「難しさと面白さは同じ」。瀬戸西純(政4・慶應)は、ショートの面白さについてそう語った。2年春からここまで全試合にショートでスタメン出場し、堅実な守備でチームを支えてきた。そして今年から主将に就任し、春季リーグ戦ではリーグ戦初本塁打を放つなど打率.364を記録し、攻守にわたってチームをけん引する活躍を見せた。今では、チーム内、さらには慶大ファンから「瀬戸西のところに打球が飛べば大丈夫」と信頼される瀬戸西だが、ここまでの道のりは平坦ではなかった。
初出場は1年春の東大2回戦、ショートでの途中出場だった。守備の名手も当時はルーキー。「全く余裕なんかなくて、グラウンドにいても焦りの中でプレーをしていました」と振り返った。そして、大きな転機となったのが1年秋の神宮大会。ショートのレギュラーだった照屋塁元主将(H30環卒・現Honda鈴鹿)がけがで離脱し、そこでスタメンに抜てきされたのが瀬戸西だった。しかし、結果は1打数無安打で途中交代。「自分の力の無さを痛感しました」と悔しさをにじませながら当時を語った。そして、その悔しさをばねにして1年冬から2年の春にかけて守備練習に取り組み、徐々に捕手の配球などを考えられる余裕が出始め、2年の春のリーグ戦からショートのスタメンの座を手に入れた。ショートの面白さに「一つでもファンブルしたらセーフになってしまうスリル」と「捕手の配球を見ながら打球の予測をしてアウトにすること」をあげたが、こうした面白さも余裕を持ってプレーできているからこそ感じられるという。
そして、この余裕は周囲のチームメイトにも波及する。なかでも、外野を守る正木智也(政3・慶應)が「声かけの質や量がすごくて、安心感や信頼感を感じる」と話してくれたように、瀬戸西の声は応援の無い静かな球場内で良く聞こえる。その声は、「自分のことを確認し、そのあと時間があれば他のポジションの確認もする」というものだという。つまり、「自分としては特別のことをしている意識は全くない」のだ。それが結果としてチームメイトの安心感につながっている。プレーでも、声でもチームを引っ張る、まさにすべてを兼ね備えた主将ではないだろうか。
迎えるはラストシーズン。しかし、瀬戸西は「正直、特別な想いは無い」と語った。その言葉には、「毎シーズン優勝するために死に物狂いでやっている」という裏付けがあり、だからこそ、特別なことをする必要はないという自信が潜んでいるのだろう。目指すは「完全優勝」。「慶應・瀬戸西」の最終章はどんな幕切れを見せるのか、一瞬たりとも見逃せない。
(記事:菊池 輝)
◆瀬戸西純(せとにし・じゅん)
1998年8月24日生まれ。法学部政治学科4年。慶應義塾高出身。177cm・77kg。右投左打。春季リーグ戦では自己最高打率をマークし、初となるベストナインを獲得した。安定感のある守備で投手陣を援護する