蹴球部新年度特集の第4弾、最終回は指揮官田中真一監督のインタビュー。監督就任後最初のシーズンを終え、指揮官が考えたこととは何だったのか。昨年度の反省点、今年度の蹴球部の学生たちに求めている精神、そして塾蹴球部の目的と目標などを語っていただいた。
(この取材は3月6日に行いました)
――昨年度を振り返って
昨年度のチームは非常に難しいタイミングであったと思います。というのは、僕の前には林雅人前監督が4年間指導されてきて、監督の交代期になった。スタッフがある意味総入れ替えとなってしまったこともあったので、それまでやってきたこと、どういったラグビーをやってきたかということがなかなか継承することが難しいタイミングだったんですね。そういったなかで、仲宗根主将、栗原副将、学生幹部、4年生は本当にはよく頑張ってくれました。苦労の多かった1年だったと思います。彼らにとっては大学生活最後、もしかしたら人生最後のラグビーに打ち込む1年というとても大事なタイミングに指導者が代わるということは本当に大変だったと思います。
だからまずは学生たちが「どういうラグビーがやりたいのか」、「自分たちはどうしたいのか」、「どこを目指したいのか」、を聞かせてもらいました。そして、前年の林監督任期最終年も大学選手権の2回戦で帝京大学に敗れてシーズンが終わってしまった。林監督が4年間やってこられたラグビーというのは、戦略・戦術的に非常に長けたラグビーであったにもかかわらず敗れてしまったのはなぜか、というのをしっかりと分析した上でチーム作りをしなければいけない、というのがありました。そのなかで1つ見えてきたのが個々人の強化、フィジカルの強化でした。前年に帝京大に敗れてしまった試合というのは、大きい帝京のFwdにスクラムで押されてしまったり、あるいはブレイクダウンで押されてしまった。その結果、3週間前の対抗戦では勝利した相手に、残念ながら敗北し、シーズンが終わってしまった。やはりそこを見ないではチーム作りはできないと考えていました。
ですから、昨年度のチームはその前のシーズンが終わった時の要因をしっかりと分析した上で、何が必要かというのを考えてスタートしました。
そのキーワードの1つは「徹底した個の強化」でした。ボールを速く大きく横に動かすラグビーを目指し取り組んで来たわけですが、ただボールを速く横に動かすだけでは、ラグビーはなかなか抜けない。やはり縦にボールを運ぶことも必要で、そのためには強いフィジカルというのも個人個人が作らなければならない、という考えのもと春シーズンは徹底した個々人の強化に努めました。ただ、なかなか難しかったというのは、それと前年までやってきたラグビーを融合することでした。戦術的にもきちんと整理しきれずにいたことによって、選手にとまどいが生じてしまったと思います。残念ながら最終的に敗北してしまったのは、選手ではなく私の監督の足らざるところに至ると思っています。勝てば選手の力、負ければ監督の責任だと常に私は思っています。
大学選手権2回戦の天理大戦には、徹底して相手チームを分析して臨みましたが、立川君、ハベア君、バイフ君の両CTBの力強さにラインブレイクをされ、そこを突破口に天理大学に攻められてしまいました。選手たちも良くディフェンスをしていたのですが“一瞬のすき”、紙一重のところを突かれて敗戦、昨シーズン終了という結果となってしまいました。
昨年は中心選手に4年生が多いチームでした。ですから、今年の新4年生の意識として、「危機感からのスタート」というものがあります。ある意味スター選手がいない、昨年のチームで試合に出ていたメンバーが多いわけでもない。そのなかでどうチームを作っていくか、という「危機感からのスタート」です。でも人間というのは失敗や敗戦から気付いたり学んだりすることが多いと思っています。その失敗の中にこそ真の気づきがあると思っています。そういった意味では「危機感からのスタート」「悔しさからのスタート」というのは非常に良い状況ではないかと思います。
――「新4年生は昨季出ていた選手が多くない」、ということですが、茂木主将は選手の学生の意見で就任が決まったのですか
基本的に、自分たちのリーダーは人から与えられるのではなく、自分たちで決める方がいいと私は思っています。最終的には学生が協議に協議を重ねて選んだ主将候補を監督である私が承認をするという形にはなりますが基本は学生自治の基本のもと学生が選んだ主将です。選出の過程でのアドバイスとして誰をリーダーにするかを考える前に、どういうラグビーがしたいのか、そのためにどんなリーダーが必要なのかというところまで掘り下げて議論をした上でリーダーを決めてもらいました。その中で茂木君が選ばれました。
