19年ぶりの大学日本一を狙う慶大蹴球部。目標達成のため、彼らがこの夏に取り組んだことは…?
対抗戦特集第3弾は、不動のLO辻雄康(文4・慶應)副将だ。
——現在のチーム状況、特にFWの状況は
FWに関して、ラインアウトとスクラムとモール、大きく3つに分かれて、練習を続けているのですが、その中でセットプレーが試合の状況の中でキーになるということを春シーズン、夏の試合で身をもって感じています。
一人一人全員がプライドを持って、特にAチームのメンバーが、それに対してBチームのメンバーも思い切りガッツを持ってやって、Aチームをくいに行くつもりで攻守ともにやりあっています。
FWでチームを引っ張ろうという気持ちはそれぞれにあると思うので、1つ1つこだわりを持って、練習していけているのかなと思います。
——セットプレーの精度に関して、春季大会最終戦と夏合宿中の東海大戦と比べるとどこが成長したと感じていますか
特にモールに関してすごく成長しているという実感があります。
夏の合同練習の時など、どのチームに対しても自分たちの練習してきたことが自分たちの形で出せていて、そういうところが良くなっています。自分たちの中でもモールが自信になっている実感があります。
今はスクラムが課題だと思うのでそこを重点的に。もっと自分たちのスタイルを相手に貫けるかというのが今後のチームの伸びしろだと思います。
——ラインアウトに関してはいかがでしょうか
ラインアウトに関しては、僕の他にLOが相部開哉(政2・慶應)と植竹創(商4・湘南)の2人いて、その2人も特にラインアウトのサインワークなどにこだわってやってもらっています。自分たちがラインアウトをやる上でのスタイルがあって、それに関してもチーム全体が理解した上で取り組むということをしていて、相手がわかっていても取れないようなラインアウトやサインワークを使っていかなければいけないと考えています。
全体として、セットプレーには自分たちのこだわりがあります。ラインアウト、スクラム、モール、それをどんな状況でも自分たちのスタイルを貫くことによって、相手にそれを押し付けて勝っていけるように練習をしています。
そのため、疲れたり、相手が強かったり、どんな状況でも関係なく、自分たちの練習している一個一個のこだわりを相手に見せつけるということにプライドを持ってやっています。
——セットプレーにそれぞれ理想像があると思いますが、それと比べて現在はどのくらいの位置にいると感じていますか
ラインアウトに関しては理想像の80%です。モールに関しては90%、スクラムに関しては60%だと思います。
ラインアウトに関してはディフェンスがいないところにボールを出すのはサインワーク次第だと思っていてそこはサインを出す人の能力次第になってくると思います。
ですが、サインワークを使う選手に対しても他のFWの人間がサインワークのパターンを理解しているので、その選手に対してサポートできる状況にあるし、1つの組み立て方をAチームでいうと8人全員が理解しているので、1人に頼るのではなく、全員でサインワークの面でもサポートできていますし、さらにその上でサインワークが相手に見られていたとしても、自分たちのこだわりを貫くことによって少しでも取れる確率を増やしていけるようにしています。
——スクラムの残りの40%を埋め合わせるためにどういったことを意識して練習に取り組まれていますか
身内で組むことがほとんどなので、実際組んで相手が強かったりしたら、60%も発揮できない可能性がある状態です。
ラインアウトとモールと違って、相手が何かしてきた時に自分たちのスタイルを崩して練習してきたことと違うことを意識してしまい、それぞれ考えていることがばらばらでチームの意識が統一できていない状態でプレーをするということを積み重ねてきてしまったせいで、今のスクラム現状があると思います。そうではなくて、もっと1人1人がプライドを持って、誰かがやられたから8人が悪いということではなくて、まずその人の責任。その1人がプライドを持ってやっていないからチームとして崩れてしまう部分があり、それが成長につながらなかったです。
自分の問題をチームの問題として捉えていた部分があったため、夏合宿でもう一度マインドセットして、スクラムに対して1から自分たちのスタイルに立ち返って練習しようということになり、少しよくなってきているのかなと思います。
——より自分自身にフォーカスをして練習をしているという形ですか
自分自身にもそうですが、まずチームとして慶應がやろうとしていることはなにかを全員が理解して、その上で一対一の勝負があります。8人で(スクラムを)組んだとしても、そこには一対一の戦いが、特に1、2、3番のプレイヤーは絶対にあると思うので、そこの勝負に必ず負けない。勝つ上で武器にするのは自分たちのスタイル、低さを重視しなければいけないなと思います。
——春季大会で戦った東海大と夏合宿でも試合をしました。同じ相手と戦って、確実にここは成長したなという部分はありますか
ディフェンスですね。セットプレーではなくて、フィールドプレーの方です。自分たちのディフェンス、ライズ、フィアースの3つの慶應のプレースタイルがありますが、そこは絶対にぶらしてはいけない。そのうちの1つであるディフェンスの部分で自分たちが課題だと思ってやっているのがありました。
