【弓道男子】計48本、緊迫の競射! その結末は… 全関東学生弓道選手権大会

春シーズン最初の重要な試合である第45回全関東学生弓道選手権大会が、6月20日と21日に日本武道館で開催された。本大会は東京都リーグと関東リーグの大学が一堂に会し、例年白熱したトーナメントが展開される。各大学による迫力のある応援も魅力の一つだ。慶大男子が再び王座をつかむために、その試金石となる今大会。3回戦でインカレ覇者・明大と互角の戦いをみせ、計48本に及ぶハイレベルな競射が行われた。結果は1本に泣き、惜しくもベスト8に留まることに。全国選抜、インカレでの更なる飛躍に期待したい。  

 

第45回全関東学生弓道選手権大会  

 

6月20日(土)、21日(日)@日本武道館 

 

 

 ポジション 選手名 予選 2回戦 3回戦
大前(おおまえ) 日野浩明 (文2・慶應高) ○○
2番 小野和也 (法4・慶應高) ○×
3番 廣田将也 (法1・慶應湘南藤沢高) ○○
4番 稲熊渉 (総3・城北高) ○○
落(おち)前(まえ) 佐久間淳 (環3・慶應高) ○○ ×
落(おち) 村田賢祐 (法4・慶應高) ○○
合計 19 20 20 11
対戦校 高崎経済大 明大
15 20 11
※ 1回の試合で各選手4本の矢を放つ。トーナメントは2チームが同時に矢を放ち始める。男子団体は1チーム6人で構成され、計24本のうち的に中(あた)った本数の多いチームが勝ち進む。的中数が並んだ場合は、各自2本の計12本、それでも決着がつかない場合は、各自1本の計6本からなる一本競射が繰り返される。

 

 

昨年は東京都1部リーグで4戦全敗。入れ替え戦で早大に辛勝しなんとか長年守る都学1部の座を維持したものの、リーグ優勝・その後の王座奪還からは程遠い結果に終わっている。冬に新体制がスタートし、初めて迎える大きな公式戦が今大会だ。慶大は「選手が各自自信を持ち、部が一丸となって試合に臨むこと」(村田主将・法4)をテーマに臨んだ。3大会連続準決勝で敗れており、他の1部校の壁を越え、4年ぶりの団体優勝を果たすことが目標となる。

 

 

初めての全関東で大前を務め上げた日野

初めての全関東で大前を務め上げた日野

 

 

初日に行われた予選。全関東はアリーナ、飛び交う他校の矢声(応援の声)など普段の練習やリーグ戦とは大きく異なる環境で行われる。それでも稲熊(総3)の「いつもと違う環境でも、各自が良いところ悪いところを把握しつつ、普段通りできた」の言葉通り、落ち着いた射で19中をマークした。特に全関東初出場で大前を任される日野(文2)、ルーキー・廣田(法1)がスムーズに試合に入れたことは大きかった。着実にシード権をとり、日曜日の2回戦に進む。

 

 

 

 

ルーキーながら安定感が光った廣田

ルーキーながら安定感が光った廣田

トーナメント初戦となる、2回戦の相手は高崎経済大だ。前半12本を11中と貫禄を見せると、後半も相手を寄せ付けない。2人が留矢を抜いてしまったが、小野(法4)が皆中、佐久間(環3)、村田も連続皆中を出し堂々の20中。20対15と5本差をつける圧勝で3回戦に進んだ。

 

続く3回戦の相手は昨年のインカレ覇者・明大。早くも同じく1部校の強敵にあたってしまう。だが秋に来たるリーグ戦にむけ、現在の実力を測る絶好の機会でもある。「相手が中てても抜くまで食らい続けてやろう」(稲熊・総3)の意気込みで臨んだ慶大。引くペースの速い明大に常に先行される展開となるが、慶大も必死に後を追う。特に2本目を3人が抜いて苦しくなった中盤から、後半12本は11中にまとめた粘り強さは秀逸だった。これも昨年から一貫して相手いかんに関わらず「自分のやることを貫こう」と練習してきた成果だろう。その結果、外したら即負けとなる展開で留矢を全員が的中させ20対20で同中。勝負は競射にもつれこむ。

 