茂木君には派手さとかそういったものはない。ただ本当に、地道にコツコツとひたむきにタックルをする本当に男らしい主将です。自分の仕事を地道にやる、慶應らしい主将が仲間から選ばれたと思います。茂木を選んだということは、慶應らしいラグビーとは何かを突き詰めた時に、それはタックルだ、タックルのできるリーダーを選ぼうとした。そして彼を選んだということについて、僕はプロセスも含めて大変良かったと思います。
――今年は幹部の体制が副将2人となっていて例年と違いますがが、狙いは
幹部を選定するときに僕からアドバイスしたことがあります。主将というのはチーム全体を見る立場だと思います。勿論茂木はFLであってFwdを見る。でも主将というのはFwdだけを見るのではいけない。やはりBksを含めてチーム全体を見なければいけない。今年は副将にFwd、Bks各々に1人ずつ置いたらどうか、という話をしました。キャプテンなるものは全体、Fwdを見る副将、Bksを見る副将を1名ずつ置く、という形で最初はそのトライアングルでリーダーを決めたらどうだ、という提案をしました。そのなかで学生たちから、茂木が主将でFwd、副将の渡辺祐吉がFwd、副将の鈴木貴裕がBks。するとBksのリーダーが1人になってしまうので、Bksのリーダーとして新甫を置きたい、と学生の方から提案してきました。それは話していくプロセスの中で出て来たことだし、彼らの中で考えた一番良いリーダーシップの体制だな、と思ったので、それでいこうという話をしました。勿論主務の岡がいて、学生コーチの長井がいるので、この6人で幹部という位置づけにしています。
――副将のお二人と新甫選手は高校時代から指導されていたと思いますが
本当にたまたま慶應義塾高校出身の3人が選ばれました。渡辺祐吉君は高校時代もキャプテンでした。彼の良さというのは気持ちの強さだと思うんですね彼の気持ちの強さというのは本当に高校時代から秀でていた部分です。慶應はひたむきにラグビーをするチームだと思うので、そういうチームのリーダーにふさわしい人間だと、と思っています。
鈴木貴裕君は中学時代、慶應普通部のキャプテンをしていた選手です。僕は指導はしていませんでしたが。ラグビーに対して冷静沈着でミスが少なく、堅実な選手です。物静かな男ですが、ラグビーに対する気持ちが強いです。メンタルも強いです。たとえて言うと「情熱の渡辺祐吉、冷静の鈴木貴裕」ですね。情熱と冷静の副将体制ではないかな、と僕は思います。
新甫については高校時代もBksリーダーをしていました。自分自身がリーダーシップを発揮して引っ張るというよりも、努力をする姿、背中で見せる選手です。新しいチームになってから、鈴木も新甫も私の持っていた印象と違って、非常に声を出してチームを引っ張っています。立場が人を育てるんだな、と改めて感じています。
――今年度、チーム内で徹底したいことというのは
「自考自動」という言葉で集約されています。自分たちで目標を決めて、その目標達成のために自ら考え、自ら行動し、自ら判断し、自ら動く。それが今年のチームで僕が一番基本にしていきたいところです。言うなればこれは慶應義塾の福澤諭吉先生の「独立自尊」の精神に基づいています。やはり慶應義塾の体育会の基本は文武両道であります。まず「文」があって、その先に「武」がある。その中で自分たちが考えて行動しなければ、やはり勝てない。特に今、大学ラグビー界も大きな変遷を遂げているなかで、私は指導者としてフルタイムで監督をさせていただける環境を整えていただけていますが、他校は複数人のフルタイムの指導者がいます。スポーツの推薦制度等もあり多くの有能な人材を獲得されています。一方で慶應義塾では自己推薦制度という入試制度を通じて一芸秀でた比較的有能な選手が集まる制度があるとはいえ、入学して欲しいポジションの選手が確実に入学できるわけではありません。学問が先立たなくては入学ができない。入学ができなければ入部は出来ない。私は慶應義塾はそうあるべきだと考えています。文武両道があっての慶應義塾です。その慶應義塾が他校に勝つからこそ意味があると思っています。監督や指導者に教えてもらう、与えてもらうのを待つのではなく、夢の実現に向けて自ら考えて自ら行動する。それがあっての慶應義塾の体育会だと思うし、慶應義塾の蹴球部のあるべき姿だと考えています。
極端な言い方をすれば「監督を頼るな」「自分たちで考えて自分たちで行動しろ、その責任は全て監督が負う」というのが基本的な私の考え方です。
