【What is 〇〇部?】その1本に全てを滾らせろ! “戦場のチェス”と学生たちの挑戦/File.32 フェンシング部(前編)

フェンシング

慶大の体育会を深掘りしていく連載企画。「What is 〇〇部?」。第32回目は、白いユニフォームを身にまとい、巧みな剣さばきとスピードで人々を魅了するフェンシング部の練習を取材した。部の歴史について、今年度のフェンシング部について、早慶戦に向けて、そして競技の魅力について――今回は主将の小澤祐太(経4・慶應)、そして戸田拓海(医4・慶應)、坂藤秀昌(法4・慶應)の2人の副将のインタビューを交え、その魅力を深堀!

慶大フェンシング部について

慶大フェンシング部は1936年創設。日吉蝮谷フェンシング道場を拠点に、部員が日々研鑽を積んでおり、その規模は国内の大学フェンシング部として屈指を誇る。

部としては“全種目リーグ戦1部昇格と早慶戦勝利”、“人間性の育成”を二本柱に掲げ、組織力を高めながら競技力の向上に取り組んできた。近年はその成果が形となり、男子エペ団体は昨年の学生主要大会全てで優勝する快挙を達成するなど、戦力は着実に強化されている。

また、パリ五輪男子フルーレ団体で金メダルを獲得した現役の飯村一輝(総4・龍谷大平安)、同女子フルーレ団体銅メダルの宮脇花綸(令2卒)、ロンドン五輪男子フルーレ団体銀メダルの三宅諒(平25卒)ら、世界の舞台で活躍するOB・OG・現役選手を数多く輩出してきた。

パリ五輪男子フルーレ団体で金メダリストの飯村

伝統と国際レベルの競技力を併せ持つ、日本大学フェンシング界を代表する伝統校のひとつである。

フェンシングとはどういう競技か?

フェンシングは1対1で行われる剣技スポーツで、フルーレ・エペ・サーブルの3種目に分かれる。いずれも細長いコート「ピスト」上で対戦し、電気判定機に接続された剣のタッチで得点を競うただ、ルール構造や有効範囲は種目ごとに異なる。

フルーレ:主に胴体への突きが有効。攻撃権の概念あり

エペ:全身が有効面で、相打ちも認められる。最もルールがシンプル

サーブル:上半身への突き・斬りが有効。スピードが特に速く、攻撃権がある

日本は近年オリンピックで飛躍的な成績を残しており、世界の強豪国として確固たる地位を築きつつある。その活躍を受け国内での注目も高まっている、“今アツい”競技の一つだ。

では、フェンシングの魅力は何か?

サーブルを主戦場とするキャプテン小澤は、その本質を“スピード感”と語る。

「フェンシングをあまり見たことがない人が最初に感じる印象って、本当に一瞬の間に何かが起きて点が入るみたいな、一瞬一瞬の兼ね合いだと思います。僕がやるサーブルは特にそのようなスピード感が魅力かなと」

”スピード感”(小澤)

一方、副キャプテン坂藤(エペ)は違う角度から魅力を捉える。

「駆け引きだと思います。攻撃側の選手がアタック動作、繰り出すタイミング、突く場所に対して、守備側の選手がどういう風にリアクションするのかは、その一瞬一瞬で判断されています。(種目によって)有効範囲が異なることも、スピード感や駆け引きに違いを生んでいると思いますね。エペでは全身どこでも突いたら点になるので、より駆け引きが重要になってきます」

”駆け引き”(坂藤)

1対1の競技だからこそ重要となる、駆け引き。同じく副キャプテン戸田(フルーレ)の表現は独特で興味深い。

「例えるとしたら、じゃんけんなんですよ。三つ巴で、技が大まかに3種類、守る技、攻める技、不意打ちで、それらをどう混ぜるかなんです。トップの選手と(試合を)やっていると、自分の“グー”が相手の“チョキ”に負ける――スピードにおいて相手のチョキが速すぎて自分がグーで勝っているのに負けてしまう、みたいなことがありえるので、同じレベル(の相手)だと一筋縄にはいきません。すごく難しいじゃんけん、みたいな感じです」

“じゃんけん”(戸田)

個人戦は、15点先取または3分×3ピリオド制。その10分に満たない時間の中に、選手たちの思惑が凝縮されている。

フェンシング部の、今年

今年の慶應義塾體育會フェンシング部は、66名という全国でも屈指の大所帯で活動している。

今シーズンのスローガンは「今に滾れ」。フェンシングは技術や体力だけでなく、気持ちの強さが勝敗を左右する競技だ。たった1本の駆け引きや、わずかな流れの変化が試合を大きく動かす。その一瞬に全てを注ぐという意味を込めて、このスローガンが掲げられている。

”今に滾れ”

部員は経験者が多いなか、7名の初心者も在籍しており、主将の小澤自身も大学から競技を始めた一人。

「1年生の時、サーブルリーダーを務めてた方に『やってみたら』と軽く言われて(笑)。『背も高いし、左(利き)でやるんだったら、もしかしたらあるんじゃない?』みたいなことを言われて、乗り気になって」

その小澤が今では部の主将を務めている。“フェンシングは努力次第で大きく成長できる”――その証明といえるだろう。

主将の小澤は大学から競技を始めた

選手たちは、春/秋でいくつかの主要大会を毎年戦い続けている。その流れは主に次のようなものだ。

前年12月に新体制がスタートすると、4月の全日本学生カップ、そして年間で最も重要なリーグ戦へと向かっていく。リーグ戦で上位2校に入れば、6月に関東と関西の代表校が集う王座決定戦に進むことができる。そこから夏合宿を経て、秋シーズンの主要大会が続いていく。10月の関東インカレ、11月の日本インカレや全日本団体戦、そして12月の早慶戦がそのクライマックスだ。

各種目がリーグ戦で掲げた目標を達成し、最終戦である早慶戦で総合優勝をつかむことが、毎年のチームとしての大きな目標となっている。

普段は週5日、蝮谷練習場にて練習が行われるが、3種目それぞれ練習スケジュールやチームの雰囲気が微妙に異なる。サーブルチームは元気で勢いがあり、皆がフェンシングを心から楽しむ。フルーレチームは「家族のようなチーム」を掲げ、本音で言い合える関係性を大切にする。エペチームは競技外の時間から仲が良く、団体戦に直結する強いチームワークが特徴だ。

早慶戦に向けて

最後に、三人の主将/副将に今月13日に行われる早慶戦への意気込みをきいた。

「残っている早慶戦の総合優勝は、まずチームとして絶対に達成しないといけない目標だと思います。引退試合として、今までやってきたことを全部出せたらいいなと思います」(小澤)

「今シーズンはここまで、大きな大会では目標の一歩手前で全部負けてしまっています。他の部員66人と同じ方向を向くには、もう早慶戦しかないということで、フルーレだけでなく、全体で早慶戦総合優勝を目指します」(戸田)

「学生生活の最後に残された試合で、アンカーを務めることになってて、自分が45点目を取り切らなければいけないので、最後に優勝で競技生活をしめたいです」(坂藤)

 

過去の対戦成績は、男子は慶大の21勝54敗、女子は15勝26敗。昨年の第77回大会は、男子が4連覇も、総合成績で惜しくも惜敗した。2022年以来3年ぶりの総合優勝に向け、選手たちは剣を研ぐ。

 

(取材:吾妻志穂、中原亜季帆、蕭敏星、竹腰環、長掛真依)

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