雨が降っていてボールセキュリティーが甘くなってパスミスが起こったり、ハンドリングミスだったり、セットプレーでやられる場面があってすごく劣勢だったのは間違いないと思いますが、その時に自分たちがやってきたディフェンスに立ち返って、そこは絶対に外さないという風にやってきたので、前半は0−10でしたが、その点差になったのではないかと思います。ディフェンスが悪かったら、もっと点差が開いたかもしれないと個人的には思います。
——速さを鍛えたことで、ディフェンスで変化を感じたことはありますか
アクセルという部分で、加速というのが一番どのシチュエーションでプレーをするにも大事だと思います。ディフェンスの時はラインスピード、アタックはキックチェイスやブレイクダウンのよりなど、いろいろなシチュエーションで自分たちがギアを一個あげるということに慣れておく必要があって、それが習慣づいてるのではないかなと全体として思っています。
——春のご自身のプレーは納得いくものでしたか
もちろんまず自分がしなければいけないなと思うのが、ボールを持って前進することだったり、、みんなより体が大きいので相手のディフェンスラインが揃っている時に、自分が少しでも前に出てチームの流れを作ることが大事だと思います。分析の数値的にアタックに関してはすごくよくて、数値的には納得できる結果だったと思います。
しかし、もっとチームの雰囲気や、チームにいい流れを作るような圧倒的な自分らしいプレーというのを試合の中で何回かコンスタントにボールを持って出せると、慶應にいい流れが来ると思うので、そういうプレーを、観客がわくようなプレーをしたいですし、みんなから「ナイス」というコールをかけられるような、もちろんボールを持って何回も何回も自分が前に出ることは大切ですが、より一層周りが驚くようなプレーをもっとしていけたらなと思います。
——ディフェンスに関してはどうでしたか
タックルは一年生の頃からずっと練習してきているのでそこに関しては少し上達したのかなとは思いますが、まだまだ足りない部分があるのでそこは練習していかないといけないなと思います。
——ここまでお話を聞いていて、チーム全体がいい雰囲気でできているのかなと思いましたが、その雰囲気を作るために辻選手がしたことはありますか
もちろん自分が、いい雰囲気になるように実行します。ヘッドコーチや、フィジカルコーチの言っていることをまず自分が率先して実行するのが大事だと思います。そこがないといくら言葉で何を言ったとしても人に伝わらないと思うので、まず自分が率先して、どの練習もまず頑張る。もちろんそこは意識しましたし、その上でチームの雰囲気が悪かったり、みんなのスイッチが入っていない時は声かけなどをしました。
あとは周りにもっとプライドを持って考えさせるということ、自分たちが今どういうシチュエーションにあるのか、どういう現状なのか、だから今自分たちはどうしなければいけないというのをもちろん自分がみんなに伝えることで、周りがそれを考えてくれて、実行してくれます。
自ら率先してやるし、その上で周りにもその大切さを伝えているつもりですし、その上でみんなも頑張ってくれて1つになってまとまると思うので自分が意識していたことはそういうことかなと思います。
古田の思っていることや考えていることをもっとみんなに浸透させたり、金沢さんの言っているようなことをチームに根付ける必要があるなと思います。
——夏合宿中にリーダー陣で話し合う場を設けていましたか
そうですね。リーダー陣で話すのもそうですし、Aチームでまとまって話す時間を作って、1つ1つのプレーを確認して、何がよかったか悪かったかも話ました。
一番よかったと思うのが、夏合宿でけっこうやっていたどんな時でも相手を倒すために必要なことだけを考える。膝に手をついたりとか、相手に疲れている素振りを見せたり、試合中にそうしたくなる場面が絶対にあると思いますが、そうではなくて相手を倒す、ドミネートするためには何が今必要なのかを考えて続けて、チームとして練習中やオフフィールドでの時に話すことによって、自分たちが今何が必要なのか考えられるような環境に夏合宿を通してなったのではないかなという風に思います。
——そういう雰囲気はジュニアチームやコルツチームでもけっこう感じられますか
ジュニアチームやコルツチームにまだシニアチームとまだ差があると思います。ミーティングをしているときに、シニアチームで声が小さいなど言われたりするようなことはあまりないのですが、全体ミーティングでジュニアチームの人が少し声が小さくて監督に注意されることがありました。僕はこれは大事なことだと思っています。
網走の合宿での一番最後に、太田トレーナーが「お前らは変わった、どんな時でも常に何が必要なのか話し合っていて、ミーティング中に自分たちが参加する意欲がすごいある」という風におっしゃっていただいて、そういうのがあるというのはやはりチームがまとまっている証拠だと思います。ミーティングで全員が全員集中しているシチュエーションって、参加したり発言したりしないと表面上わからないものじゃないですか。
みんなが手をあげたりとかして発言しようとする意識があがったと確実に思うのでそれはよかったのかなと思います。
ジュニアチームはまだまだそういうふうにできていないのかなと思います。
