【ラグビー】春季大会開幕前取材① 金沢ヘッドコーチ

昨年度は、2013年度に続き2年連続の正月越えを果たした慶應義塾體育會蹴球部。ついに、ファン待望の2015年度の戦いが幕を開ける。

本日から3度にわたってお送りする春季大会開幕前取材では、今年度のチームの軸となるヘッドコーチ、主将、副将のお三方に、2015年度の目標や体制、強化していくポイントを伺った。

第1回目は、今年度から就任した金沢ヘッドコーチだ。

今年度から就任する金沢ヘッドコーチ

今年度から就任する金沢ヘッドコーチ

今年度より蹴球部のヘッドコーチに就任した金沢篤ヘッドコーチ。現役時代は副将として創部100周年の蹴球部を大学日本一へ導いた。その後慶大大学院でスポーツマネジメントを研究し、慶大コーチやNTTコミュニケーションズでのBKコーチを務めるなど指導経験は豊富。昨年、慶大のテクニカルアドバイザーを経て、今季よりヘッドコーチとして指揮を執る。今季こそ「大学日本一」へ――。コーチングの視点を伺った。

 

――ヘッドコーチ就任の経緯は。

渡瀬裕司GMからお話をいただき、その後理事会で認められて就任しました。

 

――ご自身の経歴を教えてください。

中等部からラグビーを始めて大学まで続けまして、ちょうど慶大蹴球部創部100周年の時のバイスキャプテンを務めました。その後は住友銀行に就職し、6年間勤めていました。その間は、週末のみ大学や高校のコーチをしていましたが、28歳の時にプロのコーチになりたくて会社を辞め、慶大のSFCにあるスポーツマネジメント研究科に3年間在籍しました。そして、林雅人監督の時に高校のコーチから引き抜かれて大学のコーチに就き、2007年から2010年までは大学のフルタイムコーチ、2011年から2013年まではNTTコミュニケーションズでプロのBKコーチをしました。昨年は4月から7月まで3か月間慶大のアドバイザー兼東京ガスのスポットコーチをして、その後はオーストラリアに語学留学をしていました。向こうのクラブチームのコーチも経験し、今年戻ってきたという形です。

 

――現在の心境は。

慶大のコーチをやって以来、大学ラグビーから4年間離れていたので、まずは大学ラグビーに戻ることへのいろいろな期待感があります。私は今までアシスタントコーチという形でやってきたので、このような立場に就くのは初めてなんです。自分で全てを決めなくてはいけないポジションに就くことになるので、そこへの期待感もありますね。また、大学ラグビーは社会人と違って4年間しかなく、今の4年生にとっては残り1年間しかない。社会人と比べるとそういう意味ではとても熱いんですよね。もちろんやめる人もいますけど、社会人って負けてもまた次の年もほぼ同じメンバーで出来るじゃないですか。でも大学は終わったらもう一生できないんです。そういう意味では大学ラグビーはすごく熱いので期待感や楽しみがあります。一方で、自分で全てを決めなくてはならない立場なので責任感も当然感じていますし、少しプレッシャーもありますね。

 

――ヘッドコーチ体制の意図は。

私が決めた事ではないのですが、今までの監督というのは例えばOB会とか理事会への対応もしますし、全てのことをやっていたんです。それだと、監督への負担が大きいという事で、監督を現場の強化だけに集中させる為にGMという役職が設けられました。GMは中長期的な慶大の強化を担う人なので、現場の強化よりも理事会とのやりよりやリクルートなどを担当します。「監督」は現場の強化だけに集中するので名前も「ヘッドコーチ」に変わりました。そもそもヘッドコーチって日本語に訳すと監督になるので、このような体制になりました。

 

――付属中学・高校との一貫教育について。

一貫教育のことはGMが担当されていて、私は直接関わってはいないです。ただ、慶大の場合はスポーツ推薦がないので、この選手が欲しいからと言って獲得出来るところではないです。そうするとどこに大学を担う人材がいるのかというとやはり付属校になります。ですので、そこを強化することは必要なことだと思います。また、スポーツの特性として、パスやキックのスキルを伸ばせるのは小学校や中学校の若い時だと思うので、いかにそれらのスキルを子どもたちに沢山練習させるかという点は重要だと思います。

 

――キックオフミーティングではどのようなお話を。

今年の目標は学生が自分たちで話して決めて「大学日本一〜打倒帝京〜」と掲げました。そこで私が彼らに伝えたのは、優勝するかしないかの前にまずは優勝にふさわしいチームを作ろうということです。それは結局選手それぞれの行動になるんですけど、練習へ取り組む姿勢であったり、それこそ細かいところを言えば(部室の)玄関がきれいかどうか。私がヘッドコーチに就任してから最初に行ったのが大掃除なんです。これは私が今までいろんなチームに関わってきて感じたことなんですけど、強いチームはそういった部分がしっかりしています。挨拶もそうですし、そういう意味で優勝するのにまずはふさわしいチームになろうと。これがキックオフミーティングで私が一番彼らに強く伝えた事ですね。

