ラグビーワールドカップが日本で開催され、例年にも増してラグビーが話題になるであろう今年、慶應義塾體育會蹴球部は創部120周年を迎える。
5月12日(日)には春季大会初戦を迎え、いよいよ新チームが動き出した。多くのスタープレイヤーを擁した昨年とは違い、今年はチーム全員が一体となって戦う。それに先立ち、慶應スポーツでは開幕前取材“UNITY”と題して、インタビューを実施した。
連載第4回は、滝沢基(もとい)主務(商4・慶應)。中学からラグビーを始め、選手として入部したが3年生になるタイミングでマネージャーに転向。普段はあまりスポットライトの当たらない学生スタッフだが、彼らもチームに不可欠な戦力だ。
――今日がケイスポ初登場となります。自己紹介をお願いします
蹴球部の主務の滝沢基と言います。中学の普通部から慶應に入ってラグビーを始めて、中学、高校とラグビー部に在籍しました。毎年塾高は神奈川大会決勝まで行くんですけど、僕らの代では準決勝で負けてしまったんです。その悔しさもあり大学でもラグビーを続けることにしました。2年生まではプレイヤーだったのですが、怪我も多く上のチームに上がる機会はあまりありませんでした。そんな折に選手の中から男子マネージャーを出すことになりまして、代の中で話し合って、最終的に僕がマネージャーとして選ばれました。選手と兼任するという選択肢もあったんですけど、怪我のこともあり専任することにしました。去年は1年間マネージャーの仕事をして、今年から主務に就任した次第です。
――選手からマネージャーになられた経緯を詳しくお願いします
基本的に毎年、選手から男子マネージャーが選ばれることになっています。でもそれには良い点、悪い点があると思っていて。毎年、それが本当に良いことか悪いことかを判断した上で出すことになっています。
悪い点としては、選手を1人やめさせなければいけないということですね。良い点としては、マネージャーをする上で、選手を経験しないとわからない部分も多いと思います。最初(入部するとき)からずっとマネージャーではわからないことがあると思います。自分達が1人の選手生命を絶たなければいけないと決断することで「こいつのために頑張る」となるとそれはいいことだと思いますし、主務という仕事はやはりチームのために必要なことだと思います。自分が当事者となってそういった決断をするということがプラスになると思っています。正解は僕もまだわからないですけど。
――選手を経てマネージャーになるとどういう違いがあるのでしょうか
必ずしも選手を経験しなければならないかといえばそうでもないと思いますが、マネージャーとしてやる以上はチーム全体を見なきゃいけないことがあります。やっている仕事自体はいわゆる雑務で、誰もやらないような仕事。なんでこれがチームのためになっているのか、自分でもわからなくなることも多いと思います。チーム全体を把握するということを考えると、部内では選手が1番多くをしめているわけなので、その選手を経験するかしないかは、マネージャーをやる上では必要になるかなと思っています。
――マネージャーに選ばれた経緯は
選手を1人やめさせるとなると、色々な面を考えなければいけないですよね。戦力的な部分ももちろん、人間性も考えなければいけない。AチームやBチームの上の方のカテゴリーに食いこんでくる選手には人格者も多いので、その人を選出したらチームの戦力が落ちてしまいますよね。理想と現実をどうとるか、人によって意見が大きく違うので話し合いは難航しました。
それまで育ってきた環境、その人の性格を作ってきた出身校の文化などによって考え方が異なったりもしました。
最終的な決断に納得しない人もいましたが、時間をかけて決断することに意味があるのではないかなと思います。
――ご自身が選ばれた時のお気持ちは
マネージャーになった時は、率直に「嫌だな」という気持ちでした。でも同期が真剣に話し合って、そう(マネージャーに)なった方が部にとってプラスになると思って選んでくれたので、覚悟を決めて、やるからにはやってやろうという気持ちでした。
選手達のプレーを見ていて「自分ならもっとやれたかな」と思うこともありましたね。
――マネージャーになってから変わったことなどはありますか
