの写真撮影をしていると、何やらドアの外にへばりつく人影が。
元々学生コーチの渡邉海人さんと小用剛史さんも含めたスタッフ4人で行う予定だったこの対談でしたが、急遽渡邉さんが参加できなくなり、「どうします〜…?」とマネージャーさんと一緒に相談に来てくれた山際さんでした。
「じゃあ学生コーチ対談を別枠でやって、今日は中村トレーナーと山際さんの2人で対談するのはどうですか?」と提案させていただくと、「それ良いね!彰伸呼んで来なきゃ!」と走って呼びに行ってくれました。
もし渡邉さんも一緒に対談にいたら聞けないお話も聞けたので、結果オーライということでしょうか。
この記事を通じて、渡邉さんに山際&中村さんの愛がたっぷり伝わってますように!(笑)
12月14日(土)に、慶大の最初の大学選手権の試合が行われます。初戦の対戦相手は東洋大学。春の交流戦では慶大が10トライをあげて快勝。今年の目標である「ベスト4以上」に向けて大事な初戦ということで、大きな期待がかかります。
負ければ終わりのこの大会。今の中山組を見られるのも残り数試合となりました。
ぜひ応援に行って、秩父宮を黄色に染め上げましょう!
(取材:塩田隆貴、島森沙奈美、宇田川志乃 文:宇田川志乃)