競射前に円陣を組む慶大

競射前に円陣を組む慶大

競射前に鈴木監督から「我慢比べだね」と声をかけられた選手たち。村田主将はあえて「緊迫した場面でも自分と向き合って、普段通りに引いてほしい」と、明大よりも遅く引き始めることを選択した。1本抜くとそれが負けに直結する競射では、当然先行する側に精神的余裕が生じる。それでも今後の成長を促すべく、険しい道を選ぶと主将は決断した。行射開始の合図とともに的中を重ねる明大と、円陣を組みゆっくりと始める慶大。対称的な姿勢である。計12本の一手(1人2本)競射は11対11で再び同中。ここからは計6本の一本競射となる。さらに増す緊張感。皆中で終える明大に対し、慶大も抜けば負けの勝負矢を全て詰めていった。終わらない競射の応酬に、会場はどよめき拍手が鳴りやまない。ついに3度目の競射に突入する。再び皆中の明大、ここで慶大は1本及ばなかった。計48本、合わせて42対43、20分に及ぶ大熱戦に盛大な拍手が送られた。

 

明大(右手前)との競射に挑む慶大選手6人

明大(右手前)との競射に挑む慶大選手6人

「競射になってそれだけ楽しめた」(小野)、「大変で、死にそうでした」(日野)…。選手の口からは多様な感想が飛び出した。だが全員自身に満ちた表情で大会を振り返った。それも強敵相手に臆さず、自分の射を貫けた、という手応えをつかんだこその表情だろう。もちろん「課題は体配」(鈴木監督)の指摘通り、大一番に慣れ先行できる明大に対し、不利な状況で勝負せざるを得なかったのは事実だ。射の安定感・一定感でわずかに及ばなかった点もあるかもしれない。選手がこの競射で得た経験は非常に大きいはずだ。またルーキー・廣田が明大戦で全て的中させ、大前の日野が奮闘し、個人戦にも3人の下級生が出場した。上級生にも力を蓄え、試合に出る準備を整えている選手が大勢控えている。選手層が増し、一段と勝負強くなった慶大がみせる快進撃に期待したい。

 

個人戦…村田6位入賞!

 

選手名 射詰(尺二) 射詰(八寸) 2位~6位 遠近競射
廣田将也 (法1・慶應湘南藤沢高) ×
恩田悠暉 (政2・慶應志木高) ○×
蜂谷康一郎 (商2・都立桜修館中等教育学校) ○×
菅谷脩 (法3  韮山高) ○×
村田賢祐 (法4・慶應高) ○○○ ○○○○○×
※射詰…サドンデス形式で各選手順番に矢を放っていく試合形式。

3本目までは尺二(36cm)の的、4本目以降は八寸(24cm)の的を使用する。

順位決定は同じ的を狙い、中心に近い順に順位を決定する遠近競射が行われた。

 

 団体戦終了後、会場では個人戦が行われた。慶大男子は6月14日に行われた個人予選の結果、廣田(法1)、恩田(政2)、蜂谷(商2)、菅谷(法3)、村田(法4)の5選手が出場した。個人戦は射詰形式で行われ、最後の全関個人戦に挑む村田が自身も「正直びっくりした」という奮闘ぶりをみせた。通常の尺二的を難なく通過すると、八寸的でもその安定感は失われない。一定の射で的の中心を捉え続ける。だが周りも日本トップクラスの猛者たちである。面積が通常の半分以下の八寸的も苦にしない。迎えた八寸6本目、いよいよ疲れが出たか一気に多くの選手が脱落してしまう。村田の矢も9時方向にわずかに抜けた。結局6本目を中てたのは優勝した明大・柿崎のみ。他大の選手も共に輪になって彼の個人優勝を祝う様子は、学生弓道の素晴らしさを感じさせた。

落からチームを鼓舞し続けた村田主将

落からチームを鼓舞し続けた村田主将

 

監督、選手のコメント

 