――では、今年は基本的な方針に変更はないですか
ないですね。むしろもっと学生には考えて欲しい、と思っていますね。
やはりラグビーというスポーツは、他のスポーツと比べてもわかると思うんですけれども、戦況が変わったとしてもタイムをとって野球のように監督がマウンドに行くことも、バレーボールのようにコートの外に選手を呼んで作戦を与えることができません。一度キックオフの笛が鳴れば、ハーフタイムを除くとノーサイドまでは選手たちが自ら考えて行動しなければいけません。試合の際、戦況は時々刻々と変わります。お互いにどうしても勝ちたい思いで対峙しています。想定しなかったことをやってきます。想定したこととその裏の駆け引きのなかで、想定していなかったことが起きたとき、瞬時に自分たちが判断して行動できなければ対応できません。「教えられていませんでした」、「想定外でした」では負けた時の言い訳にはならないと思います。ラグビーの特異性からしても、自分たちで考えて行動することなくしてできないと思います。
今年は目標、目指すラグビーなども全て学生に考えてもらいました。戦術戦略を監督や指導者が事細かに教えるのではなく、目指したいラグビーに対してどういうラグビーをやって勝っていくのか、を徹底的に議論してもらいました。今年のチームのスタートは2月5日でした。2月4日まで大学の試験でしたので、夕刻に2011年のシーズンの納会を行い、その翌日5日からスタートを致しました。その1週間後の2月12日に茂木主将による今年のチームのチームコンセプト、ターゲット、目指すラグビーをプレゼンテーションを行いました。このような新シーズンスタートのプレゼンテーションは去年まではコーチングスタッフがパワーポイントを使って行っていたんですけれども、今年は一切そういうものはなく、茂木主将本人が行いました。
僕は常々、就職活動でも何でも、人生の中で決断をする時は絶対自分で決めろ、と言っています。そうでないと後で後悔や言い訳をするからです。うまくいかなかったときに人間は弱いもので、人のせいにしたり言い訳をしたがるものです。でも自分で決めれば言い訳を絶対できません。僕はそうすることが物事を始めるときの一番のスタートラインだと思っています。だから学生の今年やるラグビーについては考えてもらいました。彼らの目指すラグビーに向かっていくための方法については、我々指導者が一緒に考えていこうという形に今年はしています。
――今年は練習の量にもこだわる、ということですが
よく「量より質」ということが言われます。確かにトップリーグなど社会人のチームになれば、しっかり自己管理ができて、自分自身の経験も蓄えられていて「量より質」というのが当てはまることもあると思います。でもまだまだ学生のうちは量をこなさなければいけないと思っています。量をこなすことによって、染みこむ。染みこませることによって質が高まる、ということで、「量が質を凌駕する」こともあると思います。
人間はどうしても効率的に効果を上げたがるものだと思います。社会人になればそれでも良いと思います。ですが、私たちは学生スポーツです。学生のうちは苦労しなければいけないし、苦労して物をつかむ時間が我々にはあると思います。そういったものを培うことは今後の人生においても必ず生きると私は思っています。だから量をしっかりこなすことで、質を高めていく、ということを考えています。ただ、やみくもに量を増やしても強くならないので、基本を意識した上で量をこなしていくということで向上いていくことを考えています。ですから例年は新たなシーズンというのは2月末か3月初旬からスタートするものなんですけれども、オフ返上という形でやってきました。
昨年のチームは12月25日に大学選手権2回戦で敗れました。ですが、まだ主将や学生幹部は決まっていませんでしたが、新しいチームを集めて1月5日に年頭に私が挨拶した際にも「今年は量で質を凌駕しよう」と話しました。その後は期末試験があったので自主トレという形をとって、それを各自、勉強の合間にやってもらうようにしました。2月4日に前シーズンの納会があって、5日から新シーズンのスタートを切りました。いつもより足かけ1ヶ月早いスタートでした。帝京さんや天理さんは日本選手権の最中で、まだまだ昨年のチームが継続している段階でしたけれど、他のどのチームよりも早くシーズンをスタートしたいという思いがありました。
