【特別企画】Enjoy Tennisで矢上から世界へ――躍進のリコタイテニス部インタビュー 〈大野公暉×百武葵×村上凌輔×発田志音〉(後編)

その他競技

審判員育成やガバナンス強化に向けた取り組み。プレー以外でも他の部活とは一線を画す特色ある活動を行なっているのが矢上庭球部だ。文武両道で知られる矢上庭球部について、そして独自の取り組みについてお話を伺った。

 

慶應義塾体育会には、43部のほかに矢上部(通称リコタイ)も設置されている。矢上キャンパスを活動拠点とし、主として理工学部生を対象にしているが、近年は文系学生も多く参加して特色ある取り組みで成果を挙げている。今回取り上げるのは、創部1938年、昨年の関東理工科リーグで男女ともに好成績を収めた矢上部硬式庭球部(テニス)。その躍進の裏には、審判員育成やガバナンス強化の取り組みなど、他の部活では注目されない分野での成果があった。その真相を、男子主将・大野公暉(商3・日比谷)、女子主将・百武葵(理3・横浜共立学園)、関東理工科連盟幹事長・村上凌輔(理3・芝)、コーチ・発田志音(法4・東京大学教育学部附属)の4人に伺った。

後編では、矢上庭球部の独自の取り組みについてお話を伺う。

※写真は全て慶應義塾体育会矢上部硬式庭球部にご提供いただきました。

 

スポーツを「ささえる」人材の育成

――その一方で、審判活動でも実績を挙げているのですか

発田:はい。2020年の関東理工科リーグ中止が決定した10月、すぐに取り組んだのは公認審判員資格の取得でした。今、テニスをプレーできないのならば、テニス界を「ささえる」ことに注力しようと考えたのです。その結果、受験した16名全員が認定試験に合格し、リコタイがテニス審判員の有資格者数で日本一の大学テニス部となりました。そうした実績が評価され、東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、なんと部員のほぼ全員にあたる32名がテニス競技の運営スタッフとして参加する機会を得られました。

百武:昨年4月に行われたJPTT盛田正明杯と呼ばれる全国大会では、ボールパーソンなどの競技運営にも取り組みました。私も参加したのですが、選手活動だけでは得られない気づきが多くあり、競技にも学問にもプラスとなる経験だったと感じています。今後もこうしたスポーツを「ささえる」人材の育成を続け、そうした観点でも日本や世界のスポーツ界に貢献していきたいです。

テニス審判員の有資格者数で日本一の大学テニス部に

――「ささえる」経験は他の場面にどのようにいきていますか?

大野:僕たちは43部外の団体ではあるんですが、アセスメントに関する取り組みや審判指導、オリンピックのボーラーといった活動に力を入れていまして自信につながっています。自信を持ってプレーすることにもつながっています。

発田:選手とは違う立場でスポーツ界の制度、人材面からのサポートという経験をしているので、色々な人の支えでスポーツができているというところを各部員が感じているので練習の質も上がっています。テニス自体を楽しむといった部分へもいい影響があったと思います。

JPTT盛田正明杯で競技運営にも参加した女子主将の百武

 

矢上から世界へ

――今後の目標・展望を教えてください

大野:そうですね、やはり短期的な目標としては、今年度の関東理工科リーグで優勝を果たすことです。ただ、今後リコタイが中長期的にさらに発展していくために重視しているのは、部の「国際化」です。国際ジュニアテニス大会を主催することだったり、選手や審判員として国際大会で活躍したりすることはもちろんですが、部員の構成としても、留学生が増えると良いと考えています。そのために、多言語での広報活動も意識していますが、近年は経済学部PEARLに在籍する部員が増えてきており、良い流れだと思っています。

百武:たとえば昨年だと矢地江理彩(経済3・International School of Sacred Heart)が英国のBBC WORLD NEWSにリコタイ部員として生放送・英語のインタビューに出演したのですが、こうした取り組みを通して全世界に「KEIO YAGAMI TENNIS」の名前が広がり、世界各国から慶應を目指してくれる学生が増えたら嬉しいです。

