【What is ○○部?】塾体育会のタテ・ヨコ・ナナメの繋がりを創出する/File.16 体育会本部(後編)

その他競技

慶大の体育会を深掘りしていく連載企画、「What is 〇〇部?」。今回は体育会本部!体育会本部は、慶應義塾体育会44部60部門を統括する上部組織として、「各部の活動における基盤構築」と「体育会全体の先導」という2つの重要な役割を担っている。本部には「主幹」という役職があり、體育會本部の統括、外部団体各所との連携を行い、本部活動における全ての責任を負う。今回は前主幹の野田稜雅(法4・慶應)と新主幹の栁蒼太(総3・高槻)にお話を伺った。後編では、学生スポーツの魅力、100年後の学生スポーツ界、そして、新入生へのメッセージを語っていただいた。

※以下、写真は本人提供

左から栁、野田

――慶應義塾体育会の魅力は

野田: スポーツにおいて勝敗を重視し、勝利に貪欲であることは当然ですが、それと同じかそれ以上に、人間的な成長を重視する点が慶應義塾体育会の特色だと思います。

:他大学の体育会も素晴らしい活動をしていることは前提としてあります。その中でも、慶應義塾の特筆すべき点は、OB・OGの支援が非常に厚いことです。経済的支援のみならず、「LEAP」などの教育的プログラムや試合での応援の仕方、学生を巻き込んだ丁寧な関わり方など、大学内外の人々が体育会に対して非常に誠実に接していると感じます。

東西会議にて、東京六大学、関関同立の体育会本部と交流

――競技していてそれを感じることはありましたか

:自動車部では全国の主要大学と競技を行っています。その中で特に感じるのは、慶應義塾の自動車部が高いスポーツマンシップを維持し、決して不正をせず、常に正しい行動を徹底している点です。一見、当たり前のことではありますが、誠実にそれを実行できているのっは、また、部員が慶應義塾の名を背負っていることへの強い誇りを持っていることも印象的です。一般的に自動車部は治安が悪いと言われることもありますが、慶應義塾の部員は大学の名誉を汚さぬよう、高いプライドを持って行動しています。

大学の誇りにかけて競技と向き合う

――葉山部門は全国を見渡しても唯一無二の部活動で、パイオニアです。その点はいかがですか

野田:誠実さや、誰かのために尽くす精神を強く感じます。遠泳では1年以上前から準備が始まり、現役部員やコーチ、地元の漁師や海上保安庁の方々と協力します。特に社会人の先輩方は学生と同じ目線で伴走し、利害関係や見返りを求めることなく、純粋に後輩のために尽力してくださっています。その姿に感銘を受け、自分もそのような社会人になりたいと感じています。

多くの方々の支えがあってこそ、完泳できた(写真は本人提供)

――他に慶應義塾体育会の魅力を感じることはありましたか

:体育会事務室の方々が学生主体の運営を尊重しつつ、方向性を誤らないよう的確にサポートしてくださる点も大きな特徴です。効率的に体育会の運営するなら大人が直接行う方が早いはずですが、体育会本部のような学生の団体に、あえて私たちに任せてくださっている姿勢が他大学と異なる点だと思います。

 

――学生スポーツの魅力は

野田:学生スポーツは結果だけでなく、その過程を非常に大切にしています。仲間と喜怒哀楽を共有し、「勝利」のために本気でぶつかり合い、切磋琢磨し合います。そしてその結果が試合で出てきます。迫力あるプレーや一体感が学生スポーツならではの魅力です。また、報酬がなく純粋に情熱をぶつけ合える環境も魅力だと思います。利害関係や自分の社会的立場とかを抜きにして本気でぶつかり合えるというのが魅力かなと思います。

:野田さんのご意見に加えて、応援の対象が個人ではなく大学や所属団体であることが特徴的です。自分自身の名でなく、大学やチームを代表して戦う経験は学生スポーツならではの貴重なものです。大きい名前を背負って競技に向き合えることは、かけがえのない経験だと僕は思っています。また、所属していたその部活の先輩方から受け継がれている歴史の最後の新しいページを作っているということに面白さやプライドを持てるのも魅力かと思います。

