24年度に引退を迎えた4年生を特集する「Last message~4年間の軌跡~」。今回は「Extra Edition」として、学生日本一を成し遂げたラクロス部男子の主将・藤岡凜大(政4・慶應)を取り上げる。藤岡は絶対的エースとしてプレー面で活躍するだけでなく、新部門の設立や社会人コーチの招へいなど、組織づくりにも尽力した。普段あまり焦点が当たらない取り組みの数々。どのようなことを考えて何を実行したのか、学生No.1の組織づくりについて、中学時代の同期でケイスポ元編集長の長沢美伸(政4・慶應)との対談形式でお届けする。
人物紹介
藤岡凜大
慶應義塾大学法学部政治学科4年。慶應高ではラクロス部主将を務め、慶大ラクロス部に入部。1年次からAチームに入るが一時はBチームへの降格など悔しさも味わう。2年次には3番を受け継ぐとU―21日本代表のメンバーにも選出。3年次以降は主力として活躍。4年次には主将&絶対的エースとして、チームを学生日本一に導いた。
長沢とは中学時代、野球部の同期で同じポジションとして共に練習に励んだ。
長沢美伸
慶應義塾大学法学部政治学科4年。慶應高では卓球部主将を務めるもチームを目標に導けず挫折を経験。その後大学では慶應スポーツ新聞会に入会し、ラクロス部、端艇部、應援指導部、庭球部、競走部、野球部などを担当。3年次には編集長を務め、号外を含めた7度の新聞発行を実現した。
大学1年次に初めて書いた記事が、藤岡が3得点の活躍を見せた名大戦だった。
高校と大学でリーダーを務めた経験 背負う責任の重みやリーダーとして求められる能力の違いとは
――二人とも高校と大学、それぞれで主将を務められています。感じた違いや学びなどを教えてください。
藤岡:人数は高校も大学も100人以上の大規模でした。ただ高校と大学で一番違うのは、高校は部活に入るのが当たり前の一方で、大学では体育会生は1割しかいない。部活をやらなくてもいい中でわざわざラクロス部という体育会を選んでやっているので本気度が違う。その分主将として背負う重みが違ったかな。
長沢:部員のやる気とかも関係ある?高校はほぼ強制だからやる気ない人も多いけど大学はそういう人はいないとか…
藤岡:大学でも140人もいたらやる気がない人が出てきてしまう。その中でも、やる気はないけどとりあえず部活に入りたくて入ったというのと、当初はやる気があったけどチームの環境が良くない、頑張っているのに評価されない、ちゃんと教えてもらえないなどの理由でやる気がなくなってしまったという状況では意味が違う。後者に関しては主将としての責任が問われる。本気で集まっている人たちだからこそ、彼らの4年間を無駄にしないようにする責任がある。
――具体的に意識したことや行動したことはありますか。
藤岡:A・BチームとC・アーセ(=大学からラクロスを始めた選手のチーム)チームで活動場所が違うから、何カ月も顔を合わせない部員もいる。でも主将は、Aチームのリーダーや4年生のリーダーではなく、140人全員のリーダー。今の選手・スタッフやチームの状況を、A~アーセまでチームを問わず把握しないといけない。各チームのコーチや選手とコミュニケーションをとったり、C・アーセチームの練習にも自分が顔を出して、自分が持っているものを教えるだけでなく、主将としてチームの状況を把握するということを大事にしていたかな。

主将として、責任を感じながら走り抜いた
――長沢さんはいかがでしょうか。
長沢:高校時代やっていた卓球は実力ははっきりする競技。一方でケイスポは実力がはっきりとは分からない組織。それぞれ学びがありました。
高校の時はリーダーは強くないといけないなと痛感して。主将になった直後の部内ランクが5位。自分より上手い人が4人いた。もっと厳しくしたいと思っても自分より上手い人には言いにくいし、言っても説得力がない。そうすると下に引っ張られてしまう。新人戦の団体では自分が負けたことでチームが負けることになり、それでなおさら主将が強くないといけないなと。
藤岡:その組織は難しいな。
長沢:大学時代のケイスポでは明確な強弱がない。そのためいかに組織のみんなにとってやりやすい環境をつくるのかという視点を持つと同時に、何に取り組むのか、どう向き合うのかという姿勢が問われる。組織によって求められることが違うことを実感できた。
主将就任時のチーム状況 「主将はAチームのリーダーではない」
長沢:主将になったときチーム状態が良くなかったとブログで言っていたけど、具体的に問題点は何だったの?
