2月24日、関東学生新進テニス選手権大会が開幕する。大学テニス界において2014年の幕開けとなる大会だ。昨年は個人戦・団体戦共に快進撃が続いた庭球部にとって、今年は真価の問われる1年となる。そこで、新シーズン開幕を前に坂井利彰監督にお話を伺った。
全3回に渡ってお届けする本企画。第1回では、激動の2013年シーズンを振り返っていただいた。個人ではインカレでの女子ダブルス優勝・準優勝独占、志賀前主将(政4)・西本(総2)の日本代表選出、さらに団体では46年ぶりの男女アベック王座進出、秋季リーグ(男子)で絶対王者・早大に土を付けた。まさに歴史的な1年となった2013年シーズンは、坂井監督の目にどのように映っていたのだろうか。
―まずは2013年を振り返って
「エースがいて良いキャプテンがいるという本当にバランスのとれたチームだったので、すごく前に進む力があって『やってやるぞ』という気持ちが全面に出ていて、今までの中でも手応えを感じた1年でした。また早大との間に関してもスコアではちょっと差が出たりしたんですけど、女子はあと1ポイントで勝てるというところまできましたし、男子は秋季リーグで早大に勝って、早大が公式戦で負けるというのは早大が王座で優勝するようになってからはなかったので、色々なものが変化し始めているのを感じた1年でした。」
―庭球部にとって様々な快挙があった2013年は歴史的な1年であったのでは
「やはり46年ぶりに男女が王座に出たということはすごく大きなことで、それは1年1年色々な先輩たちが築き上げてきたものが実ってきたということでもあるので、着実にやってきたことが積み重なってきたのだと思っています。」
―昨年の4年生について、男子は志賀前主将以外団体戦メンバーがいませんでした
「志賀が突出していてその下は少し間が空いてしまったというのはそこが次の課題だと思っているのですが、そこは今度の4月から新1年生も入ってきますし彼らの刺激を受けて今の1年生から3年生までが頑張ってくれると思うんですよね。ただ一方でインカレインドアでは近藤(環3)・井上(善)(経3)というペアが新しく組んで決勝に行ったり、井上(善)は塾高から進学してきて高校時代は個人戦で全国で一回戦に行けるかどうかの選手が、大学に入って全国の決勝まで行くというのは水面下では着々と選手強化が進んでいるということでもあります。志賀は日本代表になるぐらいの選手なので、他の選手が頑張っていないということではなくてその中で志賀が突出していたということでもあると思います。」
―また女子は4年生が青木前主将(経4)、望月前主務(環4)の2人だけという代でした
「2人だけの代ということで大変だったと思うのだけれども、一方で彼女たちが2人でタッグになって、また男女が一緒になってチーム作りをするようになったのが加藤元主将、佐藤元主将(共にH25卒)の代からで、練習も一緒にやるし一緒にチーム作りをするようになりました。昨年の代が2年目だったのですがすごく良い循環を示してくれるようになったので、そういった意味では2人というのを男子の方がカバーしたり4年生全体でカバーしてくれたと思っています。」
―ここから男女個々の試合を振り返っていきますが、男子は1年を通じてダブルス3本の好調が目立ちました
「まさにおっしゃる通りで、男子のダブルスの強化をすごいやってきてインカレのトップ8シードに3組入ったりとか今までそういうことはなかったんですよね。団体戦ではダブルスが最初に始まるということでキーになるので、そういった意味ではダブルスを強化することは絶対必要で、そこは意識していたのでそれが結果として出ています。先程志賀が突出しているという話がありましたけど、これもダブルスが強化されているので志賀以下の選手たちも本当に成長していると確信しています。」
―シングルスでは志賀選手以外あまり思うような結果が出なかったことについては
「ここがこれからチームの乗り越えるところだと思うんですけど、個人戦でコンスタントにベスト4や8に入ってくる選手が出てこないといけない。今はナンバー2以下がベスト8や16のあたりが最高なのでそこをどう強化していくかになるんですけど、今の新3年生、新4年生のあたりは下級生の頃からチームの中心でやってきた選手なので経験は積んできたから、ここから結果を出すところだと思うので、今年にはすごい期待しています。」
―女子は西本選手・池田選手(環2)もさることながら、3番手以下の躍進が光りましたが
「昨年新1年生として秋元(環1)・小林(環1)・安形(環1)の3人が入ってきて、派手な選手ではないんですけど地道にこつこつやる選手なので、そういった選手たちが入ってくることによってまた上級生に火がついて坂元(政2)だったり藤岡新主将(総3)だったりが頑張ってくれたので選手の層が徐々に厚くなってきて、今度4月から新たな1年生が3人入ってきて層がさらに厚くなるので楽しみですね。」
―今まで個人戦では結果が出ていましたが団体で全国に行けたことは1つ大きな収穫だったのでは
「そうですね。女子の場合はなかなか王座に行けなくて、2010年の伊藤元主将(H23卒)は専大に負けて3位で、その翌年は残留して一昨年は3位と王座に行けない時期が続いていて、そういった中で王座を経験できたということは、最終的な目標は王座優勝なので王座に出場しないと見えないものがどうしてもあって、優勝はできなかったですけど王座を経験できて関東では早大にあと1ポイントというところまできたので、さらに距離は縮まっているなと感じます。」
―昨年のベストゲームは
「男子は秋季リーグで早大に勝った試合ですね。女子に関しては関東リーグで早大にあと1ポイントと迫った試合ですね。ずっと打倒早大を目指してやってきているのでそこがベストゲームだったと思っています。個人に関してはインカレの女子ダブルスの決勝は慶大同士でしたし、1stセットは藤岡・安形組が取って最後は西本・池田組が逆転で勝ちましたが、1つのキーだったと思います。男子に関してはインカレインドア決勝の近藤・井上(善)組の試合がベストゲームだったと思います。また、志賀と西本というエースが学生代表になって、東アジア大会はプロも混じった中で日本代表に選ばれたので、そこに入ったというのは大きかったと思いますね。」