野田:プライドあるよね。

 

――体育会で4年間を過ごした先に学生たちが得られるものとは、どのようなものでしょうか

野田:一言でいうと、本当に最高です。4年間本気で向き合い続けたからこそ、見えた世界がありました。特に僕が感じているのは2つあります。1つ目は、体育会で大切にされている「練習ハ不可能ヲ可能ニス」という言葉です。スポーツを通して色々なことに挑戦して、うまくいったり、いかなかったりするけれど、目標に向かって愚直に努力するという経験を積めるのが本当に大きいと思っています。僕も葉山部門を高校時代から6年間やって、なかなかうまくいかなかったのですが、最後の1年でようやく遠泳を完泳できました。その経験から「練習ハ不可能ヲ可能ニス」は間違っていなかったと感じましたし、「壁は乗り越えるためにある」と気づくことができました。こういう経験は体育会だからこそ得られたなって思います。

もう1つは、その挑戦を通じて仲間と出会えることです。同じ高い志を持った体育会の仲間との出会いは、一生の財産ですし、それが本当に幸せで誇りに思えることですね。

:僕は、4年間を通して得られるものは、圧倒的に密度の濃い仲間だと思っています。野田さんも同じことを仰っていましたけど、ただの仲間じゃなくて「格別の仲間」だと感じます。自動車部の場合は、みんな車が大好きで、「慶應の車で勝ちたい」という一途な思いを持った仲間が集まっています。そういう熱い仲間と一緒に結果を作ったり、限界を超えることに挑戦できたりするのが本当に面白いです。自動車部の競技は1回1分半ほどで終わりますが、その短い競技に向けて、10数年間蓄積してきた車両をみんなで整備して競技に臨みます。今年のスローガンは「聚沙成塔」、意味は「塵も積もれば山となる」です。一つ一つ目の前のことに集中して、それを仲間とともに積み重ねて優勝を目指す。そういうことが一番の魅力だなって感じますね。4年生としては、単に仲間をまとめるだけじゃなくて、もっと、部員全員の熱量を引き出して爆発させるような役割を果たしたいと思っています。

全日本総合杯3連覇を目指す自動車部

――「練習ハ不可能ヲ可能ニス」という言葉に、救われたことはありますか

野田:そうだね。あります。僕は高校から葉山に入ったのですが、6年間やってきて、部内にA、B、Cチームとある中で一度もAチームのメンバーに選ばれたことがありませんでした。自分より遅く始めた後輩が挑戦して完泳するのを見て、正直もう無理だなって諦めかけたこともありました。でも、「練習ハ不可能ヲ可能ニス」って言葉をずっと信じて、主将とその言葉を言い続けて最後の1年を頑張りました。今までの最高距離は40キロだったのに、最後の1年は65キロ泳ぐことになり、正直「無理やん…」と弱気になってしまう場面もありました。でも、この言葉があったからこそ死ぬ気で努力して、背水の陣で自分を追い込んで、結果として泳ぎ切ることができました。本当にこの言葉に救われましたね。

泳ぎ続けた先に待っていたのは、最高の景色だ

――留学、起業、長期インターンなど、今の時代の学生は多様な選択肢に溢れています。少子化も続く中で、10年後、100年後の学生スポーツ界はどうなっていると思いますか

:正直、未来をはっきりと予測できませんが、学生スポーツはむしろもっと広がっていくと思います。起業や留学といった他の活動はいつでも挑戦できるけど、伝統ある学生スポーツで情熱を注ぐ経験は今だけの特別なものです。僕自身も最初は起業を考えていて、1年生のとき実際に少しやっていました。でも体育会に入ってみて、歴史ある体育会の一員として競技に真剣に向き合える魅力を知りました。だから、学生スポーツはこれからも絶対残り続けるし、もっと活発になると思いますね。本当に利害関係なく、情熱を傾けられる環境は、今ここにこそある、と思いますね。

