【水球】後輩に託された4年生の想い 日本選手権最終予選会

 %e8%a8%98%e4%ba%8b%e3%81%ae%e8%a1%a8%e7%b4%999月18日。この日が慶大水球部にとって一つの区切りの日となった。創部101年目の歴史を刻んだ4年生の引退は、日本選手権最終予選2日目、秀明栄光高校との一戦となった。その前に行われたインカレでは、ベスト4を目標に掲げたものの初戦でまさかの王者日体大と対戦、運にも突き放され完敗を喫する。そして臨んだ日本選手権最終予選、負ければ今シーズンの戦いが終了となる今大会で1回戦は広島水球クラブ相手に力の差を見せつけ、インカレの悔しさを晴らすかのように15-5で完勝する。しかし迎えた第2戦、今年のインターハイで準優勝を果たした秀明英光高校に地力の差を見せつけられ、5-18で敗戦。2016年度シーズンの慶大の戦いは幕を閉じた。5ゴールを決めたのはいずれも今後の慶大水球部を引っ張っていく井上翔太(商2)と吉澤尚史(法1)だ。「今後の水球部は俺たちが引っ張る」そんな世代交代の兆しと覚悟が伝わる試合でもあった。「今年の水球部は強い」そう周りから期待され実力が認められた4年生の引退とともに、果たせなかった勝利は頼もしい後輩に託された。

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日体大戦に挑む慶大

 慶大水球部の秋シーズンに向けた戦いは、夏休みから始動した。これまで以上に水球と向き合い続ける日々の中で、9月2日に行われたインカレではベスト4という目標を掲げた。迎えた初戦、慶大の相手は絶対的王者日体大だった。リオオリンピック代表に選ばれた選手も先発で出場し、慶大相手に王者日体大は本気で挑んできた。結果は1-21、第3ピリオドでのコールド負けだった。まさに王者の実力を見せつけられた試合、主将の小沢鷹士(経4)は「僕がボールを持ったら、他の5人のフィールダーの中で絶対に誰か空いていてそこに出せるのに、今日は全部パスコースに入られていた」とその強さを改めて実感した。「まだ僕は日体大と対戦したことがなく、これくらいだろうと予想しながら練習していたが、僕らの想像を超えて強かった」(吉澤)「相手に対して自分の力がある程度通用するということが分かった中で、負けてしまったというのが本当に悔しくて残念でしょうがない」(熊谷)と選手が口々に語るように、その強さはまさに日本一だった。しかし9月17日に迎える日本選手権最終予選会に向けて、この試合を自分たちの強さに繋がる経験として前向きに捉える姿もあった。この試合、唯一の得点を決めた井上拓也(商4)は「今までやってきたことに自信を持って、日本選手権予選で全力を出し切れるように頑張りたい。後輩がこういう4年生になりたいなと思ってもらえるプレーができるように1つずつ頑張っていきたい」と新たな戦いへ向けて仕切り直した。

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広島水球クラブ戦、4得点をあげた井上翔

 迎えた9月17日の日本選手権最終予選会1日目。初戦の相手は広島水球クラブだった。1年生エース吉澤の先制ゴールで勢いに乗ると、その後も木村亮太(法4)が立て続けに2ゴールを決め、相手を圧倒する。終始実力の差を見せつけた慶大が7人で計15得点をたたき出し、危なげなく初戦を突破した。試合中盤から大量に選手を入れ替え、今後慶大の守護神となる1年生GKの岩佐悠平(商1)も途中出場を果たし、来シーズンの新慶大水球部への期待が膨らむ試合にもなった。

