昨年1部に復帰を果たした慶大競走部。目標は男女総合入賞であったが、短距離部門のエース小池祐貴(総2)の離脱などが重なり、初日、2日目でポイントを稼ぐことができなかった。3日目、走高跳に出場した刈田真人(総4)が7位に入賞し、2点を獲得するも、最終日を迎えた時点で慶應の得点は5点。最下位に沈んでいた。
慶大は2部に降格するのか。嫌な予感が関係者を襲った。しかしそんな予感を払しょくしたのは、400mHに出場した松本岳大(総3)とルーキー前山陽軌(環1)であった。松本が優勝、前山は6位入賞で計11点を稼ぐ。それに800mに出場した村上昴輝(総3)や三段跳に出場した児島有伸(環3)が続く。
閉会式、2部降格校の発表で慶大の名が呼ばれることはなかった。結果は男子1部29点、女子5点で、男子1部は総合13位、一度は絶望的となった1部維持をチーム力で勝ち取った。
第94回関東インカレ 2015.5/14~17日(木~日) @日産スタジアム
100mなど陸上における花形競技が行われた初日、2日目。昨年までチームをけん引していた山縣亮太(総卒)はもういない。短距離部門のエース、小池も離脱。慶大を不運が襲った。点数を取ることができない。嫌な空気が慶大競走部を包んだ。
そして3日目。午前中、400mHでは松本や前山が、800mでは村上が余裕を持って予選を通過する。
午後からはフィールドで走高跳が行われた。走高跳には刈田真人が出場。彼にとって最後の関東インカレだ。205cmまで余裕を持ってバーを越えてきた刈田であったが、次の210cmで苦戦する。1、2回目でクリアすることができず、迎えたラスト3回目の審議。刈田はしっかりと助走を取り、思い切り踏み切る。高く飛び上がった刈田の体はバーを越していった。バーが微妙にぐらつく。一瞬誰もが危ないと思ったが、バーの揺れは止まる。見事210cmはクリアした。次の213cmをクリアすることはできなかったが、刈田は7位入賞を果たし、慶大にポイントをもたらす。
しかしこの後行われた4×400mR予選で男子、女子ともに予選を通過できないというまさかの出来事が起こる。これで関東インカレを締めくくる最終競技である4×400mR決勝の舞台に慶大が立つことはなくなった。ポイントを稼ぐこともできない。まさに慶大は背水の陣であった。
運命の最終日。まずは400mH準決勝が行われた。1組目には前山が出場。華麗なスタートからラストスパートまで完璧な走りを見せた。51”33で2着。自己ベストを更新して決勝進出を果たした。2組目の松本は落ち着いていた。終始自分の走りを貫き、最後は相手選手の位置を確認しながら、51”36で1着。余裕を持って決勝の舞台へと駒を進めた。 続いて800m準決勝。前日にいいレースを見せた村上が出場。レース序盤から村上は先頭グループの一角を成す。1周目を54秒で通過し、勝負はラスト200m。ここから村上のペースは一気に上がり、前にいた選手をとらえきり見事1着、1’50″13でゴール。最高の形で決勝進出を果たした。
そして400mH決勝の時を迎える。5レーンに前山、7レーンに松本が入った。両選手とも気持ちを落ち着かせ、スタートラインに立つ。ピストルの音とともにスタートする全選手。序盤の200mは松本も前山も最高の走りを見せる。勝負はラスト200m。ここから松本は少しずつペースを上げていく。「前半の流れから上手く後半に繋げ、また後半も上手く切り替えられた」と本人も話すように失速することなく、ラストスパートにつなげることができた。最後のハードルを飛び越えたときには勝ちを確信した。他の追随を許さない圧倒的なレースを見せ、松本は50″57でゴール。また日本選手権A標準も突破した。
前山は後半のびを欠いてしまい、51″91で6着。前半がよかっただけに本人にとって悔しいレースだっただろう。しかし1年生が関東インカレというレベルの高い舞台でここまで奮闘するのは、慶大にとってこの上なくうれしいことだ。今後の活躍を期待した選手の1人である。
この流れでさらにポイントを稼ぎたい。続いて村上が800m決勝に出場する。5レーンに入った村上は予選、準決勝同様、先行し積極的にレースに加わっていく。次第に縦長の展開となっていく中で、村上は先頭集団に食らいついた。1周目は準決勝のときと同じ54秒で通過。またもやレースはラスト200m勝負となる。集団全体が徐々にペースを上げる中、村上はどこで飛び出すか。ラスト100m、ここで村上は飛び出していく。しかし後続を引き離すことはできず、ずるずると順位を下げていった。1’52″35で5着。村上にとっては悔しい結果となった。「自分がポイントを稼がなくてはならない」。きっとそのようなプレッシャーが村上を襲ったのだろう。この悔しさを次の大会にぶつけてほしい。
三段跳には期待の児島が出場。風邪をひいていたり、かかとの状態が悪いなど決してコンディションは万全ではなかった。1本目の跳躍で15m50(+2.3)と手堅く結果を出した児島。2本目のファウルを挟んで、3本目の跳躍。力強く踏み込み、大きく前へ体を投げ出す。跳躍後には自然とガッツポーズが飛び出した。記録は15m83(+2.3)。この時点で1位の結果を出した。その後も他選手が児島の記録を抜くことはできず、児島の3本目の跳躍、15m83が1位の記録となった。しかし「けっこうファウルが多かったので、もっと記録出したかったなというのがあります」と本人は記録には納得していなかった。全日本インカレで16mを越える大ジャンプを児島に期待したい。
また最後の関東インカレとなった菊池真生(文4)も躍動。15m27(+1.1)で8位入賞を果たした。