日本一になりたいと思って入部したわけですが、それまでは自分に努力のベクトルを向けていれば結果的にそれがチームのプラスになっていたわけです。しかしマネージャーになったあとはチーム全体のことを考えなければいけないので、自分だけにベクトルを向けていてはいけないなと気づきました。
自分にもベクトルを向けつつ、周りにも気を配るということを意識するようになりました。
マネージャーという立場上、人に指示することも多くなったので、他人にベクトルを向けることで、かえって自分にも厳しくなるということがあります。
――普段はどのように活動されていますか
今年マネージャーから主務になりましたが、主務とマネージャーは似ていても少し違うところがあります。主務は外部との連絡が主ですね。備品の手配、試合の準備やラグビー協会さんとのやり取りなど、チームとして必要なこと、チーム全体のマネジメントを考えなければいけません。チーム全体を把握して、オフフィールドの部分、私生活をどうしなければいけないか、外から見られる蹴球部というものがどうあるべきかを考えて還元するようにしています。
――主務さん以外にもスタッフ業務をしている学生はどれくらいいるのですか
マネージャーが僕を含め男子3人と女子が8人の計11人、学生トレーナーが8人、分析が3人、学生レフリーとコーチが4人在籍しています。
近年、特にスタッフの人数が増えてきました。本当に日本一を目指すためには専門性を持ってやることが必要かなと。分析担当ができたのも最近だそうです。それぞれが専門の役割を持って、部のために何ができるかを模索できる環境がありますね。
マネージャーという立場上、全体を把握していなければならないので状況の把握はしますが、それぞれが細かく何をやっているかまではわからないこともあるくらいです(笑)。
――やはり学生スタッフはみなさんラグビー経験者なのでしょうか
マネージャーとは違い、他の学生スタッフは基本的には選手から出すという決まりはないです。例えば分析なら、入部の段階から分析を担当するという形ですね。最新機器を使ってやっているので、そういった環境に惹かれてくる人が多いです。中にはラグビー経験者でない人も何人かいます。
選手達とは、学年が上がるにつれて、コーチやトレーナーを介して関わることが多くなっていくと思います。
――日々を過ごす上で心がけていることはありますか
ひとつひとつの選択、行動に対して後悔をしないようにしたいと心がけています。膨大な仕事があって、これをやることが今本当に部にとってプラスになるかどうかをひとつひとつ考えて、それぞれに責任をもつことを意識しています。物事に優先順位をつけて組み立てていくということがあまり得意ではないので、そこは強く意識していくようにしています。去年までは副務という名前がありながら、いちマネージャーの範囲だったので目の前の仕事をこなしていく感覚だったのですが、主務となった今年はチーム全体を見据える必要があります。色々な角度から物事を考えられるようになりたいです。何かひとつに没頭してしまうタイプなので、客観的なものの見方ができるようにいつも行動しています。
――滝沢さんの視点から昨シーズンの蹴球部を振り返るといかがですか
選手からマネージャーになって、オフフィールドの部分を見る機会が増えました。外部から見られるチームというものに、良い面でも悪い面でも感じるものが多かったです。ゴミ袋がいっぱいになっているのに誰も新しいのに替えないとか、練習場を訪れた方に挨拶をしないとか、それまでは気づかなかった、悪いところに目がつくようになりましたね。とても細かいことばかりですが、最初の方はだんだん嫌なチームに見えてきてしまいました。こんなこともできないのか、みたいな。
ですが、一度プレーから離れて客観的にチームを見ると、どれだけ選手がラグビーに没頭しているかというところにも目がいくようになり、その姿勢に対して敬意を払わなければいけないと思うようになりました。選手をやめたことによって、このチームの「すごさ」に気づきました。だからこそ、先ほどのようなオフフィールドの部分を僕が担わなきゃいけないんだと思いました。それを感じながら1年間過ごしましたね。
練習中はもちろん、終わったあとも選手達はお互いフィードバックをして、細かく議論を展開しているんです。普段の食事を始め、ラグビーに直結してくる部分にとても気を使って生活していました。その辺りに「すごさ」を感じました。
