【野球】責任と覚悟を持ってプレーする 堀井哲也監督

野球対談

いよいよ、明日から早慶戦が行われる。早慶両校が優勝を懸けて戦う早慶戦。決戦を前に何を思うのか。堀井哲也監督にお話を伺った。

昨季から慶大の指揮をとる

ーー実戦の中での成長ーー

――監督就任決定から1年が経ちました

あっという間にここまで来たという感じですね。その間、春はアメリカ遠征があって、帰ってきたらコロナ禍で、学校もオンライン授業っていう時期があって。そこから6月に練習を再開してから、夏に行われた春季リーグ戦、そして秋季リーグ戦と。色々なことがあったのですが、ここまで振り返ると本当にあっという間な1年だったと思います。

 

――ここまでを振り返って

選手たちが本当によくやっていると思います。1カード、1カード成長しているというのですかね。最初の東大戦に比べて、この前の第6週の法大戦は、別のチームになったぐらいのチーム力がついていたと思います。

 

――監督の目から見て、理想的だった試合はありましたか

どの試合も、粘ったゲームができていましたね。一つ挙げるとしたら、法大2回戦です。1点取られて、すぐに1点追いついて、その後、ノーアウト満塁という場面があったのですが、トリプルプレーでチャンスを逸しました。そこからチームが崩れることなく、相手のチャンスを凌いで、こちら側のチャンスもつくって。9回裏までどっちが勝つかわからないというゲームをできたところ、つまりゲームが崩れなかったところが、直近ですけど一番慶應らしい戦いができたと思っています。

 

――春季から秋季にかけて、慶大の変化した部分はどこでしょうか

春、あと1勝というところで優勝を逃しまして、秋に向けて1カ月何をするのかというところで、とにかく実戦経験が必要だと思いました。ですので、オープン戦や練習試合をたくさん入れまして、実戦の中で何を学ぶかということをしました。技術的なことだけでなく、精神的な面、どういう心持でどういう風にピンチを切り抜けたらいいのか、こういう風に追い込まれたときにどうしたらいいのかという、色々な経験ができたことが一番の変化だったと思います。実戦経験によって、チームとしての「戦う幅」ができたと思います。

 

――ここまでの8戦、監督から見て、良かったプレーを教えてください

たくさんありますね。一つ挙げるとすれば、木澤尚文(商4・慶應)と森田(商3・慶應)という先発ピッチャーの二人が、試合ごとに自分のスタイルを確立しはじめたというのですかね。先発ピッチャー二人の安定というのがここまでの良い点だと思っています。

 

ーー選手が一番力を発揮できるようにーー

――昨年度、インタビューをしたとき「バッテリーの整備」が重要、とおっしゃっていましたが、今のところどう思われていますか

ピッチャーは木澤、森田という先発2枚と、抑えの生井惇己(総2・慶應)。そしてこの間に渡部淳一(政2・慶應)や長谷川聡太(経3・慶應)、長谷部銀次(総4・中京大中京)や小林綾(環2・松本深志)など、こういうメンバーが中継ぎで非常によく活躍してくれていると思います。ピッチャー陣という意味では、非常によく頑張っています。

 それから、バッテリーという意味でいうと、キャッチャーの福井章吾(環3・大阪桐蔭)が夏は正直に言ってバタバタしていました。やっぱりリーグ戦で初めてマスクを被るという経験から、緊張もあったでしょうし、焦りもあったでしょうしね。勝手がわからないということもあったでしょうし。真夏の春季リーグ戦の経験による、福井の成長はものすごく大きかったです。たくさんのピッチャー陣をしっかりと特徴を掴みながら、相手打線を研究しています。福井の成長は、大きいです。

 

――春季、秋季を通じて、次が左打者の場合、左ピッチャーを継投させる場面が何度かありました。監督ご自身、このような継投に関してどのような考えをお持ちですか

対戦相手、ランナーがいるか、いないのかというような状況、そしてピッチャー自身の調子や特徴。これら3つをふまえた上で、一番本人が力を発揮する場面はどこだろうかということを考えつつ、試合を見ています。継投は今のところ、上手く選手たちが期待に応えて力を発揮してくれていますね。これが、チームの安定の要因であると思っています。

