4月29日(土・祝)、第65回早慶アメリカンフットボール対校戦が行われる。昨季は惜しくもリーグ2位に終わり、悔しさを味わった慶大ユニコーンズ。今年も甲子園ボウル出場、日本一に向けてチームが始動した。チームに期待が懸かる中、春の早慶戦にも注目が集まっている。そんな早慶戦を前に、今回はヘッドコーチ、幹部に取材にお話を伺った。第1弾はハワイ出身のヘッドコーチ、デイビッド・スタント氏。早慶戦についてだけではなく、今年度のチーム方針や展望についても語っていただいた。
__昨季を振り返っていかがですか
目標に向かってたくさんのことを成し遂げたと思います。基本的なことを全力で頑張り続けたことで、成功の形が見えてきました。甲子園ボウルへの出場は叶いませんでしたが、比較的成功したシーズンでしたね。選手たちが自分たちのしていることを信じられていたのが良かった点です。昨年以前は「頑張ってはいるけれど、自分たちがしていることはこれで正しいのか」と選手たちが迷っている状態だったのですが、昨年の結果は先輩たちがやってきたことや教えてきたことの積み重ねで得られたものだと思います。決して昨年だけで成し遂げられたことではなく、それ以前の3年間でやってきたことを身につけた結果、昨年に成果があがったのです。ここまでの結果に至るまで数年間かかりましたが、私たちがしてきたことが正しかったのだとわかったことは非常に良かったです。甲子園ボウルに行けなかったとはいえ、昨年は大きな収穫がありました。
__昨年のチームについて良かった点は
プレーメイカーがたくさんいたことですね。RB李卓、WR田邊翔一、WR柴田源太(商4)も良かったですし、OLでは小野島洋輝、DLの赤ボーイ(長塚大)、DB兵藤宣俊など、良い選手がたくさんいた年でした。今年が始まって関学大と戦ったときは、昨年のようにオフェンスにたくさんのビッグプレーヤーがいるわけではないと感じましたが、ディフェンスに関してはビッグプレーヤーがたくさんいると思いました。チャンピオンシップはディフェンスに懸かっているので、その点が今年のチームの良い点だと思います。
__2位に終わってしまった原因は何だと思われますか
単純に言うならば、ただ私たちは軽すぎました。もっと大きくなる必要があります。どんな隊形を組もうと、どんな作戦を立てようと、大きく、速く、強いチームが勝つものです。立命大戦、法大戦では、彼らと同じくらい大きく、速く、強くなければいけなかったのです。ですから今年はもっと大きく、速く、強いチームにしてきたいです。
__昨年4年生だったプレーメイカー達がいなくなった今、チームはいかがですか
オフェンスに関しては、卓や田邊のような選手がいない分、個々がもっと頑張るようになったと思います。今年は「卓、なんとかしてくれ」「田邊、頼んだ」というようにはいきませんから、昨年よりもチームとしてまとまって機能しています。全員のレベルが底上げされた分、昨年よりも良い状態だと思います。
ディフェンスにおいても、兵藤やDB内藤(大地)がいなくなった分、下級生がレベルアップしました。彼らがいなくなったことで、今まで後ろに控えていた選手が試合で経験を積んで上手くなっていけるので、そういった意味で良いことだと思います。卓のようなスター選手の代わりはいないですが、全員が一丸となってレベルアップすることで昨年よりも良い結果を残したいですね。
__冬の練習について教えてください
全体的にスローダウンしたというか、基礎に立ち返り、アジリティーやランニングなどにおいて全てを作り直しました。基本的な動きに重点を置いて、より良くなるように練習しました。
__現在のチーム状況についてどう思われますか
10段階で表すなら、今は3だと思います。というのも、ポテンシャルのある選手がいるからこそ、秋のシーズンまでには10に持っていけると期待しているからです。彼らはもっと良くなれるはず。大きさ、強さ、基礎のテクニックにおいて、進むべき道のりは長いです。
__関学大戦を終えてどう思われましたか
関学大はとても良かったですよ。彼らは私たちとの試合をそこまで真剣にとらえていませんでしたけれどね。でも、私たちはディフェンスでビッグプレーがあり、オフェンスのテンポも非常に良く、負けた中でも収穫の多い試合でした。また、足りなかった部分を発見し、そこを練習で修正しているところです。
甲子園ボウルに行くには、日大、法大、早大などのチームに勝たなければなりませんし、甲子園ボウルに行ったら関学大や立命大に勝たなければなりません。そのために今、関学大戦でできなかった基礎的な部分を見つめ直す必要があるのです。秋までにはその点において良くならなければいけませんから。
__関西と関東の違いは何だと思われますか
それはサイズですね。同じ大きいでも質が違う。太っているのではなく、筋肉が大きいんです。彼らはまさに「男」らしく見えますが、こちらの選手はまだ「男の子」という感じがします。
__昨年に比べてチームはどのように変わりましたか
悪い点を挙げると、昨年良い結果を残せたことで選手たちがいい気分になっていると思います。良い点としては、昨季の法大戦と立命大戦での負けによって、選手たちを鼓舞することができました。「また法大に負けたいのか?甲子園ボウルに行けるチャンスがあったのに、法大戦で勝ちきれずにそれを逃してしまった。また同じ思いをしたいのか?甲子園ボウルで立命大や関学大と戦うことがあったら、またあんなふうに負けたいのか?違うだろう。それなら今やろう。これからのために、今犠牲を払おう。」というようにね。もっと大きく、速く、強くならなければいけないんだということを伝えやすかったです。このように、昨季の結果はポジティブにもネガティブにも捉えられます。
