【テニス】新シーズン開幕直前特集 坂井利彰監督インタビュー②

 2月27日、関東学生新進テニス選手権大会が開幕する。大学テニス界において2014年の幕開けとなる大会だ。昨年は個人戦・団体戦共に快進撃が続いた庭球部にとって、今年は真価の問われる1年となる。そこで、新シーズン開幕を前に坂井利彰監督にお話を伺った。

 

2013年シーズンを振り返っていただいた第1回に続き、第2回では自らトーナメントディレクターを務め、毎年日吉で開催されるテニスの国際大会「慶應チャレンジャー」について、さらに元プロテニスプレイヤーであり現在は慶大の専任講師である坂井監督に、日本テニス・大学テニスの現状について熱く語っていただいた。

 

 

―慶應チャレンジャーについて、大会を開催することになったきっかけは

 

「あの当時(2007年)何を考えていたかというと、僕も慶大の監督2年目で選手を引退した直後で、自分がツアーを転戦して感じていたことは、添田(添田豪:現世界ランキング138位)は確実にこれから活躍するということでした。当時はまだ100位に入っていなかったですけど。添田が当時22歳で今の志賀と同じぐらいの年齢で300位ぐらいにいて、彼のランキングが100位以内に入っていくにはチャレンジャー大会が絶対必要で、フューチャーズではだめだと確信していました。フューチャーズは既に何大会か国内で行われていたので、フューチャーズを開催することももちろん素晴らしいことなんですけど、さらに日本人選手が100位以内に入っていくことを考えた時に、絶対チャレンジャーだという確信があって、僕がアメリカを回っていた時にスタンフォード大学やUCLAとかそういった大学が会場になってチャレンジャー大会をやっていたので、日本の大学でもできると思っていました。後は学校にしっかり掛け合って、日本のテニス界のためになるし何より大学がグローバル化を考えている中で、学生たちが学生の時代から海外の選手たちに接したり、自分たちが海外に接するプロジェクトに携わるというのは学生にとっても大学にとっても必ずこれから必要になると思っていたので、色々な面で日本テニス界や慶大の学生、地域の人たちにとってもああいう試合を観ることによって地域との連携が深まりますし、慶大の中で自己満足で終わらせる大会にしたくなかったので、地域やテニス界との連携強化につながるということを目指して始めました。」

 

―国内での国際大会というと楽天オープン等いくつか存在しますが、他の国際大会と慶應チャレンジャーの違いは

 

「何より選手と観客との距離が近いということで、これから確実にウィンブルドンや世界トップで活躍するスター予備軍たちが試合に出てくるわけですよ。そういう選手たちを観るということは、将来絶対活躍するわけですから、現に慶應チャレンジャーから20人ぐらいウィンブルドンで活躍している選手が出ていて、そういう選手たちを送り出すということを地域と学校とが連携してテニス界を盛り上げるということは魅力的だと思います。次は誰が出るのかというのを楽しみにして観客の皆様が来ていただけるということは1つ魅力だし、選手たちが「ありがとう」と我々に言ってくれているので確実に添田選手や伊藤竜馬選手(現世界ランキング166位)の力になっているということは確信しているので、そこは大会の魅力だと思います。」

 

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大会運営はほぼ全て学生の手で行われている。大会の大きな特徴の1つだ。

―慶應チャレンジャーは運営を全て学生のみで行っていることが非常に特徴的だと思うのですが

 

「そこはさっきも話したように、勝つことだけを目指してやっているわけではないということで、大学のスポーツというのはプロを輩出することが全てではなくて、何が目標かと言えば“社会で活躍する人間をどうやって輩出するか”ということが一番の目標であって、これからの時代は“指示待ち”では絶対だめなんですよ。上からの指示を待って、9時から17時までルーティーンワークの中で働いていくという働き方ではなくなってきているからやはり自分たちで考えて行動して、社会人1年目は子供扱いじゃなくて大人扱いだから即戦力で会社に役に立つ人材が求められています。それは机の上の勉強だけではなくてそういうプロジェクトで協力しながら、また自分のスキルを上げながらやっていくことだと思うので、指示待ち人間ではなくて自分から主体的に動ける人間を育成することがこれからの大学の教育だと思うし、僕らもテニスが強くなることだけを目指してやっているわけではないというのが一番のメッセージです。周囲から勝つことだけを求めてやっているのではないかと思われたくないので、僕らは社会で活躍する指示待ちじゃない自分たちから動ける人間、つまり先導者を育成するのが慶大だと思っていますし、そこを目指しているということですね。」

 

―大会がスタートした2007年頃と今を比べて変わったことは

 

「最初は学生たちもイメージが湧かないから、トップダウンで僕らが色々と指示することが中心だったのが正直なところでした。しかし当初から僕らが指示して動くという形は変わる時は必要かもしれないですけど、中長期的にどういうところを目指すのかと考えた時に、学生が主体的にやっていくことが目標であって、途中から学生主体というのを謳っていましたのでそこからは変わりましたね。」

 

―今年の大会を振り返ると

 

