第1回の東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)に出場し優勝経験も持つ伝統ある慶大競走部。しかし約30年出場から遠ざかっている。今回は箱根を全力で目指している競走部の箱根駅伝プロジェクトについて、選手4名とヘッドコーチの保科光作さんにお話を伺った。
箱根駅伝プロジェクトのクラウドファンディングは9月30日までです!興味のある方はこちらをご確認ください。→箱根駅伝プロジェクト
――自己紹介
前原:長距離ブロック長を務めさせていただいています、前原裕磨(政4・熊谷)と申します。中学2年の時からやっているので、陸上10年目でラストイヤーということで頑張っています。
田島:2年の田島公太郎(環2・九州学院)と申します。本格的に陸上を始めたのが高校1年生の時なので、今年で5年目になります。
黒澤:3年の黒澤瑛紀(総3・新島学園)と申します。陸上競技を始めたのは中学1年生の時なので、今年で9年目になります。
貝川:4年の貝川裕亮(環4・美濃加茂)と申します。自分は小学1年の時から陸上をやっていますので、今年で16年目となりますが、中学ではバスケ部で陸上とは離れてしましたが、また高校から本格的に陸上を始めて、今年ラストイヤーを迎えています。
保科HC:私は、2017年に慶大競走部の長距離ヘッドコーチに就任させていただきました。日体大を卒業し、その後日清食品のランニングクラブで選手、コーチを経験し2017年からお世話になっております。
――箱根駅伝プロジェクトについて
前原:箱根駅伝プロジェクトはその名の通り慶大が箱根駅伝に出場するための強化プロジェクトです。僕が入学する2年前、2個上の世代からプロジェクトが始まりまして、1個上の人たちが強化1期生として競走部に入部しました。プロジェクトのもとでコーチの方をお呼びして、チームの強化に努めています。プロジェクトが始まって1年目の年は箱根駅伝予選会が26位か27位でしたっけ保科さん……
保科HC:覚えてないよ(笑)。
前原:僕が1年の時に27位でそこからチームがプロジェクトのもと強化されて、僕が2年の時に19位、昨年も19位と順位は上がってきています。選手の人数増え、個々の力も強くなってきてプロジェクトのもとで本選出場するために日々努力しています。
保科HC:もともとは競走部が創部100周年を迎えた時に次の100年に向けてどういうことをしたいかという点で、慶大は箱根駅伝ができた時の4校のうちの1校で、「オリジナル校」と呼ばれています。13回大会では箱根駅伝の総合優勝をしている中で、70回大会を最後に箱根路から遠ざかっています。箱根に慶大がいないことはOBとして楽しめない、この100年間が次につながっていないという思いのもと、次の100年は確実に箱根に慶大がいる時代を作っていこうということで発足しました。その中で、さきほど前原も言ってくれましたが、優秀な選手をスポーツ推薦がなくてもリクルートして、強化の方針は試行錯誤しながらですが、少しずつ100回大会をめどに出場しようというプロジェクトです。
――伝統校としての意識
田島:OBさんのことや部としては伝統校として意識することはありますし、チームも陸の王者と名乗っているのでそういう走りをしたいというのもあります。自分としてはいちチャレンジャーとして臨んでいて、出ていたとはいえ長らく箱根路の景色をチームとしては見られていないので、「陸の王者への挑戦」と掲げながらやっています。
――箱根には特別な思いがあるのか
黒澤:箱根駅伝は僕は小学校5年生くらいの時から見ているのですが、箱根駅伝ならではの雰囲気がありますし、朝応援団が駆けつけて壮大な応援の中走ることができるというのは箱根駅伝しかないと思います。テレビでも生放送してくれますし、全国のたくさんの方に見ていただけるというも箱根駅伝しかないと思いますので、本当に魅力的です。
貝川:先ほど黒澤が言ったとおりですが、箱根駅伝は正月の風物詩としてすべての人に見てもらうことができます。自分が今まで競技をしてきた中で応援してくれた人、サポートしてくれた人に自分の競技の集大成を見せることができる舞台だと捉えています。私自身小学校1年から競技を始めましたが、陸上を頑張ろうと思ったきっかけが箱根駅伝で走る選手の姿を見た時にかっこいいな、こんな舞台で走れたらいいなと憧れたことで、この舞台で走りたいという強い思いを持っています。
――クラウドファンディングについて
保科HC:メインは8月に長期合宿をやっていますので、その資金の援助です。その他私たちの部活は人数が多く、みんなが一気に移動することや、朝早く移動するにあたって電車が使えないということもあるので、マイクロバスを持っているのですが、それをリースしております。そのリース費用を補填させていただいております。