藤岡:みんなが日本一を目指せないと思っていて、日本一になるための話し合いができていない。「一応慶應は日本一を掲げているから今年も掲げておこう」くらいの雰囲気だった。また、学生が意思決定をしている組織なのに、その幹部たちが下のチームに対してコミットしなさすぎていた。結局、毎年主将や副将がAチームのリーダーでしかなく、Aチームが今年どう勝つかしか考えていない。毎年毎年その年の日本一だけを考えていたら、下が続かないから強くなるわけない。もともとラクロスがうまかった代はいいところまでいくけど、そうでない代はそこまでいかない。その象徴がアーセが弱いこと。持続的な強さに対してコミットする人が誰もいないことが課題だった。
ラクロス部の組織づくり マーケ部門の設立 ~スタッフも選手と同じ熱量をもって取り組める環境へ~
長沢:一つ2024年度の大きな取り組みとしてマーケ部門の立ち上げがあると思うんだけど、それはどうやって進めたの?
藤岡:もともとスタッフはマネージャー、トレーナー、アナライザーの3部門があった。ただチームとしては広報にも重きを置くべきだとなり、OB・OGとの関係構築、スポンサー獲得、グッズ係、広報をまとめたマーケテイング部門をつくって、そこにマネージャーの半分を専任として配置して立ち上がった部門。
長沢:マネージャーとしては選手のそばでサポートしたいという思いがあると思うんだけど、反発はなかったの?
藤岡:あったけど愛梨紗(=馬渡、文4・フェリス女学院)が主導してくれた。慶應のスタッフは3つの部門に分かれているから、細分化された業務をやるだけだとどうしても選手と同じ熱量で取り組めないこともあって、それは同期としても嫌だった。慶應ラクロスのスタッフは自分の部門の仕事はやった上で、プラスアルファで何ができるかを考えていく必要があると思う。当然選手からしたら、スタッフはいてくれるだけでありがたい存在だけど、それは選手目線であり、本気で何かに取り組みたいと思っていたスタッフの幸せとは限らない。そんな中で広報という仕事が愛梨紗にとって本気になれることだった。
まず、広報はそもそも何のためにやるのかというところから考え直して。広報ではOB・OGとのつながりを広げたり、多くの人からの注目を集め選手のモチベーションを上げたり活動資金を集めやすくしたりすることができる。そしてそれは部として目指している日本一に直結する重要なことであると認識できれば、広報の部内で重要性も高まる。そんなことを話して愛梨紗に広報の中心を担ってもらった。
スタッフの人たちは、部での存在意義にみんな悩む。「自分じゃなくてもできることなんじゃないか、自分じゃなきゃいけない理由は何か」と。だからこそ、今回の広報のように「これだ」というものを見つけられたからみんな頑張ってくれたのかな。
長沢:ケイスポでも、取材したいと思って入ってきた人たちに、いかに資金調達やHP改善などの組織づくり面を担ってもらうかが課題。これは他の学生団体でも同じようなことがあると思う。
藤岡:全員がある意味選手みたいなイメージか。たしかに難しいね。ラクロス部ではゴーリーの浜地(航太郎、経4・慶應)がスポンサー獲得のリーダーやクラファンもやってくれたのが大きかったな。

プレーも組織も4年生がけん引した
ラクロス部の組織づくり クラファン ~将来帰ってきたいと思える組織へ~
長沢:クラウドファンディングはコーチ費用のためにやったの?