最終日で前山と松本が2人で11点、村上が4点、児島が8点、菊池が1点を獲得し、計24点を獲得。猛チャージを見せた慶大であった。そして男子一部は29点を獲得し、見事1部維持を果たした。
主将の頼駿智(経4)はあくまで1部「残留」ではなく、1部「維持」という言葉にこだわった。慶大は2部に降格するようなチームではない。1部にいて当たり前の個々の力、そしてチーム力を持っている。そのような気持ちの表れがこの1部維持という言葉には隠されている。
改めて今回の関東インカレで慶大のチーム力の強さを思い知らされた。陸上はよく個人競技だと言われる。しかし本当はどんなスポーツよりもチーム力が試されるスポーツなのではないだろうか。慶大は陸上競技の真のおもしろさを私たちに教えてくれた。
(記事:河合佳祐)
(試合後インタビュー)
頼俊智(経4・慶応義塾高)
(今大会を振り返って)今大会を振り返って、選手、サポートスタッフ、トレーナー、マネージャー、そして応援席、それぞれの役割を全力で全うしてくれて本当に僕がやりたかったというか、目指してきたチームで戦うということができたんじゃないかなと感じています。
(1部維持を決めたが)僕の代としての目標は男女総合入賞というのが目標だっただけに、目標が達成できなかったのは正直悔しい思いがあります。しかしそれ以上に同期や後輩が大量に得点をとってくれて、主将として、1人の4年生として頼もしく感じて、この目標は来年達成してほしいなというある種のバトンをつなげたと感じます。1部維持できたというのはよかったなと前向きにとらえています。
(これからのチームの方向性)まずチームで早慶戦連覇という目標があるので、この関東インカレでのチームの結束というか、まとまりはそのままにより勢いづけて早稲田に立ち向かっていきたいというのが1つと、早慶戦の前に全日本インカレという全国レベルの大会がありますので、そちらのほうで慶応の強さというのをしっかり出していきたいなと思います。
(頼選手個人の目標は?)僕は100mで1人の選手でもあるので、やっぱりまずインカレのリレーメンバーとして走って、僕が2年生のときに2番だったので、それよりも高い表彰台に上がりたいなというのがあります。そして38秒台を出したいというのがあります。あと早慶戦に出て、しっかりと僕が得点を取る。それが僕個人の目標です。
児島有伸(環3・城南高)
(今日の競技を振り返って)今日は風邪とか、かかととかがコンディション的には悪いところがありましたが、応援がかなり力になったので、結果残せてよかったですね。
(競技前のコンディションは?)咳がとんでもなく出てて、あとかかとが痛くてずっと練習ができてなくて、ぶっつけ本番という感じだったので、すごく不安でした。点数も取れていないというプレッシャーがあったので、かなり追い込まれてましたね。
(3本目で15m80㎝を越えたが)いけるとは思ってましたが、もう少しいきたかったなという感じはありますね。けっこうファウルが多かったので、もっと記録出したかったなというのがありますね。
(1部維持にも貢献できましたが)よかったですね。8点取ってきて満足してます(笑)。次は記録を出せるようにしたいですね。
(次の大会に向けての目標)次は日本選手権に出るつもりなので、今度はしっかり万全の調子で大会に臨みたいと思います。
松本岳大(総3・加古川高)
(本日のレースを振り返って)前半の流れから上手く後半に繋げ、また後半も上手く切り替えられました。高校の頃はちゃんと出来ていたんですが、大学に入ってからやっとそれが出来たかなと。
(予選、準決勝共に1位通過だったが)コンディションは万全ではありませんでしたが、心身共に良い状態で試合に臨むことが出来ました。
(決勝については)決勝は気持ちの面でカバーする部分が多かったです。
(慶大1部維持について)前半2日間が終わって厳しい状態でしたが、(ポイントを)取れる人が取らないともうどうしようもないと思っていました。後ろの2人がしっかりと取ってくれて、それで良い流れを作れたのかな、と思います。
(次大会に向けて)自己ベストを出してからもう3年が経つので、それをしっかりと更新して一気に49秒台に突入したいと思っています。
前山陽軌(環1・成田高)
(今大会を振り返って)400mも4×400Rも400Hも全てベストで行くことが出来て、自分としては本当に満足の行くレースが出来たと思っていますが、チームとしては400mと4×400MRで決勝に残れなかった悔しさがあり、まだまだ未熟なのかと思いました。
(慶大1部維持について)自分は1年生という立場で、先輩からは点数は気にしなくても良いと言われていました。だからプレッシャーが少ない状態で走らせて貰うことでレースを一本一本楽しむことができ、それが結果として入賞に繋がったのかなと思います。
(初めての関東インカレだったが)特に最初の400mの招集に向かう時や実際にトラックに入った時に周りの雰囲気に圧倒されましたが、競技者としてその場に立てたことがすごく嬉しいし、貴重な経験が出来たと思います。
(高校生のときとの違いは)絶対が少なくなりました。皆同じようなレベルなので、その時の調子や気持ちで順位が大きく変わったり、入賞できるはずだった選手が入賞を逃したりということが起こるので、一本一本が本当に大事になってくるのが大学でのレースなのかな、と感じました。
(次大会に向けて)400mに対して400Hのタイムはまだ伸び代があると思うので、次の個人選手権ではしっかりと自己ベストをまた更新出来たら良いと思います。
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