  鈴木清久監督

(今大会をふりかえって)残念な結果でしたけれども、部員は一生懸命頑張ってくれましたし、男女ともに確実に上達はしてくれているなと思います。これをきっかけに来週の選抜と8月の全日本、そしてリーグ戦につなげていくのが我々の使命だと思っています。(男子は明治大学と壮絶な戦い、競射になったときはどのような声かけを選手にしていたか)「もう我慢比べだね」ということでした。やはり明治の方が大会慣れしていて、引くスピードが早かった。どうしても後からになってしまったので、我々は体配でまだ報いるところがあったと思っています。(スピードが遅かったのは作戦ではなかったということか)作戦というよりも、そういう選択をせざるをえなかったということです。彼らのほうが早いのは元々わかっていたので、逆に我々はゆっくり自分たちのペースでやっていたが、やはりプレッシャーはかかってしまうので。修正すべきところは修正し、貫くところは貫いていくということです。(収穫と課題は)収穫は、男女ともに(選手として)かなりの人数が揃ってきたところです。男子にかんしては1年生から4年生まで、今日出ていたメンバー以外にも練習に付き合ってくれていた2年生、3年生が相当発奮してくれていますのでそれが成果だと思います。反省点は先ほどの体配ですね。どうしても今のやり方だと遅くなってしまって、一本競射の場合にプレッシャーがかかってしまうので、それをどのように組み立てるかというところだと思います。(全国選抜にむけて)やることは変わらないので、選抜に向けて修正は必要ないと思っています。あとはいかに貫き通していけるかというところです。女子の場合は、自信は今大会でそれなりに持ってくれていると思うので、安定感を強化していってくれればと思います。

 

村田賢祐主将(法4)

(今大会に向けてチームとして設定したテーマは何か)2点あります。まずは選手一人一人が自信を持って試合に臨む事、それと部として一丸となって試合に臨む事です。練習から、辛い練習をしましたが、みんなでその練習をやる意味は何か、そしてそもそもなぜ優勝を目指しているのかっていうところから共有して練習していました。(明大戦で引きながらの感触は)悪くなかったですし、ひょっとしたら勝てるのでは無いかと思っていました。(競射前にチームへ話したことは)普段の練習と同じ事をやろう、という点と、一人一人が自分のやる事に徹する事がチームとしての力になる、という事です。どんな状況でも自分と向き合って、普段通りに引いて欲しかったのが狙いです。もちろん全関は勝たなきゃいけない試合ですが、まだまだ試合は続くので、今後の成長をより促す為にもあのタイミングで引いてもらいました。(ベスト8の結果から得たことは)選手一人一人の顔つきが変わった事です。以前は強い大学と当たると、ネームバリューというか勝手な先入観を持ってしまう人が多かったです。でも今は断固として違うと思います。みんな、自分のやることに徹しようと思う事が強くなって、部として慶應としての強さを身につけた気がします。(全国選抜へむけて)結果はもちろん優勝を狙います。ただ、勝負は時の運な所もあるので、選手一人一人がさらに成長できるような試合にしたいです。(個人戦は惜しいところまで行きましたね)個人戦は正直あそこまでいくとは思っていなかったので正直びっくりしました。でも疲労がたまっている状態でもある程度のパフォーマンスを出す事ができたのは自分としての収穫です。インカレも個人戦があるので、次は優勝します。

 

小野和也(法4)

(今日の試合を振り返って)楽しかったです。(今日までどのような練習を積んできたか)ひたすら決勝戦で引くイメージをしながら引いてきて、実際に引くことは出来なかったのですが、みんな本当によく頑張ってくれたと思います。(今大会自分の中でテーマを持って臨んだか)決勝戦で4を出すというテーマを持って引いてみました。(明治とは競射までもつれこみましたが)もちろん競射にならない方が良いのですが、競射になってそれだけ楽しめたと思います。(来週の全国選抜に向けて)来週も結果はどうなるかわからないですが、同じように自分の持った矢をしっかり引いてくるというのを徹底して結果がついてきたらいいなと思っています。

 

稲熊渉(総3)