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広島水球クラブ戦、デビューを果たした1年生岩佐

2016年9月18日(日) 日本選手権最終予選会2回戦 VS秀明英光高校

@大宮公園プール

得点

1P

2P

3P

4P

合計

慶大

1

1

0

3

5

秀明

3

4

6

5

18

得点者(慶大のみ)井上翔4、吉澤1

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守備で貢献する小沢

そして迎えた運命の第2戦。相手は今年のインターハイで準優勝を果たした秀明英光高校だ。試合開始のホイッスルとともにセンターボールを獲得したのは秀明。序盤なかなかボールが落ち着かない中で相手選手が退水し、慶大に最初のチャンスが訪れる。味方のパスからゴール前に出た井上翔が豪快なシュートを決め、チャンスを逃すことなく先制した。その後も一進一退の攻防が続く。両チームの応援団も熱を帯び始め、試合会場に声援が響いた。第1ピリオドを1-3と2点ビハインド折り返すと、続く第2ピリオド、秀明が徐々に調子を上げてくる。開始早々慶大ゴールに襲いかかり、1分ほどで2ゴールを決められてしまう。慶大の守護神、熊谷のナイスセーブでさらなる秀明の猛攻を防ぐ場面もあったが、慶大のシュートも精彩を欠き、なかなか得点差を縮めることができない。結局、第2・第3ピリオドで相手に突き放され、13-2の11点ビハインドで最終ピリオドを迎えた。勝利の二文字が遠のく中で、慶大1・2年生エースが最後に底力を見せる。慶大がこの日初めてセンターボールを取り試合が始まると、相手に15点目を取られた直後、井上翔がゴールを決める。さらにその後も満足する様子なくこの試合1人で4得点を上げ、来シーズンからチームを勝たせる立場になる自覚がプレーに滲んでいた。また試合終了間際には、期待の1年生エース吉澤が意地のゴールを決め、5-18という結果で2016年度の慶大水球部の戦いに終了のホイッスルが鳴った。

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慶大の守護神熊谷

 試合終了後、慶大の応援席の前で「4年間ありがとうございました」とあいさつした選手たちに、家族やOB、そしてこれまで様々な形で水球部を支え、一員となって戦ってきた主務、副務、マネージャーから健闘を讃える拍手が送られた。試合に負けた悔しさの中に、これまで多くの人に支えられ水球を続けてくることができた充実感が漂い、慶大の2016年シーズンは笑顔で締めくくられた。

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秀明英光高校戦に挑んだ慶大

 試合後、インタビューをした4年生からは後輩への期待が、そして下級生からは4年生への敬意と感謝の気持ちが語られた。主将としてプレーだけでなく精神的な支柱としてもチームを牽引してきた小沢は後輩に「1日1日どんどん過ぎていくから、時間は本当にないよということを伝えたい。あとは結果にこだわって、言い訳をせずに頑張って欲しい」と言葉に期待を込めた。また誰よりも声を出し、チームを一番後ろから支えたGKの熊谷は、17日の試合にも出場した1年生GKの岩佐に「彼は本当に体格に恵まれているので、慶應という枠に収まらず、世代別の代表や代表合宿に呼ばれるぐらい活躍してほしいし、彼ならできると思う」と後輩に勝利を託した。一方エースとして4年生と共に戦ってきた井上翔は「水球を始めて、まだ何もできない僕を丁寧に優しく教えてくださったのが今の4年生。5年間もお世話になって本当に感謝でいっぱい」とこれまでを振り返った。

 水球と聞くと競技人口の少なさ等から日本では未だマイナースポーツと枠付けされ、試合を見たことがある人は少ないかもしれない。しかし一度水球という競技を目の当たりにすると、水の上で繰り広げられる戦いの迫力と激しさに圧倒され、そして魅了される。終始泳ぎを止めることなく戦い続ける選手を思うと、こんなに体力・精神ともに追い込まれる競技はあるのかとその過酷さに驚きを隠せない。そんな水球という競技と、少なくとも大学4年間かけて向き合い、そして続けてきたことに何にも代え難い価値があることを今年の4年生が体現していた。またこの4年生の引退は、同時に慶大水球部にとって新シーズンの始まりを意味する。家族のような温かいチームを築いた4年生の面影を感じながら、悲願とも言える早慶戦勝利に向けて、勝利にこだわる2017年度の新たな水球部の戦いがいよいよ幕を開ける。

(記事:長田ゆり)

小沢鷹士主将(経4)