―チームとして1年を通じて変化した部分は
「チームの推進力というのが、キャプテンとエースが良かったのでチームがとても前に進んだなと感じました。そして勝つために必要だけどなかなか手をつけられなかった部分というものに選手たちが自らお互い本音で話し合って、個人の力を上げると共にチーム力を上げるというところを並行してやれたのが大きかったですね。」
―監督から見て一番成長した選手は
「男子は高田(環2)がインカレインドアで優勝した大城(早大)に秋季リーグで勝ったので、これは非常に大きな成長だったと思います。女子は安形が1年生でインカレ準優勝して、藤岡・安形は全国の決勝に行ったということは評価できるし、池田も三冠獲って西本も日本代表になりました。誰かというのはなくて、男子も志賀が日本代表になって井上(善)と近藤はインカレインドアで決勝に行っていますし、近藤は特にダブルスでコンスタントに決勝まで行っているので、そういった意味ではそのあたりの選手たちは伸びてくれましたね。」
―例えば井上(善)選手など高校時代に全国での実績があまり無かった選手が大学で全国トップクラスの結果を残せるようになる要因は
「まさに僕らは結果だけ出せば良いということを考えているわけではなくて、学生たちがどれだけ4年間で伸びるかということを大事にしているんですね。もちろんインカレ優勝、王座優勝が目標なんですけども、あくまで目標であって自分のテニスをどれだけ伸ばせるか、その伸ばすために、特に井上(善)はなぜ伸びたかというと、今までと違った努力や考え方、周りのサポートがあったから伸びたと思うんですよね。今までならインカレ出ても1、2回戦やベスト16まで行ければOKかなというのが正直な目標設定だったと思うんですよ。現にそうだったんですが、ただ僕が彼を見た時にものすごいポテンシャルが元々あったし、サービスの力や集中力の高さがあったんだけど、集中力が欠ける時や安心しちゃうところがあったからそのアップダウンさえ無くなれば必ず伸びるという確信があったので、それを彼に伝えました。彼も最初はそこをなかなか信じなかったんですけど、でもそこを彼が真摯に努力して自分の目標を高く設定したという彼の努力の結果だと思います。そういった選手が特に一貫教育校からこれから出てくることが今の目標で、女子だったら篠田(経3)とか出てきているので、彼らがチームに刺激を与えて結果的に優勝するという形が目指しているところです。」
―その井上(善)選手を筆頭に最近はダブルス陣が好調ですが、その要因は
「ダブルスの基本というものがあって、ダブルスはシングルスよりさらに確率の高いプレーが求められて、一発のエースだけじゃなくて駆け引きも重要になってくるので、ショットのクオリティーだけじゃないんですよね。そういった面でいうと半面ずつを守るので、しっかりとした戦略を持ってやれば仮にシングルスでは見劣りする選手でもそこはカバーすることができます。それをファーストサーブの確率とかストレートとクロスに打ち分けるリターンの駆け引きとかサービスのコースとかボールをネットのどこに通すのかとか確率の高いプレーに変えて意識して練習していたので、コンスタントに結果が出るプレーができるようになったと思います。」
―その結果として強豪校である早大や法大のペアに勝ちきる試合が増えました
「正直なところ、昨年は戦力でいえば早大、法大、明大と比べて慶大は基本的に層は薄くて、向こうは高校時代に全国のトップの選手たちがたくさんいるので、そこに勝つにはダブルスで勝負をかけてそこで取っていくというのが重要なのでそこは自分たちの戦略として欠かせない部分ですね。」
―そして志賀選手が今春の卒業を機にプロの世界へ飛び立っていきますが
「志賀については、今まで慶大からプロになったのは志賀の前が松永浩気(H19卒・三菱電機所属)、女子は渡邉廣乃(H23卒・サントピアテニスクラブ所属)と僕が監督になってからはその2人なんですけど、4年間かけて最初に大学に入った時から志賀はプロになりたいと言っていました。ただ志賀に言ってきたのは『どういうプロになりたいのか』と。入ってきた当初は全日本のランキングが20~30位ぐらいのプロになりたいと言っていて、僕はプロ野球やJリーグと比較してもすごいことだと思うんですけど、テニスの場合それだけだと食べていけないので、それこそウィンブルドンに出るとか世界100位に入る選手になることを目指さないのならプロは目指すべきじゃないという話は本人にしてきました。少しずつ彼の意識が変わってきて、日本代表にも選ばれるようになって、錦織圭選手(現世界ランキング15位)とも練習させてもらって、世界ランクが700位ぐらいになってきて準備ができたということと、契約できるスポンサーが見つかって、それはつまり志賀のことを評価して支援してくれるということで、僕としては無理矢理プロになったというよりも慶大庭球部としての悲願というかウィンブルドンを目指せる選手になってくれるという期待がものすごくあります。本人は引き続き慶大を拠点にツアーを回ると言っていて、学生にも良い影響を与えてくれますし、常にツアーで世界を回っても一度慶大に戻ってきて自分の原点を確認しながらツアーを回って欲しいと思っています。」
第2回では、自らトーナメントディレクターを務め、毎年日吉で行われている国際大会「慶應チャレンジャー」について、さらに日本の大学やプロテニス界の現状について、坂井監督の熱い思いをお届けします!
(取材・飯田駿斗)
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