11月21日、22日に伊勢神宮で開催される全日本学生弓道王座決定戦に出場する弓術部男子。優勝した2021年以来、4年ぶりの伊勢の舞台で、頂点を目指す。
今回は、ラストイヤーにして初めて伊勢への切符を手にした主将の森住俊祐(経4・慶應義塾湘南藤沢高等部)と、大学まで弓道未経験ながら中心選手として活躍する八尋泰司(経2・開成)の2選手にインタビューを行った。(このインタビューは11月16日に行いました。)
今年度、弓術部の主将を務める森住俊祐(経4・慶應義塾湘南藤沢高等部)は、10月19日のリーグ戦順位決定戦で活躍し、ラストイヤーにしてついに念願の伊勢への切符を手にした。
ーー弓道を始めたきっかけ
森住:かっこいい話というより、本音からいくと、中学校で部活を選ぶ時に、体育部に行きたかったんですけど、走りたくはなかったんです。そうして、弓術部といくつかの部が残って、後者の先輩方が怖かったので…弓術部は全国大会に毎年出ていましたし、人数もいっぱいいて楽しそうだと思って、弓術部に入りました。
最初から弓道そのものが好きで入ったわけではないが、徐々にその魅力に惹かれ、10年も続けた。森住が挙げた弓道の魅力は、主に2つある。
1つ目は、「同じことを繰り返す中で、いろいろな試行錯誤をして、自分の努力が目の前の的中に現れてくる」ことである。毎回同じ動作を繰り返すものの、放つ矢は一つとして同じ瞬間はない。修正し続けていき、自分の思い描く“矢”に近づけていく。
2つ目は、「勝つ喜び」である。「リーグ戦も、最後の1本を中てて優勝したんですけど、自分がそんな場面にいるなんて、想像もしていなかったんです。高校生の時に国体選手に選ばれて神奈川県代表として関東大会に行った時に、勝てた瞬間を覚えていて、勝った瞬間っていうのはほんとうにほんとうに飛び上がるぐらい嬉しいんです」。
ーー苦労
森住:大学2年生の時、部員が15人もいなくて、みなが部活をやっていくだけで精一杯で、すごく大変だったんです。余裕がなくて、勝てる未来も見えないし、コミュニケーションを取る余裕もありませんでした。どんどん部員も辞めていっちゃって、「なんで部活をやってるんだっけ」とすごくしんどい思いをして、その時は僕も辞めようかなって本気で思っていました。
弓術部を辞めることも考えた森住だったが、中高時代に6年間通っていた道場に足を運んだ際、楽しそうに弓道に打ち込み、「指導してください」と声をかけてくれる後輩たちの姿を見て、過去に頑張っていた自分と重なった。そうした光景に触れるうちに「後輩たちのためにも自分が頑張らないと」「いい部を残していかないといけない」という想いが芽生え、もう一度前を向く決心がついた。
ーーリーグ戦と順位決定戦
森住:リーグ戦の1試合目はすごくレベルが高くて、自分たちはちゃんと中ててたんですけど、相手が中て返してくるような展開で、ずっと追われ続けていました。「これがリーグ戦だよな」って、すごく精神的に疲れる試合だったんです。
1試合目は落としてしまったが、主将として、先輩として、「強くて隙のないチームをみなで目指していこう」と前を向いた。「今日はダメだったけど、みんなで上げていこう」という気持ちを持って、みなで空気を作り、話し合いを重ね、監督も背中を押し続けてくれたことで、全員が一日一日準備をしてきたことを発揮できるようになっていた。
その後、3連勝を達成した慶大は、初戦に敗れた桜美林大と優勝を懸けた順位決定戦で対戦することになった。「幸運にも再戦の機会を得られたので、あとはやってきたことを信じて、そういう気持ちでやっていたと思います」。
ーー「信じ、頂点へ」、ラストイヤーの一本

森住:今年、僕の中では絶対に伊勢に行くということを目標としていました。
昨年、王座決定戦の観戦に訪れた際、「来年ここで弾けたら最高だな」と伊勢の舞台への憧れがよりいっそう強まった。そこから、「この景色をみんなと見たい」「絶対に行きたい」という想いで1年間精一杯努力してきた。仲間が一人ひとり真剣に取り組む中で、自分も同じように全力で向き合う。自分自身をしっかりと信じれば、仲間もついてきて、「必ず頂点に行ける」と確信していた。その結果、伊勢行きを勝ち取った。
森住:順位決定戦で優勝がかかった最後の1本は、自分で分かって引いてたんですよ。「これを中てたら優勝だ」って。そんな矢が回ってくるとは思っていなかったし、それでも中たったんです。周りの人が喜んでいる姿を見て、10年間で一番大きな拍手をもらって、この光景は一生忘れられないなと、死ぬ時に思い出すんだろうと思います。最後は、みなと一緒に気持ちを新たにして、全力で最後まで引きたいと思っています。全員が弓術部にいてよかったと思えるように、各自が持っている役割を全力で果たす、そういう部にしたいです。
八尋泰司(経2・開成)は大学から弓道を始めた初心者ながら、競技開始2年目にしてリーグ戦で他の選手たちにも引けを取らない活躍を見せている。
ーー弓道を始めたきっかけ
八尋:高校では他の競技をしていましたが、大学に入って新しいことに挑戦してみたいと思って、体験見学に参加させてもらいました。そこで、部の雰囲気も良かったですし、弓道もすごく面白そうだと思い、やり始めました。
ーー最初の難しさ
八尋:弓術部は多くが経験者なので、初心者としていろいろ一から学んでいくのはすごく難しかったと思います。ただ、先輩方やコーチの方や同期など、いろいろな方が指導やアドバイスをしてくれて、周囲に追いつけたように感じています。どんどんと射を洗練していく競技なので、自分が引いている時の動画を観ることでも成長していきました。
ーーリーグ戦の振り返り
八尋:初戦は桜美林大学との対戦でした。春にあった新人戦の決勝戦で負けて、すごく悔しかったので、初戦ではとにかく勝ちたいという一心で頑張ってきました。結局負けちゃったんですけど、それでも王座を目指して必死にやりました。
ーー今日の練習試合で意識したところ
八尋:弓道ってあまり観客がいないですけど、今日は観客の視線を感じて緊張したので、いつも通りの射を引き続けることを意識しました。
リーグ戦の後半頃に調子を落としてしまった八尋は、コーチからアドバイスを受けて、調子を取り戻すように調整してきた。入部当初は全く想像できなかった伊勢の舞台に立つことに緊張を感じながらも、これまで自分を導いてくれた人たちが安心して引退できるような、力強く頼もしい存在になりたいと語る。緊張感を力に変え、精一杯成果を出してチームに貢献し、自分なりの射を見せたいと意気込んだ。
(取材:蕭敏星、柄澤晃希)