(今日で4年間の水球生活に一区切りつきましたが、今の率直な気持ちはいかがですか)結果にすごくこだわってやってきたから、最後はくじ運もあるけど、きちんとした結果を残すことができなくて本当に残念ですね。インカレは上位ベスト4を目指していた中で、その可能性も全然あったので、余計悔しいですね。(主将として4年生になってからはチームの精神的な支柱にもなっていたと思いますが、一番苦労したことは何でしたか)このチームは結構波があったので、常に試合で全力を出すためには、全員が水球を気持ち良くやることが大切だと思っていたので、しょうもないミスをしないとか、当たり前のことを当たり前にやれるチームにするために、基礎練習とかをしっかりやってきたことが結構つらかったですね。(負ければ引退のこの試合に向けて、小沢選手はどのようにチームを鼓舞してきましたか)僕らは相手の秀明高校みたいに小学校から水球をやってきたエリートではないけど、そういう相手に負けないぐらい4年間練習してきたし、そこに自信をもってやりましょうという風にチームに声をかけました。(主将として、プレッシャーがかかる日々から今日で一回解放されましたが)プレッシャーから解放されたというよりも、自分が好きなことをやっていただけだったから、好きなことに気持ちを注いでいただけだから、プレッシャーから解放されたという気持ちはないです。むしろ自分が人生において打ち込める大切なものが一つ無くなってしまったのは残念ですね。(チームの中で主将として常にどういう存在でいようと心がけましたか)僕は攻撃もディフェンスも常にみんなの見える位置にいるし、困ったときには常に小沢さんの方を見てどうにかしようと思ってもらえるような、プレーだけではなくて私生活の面でも模範になれるように心がけていました。(先ほど吉澤選手や井上選手にインタビューした際に、こういう先輩になりたいと思える4年生でしたと言っていましたが、後輩に託すこと、想いを教えてください)1日1日どんどん過ぎていくから、時間は本当にないよということを伝えたいですね。1日はどんなことがあっても絶対に過ぎていくし、その1日の中で一瞬、練習で気を抜いただけでもその積み重ねで時間は過ぎていくから、本当に時間はないよということを伝えたいです。あとは結果にこだわって、自分たちは水球エリートじゃないからとか7年しか水球できないとか言い訳をせずに頑張って欲しいなと思います。

谷川展大副将(法4)

(今日の試合を振り返って)実力で勝てなかったなというのを実感しました。相手は小さい頃から水球を続けている水球エリートが集まったチームなんですけど、そのチーム相手に1対1では負けなかったとしてもスピードで負けたり、球際の勝負で負けてしまったりして、このような点差になってしまったのかなと思います。(負ければ引退というこの試合に4年生として、副将としてどのような思いで臨みましたか) 相手が高校生で、自分たちは大学生として、関東で1部6位をとったチームとしてすごくプライドがあったので、絶対負けたくないなという気持ちで臨みました。でも結果は残念ながらあれだけの点差がついて負けてしまったので、本当に悔しいです。(副将として、チームでの役割も非常に大きかったのではないかなと思いますが、チームでどういう存在でいたいなと思っていましたか)一番考えていたのは、主将の小沢がやっていないところを補たらと思っていました。小沢はフローターバックで守備を中心にやっていて、晶もゴールキーパーで守備をやっていたので、僕は攻撃の面で支えられればいいと思っていましたし、小沢も晶も内部生ということで、僕は大学から慶應に入ったので、新しい風を吹きこめたらいいなと思って、そこを特に意識して取り組んでいました。(先ほど吉澤選手にお話を聞いたときに、こういう先輩になりたいと思わせてくれる4年生でしたというお話も聞いたのですが、これから水球部を引き継ぐ後輩に向けて期待することはありますか)この1年間本当に下級生の活躍に支えられてきたと思っているので、その下級生にもちろん期待もしていますし、もしかしたら水球のルールが変わるかもしれないという可能性もあるんですけど、そういう中で本当にどうやったらチームが強くなるのか、早稲田に勝つことができるのかを考えて結果を残して欲しいなと思います。

 