 

――秋季、廣瀬隆太(商1・慶應)選手はじめ1年生の活躍も目立ちますが

私は、実力が同じなら上級生を使うと選手たちに申し上げています。なぜかというと、野球というのは、先ほども実戦経験の話をしたと思うのですが、実践の場面の中でどういうプレーをするかという経験がものすごくものを言うスポーツです。ですから、ほぼ練習での力量が一緒なら、やはり上級生の方が経験を積み、年齢を重ねています。だから、上級生の方を起用すると明言しています。そういう中で、廣瀬が夏から秋のオープン戦の中で、圧倒的な成績を残してポジションを掴み取ったという流れのまま、リーグ戦に入りました。ですがあくまでオープン戦の成績であり、本番のリーグ戦とは違います。正直どこまでがんばってくれるかなという期待と同時に不安もありましたが、起用しました。見事、不安の方を打ち破ってくれて、ここまで3番打者として、そしてファーストでも活躍してくれています。非常に感心しています。

 

――今のところ、特に活躍が目立った選手はいらっしゃいますか

一人挙げるのであれば、生井ですね。生井がゲームの最後を締めているところが、大きなポイントであると思っています。

 

――代打を選ぶ際に、順番など意識していることはありますか

継投の話と被るのですが、チャンスの場面で強いバッター、ランナーがいない場面で出塁するのが得意なバッターなど特徴がありますので、そういう打者の特徴に合っていて、力の発揮しやすい場面を選んでいます。右バッターに強い、左バッターに強いというような技術的な特徴、精神的な特徴についても考慮しながら起用しています。

 

――先日ドラフト会議がありました。改めて、木澤選手と佐藤選手について、監督から見た強みや期待しているところを教えてください

木澤は、非常に大学生の投手として完成度が高く、親身、態度、能力の面でトップクラス位置にいる選手だと思います。慶應のエースですし、今の時点でもかなり高い立ち位置からプロに入っていくと思っています。だからといって伸び代が無いというわけではなくて、彼の制球力の精度は、まだまだ年齢と共に、ここから5、6年かけてかなり上がってくると思います。ですからプロに入ってから彼は、制球力も改善され伸びていくと思いますし、それだけ彼はポテンシャルのある選手です。ドラフト1位という名誉な評価ですけども、まだまだ彼の力はこんなもんじゃないと、そういう風に期待しています。

佐藤宏樹(環4・大館鳳鳴)に関しては、左ひじのトミージョン手術を10月12日に受けました。秋の登板は不可能な状態であることを複数の医者に確認し、そして診断を受けました。登板が不可能ならば、復帰まで1年半から2年かかる手術なので、早ければ早いほど彼の今後の野球人生も開けると思い、シーズン中の手術に踏み切りました。彼は、私が就任してからは、これだというパフォーマンスはあまりなかったのですが、すごいピッチャーであるという片鱗はところどころで見せていました。今は、リハビリに取り組んで、プロ野球選手として投げられる状態になれば、木澤に負けず劣らずのピッチャーではないかと評価しております。

 

――ドラフト会議後、監督からお二人の選手にどのような言葉をかけましたか

木澤については、おめでとうと。あと、まだシーズンが残っているので集中して、そこからしっかりと入団まで準備しようと言いました。

佐藤に関しては、慶大として戦うことは無いので、入団に向けて準備していこうと言いました。

 

――監督から、4年の選手の皆さんに伝えていることはありますか

就任した当時、大学野球は4年生のチームであると言いました。キャプテン、副キャプテン、マネージャー、チームスタッフ含めて、どういうチームを作っていくのかと。今、見事に4年生の力で立派なチームができつつあります。あとはしっかりと、早慶戦を戦って、シーズンを占めるという段階にいます。最後までしっかりとやるということですね。

 