藤岡:もちろんコーチ費用のためではあるけど、本来毎年かかるコーチ費用を単発のクラファンで集めるのはおかしい。ただ、現状OB・OGは一回部から離れたら関わりがなく、部としてもお金を集める仕組みが全く整っていなかったため、起爆剤が必要だった。今年は単発の資金調達でいい。それをきっかけに現役との距離を縮めてつながりを持たせるということが必要だと思った。自分がOBになった時を考えてもこんなに思い入れがあって全力で過ごした部活から全く離れてしまうのは寂しい。
だからクラファンという形にして全員が応援メッセージかけるようにして。いろいろなOB・OGからメッセージをもらったり、HPでやっていた”Pioneer Session”もいろいろな代から集めて現役と話す機会をつくり、もう1回慶應ラクロスに戻ってきてもらいたいと思った。
初代OBの方と話した時に、「ラクロス部を卒業して、最初は忙しくて離れるのは良いんだけど、10年くらいしていろいろ落ち着いてきた時に、やっぱりあのとき楽しかったなと思って、帰りたくなる瞬間がある。そういう時にいつでも戻ってこられるようなOB組織を作りたいと思ってOB会長やっていたんだよね」と聞いた時に、そこに対して現役の部員として貢献できることはたくさんあると思ったし、いちOBとしても自分はそうなりたいと思った。その一つがクラファンだった。
それによってOB・OGと新たなつながりができたりもした。OB・OG会を開いて寄付をいただき、その代わりにOB・OGはいろいろな情報を知ることができたりイベントに参加できたりするなど、ウィンウィンな関係ができたらなと。それは持続可能だと思う。
長沢:なるほど、たしかにそれは持続可能だね。
もう一つすごいなと思ったのは、コーチを入れようとなったときに、単発でお金がかからないように見てもらうのではなく、お金を払うことで管理下に置き、学生主体の組織を維持した状態でコーチングしてもらう環境をつくったこと。お金がないからやらないのではなく、やるべき状態を考えた上で、お金を調達しようとしたのがすごいなと。
藤岡:メジャースポーツはそう。監督がチームのことを決めるけど、それは球団がオーナーとなりお金を払っている。このチームに当てはめると、オーナーは学生。ただ、これからラクロスが発展していく上で指導者は絶対必要。指導者としてもお金をもらわないと続けられない。
長沢:ケイスポではお金を払って解決しようとせずに、お金がないなら自分たちでできる範囲でやろうという動きをした。例えばHPのリニューアルなどは外注せずに友人の力を借りながら自力で最低限のUI・UX改善を行った。お金がないからやめようではなく、お金がないなら必死に集めて実現しようというのは、より高いレベルを求める上では必要なことなのかもしれないね。
藤岡:リスキーではあるけどね。
長沢:組織の強さとチームの強さは結構関係ある?
藤岡:短期間で効果が出るものではないから。ラクロス部だけどラクロスの強さだけがすべてではないと思うから、どういう組織でありたいかを考えていて。OB・OGがいつでも帰れる場所とか、人生をかける価値がある組織だと思ってくれることにも非常に価値があると思う。組織づくりは「日本一に直接つながるか」だけで考えていたわけではない。

学生主体で作り上げたチーム
大学組織の存在意義~体育会やサークルは「4年間の過ごし方を決めている手段に過ぎない」~
長沢:最後の質問だけど、ケイスポは存在意義や目標設定が難しい組織だと思う。ケイスポがなくても体育会は試合をする。結果を各部のHPを見れば分かる。ケイスポに限らず特に文化系の団体や何かをサポート・応援するような人たちは、これと似たようなことがあると思う。その時に、存在意義とか目標はどうすればいいと思う?
藤岡:スポーツは置きやすいよね。勝つことが求められるしそれが憧れの対象になるから。でもそうじゃない組織、應援指導部とか。應援指導部の友人もモチベーションが難しいって言っていた。「野球部の日本一」が目標になっているのだと思うけど、プレーはグラウンドで起きていて、例えば8回のエラーは応援席のせいなのかと言われればそうではない。
長沢:答えはないのかもしれないけど個人的にはどう思う?
藤岡:ラクロス視点だと、自分が他の部員よりたくさん取材してもらって思っていたのは、ラクロス部が大きくなっていく時にケイスポや應援指導部など関わってくれる組織の人たちと一緒に大きくなっていくことに意味があると思う。
そもそもこの世にある大学の組織(部活・サークル等)は4年間の過ごし方を決めるだけで、そこにいる人たちが幸せになることが大事。ラクロス部であればその手段としての日本一でしかない。体育会の広報やケイスポのようなメディアでは、選手の人となりを知ってもらうことで慶應体育会や慶應スポーツに愛着を持ってもらうことができる。そういう情報を提供できているという実感が「手段」になる。何かに打ち込むきっかけになる企画を作れるのは広報でありメディアでしかないと思うので、それが存在意義じゃないかな。

全日後、藤岡(左)と長沢
(対談進行:長掛真依)
【編集後記】
プレーのことは記事で見かけることも多いかもしれませんが、組織の内側の話を聞くことはなかなかないと思います。しかし、学生が主体となって100人以上の規模の組織をまとめることは簡単なことではありませんし、そこには多くの学びがあると思います。そこで、同じくリーダー経験を持つケイスポ元編集長との対談形式という形で、ケイスポだからこそできるこのような企画を実施しました。読者の皆さんにも、何かヒントを得ていただけたなら幸いです。
(長沢美伸)