熊谷晶選手(環4

(今日の試合で水球生活に一区切りつきました。今の率直な気持ちは)実感は全然沸いていないですけど、これで終わっちゃったなというふうには思っています。(昨日の試合は大勝でしたが、コーチ陣、熊谷選手含め納得していない表情が印象的でした)昨日は本当に頭の悪い水球をしたなというイメージがあって、周りが見えていなかったり、カバーするところ、攻めるところ、自分が行かなくてはいけないところで全然いけなかった印象でした。点数的には全然余裕のある試合でしたけど、内容的には今シーズン一番と言ってもいいほど悪い試合だったので、そこを修正していかなければダメだなと思っていました。(今日の試合は昨日の試合から活かせた部分もありましたか)昨日とは全然タイプも実力も違う相手で、相手がどのような攻撃をしてくるかはある程度想定できてはいたんですけど、わかっていながらも対応できなかった部分もありますし、自分たちの実力も及んでいなかったのかなと感じました。(これまでお話しを聞いていた中で、熊谷選手の水球に対する思いはとても強いなと感じていました。これまで4年間の水球生活を振り返ってみていかがですか)本当にこの4年間は悔しい思いしかしていなくて、ずっと頑張っていれば、いい思いができるというのを小学校中学校で学んだはずだったんですけど、結局自分の努力が至らなくて、あとちょっとのところで世代別の代表を取り損ねたり、あとちょっとのところで早慶戦も勝てなかったり、本当にそのあとちょっとが埋まらない。あとちょっとが埋まらなかった4年間、もっと水球に色々頑張っていれば、水球をメインに他のことを犠牲にしていればもっと違う結果を残せたんじゃないかなっていう、ただ悔しいっていう気持ちでしかないです。(同期の4年生と一緒に戦えたことについては)本当にたくさん迷惑をかけてきたんですけど、そんな中で色々話しを聞いてもらったり、自分が自分勝手にできたっていうのもみんなの協力があったからだと思うので、本当にそこは感謝しています。(昨日の試合には1年生で熊谷選手のあとを引き継ぐ岩佐選手も出ていましたが、彼に今後期待することは)彼は身長も僕よりありますし、今日本で一番身長のあるキーパーは彼だと思います。日本人はなかなか体格に恵まれていないって言われる中でも、彼は本当に体格に恵まれていて、外国人とも遜色ないようなゴールキーパーなので慶應という枠に収まらず本当に高いところ、それこそ世代別の代表であったり、代表合宿に呼ばれるようなポテンシャルは持っているので、彼自身がもっと練習に集中して、高い目標を持って頑張ってくれればそこに行き着くことも全然不可能ではないと思うので、彼ならできると思っているので、そこは期待していなと思いますね。

井上翔太選手(商2

(今日の試合を振り返って、ご自身は4得点を挙げましたが) 自分の得点よりもチームが勝つこと第一で、4年生が最後引退かかった試合で相手は高校生だったので、勝たなくてはならない相手だったんですけど、大差で負けてしまい4年生には申し訳ない気持ちでいっぱいです。(今日で4年生が引退して、エースとして来年からは今以上の活躍を期待されているが、改めてこれからチームの中でどのような存在になっていきたいか)チームの中心であることは変わりないという自覚はあるので、今までのプレースタイルは変えないつもりですけど、今まで以上に責任を持って、後輩もまた増えるのでキャプテンに負担をかけずに、自分が少しでもチームを引っ張っていけるようにみんなを鼓舞していきたいなと思います。(短期間のインタビューの中で、井上選手と4年生の絆を強く感じましたが、改めて井上選手にとって4年生の存在はどのようなものでしたか)僕がちょうど水球を始めたのが高校1年生で、そのときに高校3年生だったのが今の大学4年生でした。水球を始めて、まだ何もできない僕を丁寧に優しく教えてくださったのが今の4年生だったので、その時の方たちがまだたくさん残っていたので、やっぱり高校からの絆は大きいので、5年間お世話になって、本当に感謝でいっぱいです。(最後に来シーズンの目標を教えてください)チームとしては早慶戦勝利っていう目標は変わらずに、関東学生リーグでは今季6位になったので、来年は一つ上の5位を目標にして、インカレはベスト4を目標に頑張りたいと思います。個人としても関東学生リーグで、いま2年連続でタイトルを取っているので、今年も得点王を狙っていけるように頑張りたいと思います。

吉澤尚史選手(法1)

(今シーズン最後の試合になりましたが)最初はこんなもんかと思ったんですけど、後半からだんだん崩れてきて気持ちも切れてきて、まずいなと思ったんですけど、そこでどんどん決められてしまって、日体大のときのような敗戦になってしまいました。(最後粘って、吉澤選手がゴールを決めましたが)4年生の引退なので、最後せめて4ピリオドぐらいは相手と競ろうと思っていたのでゴールできて良かったです。(4年生が、今後は吉澤選手もチームを引っ張っていく存在になると言っていましたが、これから自分はチームの中でどんな存在になっていきたいですか)井上翔太選手がしっかりシュートを決めてくれるので、だいたい水球は2人強い選手がいればチームは強くなるので、他の大学負けないようなコンビになって勝っていきたいと思います。(最後に、吉澤選手にとって4年生はどのような存在でしたか)僕は高校の時から試合に出させてもらったんですけど、その時から存在が大きくて、プレーももちろんですけど、普段の練習から締めるところは締めて、ふざけるときはふざけてっていう姿が、尊敬できる部分が多くて、僕の人生の中でこういう大人になれたらいいなっていう、こういう先輩になれたらいいなって思わせてくれた人たちで、本当にこの部活に入って良かったなっていつも思っていました。

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