――OB組織との連携は
前原:OBさんとの連携ではクラウドファンディングの進捗状況をこちらのメンバーとの間で報告したり、OBさんがやってくださっていることに加えて僕たち現役生ができることを考えて広報チーフによるノートの更新やインスタグラムやツイッターでの情報発信をやったりしています。いかにクラウドファンディングを広めていくかということや、活動に共感してもらい、OBさんや慶應にはゆかりがなくても応援していただけるような取り組みをしています。
――一貫教育校との連携
保科HC:慶應高には私たちのコーチがヘッドコーチも兼ねて指導しています。高校の3年間、その後の大学4年間の7年かけて選手を育成する体制は整っております。現状では塾高(=慶應高)だけでなくSFC(=慶應湘南藤沢高)、志木(=慶應志木高)から多くの一貫教育校の選手が入部して活躍してくれいます。
――箱根駅伝プロジェクトの変化は
黒澤:僕が3年目になって気づいたのは、おのおのが自分の足りないものを考えて補って向上心が年々強くなっていったと思います。結果として予選会でも19位と順位も上がっていますし、個々の選手の実力も上がっているので、そういった点では変わっていつつあるのだと思っています。
前原:自分が1年生の時と上級生になったからで、チームが成長しては箱根に出たいという思いは強くなっていますし、それが思いだけでなく行動としても結果としても出つつあり、成長が目に見えていると思います。入部した時ももちろんプロジェクトのもとで活動していましたが、自己ベストもそうですし、練習の雰囲気や質も今はとても成長しているのではないかと思います。そういったところは大きく変わったと思います。
貝川:自分が見て一番思っているのは、慶大というチームがただ箱根を目指しているだけでなく、本気で自分たちが箱根を走ることを考えています。今まではただの強化校だったかもしれませんが、箱根の本選出場に近づきつつあるチームとして、箱根というものを視野に入れられるような、口だけでなく、練習の面や行動の面から変わっていると思っています。
――田島さんは入部時に、慶大が箱根駅伝プロジェクトをやっていることを知っていましたか
田島:知っている状態で、ここで箱根目指そうと思い入学を決めました。
――実際に取り組んでいる側になって感じること
田島:僕が入る前までは完全に上級生だけが引っ張って下級生がそれに付いて行くというチームだと思っていたのですが、入って見れば、その学年も切磋琢磨し合って、全員で押し上げていこうという雰囲気があると思いました。そういう積み重ねがあるからこそ、今年入ってきた1年生もそれを見習って勢いを持った状態でチームに貢献してくれていると感じています。
――夏合宿での取り組みは
前原:今年の合宿は1次が全体合宿で2週間弱あり、その後選抜合宿が2次、3次とありまして、選抜に行ったメンバーだと1カ月半くらい合宿に行きました。全体合宿はチームとして上半期思うような結果が出せなく、練習もチームとして危機感が弱かったですし、全員で箱根を目指していくという思いが足りない部分がありました。全体合宿では練習を全員で乗り越えるという意識を持ってほしいと思っていました。結果として、心身ともに鍛えて殻を破るような練習ができたと思います。
2次からの選抜合宿は箱根駅伝予選会を見据えて15人くらいに絞ったメンバーで行いました。実践的な質の高い練習もありますし、一人一人が予選会を走って突破するという強い思いを持って練習を消化していかなければならず、全員で設定どおりやり切るということを大切にしてきました。練習内容として30km走や1000mを20本という今年初めてやったこともありますが、出走メンバー全員が設定どおり完走できて、チームの雰囲気として非常に良いものができたと思います。過去を見ても一番良い練習ができたと思っています。3次は全員疲労はでてきたのですが、最後まで乗り切ることができました。日吉に戻ってからは疲労を抜いて、予選会に向けて準備しています。
貝川:全体を通して質を求めて過ごすことができました。自分自身はけがが非常に多く、走り込みをしている途中足が痛くなり離脱してしまうというこが多かったのですが、今年の夏に関しては最後まで離脱することなくやりきることができました。その中でどのような状況においても高い質を求めて最後までやり切るという姿勢を最上級生として後輩に背中で見せることができましたし、そういう成長がこの夏は見られたのが成果だと思っています。
