慶應義塾体育会の学生が中心となって運営し、学生や社会人、指導者とともに慶應スポーツのあり方や可能性について熟議し、捉え直す「第1回 KEIO Future Sports Conference」が 9月21日(木)に東京都中央区(株式会社スマートライフオフィス内)で開かれ、大学スポーツ関係者ら約50人が参加した。
本カンファレンスは、慶應義塾大学鈴木寛ゼミの活動の一環として行われたもの。「本研究会ではプロジェクトの実施を通してリーダーの養成を行うPBL(Project Based Learning)と言われる教育手法を採用しており、数名単位でグループに分かれ、学生主体でプロジェクトを企画・立案、運営している」と話すのは、本カンファレンスの代表で、現在コンサルティングフォームに務める会田直浩さん(昨年度、慶應義塾大学鈴木寛ゼミ代表)。本カンファレンスの運営メンバーで、一般社団法人ユニサカの代表理事でもある渡辺夏彦(総4・国学院久我山高) をはじめとする慶應義塾体育会ソッカー部の選手が中心となって運営された本プロジェクトでは、慶應スポーツにスポットライトを当てている。アスリートや指導者、スポーツ政策で活躍されている方々を登壇者に招いてパネルディスカッションを行い、そのあり方と可能性を学生たちが主体となって模索することが、本プロジェクトの狙いである。記念すべき初回のカンファレンスは、運営と関わりの深いサッカーが題材となった。
今回のテーマは、「失敗力 〜体育会が学ぶ失敗力 なぜ今、失敗が求められるのか?〜」。スピーカーの3名から、失敗を通した学び、そして失敗を恐れず挑戦することの意義を理解することを目的に行われた。スピーカーは、ソッカー部の須田芳正監督、同コーチで東京ユナイテッドFC共同代表の人見秀司さん、サッカー元日本代表で現在は東京ユナイテッドFCに所属する岩政大樹さんの3人。モデレーターは同ゼミでソッカー部所属の原田圭(経3・ 慶應義塾高)が務めた。簡単な自己紹介のあと、「失敗力」についてパネルディスカッションが行われた。
参加者の大半を体育会部員が占めるということで、最初の話題は「体育会が輩出すべき、社会でこれから求められる人材とは」。スピーカーの3人全員が大学サッカーを経験しており、自身の経験をもとに議論が進んだ。
まず須田監督は、「高校までとは違い、大学は学生主体での部活動が求められるため、主体性が身につき、結果として行動力のある人間を輩出できる」と述べた。
岩政さんは「4年間の猶予」という表現を用いて、大学サッカーを経験するメリットは「大学の間に自分で考えて成長する時間が得られること」とコメント。そして高校までと大学、プロの大きな違いについて「高校までとプロではチーム内での立ち位置を監督から意識させられるが、大学では自分で意識する必要があること」と指摘した。大学のカテゴリーでは、自発的に自らの役割について考え、どう成長していくかを考えて動くことが大事だと話した。
次に、「社会で体育会での学びがどう生きるのか?」について話が及んだ。現在、大手広告代理店に勤務する人見さんは「体育会出身という優位はあまり大きくはないが、ルールがある中で、短期間の目標を達成する力は優れている」と前置きした一方で、「ルールそのものがなく、長期間の目標設定が苦手な傾向にある」と指摘。「体育会の学生であっても、部内に引きこもるのではなく、他の部活やゼミや同級生との交流といった学生時代にしかできない活動を積極的に行っていく必要がある」と話した。
そして、話題はカンファレンスの本題である「失敗力」に。須田監督は、監督就任間もない頃の試合での失敗に触れた。前半終了時、良いところなく0―2で負けていたチームに対して感情に任せて怒鳴った結果、「選手たちを萎縮させ、さらなる失点を招いてしまった」。後になって、この時のコーチングについて深く反省したという。それから約10年が経ち、同様に前半を0-2で終えて迎えたハーフタイム。前回の痛い失敗を踏まえ、この時は選手たちを叱責するのではなく、「まずは1点を取り返そう」と前半のことはリセットするよう促したという。その声掛けが功を奏したか、選手たちは冷静さを取り戻し、試合は後半に4点を取り返して大逆転勝利。失敗に真摯に向き合ったことが、10年後の成功を呼び込んだ。こうした経験から、「失敗をいかに反省し、どう改善するかが大事」と述べた。
岩政さんは、「サッカーは判断のスポーツ。失敗にも良いものと悪いものがあり、判断した上での失敗は今後に生かすことのできる良い失敗だが、判断せずに、もしくは選択肢がなく判断できずに失敗してしまうことは悪い失敗。良い失敗であれば今後に生かせる」と言及。自身はサッカー人生で大きな失敗をしたということはなかったというが、毎日の小さな失敗を一つ一つ振り返って大事にしていくことが成長のためには不可欠だと話した。
パネルディスカッション後の質疑応答では、現役の体育会部員からアスリートとしてのキャリアを終えたその先についてといった、将来を見据えた質問がなされた。スピーカーはそれぞれ自身の経験をもとにセカンドキャリアのあり方を説明。普段はなかなかうかがい知ることのできない、 第一線を退いた年長者ならではのキャリア観を知ることができたようだ。
カンファレンス終了後は懇親会が行われ、スピーカーも交えて参加者全員の親睦が深まった。日頃は接する機会の少ない他の体育会部員との交流や、一回りも二回りも年の離れた人生の先輩であるスピーカーとの意見交換は、現役の体育会部員にとって貴重な機会に。参加者の1人であるソッカー部所属の松木駿之介(総3・青森山田高)は、「スピーカーとして登壇された3人は人生の大先輩。その人たちからさまざまなことが聞けたため、自分の視野が広がったとともに、大学4年間をどう過ごすのかということについて考えるきっかけになった」と振り返った。
本カンファレンスでの学びがこれからの体育会、そして大学スポーツを巡る議論を活発化させることを期待したい。次回のカンファレンスは年度内にも開催予定だという。
(取材 江島健生・中村駿作)
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