発田:そうした意味では、国際テニス連盟(ITF)が発行する国際学術雑誌 ”ITF Coaching and Sport Science Review“ でリコタイの取り組みが紹介されたのも大きな成果です。国際テニス連盟には世界211カ国が加盟していますので、少なくともそれらの国々のテニス関係者には、「KEIO YAGAMI TENNIS」の存在が認知されたと思います。

――それはどのような取り組みが掲載されたのですか

発田:昨年から今年にかけて約1年間、全日本学生テニス連盟や関東理工科大学連盟の協力を得て全国315大学を対象に「大学テニス部のガバナンス調査」に取り組みました。日本の大学スポーツは、近年も不祥事が相次ぐなど組織運営上の課題をもっているケースが多くあるため、この調査結果をもとに弁護士や他大学テニス部関係者・監督の先生方とも連携しながら、「大学運動部のガバナンス自己点検シート」を開発することにしたのです。そして、試作品を初めて実践したのが慶應のリコタイテニス部だったのですが、その実践事例が国際的にも高く評価されることになりました。

大野:部活動は、比較的近い人間関係の内輪だけで運営されるので、普段あまり客観的に自分たちの組織運営を見直すことはありませんでした。しかし、今回その開発した自己点検シートを活用して丁寧に考え直してみたところ、代表選手の選考基準や罰則規定の明文化と周知、事故防止や事故発生時のマニュアル策定・掲出などの項目で、まだまだ改善点があることに気がつきました。そこで実際に改善に向けて現役部員と相談しながら取り組み、95%の部員がガバナンス向上を実感するところまで到達しました。

百武:実はその後、体調不良で部員が練習中に倒れるという事案も発生したのですが、事故発生時のマニュアルを策定して共有したことで、その場には部員しかいませんでしたが迅速に対応することができました。Enjoy Tennisを大切にするリコタイだからこそ、安心で安全な練習環境を確保することには徹底してこだわりたいですね。

発田:どうすればスポーツを安全に楽しく取り組めるのかは、世界共通の課題でもあります。ただ、プロスポーツ団体やNF(国内競技連盟)などのガバナンスを強化する取り組みは進んでいても、課外活動の側面の強い学生スポーツのガバナンス強化は意外にもほとんど検討されてきませんでした。その中で、とりわけ大規模な組織を伴う運動部の多い日本の学生スポーツ界において、こうした先駆的なガバナンス強化の取り組みを実践したことが、国際的な関心を集める要因になったのだと思います。米国のNCAAに加盟する海外大学テニス部などでも、この慶應で開発された自己点検シートの配布が行われました。今後、さらに広く活用してもらえるよう働きかけていきたいと思います。

村上:世界の学生スポーツの発展に、慶應のリコタイが先導的な役割を果たしていきたいと思います。国内でも各学生テニスや関東理工科連盟において、この自己点検シートの配布が行われました。現在はテニス以外の競技でも活用していただけるよう、普及に向けた活動が進められています。

国際テニス連盟が発行する国際学術雑誌 ”ITF Coaching and Sport Science Review“ で取り組みが紹介され、世界211カ国に周知された

――最後に、主将のお二人から一言お願いします

大野:理工学を中心とした学術研究はもちろん、テニス競技やスポーツ文化の担い手としても、「Enjoy Tennisで矢上から世界へ」をテーマに卓越した存在になっていきたいですね。

百武:今後も塾内外のさまざまな機関と協働しながら、私たちリコタイだからこそできる社会貢献に真摯に向き合っていきたいと考えています。そして、こうした私たちの理念に共感してくださる少しでも多くの高校生に、リコタイを目指してほしいと願っています。

「Enjoy Tennisで矢上から世界へ」

(取材:松田 英人、協力:慶應義塾体育会矢上部硬式庭球部)

慶應義塾体育会矢上部硬式庭球部公式HPはこちら→https://rikotaitenniskeio.wixsite.com/official-pagehttps://rikotaitenniskeio.wixsite.com/official-page

タイトルとURLをコピーしました