アメリカンフットボール(アメフト)とは、楕円球を用いて2チームが点数を競い合う競技です。「アメフトとラグビーの違いがわからない」の声はよく聞くところですが、似ているようでかなり違うところも多くあります。ここではアメフトがどういうスポーツかを簡単に、軽くご紹介します。
アメフトは1チーム11人で競技を行います。2チームで戦うので、フィールド上には22人の選手がいることになります。ラグビーは1チーム15人なので、やや少ないですね。さらに、選手は基本的に無制限に交代できるので、攻撃の時と守備の時は違う選手が出てくることがほとんど。言い換えれば、状況に応じてさまざまな選手を見ることができるのも魅力です。大学アメフトではベンチに100人近い人数が登録されており、あなたのクラスや授業・ゼミの友達/先輩/後輩も、登録されていれば実は試合に出場しているかもしれません。
アメフトはゴルフと同じく、ヤード・ポンド法が使われています。日本人には馴染みの薄い単位ですね。ちなみに国単位ではアメリカ・リベリア・ミャンマーでしか使われていないそうです。正確には10ヤードが9.14401829メートルなのですが、こんな細かい数字を覚えても意味がないので、基本的には数字に0.9を掛けたくらいというイメージで大丈夫です。
フィールドは100ヤード(=約91.4m)で、両チームが半分ずつの陣地を持ちます。敵陣の一番奥(これをエンドゾーンと呼びます)までボールを持ち込むと得点が入る、と覚えると簡単です。また、フィールドの両端には音叉のような形をしたゴールポストが設置されており、ここにキックでボールを入れても点数が入ります。例外もあるといえばあるのですが、基本的にはこの2通りの点数の入り方を覚えておけばOKです。この辺りは、かなりラグビーと似ています。
ラグビーと大きく異なるのは攻撃。ラグビーはサッカーと同じく基本的にプレーは止まらないのに対し、アメフトは1プレーごとにゲームは一旦停止します。アメフトの攻撃のルールを簡単に言い換えると、「4回プレー権をあげるから、その間に10ヤード進んでね」です。4回以内に10ヤード進めれば、そこからまた4回の攻撃権がもらえます。進めなければ攻守交代です。逆に、例えば1回の攻撃で50ヤード進んでしまっても、そこから再びもらえる攻撃権は4回だけです。この攻撃権を失わないようにしつつエンドゾーンまでボールを持っていくのがアメフトです。
攻撃ルールとして、「1回の攻撃につき一度だけ前にボールを投げられる」というルールがあり、これも明確にラグビーと異なります。ラグビーには「スローフォワード」という反則があるので、これはできません。アメフトではこのパスと、ボールを持って走るランを使い分けながら、攻撃を進めていくことになります。
試合は4クォーター制。前半が第1クオーター(=1Q)と2Q、後半が3Qと4Qです。この時間制度はホッケーやラクロスなど、北米球技にありがちです。大学アメフトでは1Qあたり12分(全国大会など一部例外あり)で行われます。
とりあえずこれさえ覚えておけば、現地でアメフトを見てもなんとなく試合の流れはわかると思いますが、細かいルールや単語も多く出てくるのが悩みどころです。下の欄に、用語解説をつけておきます。
アメリカンフットボールでよく聞く用語
ーー難易度:低ーー
・ファーストダウン
4回で10ヤード進んでね、のルールは前述しましたが、この10ヤードを進むのに成功し、新たに攻撃権を4回もらうことを「ファーストダウン獲得」と呼びます。攻撃時は、「今が何回目の攻撃か」「あと何ヤードでファーストダウン獲得か」をわかるように、「○○ Down and ××」という表現をします。例えば、「3rd Down and 6」の場合、「今から3回目の攻撃、ファーストダウンまであと6ヤード」の意味です。
・タッチダウン
敵陣エンドゾーンまでボールを持ち込むと、タッチダウン。6点が入ります。
・トライフォーポイント(TFP)
タッチダウンで6点を獲得した後に挑戦できるボーナスゲーム。エンドゾーンの3ヤード手前から一度限りの攻撃権が与えられ、キックが成功すれば1点、エンドゾーンへタッチダウンができれば2点が追加されます。
TFPはキックによる1点獲得がセオリーです。この場合、タッチダウンの6点とトライフォーポイントの1点を合わせて7点を獲得することができます。
タッチダウンの2点奪取はハイリスク・ハイリターンなので、圧倒的な戦力差がある時やキックが何らかの理由で使えない(キックによる得点が期待できない)時、試合終盤の劣勢時など、使う状況は限られます。
・QB(クォーターバック)
攻撃の選手にプレーを指示する攻撃側のリーダーの役目を負うポジションで、「チームの司令塔」。基本的には、QBがボールを持った時が攻撃開始の合図となります。QBはプレーに応じて、パスを投げたりボールを他の選手に渡して走らせたり、はたまた自分でボールを持って走ったりします。
・QBサック
