一般受験を乗り越え、慶應義塾体育会で活躍する学生にインタビューを行う受験生応援企画。第7弾となる今回はアメリカンフットボール部の天野甲明(政3・鎌倉学園)にインタビュー。高校時代にアメリカンフットボールに対して、「やり切った」と感じていた彼が一年間の浪人生活を経験し、何を思い、何を感じ、どのように変化していったのか。その軌跡に迫っていく。
「大学でアメリカンフットボールを続けるつもりはなかった」そう語ったのが天野甲明(政3・鎌倉学園)だ。今では、慶大が所属する関東学生アメリカンフットボール1部リーグのオールスターゲームにも選出され、UNICORNSにとって欠かせない存在となっている。その彼からこの言葉が飛び出したことに、驚きを覚えた。
高校時代、強豪・鎌倉学園アメリカンフットボール部に所属していた天野は、「高校でアメフトをやり切る」と心に決めていた。そのため、親に頭を下げ、高校3年生の10月という遅い時期まで部活を続けたという。そうして最後まで全力でプレーし切った彼は、高校アメフトを終え、ここでアメフト人生も終えるつもりでいた。
部活を終えた天野は、東京外国語大学を第一志望に掲げて、本格的に受験勉強を開始する。当初、推薦での受験突破を試みたが、結果は不合格。急ピッチで共通テスト対策に取り組んだが、思うような結果が出ず、翌年の東京外国語大学への合格を目標に浪人を決意した。
高校時代をアメフト一色で過ごしてきた天野にとって、勉強漬けで過ごす浪人生活は新鮮な時間であった。自由が丘にある予備校で浪人生活を開始した天野は、朝から晩まで1日中勉強に取り組んだ。SNSなど娯楽を完全に封印した天野にとって、一番の息抜きになったのは散歩である。お洒落な自由が丘の街を行き交う人たちや店先を眺めるのが彼にとって安らぎとなったという。こうした生活をしているうちに、自身にとって、アメフトがどれほど大きな存在であったかということに気づかされ、「大学入学後にアメフトを再開する」という気持ちが芽生えるようになった。
東京外国語大学を目指していた天野にとって、受験生時代に一番大きな挫折となったのは、最後の共通テスト模試であった。それまでと比べて、点数が落ち、モチベーションも低下。不安にさいなまれる日が続いた。しかし、そこで天野は割り切って、2日間ほど勉強を休むという選択を取る。これにより、精神的にも楽になり、本番の共通テストの点数では得点を伸ばし、東京外国語大学への進学こそかなわなかったものの、私立大学の入試には良い形で臨めたという。
慶大については、浪人したからには受けてみるかという程度の気持ちで、あまり深く考えずに受験を決めたという。過去問も1年分ほどしか解いておらず、本人も合格は想定していなかった。しかし、浪人生活で培った学力が功を奏し、法学部政治学科への合格を勝ち取った。もともと強い思い入れがあったわけではなかったこともあり、天野は当初慶大に対して、特別良いイメージを抱いていたわけではなかった。ところが、入学してみると、アメリカンフットボール部入部での新たな出会いやキャンパスライフを通して、想像以上に勤勉で真面目な学生が多いことに気づいていく。そうして次第に、天野にとって慶大での生活は刺激に満ちた充実したものへと変わり、今日に至る。
天野の人生は、数々の縁と巡り合わせに導かれ形作られてきた。人生は何が起こるか分からないと言われるが、彼の場合、アメフトを続けることも慶大に入学することも予期しなかった出来事であり、その偶然を一つのチャンスとして形にしながら、ここまで歩んできたのだ。
慶應UNICORNSは昨季、1部リーグTOP8を8チーム中7位で終え、お世辞にも良いシーズンだったとは言い難い結果に終わった。しかし、シーズン最終戦では総力戦の末、入れ替え戦を勝ち切り、TOP8の舞台を守り抜いた。苦しいシーズンではあったものの、下級生が多くの経験を積む機会を得たシーズンでもあった。すでにUNICORNSの中で重要な役割を担ってきた天野だが、来季はプレー面はもちろん、精神的支柱としてもチームを牽引し、これまでのように自身に巡ってきた予期せぬ出来事をチャンスに変えながら、あらゆる面から勝利へ導く存在となることを期待したい。
(取材・記事:水野翔馬、取材:小野寺叶翔、神谷直樹)