「今年の大会は今までの中で一番レベルの高い大会だったんですね。世界100位以内に入っている選手や、先日の全豪オープンで2回戦に進出したエブデン(オーストラリア・現世界ランキング62位)が優勝してそういった60位代の選手が来てくれたり、本当のトップを観ることができた一番レベルの大会で、さらにキャプテンを中心にチーム力が発揮されたし、次にこの部を支えていく人間たちがすごく主体的に動いてくれたので、今年のチームにすごい力になっていると思います。僕らはテニスを強くするだけではなくて、井上(善)(経3)みたいな選手を出すためにも目標設定を高くしなくてはいけないし、今までで満足していたレベルも変えなくてはいけないし、自分の心地よいものを変えなくてはいけないんですよ。それには海外の選手を観たり、自分たちがプロジェクトを進めていく中で上手くいかないことが絶対に出てきます。上手くいかない時にどうやって自分たちでどうやって答えを探していくか、方程式で答えが決まっているわけではないので自分たちで探さなくてはいけないから、そういうものを皆で協力して探して見つける努力をして、最終的に自分たちの中で決めた答えを実行していくことが一番大きいと思います。これは清家塾長もいつもおっしゃられていますが、仮説を作って実行して検証してというサイクルを繰り返すということはいつも言われていますけど、それをまさに実践していると思います。」

決勝には多くの観客が詰めかけた

決勝には多くの観客が詰めかけた

 

―決勝は多くの観客でスタンドが埋め尽くされていました

 

「これは一つの成功ですね。あれだけのお客さんが来てくれて、席が埋まっていないところがほとんどなかったんですよね。あの日は錦織選手対マッケンロー(元世界ランキング1位)のエキシビジョンマッチが有明で行われていて、テニスファンの多くは有明に行っていたはずなんですが、それでも日吉にあれだけの人が来てくれたことに価値があって、それはあの大会が認められてきているということでもあるし、学生たちがどうやってお客さんに関心を持ってもらうかを真摯に考えてきた結果だと思うんですよね。評価をしていただいているという形と言っても良いと思います。」

 

―しかしながらテニスは野球やサッカーと比べると人気が劣ってしまっています。今の日本のテニス界の現状については

 

「僕が今度出した『日本人のテニスは25歳過ぎから一番強くなる』(東邦出版)という本を読んでほしいんですけど、この前のデビスカップ(カナダ戦)に約1万人のお客さんが詰めかけてチケットも完売だったんですけど、錦織効果を期待するだけではなくて、錦織選手もアメリカに13歳で渡っていてある意味海外で育ったわけですよ。国内で育った伊藤竜馬や添田に続く選手を育てていかないと、“海外に行かないと強くなれない”という概念が出来てしまいます。色々なプロセスがあって良いと思うんですよ。国内で育つ選手、海外で育つ選手、大学を経由して育つ選手、色々な育成プロセスを作っていくことがこれからの鍵だと思います。」

 

―一方でその海外育ちの錦織選手の活躍は日本テニス界にとって重要な役割を果たしそうですが

 

「もちろんそうです。とても大きいと思います。でもそれだけではだめだと。それにプラスして目に見えてこない地道な努力をやっていかないといけないです。以前もそうでしたが、松岡さん(松岡修造・元世界ランキング46位)や伊達さん(クルム伊達公子・元世界ランキング4位)がいてその後にサッカーや野球のように人気が続いてきたかというと、そうではないですよね。ということは、どこか選手頼みになっているところがあるわけですよ。だから、出てくる選手に期待するのではなくて、逆に選手を自分たちで育てていくということをして、なおかつそういう選手たちの認知度が高まるような工夫をしていかないと。そういう意味では慶應チャレンジャーは一躍を担っているとは感じています。」

 

―となると日本テニス界における大学テニスの存在意義や果たす役割とは

 

大学の体育会は高校の部活やプロとは一線を画している

大学の体育会は高校の部活やプロとは一線を画している

「大学テニスというのは99%の人間がプロにならずに社会人になるわけですよね。だから我々はプロ養成機関ではなくて、あくまで社会で貢献できる人材を輩出するところであり、テニスを通じてそういった人間を作っていくところだということは根本として変わりません。ただ世の中が求めている人材がどんどん変わってきていてグローバル化というところが求められて、そういった中でテニスはインターナショナルでグローバルなスポーツなわけですよ。それはすごくアドバンテージで、例えばウズベキスタンの選手もいればケニアの選手もいたり、あらゆる世界のところから選手たちはウィンブルドンを目指してやっているので、そういったスポーツにつながっているという意識をテニスを通じて感じ、世界とつながっている実感を持ち、かつチームプレイや自分のスキルを上げるとか、キーワードとしては“グローバル”、“チームプレイ”、“個人のスキル”、“文武両道”といったものを一つずつ大切にバランス良く育てていく選手を大学スポーツは育てていかないといけないと思うんですよ。その中でプロを目指す選手が出てくればそれはそれで良いことですし、いずれテニス界を支える人材になる可能性もあるし、テニス界に対してという意味ではテニス選手だけではなくて、企業側からテニスを支える人がいても良いし、競技団体としてテニスを支える人がいても良いし、指導者としてテニスを支えることでも良いし、色々な立場からテニスやスポーツを支える人が大学スポーツから出てくることが大事だと思います。」

 

―それは野球やサッカーからマイナースポーツまで共通していると捉えて良いのでしょうか

 

「そうですね。大学スポーツというのは絶対にそこは欠かせなくて、大学はプロ養成機関ではないので人を創るところだというのは絶対に間違いないです。」

 

 

 

最終回となる第3回では、2月27日に開幕する2014年シーズンの意気込みをお届けします!

 

※関東学生新進テニス選手権大会は、先日の大雪の影響による予選の日程変更により、本選の開始が2月27日に変更になりました。

 

(取材 飯田駿斗)

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