「体が小さいから」と言うのは言い訳にはならない。自分たちの努力でそれはいくらでも補えることだと思っています。それが低さであったり速さであったりというもので補えます。そのために1日でも早くとの思いで2月5日からスタートをしました。これも質より量にこだわっていることの1つの現れだと思います。
――今年は春シーズンから関東大学春季大会として公式戦も開催されますが
関東ラグビーフットボール協会の中に大学委員会で、この公式戦の議論はずっとされていました。それが今年から結実した、という形になります。2019年にラグビーW杯が日本にやってきます。日本のラグビー界の強化と普及は喫緊の課題とされています。そのなかで高校ラグビーからトップリーグまでの間の大学ラグビーをいかに強化するかということを考えていました。高校ラグビーは花園も非常に盛り上がります。多くの今の日本代表選手はトップリーグから選ばれます。そうすると、中間にある大学ラグビーでどのように強化をするのか、ということは、日本のラグビー界にとって大事なポイントになると言われています。その強化の一貫として春季リーグが導入される事になりました。
残念ながら慶大は昨年対抗戦で5位でしたので、リーグ戦の5位から8位のチームと対戦することになりましたが、やはりこれはファーストジャージで行う試合です。春の強化の一貫として取り組む試合であり、ファーストジャージを着て戦う試合でもありますので勿論点差をつけて勝つという目標があります。しかし、自分たちの取り組んできたラグビーの途中評価をするということを大事にして戦って行きたいと思います。
――監督は慶大で指導した選手をW杯に送り出したい、という思いはありますか
監督として、というよりも、慶應のラグビーを巣立ったOBとして、選手たちが国を代表して戦う、勝利をおさめる、ということは本当に誇り高き誉れだと思います。今の学生たちが2019年W杯のターゲット世代だと思っています。そういった意味でも今の慶應の学生たちを育てるということは、ラグビー界のひとりの指導者として責任があることだと思っています。ぜひ慶應のOBが1人でも多く、桜のジャージを着て、自国開催のW杯の晴れ舞台に立って欲しいと思います。
――春は関東大学春季大会に加え、例年通り招待試合等もありますが
4月に入ると毎週ゲームが続くことになります。我々には今年も招待試合が4試合あります。そのなかでも今回嬉しかったのは釜石シーウェーブスさんからご招待をいただいたことです。盛岡の地で試合をさせていただきます。東日本大震災の後、慶大は他大学のラグビー部皆さんとともに募金活動も行いました。大学ラグビー界としても、被災地の方々に何らかのご支援がしたい、と思うなかで、今回釜石さんに招待していただけて、本当にありがたいと思います。釜石さんはトップイースト所属の強豪チームであります。その強豪社会人のチーム対して、学生がひたむきに戦う姿を通じて何か被災地の方々に対してお届けできるものがあれば、という思いがあります。そして早稲田さんとは今年は宮崎、明治さんとは青森という形で、地方の協会に早慶明がご招待いただけるというのは、伝統3校が担うひとつ責任だと思うんです。その責任とはラグビーを普及していくという責任であります。普及の観点からも、我々は大事な役割を持っているという自負を持って精一杯取り組んでいきたいと思います。
それから定期戦もとても大事だと思っています。日本のラグビーのスタートは定期戦からです。早稲田さんとも明治さんとも対抗戦で戦っていますが、あれは定期戦であります。東大さんもリーグは変わったけれども定期戦をしています。また地域は違っても京大さんや同大さんとも定期戦組ませて頂いております。この定期戦をしっかりやらせていただくことは、伝統への責任だと思っています。責任を全うしたいと考えています。定期戦は伝統への責任、招待試合は普及への責任だと考えています。
――今年もオール早慶明はチャリティーマッチという形で行われますが
一昨年までは3週間かけて3試合をしていましたが、昨年は東日本大震災にて3試合とも中止となりました。しかし、その後3校のOB、監督で協議した結果3試合ではなく、1日に三つ巴で3ハーフを行い、その収益は全額被災地支援の為の寄付とするチャリティーマッチとして実施する事となりました。また、当初オール早慶明の試合予定日でありました4月3日、10日、24日に早慶明3校合同で銀座で被災地支援の募金活動を実施しました。この募金活動をひとつの契機に3校の結束が一段と深まりました。1年たった今でもまだまだ被災地では大変な思いをされている方が大勢いらっしゃいます。その中私たち早稲田、慶應、明治の3校ができることをしっかりやろうということで、今回もチャリティーマッチとなりました。これは当然のことだと私は思います。