———新チームが始動したときに比べると意識的には上の方向に向かっていますか
それはもちろんその通りです。
——U-20日本代表の3人がチームに合流して、チームにプラスの影響はありましたか
ありますね。その3人が戻ってきたことよって、ポジション争いがすごく活発になりました。もちろん戦力もそうですが、前線で戦っているプレイヤーなのでコミュニケーションの部分だったり、そういう部分で率先してチームを引っ張てくれるような存在であることには間違いないです。
勝つ意欲が3人には一番あるような、そんな存在なので、戻ってきてくれたことによって日吉でAチームだった選手がBチームになったり、ポジション争いがすごく大きくなっていて、やりあいが増えて、層が厚くなりました。そういう面でいいのではないかなと思います。
——3人自身が成長した部分はありますか
PR大山(祥平=経2・慶應)に関しては、スクラムのプレーとかがまだまだだとは思いますが、試合の流れやシチュエーションの中でスクラムがどういう大事なキーになるかとか、プライドを持ってやってくれるというようなイメージはあります。とにかくスクラムを頑張って欲しいです。
相部に関しては、教えれば教えるほど、強い相手とやればやるほど、成長するような、吸収の早いようなプレイヤーなので相部が成長してくれたことによってチームが一段二段レベルアップしているのは間違いないです。後輩から引っ張っていってもらえるというのはチームに対して絶対いいことであるのは間違いないので、それはよかったことではないかなと思います。
1年生のFL/No.8山本凱(経1・慶應)に関してはとにかく強いので、戦力的に間違いなくAチームにいるようなプレイヤーです。
そういう下級生から日本一になるために引っ張ってくれる存在がいるのはこのチームにいい影響を与えているのではないかなとすごい感じます。
——合宿を終えてチーム全体としての課題は
ジュニアチーム、コルツチームとシニアチームの意識の差の部分です。まだ完璧ではないと思います。古田もいつも言っているように優勝する雰囲気がどんな雰囲気なのかみんなで想像しようという話をしていて、全員の意識が1つでないと(優勝する)雰囲気は感じられないと思います。
自分だけではなくて、周りの気持ちも背負ってるんだと、そういうふうにプレーすることでやはり一段二段とプレーに重みが出ると思うので、ラグビーの場合チームスポーツなので特にそうだと思いますが、そういう面でまだ完璧ではないというふうに言えると思います。ですからそこをもっと何とかしなければいけないのかなと思います。
もちろん伸びてはいます。良いコーチもいて、良い学生コーチ、良い学生トレーナーもいて頑張っていると思いますが、そこに差があったらだめなのかなと思います。
——その差を埋めるためにいろいろお話をされていると思いますが、その解決策として考えられているものはありますか
もちろん誰かが気合いを入れて頑張るのは大事なことだと思うし、例えば僕や古田とかがそうやってみんなの前で話して、その時に「あ、頑張ろう」と思うかもしれませんが、やはり一番大事なのはその選手がどれだけ試合に出たい気持ちがあるか、チームが日本一になって欲しいかという気持ちだと思います。
日々の生活面での規律や姿勢はもちろんそうですし、ロッカーをきれいにすることや掃除の部分で、慶應ラグビー部らしい行動をするというのはもちろん大事です。その上で慶應ラグビー部だという認識が(自分の中で)あがり、自分の中の一個のプライドになり、チームに対する愛が深まって、日本一になりたいという気持ちにつながると思っていて、私生活の面ではそういうところをもっと重視していかなければいけないと思います。
もちろん一番最初にあるのは試合に出て活躍したい、黒黄のジャージを着たいという気持ちだと思うので、そこをもっとみんなが思い続けて、そのためには何かを実行しなければいけません。勝つための準備という言葉を金沢HCがいつもおっしゃっていますが、練習中にそれを100%やるのも準備です。そういう準備を増やすことが一番大事だと思います。
そのためにはやはり自分に向き合うのが大事かもしれないし、学生コーチの存在も一番大事なのではないかなと思います。あと4年生も大事です。
——チームとしての目標は大学日本一だと思いますが、辻さん自身の対抗戦、大学選手権での目標は
対抗戦で少しでも活躍して、見てもらえるようになって、辻良いなというふうに言ってもらえて、少しでも代表に絡めるようなチャンスがあればいいなと思います。
——日体大戦までの残りの期間でどんな練習をしていきますか
個人としてはどんな状況でもボールをもらう時に必要なのは先程言ったアクセルだと思うので、加速の面でどんな時でもスピードをあげてプレーするというのを意識していきたいと思います。
ボールをもらう時やディフェンスをする時などいろいろな場面でそれは一緒だと思うので、自分の持ち味であるそういう部分をもっとアタックで出していき、先程言ったような春シーズンもっとこういうふうなプレーをした方が良かったなというところで秋に実行していきたいなというふうに思います。
——慶應蹴球部ファンの方々にメッセージを
必ず日本一になるので応援していただきたいです。
その上で、応援している方々と一緒にグラウンドのピッチ上で喜びたいなと思います。
(取材:田中壱規)