今シーズン早慶戦からリーグ戦16節までの17試合でスターティングメンバーとして試合に出場した岩片悠馬(環3・広尾学園)。入部後コートに立ち始めた時には小さく控えめだった背中は、試合を重ねる中で、大きく頼もしい背中へと変化を遂げていた。勝負の要となるインサイドを任された岩片は今、身長2mを超える留学生プレーヤーを相手に、臆することなく挑んでいる。
慶大バスケ部の部員は大きくふたつに分けられる。一貫校のバスケットボール部から慶大バスケットボール部へ入部する部員。もしくは、高校時代に強豪校でバスケットボールに打ち込み、慶大バスケットボールへ入部する部員である。岩片はどちらにも属さない。一般入試で慶大へ入学し、バスケットボール部へ入部した。通っていた広尾学園高校は進学校で、部活動の練習は週に3回。予選で敗退するのが当たり前だった。
「上手い人と(バスケットボールを)やってみたかった」とサークルではなく体育会への入部を決めた岩片。部のブログで体育館の空いている時間を見つけては自主練をしていたことを明かしていた。そのことについて尋ねると、「ただただ練習できることが楽しかった。」と笑顔で話した。全国の舞台を経験するメンバーのいる場所に飛び込むことに抵抗はなかったという。
大学入学まで「バスケットに対する知識はほぼ0だった」と話す岩片。「スクリーンプレーすらまともに分かっていなかった」そうだ。その岩片は試合中もベンチに戻るとコーチ陣をはじめ、多くの人から声をかけられる。近頃は同期の寺部勇佑(環3・洛南)からも声をかけられる様子を見かける。昨年の対談の際にもお互いの尊敬できる部分として岩片は、「バスケットボールについてわかっていることが多くて、それを教えてくれます。」と話していた。試合中には岩片ができるけれども、試合でやっていないことを伝えられているという。そのようなチームメイトからの声かけに対し、岩片は「そういうことを言ってくれる存在がいることは、すごくありがたいこと」だと話した。
周りの支えも功を奏し、岩片は近頃の試合では2桁得点と活躍し、格上相手に臆することなくブロックに飛び込むなど印象的な好プレーを見せている。転機となったのは2巡目の山梨学院大との試合。留学生プレーヤーとマッチアップし、その中で戦える自信を持った。「リバウンドはもともと自分が任されていた部分。」とあくまでも当たり前の役割だとした上で、オフェンス面においてはともにインサイドでプレーする工藤翔平(政4・慶應)が3ポイントなどの外角からのシュートも当たりはじめマークがきつくなる中で、「自分が『攻め気』を持ってプレーしていかなければいけない」と話した。言葉通り、「攻め気」を前面に出したプレーを続けている。岩片がオフェンスリバウンドを押し込み、セカンドチャンスでの得点を作り出すことで、周りの選手も安心して外からのシュートを打てているのだろう。
インサイドでプレーをしていると、ファールトラブルに悩まされることも少なくない。岩片もこのシーズン中何度か5ファールで40分間戦いきることなくコートをさることもあった。審判とアジャストすることもセンターの重要な役割のひとつになってくる。シャイな岩片にとってチームメイトだけではなく、審判とのコミュニケーションは新たな課題となっている。
岩片は目の前の挑戦に、そのまっすぐな心で楽しみながら乗り越えてきた。乗り越えてきたものの積み重ねが着実に岩片の選手としての成長に繋がっていることは、おそらく近くでともに練習を重ねてきた仲間も実感しているのではないだろうか。連敗を繰り返す慶大には、しばしば暗い雰囲気が漂う。その状況下で岩片は「負けたら負けたで次勝つしかない」と話す。その目に淀みはなく、ただまっすぐと前を見つめていた。見つめるその先には岩片自身の、いや慶大バスケットボールの確かな成長物語が続いている。まっすぐに、正直に。今だからこそ、「攻め気」を忘れず、走り抜ける時だ。
(記事:船田千紗)