――春シーズンの監督ご自身の目標、チームの目標は
私自身の目標は、学生全員がが怪我なく安全に安心してラグビーに取り組める環境を整え、学生が思い存分ラグビーに打ち込み、自らが掲げる夢、「大学選手権優勝 対抗戦優勝 ジュニア選手権優勝」の三冠を達成させてあげることです。去年の反省として、慶應は夏を境に伸びると言われながら夏に伸びることができなかった。当面は夏の強化にベストの状態で臨めるようにしてあげることが私は一番大切だと感じています。なぜそう思ったかというと、高校の監督をやっていた際は全国大会の予選まで夏がおわってからも1ヶ月半ほど時間があったんですね。でも大学の場合は9月の第1週目からジュニア選手権が始まり、そして対抗戦も始まります。そこから11月末まで毎週試合があるので、調整している間もなくなります。だから夏までにどこまで出来るか、というのが非常に重要になってきます。夏の強化をより充実したものにするためには、春どこまで強化ができるのかであります。
その為にも全ての基礎であり幹となる個々人のフィジカルの強化と、ベーシックスキルの精度向上を徹底して春シーズンにやっていきたいと思います。その先、夏に戦術、戦略の落とし込みというのをやっていきたいと考えています。
――今年度の目標は
年間目標は基本的には大学選手権優勝、対抗戦優勝、ジュニア選手権優勝です。これは学生たちが掲げた目標であり夢です。この学生が掲げた夢を達成するために、我々も自考自動、日々精進しなければなりません。
私は監督には色々なスタイルがあると思います。ヘッドコーチ型の監督は、現場の指導に徹するということもあると思います。でも私はマネージメント型の監督であると思います。蹴球部は1年生が入部し今年も160名弱の大所帯となります。その大所帯を如何に健全に安全に運営するかが監督の大きな責任だと考えています。
目標は先ほど述べた三冠です。しかし、蹴球部の目的は別にあると私は考えています。その目的は2つあると考えています。
1つ目は慶應義塾の体育会の一部活として、蹴球部の目的はラグビーを通じて、将来の社会のリーダーを育成することであります。日々の厳しい練習で己と向き合い、己に挑戦し、己を乗り越える。そして、その鍛錬を通じて仲間と鉄の絆を築く。その過程を通じて人間力を強化して社会のリーダーを育てる。これが蹴球部の目的であり存在意義だと考えています。
2つ目は学生らしくひたむきに戦う姿を通じて観て頂く方々に感動を与えるラグビーを行うことです。
目標として勝利がありますが、勝つ事が目的ではありません。この目的と目標を混在してしまったり、入れ替わったりしてはいけないと思います。あくまでも慶應義塾の体育会蹴球部が目指すのは、人間力向上、感動のラグビーであって、それが備わってこそ初めて勝利があると思っています。わたしは選手と言わず敢えて彼らのことを「学生」と言いますが、学生たちが日々学んで、成長して、そのうえで選手として成長し、勝利を挙げると思います。
――蹴球部のファンの方々にメッセージをお願いします
昨年は大学選手権2回戦で敗退してしまいました。いみじくも早慶明3校とも2回戦で敗れてしまい、正月の国立に進出できませんでした。ラグビーに携わる人間として、正月を越えられないというのはこの上なく寂しいものです。やはりファンの方々にも国立の舞台で伝統3校のジャージが躍動する姿を見たいという方が多くいらっしゃいます。2回戦敗退について直接、あるいは間接的に「残念だった」という言葉をいただきました。今年は精一杯学生らしくひたむきなラグビーに徹し、慶應のラグビーとして大事にしている魂のラグビー、魂のタックルをもって観て頂く方々に感動していただけるようなラグビーで勝利したいと思っています。目標は優勝ですけれども、それは目の前の一戦一戦に勝ち上がってこその結果です。目の前の試合、目の前のプレー、目の前の1つ1つのタックルに魂を込めてこだわっていきたいと思います。
――お忙しいなか、ありがとうございました。
(取材 高橋 茜)
今回のインタビューをもちまして、蹴球部新年度特集インタビュー&対談は終了します。お忙しい中取材を受けてくださった監督、ヘッドコーチ、選手の皆さまにこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。
慶應スポーツ新聞会蹴球班一同
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