ーー勝利を信じてーー

――堀井監督にとって、早慶戦とは何ですか

東京六大学のリーグ戦で早慶戦が順位に関わらず、最後に組まれていますよね。ベンチも一塁側、三塁側が固定されています。色々な今までの歴史的経緯も含めて、創り上げられてきた、用意された舞台だと思っています。そういうレギュレーションというか、二つの大学の試合だけを特別に用意するというのは、私が知る限り日本にはないと思います。ですから、そういう意味でその場に立つ以上は、責任と覚悟を持ってプレーする義務、権利、そしてチャンスが私たちにはあります。一つにまとめるならば、本当に特別な舞台で、特別な思いや覚悟で、戦うゲームであると思っています。

 

――早慶戦の展望を教えてください

早大は、六大学の中でもチーム力があります。ピッチャーは素晴らしいですし、打撃も能力があります。ですが、私もそれにかなうだけのチームを作ってきた自負がありますし、選手たちも自信を持っているので、流れがあっちにいったりこっちにいったり、互角のゲームになると思います。見方を変えれば、ちょっとした差やプレーがゲームを決めてしまう、そういう厳しい戦いでもあるだろうと思っています。

 

――慶大としてどのような試合運びにしたいですか

色々な展開に対応できるようにチームを作ってきました。投手戦かもしれないですし、途中から点が入るかもしれないですし。または、先行されるかもしれないし、逆に私たちが追われるかもしれない。色々な展開に対応できるだけの訓練を我々は、積み重ねてきました。まあ、偉そうに言えば、どんな展開でも最後はこっちに勝利が転がりこんでくることを信じた戦いになると思います。

 

――今の慶大が勝つために重要になってくるのは何でしょうか

ピッチャー含めたディフェンス陣、これがしっかりしたゲームを作るのが野球において大事な条件なのでまず一つ。もう一つはもちろん攻撃陣。これは、早稲田の強力投手陣から、どうやって点を取ってくるか、プレッシャーをかけるのか。この攻守両面がポイントだと思います。

 

――早慶戦における慶大のキーマンはどの選手でしょうか

木澤、正木智也(政3・慶應)。この2人ではないですかね。

 

――ドラフト1位対決と話題になっています。何かチームで意識していることは

ドラフトの前後で何かが変わったということは無いですね。もちろん、選手間で祝福の言葉を交わしているとは思いますが、特にチームの練習の風景が変わったとは感じません。おそらく、木澤の人間性が成すものですかね。彼自身、プロの世界に行くことを就職の転機と捉えているのだと思いますし、また他の4年生がいる中で周りに意識してもらいたくもないでしょうし。今は、淡々と、早慶戦が終わるまでは、ドラフトのことは封印して。だからといって避けているわけでもなく。スカウトの方々が来た際も、きっちり対応していましたし。そういう面でも、木澤はじめ選手たちにはどっしり感というか懐の深さがあります。色々な戦いができるのと一緒で、色々なことが起こっても対処していく能力が非常についているチームだと思います。

 

――慶大は堀井監督の目から見て精神面が強いチームであると

そうですね。そう思います。

 

――いよいよ念願のリーグ優勝が見えてきました。現在の心境を教えてください

ここからが大変だと思いますね。一勝というものがどれだけもぎとるのが大変かということは、私も長い野球人生の中で経験してきました。優勝を意識するというよりも、目の前のプレーを一つ一つ対処していきます。取れるときに点を取って、結果として勝利が転がってくる。そしてその結果が優勝であると。そういう考えでおります。

 

――監督から見て、現在のチームの雰囲気は

士気が非常に高く、かつ緊張感もあり、また明るくもあります。いよいよ1週間後に決戦を迎えるチームに相応しい雰囲気であると思っています。

 

――慶大ファンの皆さんにメッセージをお願いします

今年は、こういう世の中が大変な状況の中で、色々な面で応援してもらったり、声援を送ってもらったりしています。また、神宮球場内外で様々なサポートをしていただきました。皆さんの期待に応えるのは、一にも二にも勝利という、優勝という結果であると思っております。おかげさまで、今もう一歩というところまで来ております。ですので、良い結果を残して、皆さんと一緒に少しでも明るい話題を共有して、今年の1年を振り返ることができるようにしたいと思っております。

 

――ありがとうございました!

(この取材は10月30日に実施しました。)

(取材:青木満智子)

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