 

――そのときの選手たちの反応は。

シーズンの最初はいろんなことに取り組むのに前向きだと思うんですよ。特に4年生は自分たちの代になったばかりなので。大事なのはそれを1年間ちゃんと続けられるかどうかなので、そのときの選手の反応というよりは、これからの選手の反応を見ていきたいなと思っています。人間最初は誰でも出来るじゃないですか。それを続けることが難しいと思うので、そこが緩んでないかをしっかりと見ていきたいと思います。

 

――昨年は「打倒帝京」という目標を残念ながら達成できませんでしたが、帝京大との差は何だったのでしょうか。

全てにおいて大きいと思うのですが、一番は体の大きさじゃないですかね。例えばキックオフミーティングで帝京大との体格の差がどのくらいあったのかということを、去年のデータ比で見せています。FWの平均体重で6kg以上、平均身長でいうと8.2cm違うんですね。そうするとたとえ慶大がどんなに体を大きくしても、そもそも8.2cm身長差があるので体重で上回るのは難しいじゃないですか。体重で上回ろうとすると太らなきゃいけない。太ろうとすると、それは筋肉じゃないので、本当に帝京大を上回ることが出来るのか、と。なので、どうやって彼らに上回るかといえば、運動量しかないということはキックオフミーティングで言ったことですね。

 

――昨年は早大と引き分けて4年ぶりの早慶戦勝利まであと一歩でした。

帝京大がここまで強くなっているというのもあるんですけど、早大とか明大は私達もすごく意識していますし、歴史のあるライバルだと思います。お互いにスキルとか体格差とかそういうのを超えたものが存在していると思うんですよ。たとえば慶大がすごく弱い年に、全敗の慶大と全勝の早大でやって全敗の慶大が勝った歴史もあります。そこには、スキルなどを超越した精神的なものが介在していると思いますね。今年も間違いなく厳しい戦いになると思いますし、それまでの戦いに関係なく厳しいゲームになると思います。私としてはそういうつもりで選手をグラウンドに送り出したいと思います。

 

――今年は多くの選手が入れ替わることになりますが。

もともと大学ラグビーはそういうところだと思っています。抜ける選手が多くなるということは、単純に見れば戦力的にはダウンすることになるかもしれないんですけど、色々な選手にチャンスが巡ってくることになりますし、今の時点でなく秋にいかにチーム力を上げられるかということが私の仕事です。(昨年度の)4年生が抜けても今の選手をどのように秋に持っていくかが重要だと考えています。今の選手はモチベーションが高い選手が多いので、私としては選手の能力を最大限に引っ張りあげるだけです。

 

――チームを引き継ぐにあたって和田康二前監督(現GM補佐)とどのようなお話を。

和田は僕の一つ下の後輩なので良く知っています。今いる選手の性格だとかこれまでどうやって取り組んできたのかというコミュニケーションはよく取らせてもらいました。彼はGM補佐になっているので今でも密に連絡を取っています。そういう意味では全く新しいラグビーをするのではなく彼から引き継いで、それをさらに進化させる、というようにこれまでの延長線上でチームを伸ばしていきたいなと思っています。

 

――現在の練習の雰囲気は。

練習は今、春季が3週間終わって4週目です(取材日は3月31日)。正直初めの3週間でモチベーションが落ちていたらどうしようもないのですが、みんな新しいシーズンになってモチベーションが高く良い練習ができていると思います。先程と同じ話になりますけど、今は土台を積み上げている時期だと思うんですよ。その土台をいかにきれいに、しっかりと積み上げるか。よくレンガの話をするんですけど、土台を適当に置いていくと最後まで積み上げていったときに建物がゆがんで弱くなるじゃないですか。なので、今はいい雰囲気でできているんですけど、緩まないように私がしっかりと締めてやっていきたいなと思います。

 

――現時点での注目の選手は。

私は正直まだ選手をすごくよく知っているわけではないので、当然去年のゲームを見ての話になりますが、たとえば廣川翔也(環3)はひたむきなタックルがすごく慶大らしい選手と思います。やっぱり若い選手に頑張ってほしい。今の2年生で言うと今泉宏健(総2)や金澤徹(商2)とか、そういう若い子には「自分ごと」になってやってほしいなと思いますね。「下級生」という形じゃなく、チームを引っ張ってくれるように期待しています。

 

――矢川智基主将(環4)は金沢HCの現役時代と同じSOですが、選手としてはどのような印象をお持ちですか。

彼はクレバーな選手だと思いますね。パスのスキルもキックのスキルも持っていますが、よく前を見てプレーできている選手だなということを去年のプレーを見ていて感じました。今練習しているところを見てもその印象は変わりませんね。

 

――矢川主将とのコミュニケーションは。

矢川と徳永(副将・商4)は毎日練習前に監督室に来るので、頻繁にコミュニケーションを取っています。特に話すことがなくてもとりあえず監督室にバンバン入って来いと言っていますし、彼らとはしっかりとコミュニケーションをとりたいなと思います。ゲームになれば私はグラウンドには入れなくて、彼らが引っ張っていくことになるので。

