カレンダーを1枚めくるとき、季節の移ろいを意識してしまう。まだ暑さが残る9月初旬、「秋」は、すぐそこに迫っている――秋季リーグ戦開幕まで、あと5日。コラム連載企画第4弾の今回、6月の早慶定期戦から正セッターとして活躍する谷舜介(環2・徳島城東)を取材した。
セッターは、攻撃を組み立て、スパイカーに正確で打ちやすいトスを供給する、チームの司令塔だ。今年の春季リーグ戦まで、慶大の正セッターは吉田祝太郎(政3・慶應)が務めていた。谷は、控え。「みんなに声を掛けてあげたい」。タイムアウト中やセット間、選手たちに寄り添う谷の姿を何度も見かけた。
だが、ある一時期、谷は吉田の代わりにスタメンとして出場していた。
昨年の秋季リーグ第2戦(順大戦)、第4セット。当時1年の谷は、コートの隅でドリンクを作っていた。突如聞こえた「倒れた!」という声に振り返ると、動けなくなった吉田の姿が目に入る。「そこから頭が真っ白で、気付いたらコートにいました」。これが、今でも一番印象に残っているという、セッター谷の大学デビュー戦だった。その後7試合にスタメン出場した谷だが、なかなか勝利をつかめなかった。谷自身、「やばい、勝たなきゃ」と焦りが募ったという。
吉田がけがから復帰してからは、その姿をベンチからずっと見続けてきた。吉田について尋ねると、「もう『すごい存在』としかいえないですね」と笑みをこぼす。自宅では吉田がセッターとして出場する試合の映像を見返し、「祝太郎さんは、こういうときはこう(トスを)上げているんだ」と勉強を重ねているという。谷にとって、吉田はあこがれであり、目標だ。
今春の2部降格後、慶大は大幅な編成変更に踏み切った。吉田はスパイカーに転向し、代わって谷が正セッターを務めることに。谷自身、最初に聞いたときは驚きが隠せなかったという。だが、新布陣での初陣、6月の早慶定期戦では堂々たるプレーでチームを引っ張ってみせた。訪れた大観衆の前で、新生・慶大は、大きな第一歩を踏み出した。
「谷は、雰囲気を作ることが得意」。先に触れた昨秋の順大戦の試合後、当時3年のマルキナシム現主将(総4・川越東)がこう話していた。明るい笑顔で積極的に声を掛け、自分たちを奮い立たせる。そしてもうひとつ、チームを盛り上げることに加え、谷は「負けず嫌いの気持ちをプレーに出す」ことが、自分らしさだと語った。1部復帰を目指す慶大にとって、秋季リーグ戦は1つも負けられない。谷の負けん気の強さが、慶大を引っ張っていくことだろう。
「一球入魂」、これが谷のモットーだ。セッターは、チームの色を作り出す。あこがれの先輩を目標に、一方で自分らしさを見失わずに。慶大の新司令塔が、魂込めたトスで慶大を勝利に導く。
(記事:藤澤薫)
◇連載企画◇ 「挑戦の夏」
――この夏、新しく挑戦してみたいことはありますか?
絶叫系を克服して、1回も行ったことがないんですけど1回お化け屋敷行ってみたいな、って思います(笑)。
◇プロフィール◇
谷舜介(たに・しゅんすけ)
2000年2月1日生まれ/環境情報学部2年/徳島城東高/身長180センチ/最高到達点307センチ/S/背番号26
◇バックナンバー◇