――それと比べて今シーズンはどうですか
去年のチームは、4年生の主力が引っ張っていく代でした。上級生がいるから頑張れる、といったような感じです。僕らの代は人数も少なく、下級生の頃からAチームにいた選手も多くありませんが、そこを逆手にとる、というか。下級生も含めて全員が自主性をもって、のびのびとプレーできる環境があると感じます。もちろん決まりごとはありますが、その中で自由に自分の考えを発信してより良い方向に持っていくことができているように思います。
――栗原徹HC(ヘッドコーチ)、栗原由太主将はそれぞれどんな方ですか
ヘッドコーチは一言で言えばやはり「優しい」ですよね。その中で、選手でもスタッフでも、学生の考えを尊重してくれています。その考えを上手く引き出すことで、自分達で決めて自分達で動くということを奨励してくださる方です。その分僕らの責任は重くなってしまいますが、自分の行動をしっかり考えることができるようになると思います。
栗原主将は、やると決めたら絶対にやり通すといったような、とても熱い男です。しかも周りを巻き込んでやるのがとても上手なタイプなので、「背中で見せる」とか「黙ってついてこい」というタイプではなくて、下級生ともコミュニケーションをとる中で、結束力を高めていくことができるやつだと思います。彼が喜べばチームも喜ぶ、といったようなやつです。
――慶大蹴球部は創部120周年ですが
(大学で蹴球部に)入ってきた時はただ「120ってすげえな」と思っていましたが、僕らのやることはいつもと同じく日本一を目指してやっていくということなので、特に変わりはないです。OBの方達が記念事業をしてくださるなど、盛り上がりはありますよね。それはもちろんとてもありがたいことなのですが、僕らはそこでぶれることなく、日本一という目標は変わらないですね。
しかも今年はラグビーワールドカップもありますし、運の要素もあるのかなあと。注目を浴びることは増えるかもしれませんね。ですが、なるべく意識しすぎないようにしています。また、去年の代はとてもいいメンバーが揃っていたので、取材の方もたくさんきていました。たくさん注目していただく中で、やはり僕たちは学生なので注目されすぎるのも良くないかなあと感じることもありました。なので今年は、あまりお祭り気分に流されないように、ぶれずにやっていきたいです。
――今年の抱負をお願いします
「日本一を目指す」ということは選手達がプレーの面でしっかりやってくれています。なので僕個人としては、このチームをどれだけサポートできるか、外から見られた體育會蹴球部を、日本一のチームにふさわしい、応援されるチームにできるかどうかが問われていると思っているので、今年1年間それを意識してやっていこうと思います。
――慶大蹴球部ファンへのメッセージをお願いします
慶應は日本ラグビーのルーツ校でありながらもどんどん新しいことを取り入れるチームでもります。実際にチームを見ていただければその雰囲気、魅力は伝わると思うので、ぜひ会場に足を運んでいただけたら嬉しいです。
――お忙しい中ありがとうございました!
(企画)
――今回の連載ではみなさんに「印象に残っている春の思い出」をお聞きしています。今までで1番印象に残っている春はどんな春ですか?
やはり去年の春ですかね。それまで男子マネージャーは各学年に複数人いたのですが、僕らの学年は2人しかいませんでした。初めてのことだらけでも、やらなきゃいけないことはもちろんたくさんあって。そんな中で4月末に迎えたラグビー祭が思い出に残っています。毎年3年生のマネージャーが運営することになっているので、マネージャーに就任した3月の初めから話し合いに参加してバタバタしていました。初めて関わった大仕事ということで、去年のラグビー祭を挙げたいですね。
(取材/写真・竹内大志)
関東大学春季大会Aグループ 慶大日程
5月12日(日)vs流通経済大@流経G 13:00 K.O.
5月19日(日)vs帝京大@帝大G 13:00 K.O.
5月26日(日)vs早稲田大@南長野運動公園12:30 K.O.
6月9日(日)vs大東文化大@慶大G 13:00 K.O.
6月16日(日)vs東海大@東海大G 13:00 K.O.
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