(今大会を振り返って)優勝を狙っていて練習のときから24射すべて中てよう一丸となってできていたので、そのあたりが本番でできていないという部分が大きかったですね。そういう意味では不甲斐ない結果となってしまったのですが、全員同じ方向に進んでいるということが感じられたので、次につながるよいところだったかなと思います。(大会までの練習について)トーナメントのレベルが昨年に続いて今年も高いことが予想されたので、19、20、21では相手もそのくらいの的中を出してくるだろうと思い競射の練習をしていました。そこで自分達を追い込むことを意識していました。(スムーズに決勝トーナメント進出を決めたが)これは部員が気をつけていたことでもあり、村田主将がおっしゃっていた「中てるより先に自分がこの大会に向けてやってきたことをやりきる」ことを各自が行えたので、緊張感がありいつもと違う環境でも普段通り自分のよいところ、悪いところを把握しつつ練習通りできたことが通過につながったと思います。(明治戦は白熱した試合でしたね)練習試合で2度くらい戦っていた相手なので、相手がどんな相手かをもちろん分かりながら引いていたのですが、まずは自分がやるべきことを愚直にやり続けようという話で円陣など組んでいましたし、相手が中てても抜くまで食らい続けてやろうという気持ちで試合に臨んでいました。一歩及びませんでしたが、低的中で争っていたわけではないので、次につながればいいかなという感じです。(全国選抜に向けての意気込み)いつも目指すところは日本一だったり、優勝だったりそこを目指して練習しているので、負けてしまったというのもただ負けてしまったでは終わらせず、しっかり反省してまた前を向いて進んでいけたらなと思います。来週はしっかり優勝を取ります!

 

日野浩明(文2)

(今日の振り返り)予選は4だったのですが、昨日よりもそこまで緊張しない中で3、3だったのはそこまで良くなかったかなと思います。競射で自分が詰められたのは良かったと思います。(初めての全関、何を考えて引いたか)自分が抜いて負けたら絶対嫌だなと思って引いていました。(3、3という結果は全関独特の緊張感によるものだったのか)僕がやるべき事を100%やらずに離したところもあって抜いたような感じで、もう少し練習が必要でしたね。(それは普段の練習があまりできていなかったということか)アリーナで練習はできないので、普段の練習からイメージして引いていたのですが、もっと細部まで考えて引けば良かったなと思います。(大前での起用だったが)春シーズン中盤からずっと大前だったので、慣れた場所で、引く場所にこだわりは無かったです。でも自分の好きな場所で引くことができたという感じです。(明治戦では白熱した競射、どのような心境だったか)大変で、死にそうでした。ただ足がガタガタという感じではなかったです。(選抜に向けて反省と収穫)5人制の試合で枠が減って的中が高くなる中で、自分も今回の試合を活かしてもう一段階1本を詰めて、持った4本を全て中てられるように一週間調整していきたいです。

 

廣田将也(法1)

(今日の振り返り)チームスポーツなので、人を助け合って仲間を信じてできたのは良かったのですが、結果的に負けてしまったので。負けからは何も生まれないと思うので、次は勝てるように全員で調整して、また上を目指していきたいと思います。(初めての全関、どうだったか)とても貴重な経験ができました。ぼくにとってはリーグ戦よりも全関を一番のメインの試合、春シーズンの集大成に自分が出ることができたのは本当に良かったですし、一応結果を残すこともできたので、そこは自分の経験にもなりましたし、リーグ戦に向けて大きな一歩を踏み出せたと思います。(高校との違いは)周りのレベルが全く違うので。高校の時は中れば勝つ、しかし大学では中たっても勝てない、抜かなければ勝つので、中てるというよりも抜かないというスタンスが全くの別物でした。(明治戦では一本も抜かなかったが、振り返って)本当に時の運だと思います。実力自体は一番下ですので、それでも抜かなかったのは時の運ですし、日頃の行いが良かったのかは分からないですけど、運が僕を味方したと思いますし、そのあたりは絶対抜かないぞという強い気持ちを持てたので良かったと思います。(個人戦は初矢を抜いてしまったが、違いは)完全に射技が足りなかったという面と、気持ちが浮かれてしまっていたというところに二つの反省点があったと思います。(1年生の中で唯一の起用、期待されているのでは)期待してくださっているとは思いますし、現状で一番中たっていたので使っていただいて、期待もそうですし、的中や実際の数値がそう示したので、えこひいきではなく、自分の努力や実力が良かったのだと捉えています。(今後に向けて意気込み)本当にいい経験ができて大きな一歩を踏み出せたと思いますし、自分の努力が他校のセレクション勢や強豪にも及ばないものではないと実感できたので、努力を続け、必ずやリーグ戦で今日負けた人たちを倒して、必ず王座にいって優勝したいと思います。                                                                                                                                                                                  (記事 砂川昌輝)  

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