野田:すごい難しいなと思っていて、今って本当にいろんな選択肢があって、僕も他の道を選んでいる友人がカッコいいなと思いますし、もう一度人生があるならトライしてみたいと感じることもあります。でも僕は、学生スポーツを選んで正解だったと思っています。将来、学生スポーツは収益化など新しい方向に進むと思いますが、一方で泥臭さとか、仲間や勝利のために純粋に努力する部分だけは絶対失ってほしくないなって思います。効率とか利益だけではない、こういう泥臭い部分に学生スポーツの魅力があると思っています。

 

――例えば、大学ラグビー部では、今年4月から大学チームの公式戦ジャージーへの、いわゆるスポンサーロゴの掲出が可能になります。大学部活動の商業化についてはどうお考えですか

:部の状況にもよりますが、法人化も魅力的な選択肢だと思っています。ただし、営利や企業の意思に傾倒せず、慶應義塾という大学の看板を背負っているという意識だけは失わないことが大切です。

野田:僕も同じです。法人化はいいと思うけど、慶應義塾大学としてのアイデンティティを守ることが重要だと思います。それがなくなったらただのクラブチームになってしまうので。ステークホルダーを適切に巻き込んで一緒にラグビーを盛り上げて頑張ろうっていうのであれば、めちゃめちゃ賛成かなと。

 

――最後、読者の皆さんに一言お願いします

野田:体育会本部主幹として1年間、そして体育会生活として4年間、本当にお世話になりました。多くの方々に出会い、支えられた体育会生活でした。僕自身、この4年間が人生のターニングポイントになったと強く感じています。正直なところ、体育会本部って体育会生でも知らない人が多いし、一般の学生からするとさらに謎の団体だと思います。でも実際は、自分の部活を120%で頑張りながら、さらに体育会全体、慶應義塾全体を盛り上げたいっていう本当に熱い情熱を持った仲間が集まっている組織です。僕はもう引退しましたが、栁をはじめ、後輩たちが頑張っているので、ぜひ体育会本部という存在を知ってほしいです。一人のOBとしても、皆さんと一緒に体育会、そして慶應義塾を盛り上げていけたら嬉しいです。

:いつもお世話になっている皆様には、本当に感謝しかありません。今こうしてここにいるのも、本当に皆さんのおかげだなと日々感じています。その中で、体育会本部としてはもっともっと前に進まないといけないと強く思っています。単に僕らだけが進むんじゃなくて、体育会全体が一緒に前進するための一歩を踏み出さないといけない。やっぱり慶應義塾が日本一って言われるような体育会にしたいし、日本の大学スポーツをリードしていくような存在になりたい。そのためにも、真摯でカッコよくて、誰もが応援したくなる体育会を目指して身を粉にして頑張りますので、引き続きお力添えをいただけると嬉しいです。

それから、新入生の皆さんにもぜひ伝えたいです。僕自身、入学した当初は体育会なんてまるで入るつもりもなくて、サークルを中心に見ていました。でも体育会に入ったからこそ、思いもよらないような出会いや挑戦の機会がたくさんあって、本当に良かったと思っています。慶應の体育会は、文字通り様々な方からすごく応援されている特別な場所です。ちょっとハードルが高いと感じるかもしれないけど、一回はぜひ体育会を覗きに来てください。きっと想像以上のものが得られるし、人生が大きく変わるような素敵な経験が待っています。ぜひ、新しい門を叩いてみてください。

野田:僕も新入生に向けて一言いいですか?(笑)

まず、本当に色々な人との出会いがなければ、今の僕はいなかったと思うので、本当に感謝しています。新入生の皆さんは、今いろんな選択肢があって、きっとめちゃくちゃ悩んでいると思います。僕自身もそうでした。でも、もし悩んでいるなら体育会を一度でいいから見てほしいです。体育会には確かに難しいことや大変なこともあるけれど、そこでしか味わえない感情や最高の仲間、最高の景色が絶対にあります。最後の学生生活だからこそ、ぜひ勇気を出して体育会に飛び込んでほしい。その先には絶対に最高の感動が待っています。これは僕が胸を張って約束します。絶対に後悔はさせません。

――ありがとうございました!

 

(取材:野上賢太郎)

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