昨季は団体戦で男女ともに王座出場権を逃し、悔しい思いをした慶大庭球部。しかし、逸﨑凱人(環3・大阪産業大付属高)・畠山成冴(環3・湘南工大付属高)組がインカレ、インカレ室内でダブルス2冠を達成すると、今季主将を務める上杉海斗(環4・清風高)もインカレ室内で見事シングルス優勝を果たした。女子も全国大会出場者が増え、戦力の底上げに手ごたえを感じるシーズンとなった。だからこそ、迎える今季は「大学テニス界に慶大あり」を示したい。慶大庭球部の野望とは?初回は就任12年目を迎えた坂井利彰監督に意気込みをうかがった。
新体制、感じる手応え
(昨季を振り返って)
団体戦では関東1部リーグで男女ともに3位で惜しくも全国王座出場を逃して悔しい気持ちが強かったですが、個人戦ではインカレとインカレインドアで両方全国タイトルを取ったことは大きな自信になりましたね。この4年間で全国タイトルは4年連続で取れていて、男女単複全てのタイトルを取ることができました。慶應の中で全国タイトルを取るノウハウが溜まってきているのを部員は感じています。そして部としても全体的に選手の層が厚くなってきているし、レベルが確実に上がってきているので、部内での競争意識も高まっています。とにかくプレッシャーがかかる中で全力を尽くしてくれた部員たちに敬意を表したいと思います。
(昨季を通じて得られた課題は)
団体戦では全国タイトルを取った選手もいる中、他校に比べて層が薄かったので、特定の選手にプレッシャーが掛かりやすくなってしまいました。団体戦の仕組みとして層が薄いと連戦で特定の選手の体力消耗とプレッシャーは大きくなりますので、一部の選手に負担を掛けてしまったと思います。ただし、今シーズンに向けては層が厚くなっていることは大きな収穫です。
メンバーとして試合に出ていない選手は体調管理やトレーニングのサポート、戦力分析などあらゆるサポートをしてくれているので、チームとして成熟してきていて、みんなが自分の役割をわかってくれています。
(男子のリーグ、早大戦が印象深いが)
ダブルスをリードで折り返して、シングルス下位の畠山もファイナルセット4-6で負けてしまいましたが、あの試合に勝っていたら一気に流れが来たと思うし、チームとしても手応えを感じた1戦でした。
(早大を意識することが日本一を意識することという認識なのか)
その意識は変わってきました。早稲田とは切磋琢磨して戦うことは大事ですが、それよりも自分たちのレベルを一歩一歩上げていくことが大事です。慶應チャレンジャーを開催して世界のレベルを見たり、世界トップコーチに指導してもらったり、世界ランク入りしている選手も出てきているので学生たちの目線は確実に上がってきていると思います。
(今季主将を務める2人について)
上杉にしても江代にしてもチームのエースであり、精神的な支柱です。特に昨シーズンは誰よりも悔しい経験をしたから今シーズンに掛ける思いは強いはずです。最近の練習でもものすごい気迫で練習を引っ張っていたので他の部員も変化に驚いたと思います。とても楽しみにしています。
(その他最上級生については)
学生連盟の理事長として責任持って運営をしている学生もいるし、慶應チャレンジャーの運営でも様々な部門でリーダーシップを発揮してくれています。冷静に自分たちの頭で考えて動いてチームを運営してくれているのでとても頼もしいです。
(昨年の四年生と違う点は)
毎年4年生の個性はそれぞれあるので比較は難しいです。違う点というよりも昨年の4年生の伝えてくれたものを継承している部分が多くあると思います。
(監督の中で、どういうチームにしたいか、理想はあるか)
今シーズンの新4年生が実践してくれているように自立したチームが理想です。テニスは個人競技ですが、部では個人戦と団体戦の両方を大事にしています。そのためには個人戦も頑張りながら団体の中での役割を認識することが大事です。そして1人1人が競技テニスをとことん極めて欲しいです。1つ1つのテクニックが緊張した場面でどのように活かされるのか、自分のプレースタイルをどのように作り上げていくのか、どのような戦略を立てると相手に効果的か、様々な観点を深めてほしいです。
(団体戦を経験した下級生が多いというのはチームにとっても大きいと思います)
戦力の話で言うと、下級生の時から団体戦を経験している選手が多いのはとても大きいです。団体戦におけるプレッシャーの乗り越え方は経験して理解できることも大きいです。
「常に強い慶應庭球部でありたい」
(逸﨑・畠山組が全国2冠、与える影響は)
様々な面で大きいです。普段一緒に練習している選手が全国タイトルを取るということは普段から取り組んでいることに間違いがないという確信につながります。また、全国タイトルを取った選手と常に練習できることは周りの選手のレベルを上げていくことにも繋がります。様々な相乗効果があります。
(監督がチームを指導する上で意識していることは)
彼らは学生で勉強が本分なので、勉強、テニス、プライベートをバランスよく学生生活を送ってほしいと考えています。コーチングスタッフとしても早くスケジュールを決めて時間を確保してあげることを意識しています。テニスの面では、気持ちの強さや度胸、自分の武器をしっかりと理解させて意識を持っていける選手が勝負強い選手になるので、そこをどう伸ばしていくか。そのあたりを考えています。
(監督になって、12年目になります。この間に2部からスタートして王座にも絡むようになったが、次の10年をどうしたいか、理想はありますか?)
関東2部リーグから1部リーグに復帰するのがとても大変でした。男子は1年間で上がれましたが女子は3年間かかりました。常に強い慶應庭球部でありたいです。そして常に慶應庭球部の原点を大切にしたいです。リオ五輪で銅メダルを獲得した錦織圭選手の96年前に銀メダルを獲得したのが我々の先輩である熊谷一弥先輩はここの蝮谷テニスコートで日々練習をされていた。そして、このスタンドから小泉信三先生が指導されていた。そのことを思うと日々身が引き締まります。そういう原点を大切にしたいです。強い選手を輩出することも大事だし、4年間でテニスを通して色んな辛いことや上手くいかないことを乗り越えて達成する喜びやチームワークを学んで社会に出ていくことが使命だと思っています。もちろんこの中からウィンブルドンで活躍する選手が出るということも夢です。
(慶應チャレンジャーも今後10年で大きくなると思いますか?)
今年から女子大会も開催します。大会予算2000万円を部員と一緒に切り盛りするのは小さな会社を運営することに似ています。クラウドファンディングや様々な工夫で収入を得ながら、選手への大会賞金など様々な支出を捻出するのは貴重な経験です。何より海外選手や関係者とのやり取りの中で国際経験も得られます。継続することが日本のテニス界にとっても、学生の成長にとっても大事なことだと思います。
(慶應だからできることでは?)
他の大学のことはわかりませんが、真摯に取り組んでくれる学生がいるから大会も運営できるし、部も活動できるので、部員の志ありきだと思っているので学生にはとても感謝しています。
(最後に今シーズンの目標を)
部員が自信を持ってベストプレーができる環境を整えてあげたいです。結果は後からついてくると思います。我々のチームの中でのナンバーワンを目指したいです。
(取材・記事 森本凜太郎、鈴木優子)