弓道は的に矢を中てるか否か、という非常に単純なルールの下で行われる。しかも結果に他者が介入する余地はない。しかしそのシンプルさゆえ、試合は独特の緊張感に包まれ、見る者を引きつける魅力を持つ。特に団体戦では、チームワークも非常に重要になる。慶大弓術部男子は長年都学Ⅰ部で戦っており、5年前には王座を獲得、日本一に輝いた。男子のリーグ戦は、8人計160射の的中で争われる。昨年は桜美林大と3勝1敗で並び、優勝決定戦の結果141中‐147中と惜敗。桜美林大はリーグ戦で、唯一黒星を許した存在だ。勢いそのままに昨年の王座を獲得している。慶大は結局リーグ2位に終わり、あと一歩で王座出場を逃した。今回は本間監督と渡邊幸四郎主将(商4)に、その桜美林大との試合や、今年のリーグ戦、王座獲得への思いについて伺った。
本間勤監督
―まずは今シーズンの目標をお願いします
目標は11月に王座に行って優勝、日本一を獲ることです。それまでの全関東、インカレも上位、優勝を狙っていきます。
―昨年のリーグ戦結果を、どう捉えられていますか
運にも助けられたところがあったと思いますけど、運をつかめる実力を磨いていて、あの結果(2位)になったと思うので、選手たちはよく頑張ったと思います。ただ改善すべき、反省すべき点が多く出たシーズンだったと思うので、それを今年はさらにグレードアップしていきたいと思います。
―桜美林との優勝決定戦を振り返っていただくと
相手は結果的に今から振り返ると、本当に横綱だったなと思います。結果としては横綱相撲を取られて押し切られた感じですが、こちらの選手もシーズンを通して成長した力を十分ぶつけられたと思います。気後れしないで試合ができた、実力を出し切れたのは本当に良かったです。勝ち負けで負けたのは残念でしたけどね。桜美林は技術が的中に現れるくらい、向こうのほうが一枚も二枚も上でした。精神的にも試合の最初から最後まで動じずに、技術を出し切れる力、技術・精神力ともに向こうのほうが上でした。
―リーグ戦で優勝するために、必要なことは何ですか
射の基本技術を身につけて向上する必要が、まだまだあると思っています。体力的にも精神的にも、1か月以上にわたる長くタフなシーズンを戦えるだけのものにはまだまだ届いていません。この春のシーズンにしっかり練習して、試合も気合を入れてやっていきたいです。
―具体的な練習でのポイントは何でしょう
まず1にも2にも基本に忠実な弓を引くということ、何度も何度も繰り返すということ、基本と矢数、そこに立ち返るということだと思います。(卒業した主力選手の穴は)今年の新4年生、新3年生のエースたちが十分埋められると思うので、さらに下級生の成長がポイントになると思います。
―技術面で大切にされていることは何ですか
私が監督になって3年目になって、基本である射の十文字をしっかりすること、弓との接点(手の内)をしっかりすること、十分伸びあって強い離れを出して真っすぐ矢を飛ばすということを強調してきました。これを繰り返し、繰り返し言ってきたので、それが身についてきたとは思います。
―慶大の強みはどのような点ですか
監督・コーチがいるのは他大も同じなんですけど、(慶大は)監督・コーチが学生たちの自発的な気持ちを大事にしています。押しつけではなく、選手・学生ひとりひとりが「自分たちが上手になって日本一になりたい、そのためにはどういう練習をしたらいいか、どういうチームワークをしたらいいか」と考えているところが、他の大学に対する強みだと思います。
―女子が昨年Ⅰ部に昇格しましたね
男子は女子に負けたくない、女子は上り調子でとても勢いがいいので、負けたくないという思いは強いでしょうし、いままでⅡ部にいた女子たちは男子に「何するものぞ」と思っているので、プラスの相乗効果が出ると思います。
―監督ご自身の学生王座への思いを教えてください
私はS57年の卒業ですが、3年生の時に初めてⅠ部に上がった経験をしました。確か2勝2敗で王座には届きませんでしたが、非常に強い気持ちを持ってやったのを覚えているので、それを30年たった今、学生たちに再現してもらいたいと思います。
―今年のチームに期待していることは
日本一になるというのは自分たちで決めたことです。自分たちで決めたことである以上は、それを言い訳せずにやり遂げる、やり遂げるプロセスを自分たちで考えてもらって、それを確実に実行するということ、言い訳をして逃げないということを期待したいです。
―最後に今年1年の意気込みをお願いします
目標は日本一という高い所に掲げています。それが言っているだけで終わらないように、日々の鍛錬をしっかりしていくということを、学生たちと一緒にやっていきたいです。
渡邊幸四郎主将(商4)
―まずは今年の目標をお願いします
(これまでの代と)変わらず、日本一、王座優勝です。部員の心掛けとしての目標は、「猛進」を掲げています。これは結果にこだわることは重要なのですが、かといって途中の結果をいちいち気にしていては、上は見えないということに気づきました。結局基本に忠実に、ただ各自が正しく、強くその道を進んでいくことによって、後から結果はついてくるという点を、昨年強く感じたので、この目標を掲げました。
―昨シーズンの結果をどう評価されますか
勝ちきれない年度だったと思います。最後の一歩がどうしても踏み出せない。例えば全関では3位、全国選抜は4位、リーグ戦は2位というところで終ってしまったというところが、一番の問題だったと思います。
―桜美林大との試合を振り返ってください
