8月26日、第32回関東大学女子サッカーリーグ第1節で慶大は昨年の優勝チーム、日本体育大学と対戦した。下馬評では不利だった慶大は前半こそ1点ビハインドで折り返したものの、後半の2ゴールで一時は逆転に成功。終了間際の失点で結果こそ引き分けとなったが、昨季女王をあと一歩のところまで追いつめた。この貴重な勝ち点1を獲得した試合で輝きを放ったのは他でもない、強力な日体大守備陣を相手に2ゴールを挙げたFWの山本華乃(理2・横須賀シーガルズ)だ。
今年、慶大攻撃陣の中心として大学2年目のシーズンを送る山本だが、昨季は思うように結果を残すことができなかった。関東女子サッカーリーグ、関東大学女子サッカーリーグの全23試合(入れ替え戦を除く)のうち21試合に出場したものの先発起用はわずかに2試合、得点も2点にとどまった。しかし今季は、チーム事情もあり得点源としての役割を期待される中、ここまで両リーグ全14試合全てに出場。そのうち13試合で先発起用され6ゴールをマークするなど、監督やチームの期待に応え続けている。
日々努力を重ねFWとして開花
山本の今季の好調さにはいくつかの要因がある。その一つが繰り返し行ってきたシュート練習だ。昨季は途中出場の試合が多かった中で、得点よりも流れを変えることを求められた。しかし今季は得点を期待されるようになり、もともと点を取るタイプではなかったという山本は練習を重ねシュートの精度を上げていった。それに加えて、ポジショニングの変化も好調を支える要因の一つだろう。基本的にはワントップのようなかたちでプレーをする中で、あまりサイドに流れ過ぎずゴール前で得点に絡む位置取りを意識するようになった。また、ゴール前への入り方も伊藤洋平監督などのアドバイスを受けてより得点に近づくよう改善していったのだ。このような努力の甲斐もあり、自身初の1部での戦いの中で得点を挙げ続けている。
そんな山本の強みと言えば、何と言ってもその長身だ。170を超える高さは大学リーグの中でもトップクラス。しかし、彼女の強みはそれだけではない。FWとしてのポストプレーや裏に抜ける動きはもちろん、それに加えてサイドでのドリブル突破などにも光るものがある。高校時代はクラブチームに所属していた山本。しかし意外にも「FWは半年くらい」しかやっていなかったと言う。基本的にはサイドで、その他にも様々なポジションでプレーをした。特に決まったポジションは無かったと言う山本だが、この経験が今に生きている部分もある。あらゆるポジションで経験を積んだことで「いろんなポジションの気持ちも分かる」ようになり、FWがどこに動けば良いのかをパスの出し手側の視点に立って考えることができるようになった。
こうしてもともとの高さに加え、器用さと点取り屋としての要素を少しづつ身に着けてきた山本には、伊藤監督をはじめチームメイトからの信頼も厚い。今節の日体大戦後のインタビューで伊藤監督は山本について「(点が)どんどん取れる選手」「今後にも期待したい」と語った。また、副将の工藤真子(総3・日テレ・メニーナ)も以前、「(山本)華乃がいないと点が入らないんじゃないかと思ってしまう」と話すなど今やチームに欠かせない存在となった。
目指すは、得点王
しかし当の本人は常に謙虚な姿勢を崩さない。「まだまだなんですけど」と話し、もっと得点でチームに貢献したいと日々練習に励んでいる。主力として出場を続ける中で、自然と責任感も芽生えてきた。「得点でチームに貢献したい」と語る2年生FWは、得点力をあげるため、夏休み中にはひたすらシュート練習に打ち込んだ。最後に今後の目標を聞くと、「目標というより夢という感じなんですけど」と前置きしつつも「将来的には得点王を目指したい」と語った山本。生粋の点取り屋ではないからこそ身についた強みと少しずつ積み重ねた努力で日々成長し続けている彼女にとっては、得点王ももはや夢ではないだろう。そんな慶大の若きストライカーから、今後も目が離せない。
(記事:岩見拓哉)