 

――今年度の目標は。

当たり前ですけど日本一を目指してやっていますので、目標は日本一です。

 

――「大学日本一」という目標のためにチームで徹底したいことは何でしょうか。

同じことになっちゃいますけど、優勝するかしないかって最後に決まることじゃないと思うんです。今の時点で優勝にふさわしい行動を全員がとれているかどうか。そういった点を徹底したいと思っています。私自身も優勝するために今からその準備を100%やっていかなくちゃいけないし、選手も当然そういうつもりでいてもらわないといけないと思います。一番重要なのは日々の過ごし方、取り組み方だと考えています。

 

――春季大会での目標は。

春季大会で何勝したいとかそういう目標はあまりなくて、それまで練習してきたことをしっかり出せるかどうか、ベストを尽くす以外ないと思います。結局は対抗戦で勝つ事が重要になってくるので、春季大会でも当然勝ちにはこだわりますが、出来ることをしっかり出来ているかどうか。あまり目の前の勝敗に一喜一憂せずに、最後まで諦めない姿勢といった面をしっかりと見ていきたいと思います。

 

――春季大会では中大をはじめ5つの大学と対戦しますが、それぞれの大学を個別に意識はしていないということでしょうか。

そうですね。彼らも当然秋には違ったチームになると思いますし、そこで相手を分析するのではなく自分たちのラグビーをしっかりと貫きたいと思います。

 

――トップリーグや高校などでコーチをされた経験をどのように生かしたいとお考えでしょうか。

私の強みは色々なグレードの選手をコーチングしてきた経験があることだと考えています。例えば、高校や大学、トップリーグやトップイーストも経験し全てのグレードを知っていますし、ブランビーズやワラタス(ともにスーパーラグビー・オーストラリアのチーム)での経験を通して一流選手はどうなのか、大学だとどういうことをしているのか、それらの知識をもとに、選手に色々なアプローチが出来るのではないかと思っています。

 

――その経験から得た指導のモットーはありますか。

トップイーストのチームはプロじゃないんですよね。朝起きて、7時から17時まで会社で仕事をして、19時半にグラウンドに来て、そこから21時までトレーニングをして、その後ウエイトをして帰るのは0時とかなんですよ。そんなことをやっていても彼らはトップリーグを目指してやっています。それを考えたら、学生は本当に自由に使える時間が多いんです。トップイーストの選手がそういう環境に文句を言わずラグビーに必死に取り組んでいる姿を見ると、学生はもっともっと真剣に取り組まないといけないんじゃないかなと強く感じます。そういうことは学生にもしっかりと伝えていきたいと思いますし、自分たちがすごく恵まれた環境にいるので、もっとラグビーに集中しないといけないとは思っていますね。

 

――濃い練習を、ということですね。

そうですね。ありあまるほどの時間が彼らにはあると思うんです。でもトップイーストの選手よりもラグビーに集中している選手がいるかと言えば、現状では足りていない選手が多いと思うんですね。

 

――これから作り上げていきたいチームはどのようなチームでしょうか。

自分が学生のときから思っていることなんですけど、まずは取り組む姿勢が一流のチームにしたいなということです。何故かというと、プレーが三流でも四流でも、取り組む姿勢だけはどんな人でも一流に出来ると思うんですよね。たとえば慶大の選手がオールブラックス(ニュージーランド代表チーム)に入ったら全然プレーはできないと思います。でも、姿勢ではオールブラックスの選手に勝てる可能性はあるじゃないですか。取り組む姿勢を一流にして、その結果勝つか負けるかだと思いますし、それで負けたら、それは相手がスキルで勝っていて現実的に強かったということだけだと思うんです。でも、姿勢も二流三流で負けちゃったらそれはすごく残念じゃないですか。もっと一生懸命取り組んでおけばよかった、という後悔だけは残したくないので、私は取り組む姿勢が一流になるように選手をコーチングしていきたいなと思います。スキルについても当然自分がやらなくちゃいけないんですけど、まずはスキル云々とかそういう話よりも取り組む姿勢を一流にすること。それこそが私の考える優勝するにふさわしいチームです。

 

――最後にwebをご覧のファンの皆様にメッセージをお願いします。

日頃より多大なご支援とご声援をいただきありがとうございます。日本一を目指す上で、慶大らしい低いタックルと運動量というところで、ファンの皆様がわくわくするような、興奮するような試合をお届けしたいと思っています。秋だけでなく、春シーズンもぜひグラウンドに足を運んでいただいて、選手にご声援を頂ければと思います。本年度もよろしくお願い致します。

 

 

(取材・山田万里子) 

金沢篤(かなざわ・あつし)

2000年卒。創部100周年の慶大蹴球部の副将を務めた。卒業後は、プロのラグビーコーチとして活躍。現役時代のポジションはSO。

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