ディフェンス選手がパスを投げようとするQBをタックルすること。 主に攻撃開始位置より後方で行われることを指し、守備側のビッグプレーとなります。例えば、1回目の攻撃(1st Down and 10)で、5ヤードをサックされた場合、次の攻撃は2nd Down and 15となり、攻撃側はかなり苦しくなります。
・スクランブル
パスを予定しているプレイにおいて、QBがパスを投げずに自らが走ること。
レシーバーに厳しいマークが敷かれている場合、または守備側がQBを倒すための突撃をしてきた場合などに用います。
ーー難易度:中ーー
・インターセプト
守備側の選手が、攻撃側の選手が投げたボールを捕球前に(空中で)奪うこと。
発生した瞬間に攻守が交代し、捕球した選手はそのままプレーを開始できます。
・ファンブル
ボールを保持している選手が、ボールを地面に落としてしまうこと。ラグビーにおけるノックオン(2025/01/06より「ノックフォワード」になりました。しばらくは慣れませんね)と似ていますが、アメフトではボールを落としたのが当該選手の前でも後ろでも、その瞬間に即・攻守交代、とはなりません。先にボールを確保したチームが攻撃権を獲得します。
・タッチバック
キックオフかパントで蹴られたボールが誰も触れないままエンドゾーン(自陣最奥部)に入ること。エンドゾーン内でキックされたボールをキャッチした人が、その場でニーダウン(膝をつくこと)しても成立します。レシーブ側のチームは自陣の20または25ヤード(各ルールで異なる)の地点からオフェンスを開始します。なお、ディフェンスチームの選手がボールに触れてしまった場合には、エンドゾーン内でオフェンスチームが捕球すればタッチダウン、ボールがエンドゾーンの外に出たらセーフティとなります。
・ギャンブル
賭博行為のことではないです。通常、4th Downの攻撃では、オフェンス側はパントキックを行いボールを敵陣奥地に戻すか、フィールドゴールで3点を狙うかの選択をします。しかし、次の1st Downやエンドゾーンまでの残り距離がごくわずか(1ヤード程度)である場合や、終盤に劣勢の時などに、4th Downでも通常と同じ攻撃を仕掛けることがあります。これをギャンブルプレーと呼ぶことがあります。
ギャンブルと呼ばれる所以は、ボールを敵陣に戻さず、かつ、キックの3点も取れないので、もしこの4th Downの攻撃に失敗した場合、次のディフェンスはその位置から始めなければならないため。(特に自陣内で)このプレーを行うことは、次のプレーに不利を被る可能性があるのです。
ギャンブルプレーという単語は、トライフォーポイントの2点奪取(前述)・オンサイドキック(後述)の際も使用することがあります。これらもまたハイリスク・ハイリターンで、特殊な事情がない限り多用するプレーではないためです。
・タイムアウト
各チームが前半と後半にそれぞれ3回ずつ取ることができる1分30秒間の休憩時間。とはいえ本来の休憩目的で使われることは多くなく、実際には作戦会議や、ゲームクロックを停止させるために使われる。一例として、優勢なチームは時間を使うためにゲームクロックが止まらないプレーをするため、それに対抗して劣勢なチームがタイムアウトを使用する、などがある。ただし前述の通り回数に限りがあるため、使い所が重要になる。
ーー難易度:高ーー
・セーフティ
攻撃側が自陣のエンドゾーン内でタックルされてしまうこと。守備側に2点が入る上、次の攻撃は守備側へのキックオフで始まるという大きな不利を被るので、攻撃側は絶対に避けたいプレーの一つ。
・オンサイドキック
キックオフチームが、攻撃権を獲得するために意図的に蹴る短いキック。通常、キックオフはキック側とレシーブ側に分かれるが、これはキック側がキックしたボールをそのまま捕球し、攻撃権を継続することを狙うもの。試合終了間際などで僅差で追い上げているチームなどが行うことがあるが成功率は高くない。ボールの跳ね方が成否を左右することもあり、運の要素も強い。
・ブラスト
攻撃における作戦名。英語の「Blast」、爆発・爆破などの意味。ディフェンスを押し込むのではなく、ディフェンスに穴を開けてそこを突破していく戦術。基本的にはラインの中央付近に突撃していくプレーであり、5ヤード〜10ヤード程度進めれば御の字というプレーになるが、ディフェンスの対応力次第では穴を塞いで進路を妨害している間にロスタックルを仕掛けることもできる。はたまた、中央を突破した後の走り次第ではディフェンス陣セーフティーが守る位置までの20〜30ヤードのビッグゲインを得ることも可能である。
・トリプルオプション
攻撃における作戦名。ボールを受けたQBは、その場で①RBにボールを渡して走らせる、②自分がボールを持って左右に走る、③背後から回り込むように走るWRにボールを投げて走らせる、の3通りの戦術のどれを使うかを「その場で守備陣形に応じて」判断し攻撃するもの。3つの選択肢があるので「トリプルオプション」と呼ばれる。守備側としては必然的に対応しきれない部分が増えるため、対策が特に重要になる。
