【ラグビー】幾度となく立ちはだかる怪我を乗り越え 黒黄の魂が導いた憧れの舞台/4年生卒業企画「光るとき」 No.15岩垂樹希(蹴球部)

ラグビー

25年度に引退を迎えた4年生を特集する特別企画「光るとき」。第15回となる今回は、蹴球部の岩垂樹希(政4・慶應)。年長からラグビースクールに通い、慶應義塾幼稚舎時代から毎年11月23日には秩父宮ラグビー場で早慶戦を観戦し、ラグビーエリートに立ち向かう黒黄の戦士たちの姿を目に焼き付けていた。「自分の代で早稲田に勝ちたい」と入部した蹴球部では、怪我に悩まされる日々が続く。それでも、岩垂に宿った黒黄の魂が、彼を早慶戦のピッチに導いた。そんな岩垂の4年間を振り返る。

 

憧れから目標へ

幼少期を海外で過ごした岩垂は、日本へ帰国した年長のタイミングで友人に誘われ、名門・世田谷区ラグビースクールで楕円球と出会った。慶應義塾幼稚舎に入学してからは毎年早慶戦を観戦し、ラグビーエリートである早大の選手たちに立ち向かう黒黄軍団に憧れを持った。ただ、毎年観戦を続けていく中で、徐々に憧れ以外の感情も芽生えてきた。「自分がこの舞台に立って、早稲田に勝ちたい」。10年以上、接戦に持ち込んでも勝利には漕ぎ着けることができなかった中で、自らの手でこの状況を打破したいと考えた。「大学でもラグビーを続けることは当然という認識だった」と語る岩垂は、迷いなく蹴球部の門を叩いた。

しかし、蹴球部では思い通りにいかない日々が続いた。高校までは、ラグビー部の活動の中で辛いという感情は一切湧かなかったという岩垂。だが、慶大蹴球部では様々な部分で求められるレベルが格段に上がった。「高校までは一度も思ったことがなかった『ラグビーを辞めたい』という考えが、何度も頭をよぎった」と岩垂は話す。

立ちはだかる怪我

さらに、入部前から多かったという怪我も岩垂に追い打ちをかけた。「1年生の時から、上に上がるチャンスが回ってきたというタイミングで毎回怪我をした。自分のパフォーマンスを100%出せる状態でラグビーがしたかった」。4年間を終えた今でもその苦しみは拭えていない。

関東大学春季交流大会や、関東大学jr.選手権での出場はあったものの、最終学年になるまで関東大学対抗戦への出場はなかった岩垂。それでも25年度、春季交流大会で全5試合に出場、うち4試合で先発メンバーに名を連ね、負傷離脱もなく最後の秋を迎える。半年間6番のポジションを守り続けた岩垂は、開幕節となった青学大戦で人生初の対抗戦のピッチに立った。15年間憧れてきた早慶戦の舞台へ立つため、岩垂は第一歩を踏み出した・・・はずだった。

 

早慶戦への執着

それは突然のことだった。試合開始直後の前半3分に肩を脱臼、無念の負傷交代となり、岩垂は頭の中が真っ白になった。「これで引退なのか?」とネガティブなマインドに陥った。

自身のラグビー人生に幾度となく立ちはだかってきた怪我により、またも離脱を余儀なくされた岩垂。だが、岩垂に宿った黒黄の魂が「早慶戦に出ないままラグビーを終える」という選択肢を拒んだ。そんな想いを受け取り、岩垂のために全てを尽くしたスタッフもいた。「メディカルディレクターの服部(美幸)さんがマンツーマンでリハビリをしてくださって、なんとか(シーズン中に)復帰できる体制は整った。その中で、自分が今まで目標としてきた早慶戦での復帰を目指した」。憧れの舞台への強い執着心が、岩垂を突き動かした。

しかし、早慶戦出場を目標に入部した部員は岩垂だけではなく、早慶戦はただ怪我から復帰しただけで出場できる舞台でもない。「自分が(怪我で)休んでいる間に頑張っている選手たちがいる中で、彼らに勝って椅子を取らなければならない」。後輩は試合を経るごとに目覚ましい成長を遂げ、同期も最後の早慶戦出場に向け死力を尽くしていた。岩垂にとっては厳しい状況だった。

そして迎えた早慶戦のメンバー発表で、岩垂は19番のジャージを受け取った。早慶戦までjr.戦や練習試合などの実戦に出場する機会はなく、ぶっつけ本番でのメンバー入りとなった岩垂。リハビリや練習に真摯に向き合い、最後の最後に切符を掴んだ。

11月23日、試合終盤の80分。秩父宮ラグビー場に岩垂の名前がコールされた。ラストプレー、逆転は不可能ながら最後までトライを狙った慶大は、ラインアウトからモールを選択。その中心には岩垂がいた。慶大らしい泥臭いプレーを体現した岩垂は、確かに早慶戦の歴史に名を残した。

 

醸成された魂

苦しみ抜いた4年間で岩垂が再認識したのは、ラグビーの精神「One for All, All for One」の尊さだった。そして、慶大こそラグビーの精神を最も体現しているチームだと岩垂は言う。「ずば抜けた能力を持つ選手が居ないぶん団結力が強く、自チーム愛の強い人たちが多い。だからこそ早稲田のようなエリートにも立ち向かえる」。

「社会人になっても、慶應ラグビーと同じように仲間と繋がることで、辛いことを乗り越えたり、大きいことを成し遂げたい」と語る岩垂の目には、長い年月をかけてじっくり醸成された黒黄の魂が宿っていた。

 

(取材:神谷直樹、髙木謙 記事:髙木謙)

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