まずは単純に実力不足で、桜美林大は非常に強く、上手いところだったんですが、われわれがやれることをやり切れていなかったということになります。ただ(リーグ)初戦と順位決定戦は内容が違いました。初戦は何もできませんでしたが、順位決定戦はある程度はできたものの、最後が足りなくて、惜しくも負けてしまったという感じです。
―桜美林大との差は何ですか
どれだけ基本に忠実か、という点だと思います。桜美林大はだれが見ても、上手いと思う技術を持っている大学なんですね。一方慶大は、セレクションで(選手を)とっていないので、部員は好きで入部する人だけが集まっています。そうした悪く言えば「寄せ集め」の軍団で戦っていかなければいけないなかで、射に統一感がなく、基本に忠実でもなく、ちょっと薄っぺらな射術があるのかなと思うので、そこが未熟だと思います。
―普段の練習について教えてください
一昨年からやっている練習ではあるのですが、ビデオ練習というのをやっています。部員同士でスマホ等を利用して、射をビデオに撮って、みんなで見るというものです。うちの部は4つの縦割りの班があるのですが、班に分かれてビデオに録って見ています。各自が客観的に自分の射を見ることで、何が問題かを洗い出す、そして次の課題を見つけ出すという練習をしています。男子部は24人在籍しているので、4つの班で1班6人ごとに分かれ、各班学年が均等になるようにしています。また選手選考の基準を、的中率以外に基本に忠実な射をしているか、という点を交えているというのも特徴です。日々の練習から基本的なことなのですが、(問題を)「見かけたら言う」ということをしています。小ずるいことをして中てている部員には、「そんなことして中てても意味ないよ」と言って、その場その場で正してあげています。
―主将として意識していることは
部員全員が同じ方向を向いていて、その方向の先に自分が立っているのを意識しています。もう一点は例えば上手いのに中らない部員がいるとか、部員全員が力を発揮しきれていない現状があるので、力を最大限発揮できるようなチーム作りを目指しています。例えば悩みがあったら向き合うだとか、とことん一人一人と向き合う、付き合うという点を意識しています。
―今年のチームの強みは何ですか
体育会という形態をとっていると、どうしてもありがちになってしまうことではありますが、昨年まではどうしても下級生の意見を吸い上げられなかったんですね。今はそうしたところの風通しも良くして、全員に当事者意識と責任感を持ってもらうとしています。最下級生も最上級生も、年を食ったから年若いから偉い偉くないではなく、自分がどういう意見を持って部に向き合っていくか、ということを考えさせるようにしたいです。上下関係はしっかり持ったうえで、学年に対して自覚を持って、年を食って下級生に敬語を使わせなきゃいけないから、自分は何をしていなきゃいけないのか、という点を考えて欲しいです。この点は慶應の強みかも知れないですね。他のⅠ部校って言うのは、監督が絶対で、トップダウン形式が多いのですが、うちはどちらかというとボトムアップ形式というか、あとは実践、「独立自尊」です。練習も自分から取り組んで、足りない点は経験豊富な上級生だとか、場合によって下級生の方が上手ければ、下級生に聞いたりもします。そういう点は上手くなる事に貪欲なんじゃないですかね。
―主将ご自身の王座への思いを教えてください
王座決定戦の存在を知ったのは大学に入ってからだったのですが、私が大学に入った時の4年生、3年生というのは王座優勝を経験したメンバーでした。彼らは本当に上手い、優秀と言われる代でして、彼らに憧れて僕は弓道を続けていたのですが、ただその人達が4年生、3年生のときでも、結局王座を獲れませんでした。僕が1年生の時に直接見た4年生達を越えなければいけない、という点を心において王座を目指しています。王座優勝しないと満足して終われません。負けても結局いろいろやって良かったね、ということにはならなくて、結局結果にこだわってやらないと、正しい過程も生まれないし、良い過程も生まれないし、満足は一生できないと思います。王座は獲れなかったら満足できないものです。
―山本さん、長谷川さんという主力が2人抜けた穴はどう埋めますか
そこは私と副将の林君に任せて欲しいな、と考えています。昨年の二人の落(チーム内で最後に引くポジション)は本当に優秀というか、偉大な人達だったのですが、去年より中らなきゃ意味がない、去年より強くならないと勝てません。それが現状なので、私と林(林康弘副将、政4)が山本さんと長谷川さんという偉大な壁を走りとなって越えなければと思って、2人で落を務めたいなと思います。
―6月の全関東への意気込みは
2年連続3位なんですよね。そうやって勝ちきれないというのは本当に腹が立つので、優勝します。優勝するにも、下手な射で小ずるく優勝するのではなく基本に忠実に、射術面で見ても、的中面で見ても、関東一だなと思われるような部を目指したいです。
― WEBをご覧の方に「弓術部のここを見て欲しい」というアピールをお願いします!
弓道というのは非常に地味に思われがちなスポーツで、個人技のみと思われがちな競技なのですが、実はやればやるほど団体競技だな、ということを感じます。実は結構熱いスポーツだ、ということが分かると思うので、興味がなくても例えば全関東だとか、インカレは今年神戸であるのですが、そうした試合は旅行がてら見に来てくれればいいかなと思います。そうした中で熱さや面白さを感じ取っていただければ嬉しいです。
―お二人とも丁寧に質問に応えて下さりました
お忙しい中、ありがとうございました
(取材 砂川昌輝 松下聖)
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