__今年度の目標は何ですか
甲子園ボウルで勝つことです。ただ甲子園ボウルに行くだけではなく、甲子園ボウルで勝ち、そのあと日本選手権で勝ちたいです。でも、まずは甲子園ボウルで勝つためにそこに出場しなればなりません。
__その目標を達成するためにどのような練習を組んでいますか
長い目で見て練習を組んでいます。例年であればこの時期には春の試合に勝つために練習していますが、今年はそのようにはしません。今年はこの時期にもっと大きく強くなって、基本的なテクニックを改善しなければならないからです。なので、試合が始まった今もオフシーズンの練習のような長い練習をしています。もちろん春の試合にも勝ちたいですが、今は大きく、速く、強くなることに重きを置いています。これが練習メニューを少し変えている理由です。
関学大と善戦をしていれば練習メニューは例年通りにしましたが、負けてしまったので、練習メニューを変える必要性を感じました。関学大に負けて、私たちがまだ10段階中3くらいの実力しかないとわかったことは本当に良かったです。春が終わってしまったら、もう基本にフォーカスしている時間はありませんから。
__“Play like a unicorn”というスローガンは誰が決めたのですか
染矢(優生・商4)が決めました。スローガンは毎年幹部が決めることになっています。
__スローガンについてどう考えていますか
素晴らしいと思います。4年間ユニコーンズらしいプレーを求め続けて、やっとイメージが見えてきたと思うからです。なるべき姿のイメージをつかんだ今、あとはそのようにプレーするだけです。
__ユニコーンズらしいプレーとはどのようなイメージですか
アグレッシブで、速いプレーです。試合の始めから終わりまで失速しないプレーを目指しています。他のチームは1Qで力を使い切ってしまい4Qになるころには疲れ果てていることがあると思うのですが、うちのチームは違います。1Qと4Qで、スピード・スタミナ・コンディションに全く差がない。それがユニコーンズのフットボールです。
__今年の主力選手として期待しているのは誰ですか
たくさんいます。ディフェンスにはDB岩間勇樹(商4)、DB野間健吾(政4)、DB田中瑛(経2)、DB岸本大輝(政2)、LB染矢、LB中野航平(政3)、など、インパクトのある選手が揃っています。オフェンスにはWR柴田源太がいますし、OLも成長していると思います。でも、オフェンスの中心選手は小田裕太(商4)です。彼は3年間スターターを務めていて、自信がついています。関学大戦では自信に満ち溢れた良いプレーをしていましたし、彼は自信がついたことによって本当に変わりましたよ。オフェンスは彼に懸かっていると言っても過言ではないですね。
__早大についてはどう思われますか
彼らはいつも素晴らしいです。今年コーチが変わったのでどんなプレーをしかけてくるかはわかりませんが、能力のある選手がたくさんいることは確かですから、今年も彼らを倒すのは簡単なことではないと思います。
__春の早慶戦と秋の早慶戦の違いは何ですか
春の早慶戦ではなるべくたくさんの選手にプレーさせるように、交代を多くしています。春にはゲームプランというよりは、基本的な課題をクリアすることを重視しますが、秋の早慶戦ではもっと作戦を重視します。春の早慶戦は私たちがどこまでやれるか試すといった試合で、もし勝てなかったならばそこから見つけた課題を秋までに修正していこうと思っています。勝つための作戦を重視してなんとか勝ったとしても、かえって課題が見えづらくなってしまいますから、それよりは基本的なフットボールをすることを重視したいと思います。
__今回の早慶戦を戦う上でのキーポイントは何ですか
ペナルティーをなくすことです。先日の関学大戦はここ3年間で1番良い試合ができて、それは今までで1番ペナルティーが少なかったからだと思っています。ですから、全てのペナルティーをなくすことで早慶戦に勝つチャンスが生まれると思います。関学大戦ではミスタックルが多すぎたので、ディフェンスではミスタックルをなくすこと、オフェンスではドロップボールをなくすこと、そしてチームとしてはペナルティーをなくすことが勝利をつかむ上でのキーポイントです。その3つの基本的なことができれば、試合の流れをつかめるはずです。
__早慶戦に勝つ自信はありますか
自信はいつでもありますよ。勝つ自信を持たずに試合に臨むということは、選手たちをしっかりと準備させていないということですから。やれることは十分にやったと思っているので、勝つ自信はあります。
__最後に、ユニコーンズのファンに向けてメッセージをお願いします
ユニコーンズのファンは素晴らしいファンです。試合の内容がどうであっても常にポジティブでいてくれます。ただ観に来ているのではなく、私たちと一緒に戦ってくれていると感じます。いつもファンからエネルギーをもらっていますよ。今回の早慶戦でも、応援をよろしくお願いします。
取材 鈴木優子 写真 森田悠資