・延長戦
関東大学アメフト・全国選手権大会において、延長戦ではタイブレーク方式が採用されている。野球のように1回・2回・3回…のようにして行われる。先攻・後攻に分かれ、両者がエンドゾーンから25ヤードの地点から攻撃を開始。後攻のチームが先攻の得点を上回ればその場で試合が終了(「サヨナラ勝ち」に似ている)、同点であれば次回の攻撃へ移行する、野球のタイブレークと同じようなルール。
相違点として、アメフトでは回を経るごとに先攻と後攻は交代することが挙げられる。例えば1回表が東大、1回裏が慶大で同点だった場合、2回表は慶大の攻撃、2回裏が東大の攻撃で開始する。先攻の獲得点数次第で後攻は攻め方・得点方法を変えられるため、後攻の方が有利とされる(※2024年にこのルール下で行われた試合は先攻1勝・後攻2勝でした)。なお、タイブレーク中は時間制限やタイムアウトはなし。時間を気にせずプレーを行うことができる。
・ノーハドル
オフェンスチームがハドル(作戦会議)を組まず、いきなりプレーを開始すること。通常はプレー前にハドルを組んで次のプレーの情報共有をするが、QBもしくはベンチからのサインによっていきなりプレイを開始することを指す。ノーハドルでオフェンスを開始されると、ディフェンス側は作戦を共有し合えない状況となるため、結束が乱れる。これを狙う目的で行われることが多いが、単にオフェンス側の攻撃時間が残されていない場合もノーハドルによるプレーを行うことがある。
アメフトは、基本的にラグビーと同じくゲームクロックは止まりませんが、いくつかの場合はゲームクロックが一時停止します。以下がその場合です。
・タイムアウトを取った時
・パスを失敗した時
・攻守交代の時
・ボールを持った選手がフィールドの外に出た時
・得点が入った時から、次のキックオフで誰か(チームは問わない)がボールを触るまで(TFP中の全ての時間)
つまり、ランプレーやパスが成功した場合は時計は止まりません。残り時間が少ない時には、意図的に時間を止める手段としてタイムアウトを使います。ただし、タイムアウトは各チームで前後半3回ずつしか使えないルールなので、使いどころが重要になります。
また、他のフットボールと違い、ロスタイムは全くありません。試合会場の時計が0になったらそのプレーで試合は終わります。ラストプレーのみ、残りが0秒でも継続できます。2023年の早稲田-立教戦は、残り時間1秒のラストプレーで立大が逆転タッチダウンを決めて勝利しました。このようなこともあるので、ラスト1プレーまで目は離せません!
慶應の試合では、應援指導部が駆けつけてくれます!
応援の仕方がよくわからなくても大丈夫です。野球と同様、指導部の人たちが選手名や応援の仕方を丁寧にレクチャーしてくれます。ハーフタイムにはチアリーディングによるパフォーマンスが行われる時もあります。点数が入ったら慶應義塾が世界に誇る名應援歌「若き血」を一緒に歌い、慶大ベンチを盛り立てましょう!
2024年から、アメフト全国大会の仕組みが大幅に改変されました。
これまでは、東日本代表と西日本代表が「甲子園ボウル」(全国大会決勝)で対戦し、学生日本一を決定してきました。このため、関東・関西ともに地区1位のみが甲子園ボウルへの挑戦権を得る形となっていました。
しかし、2024年からは、関東・関西3位までの計6校と、各地域から代表1校ずつ(6地域)の計12校が本大会に出場してトーナメントを争う仕組みに変更されました。従って、関東・関西ではシーズンで3位までに滑り込めば甲子園ボウルに出場できる可能性を得られるようになった、ということです。これにより、2024年の横浜DeNAベイスターズが日本一になったような、逆転・下克上の日本一も、夢ではなくなりました。
甲子園ボウルは東西決戦という立ち位置でここまで開催されてきましたが、2024年以降はトーナメントの勝ち上がり次第では関東同士、関西同士の対決も実現することになります。甲子園ボウルが早慶戦となる未来もあるかもしれません。
また、これまで甲子園以外では実現しなかった「秋の関東vs関西対決」が、毎年関東でも1〜2試合行われることになります。学生アメフトを愛するファンにとっては、これも毎年の楽しみになることでしょう。
2024年大会は試行段階ということもあり、今後大会のシステムが変更になる可能性もありますが、公式発表では少なくとも3年間はこの方式が維持されることが明記されています。
初年度となる2024年大会は、関東・関西ともに3位チーム(慶大・関大)が準々決勝敗退。さらに準決勝で2位チーム(早大・関学大)も共に敗れたため、結果的には今まで通り地区王者同士(法大・立大)が甲子園ボウルに出場。立命館大学が賜杯を手にしました。敗北チームは全てアウェーゲーム(関東校→関西会場、関西校→関東会場)だったこともあり、今後修正が加えられるのかにも注目です。
(編集:東 九龍)