――そのような先輩の姿を見て
黒澤:一緒に練習をやってきて頼もしいと感じますし、練習で苦しい時も4年生がみんなで頑張っていこうと積極的に声を掛けてくれて背中を押してくれるので、尊敬しています。
田島:競り合いになったときにもう一歩前に出たりするところはさすがだなと思ったと同時に、1、2年生も上級生に食って掛かるという場面が多くみられました。1年から4年までを燃やしてくれたのは4年生だと思うので、チーム作りをしていく上では欠かせない存在だと感じます。
――選手たちの夏の取り組みは
保科HC:前期は思うような成績が出せなく、今年の夏は基礎の徹底をする練習メニューを組みました。例えば1kmを走る練習を20本やったり、5kmを4本やったり、こんな練習はやっている大学はあるのですが、箱根の予選会を戦う大学は普通やらないです。もっと効果的な練習はあるしもっと足を速くする練習はたくさんあるのですが、そういった練習が前期うまく身になってこなかった、成果につながらなかったので、まずは基礎を徹底しようというところで、チーム全体のレベルを引き上げるという点にも注視をして、トレーニングを組みました。その中で、北海道の2次合宿では4年生がチームを盛り上げてくれて、後輩たちもそれに反応してチームが良い状況になったと思います。9月に入ってその疲労が出て思うようにいかに場面もありましたが、やったことが身になるように疲労を抜くだけという状況です。あとは、根性論はあまり好きではないですが、どれだけ情熱を燃やし続けて予選会を迎えられるかだと思っています。4年生はしっかりと成長してくれたと思います。
――3週間後の予選会に向けて
前原:まずが、疲労をしっかり抜いて本番に合わせていくこと、出るべき人がしっかり出場し出すべきタイムで出すべき結果で帰ってくることがマストです。それに加え気持ちを高めてチームが一つになって箱根駅伝予選会で当日気持ちの入った走りをすること、全力で駆け抜けることが大事だと思っています。もう合宿ではやれることはやりましたし、あとはポイント練習でしっかり合わせて調整して、箱根駅伝に出場したいという気持ちを高めて当日は走るだけです。チームで改めて高めていきたいと思います。
貝川:やるべきことはやってきて、力もついてきたと思いますので、10月15日の本番に向けて、残りの期間に調整して自分の力が100%出せるように準備することを全員がすることで予選会突破が見えてくると思います。1人でも箱根に出られないと思っている人がいたら行けるものも行けないと思うので、前原も言った通り、全員が箱根に出るんだという強い気持ちを持ち、全員が箱根駅伝出場を心の底から信じて、それに向かって自分の力を出し切るつもりです。チームのモチベーションを高めることももちろんですし、情熱を燃やして気合を入れて、残りの期間を過ごしていきたいと思っています。
黒澤:本当にやるべきことはやってきたので、残り期間はしっかりと調整して本番にピークを持ってくることが大事だと思いますので、全てのメンバーが同じベクトルを向いて高い熱量を持って箱根駅伝予選会に臨めるようなチームに残りの日数にしていきたいと思いますので、充実した3週間を過ごしていきたいです。
田島:蓄える期間は合宿で終わってこれからスピードが速くなることやスタミナが増えることはなく、これまで着実につけてきた力を10月15日に間違いなく発揮する力をつける時間がこれからだと思うので、そのためにこれからのポイントを外さないことと生活一つ一つ妥協せず行っていくことで当日「これだけやってきたのだからやるしかない」と思えるような自信をつけて行きたいと思っています。
保科HC:4人が言っている通りです。やることはやって順当に行けば慶大はこの順位だろうという力の順位は決まっています。本番の順位を決めるのはミスをしないことです。僕たちの力では真っ当にぶつかったら厳しいところにいますが、そのボーダーラインに乗っている大学も必ずミスはします。そういったところをどれだけ拾えるかを考えると、同じよう僕たちがミスをしていたら行けるものも行けないです。まずは今持っている力を10月15日にしっかりと出し切ることに集中するしかないと思います。過去の予選会の順位は少しずつ上がってきて昨年も一昨年も19位でしたが、100%うまくいったわけではなく、70%、80%のできだと思っている中でこの順位です。みんなが100%の力を出し切ることに集中すれば昨年のチームを越え本選も十分狙える位置にいると思うので、あと数週間で気持ちを高めていってほしいと思います。
――箱根駅伝プロジェクトに協力してくださっている方々へ
前原:箱根駅伝プロジェクトはOBさんやそれ以外の方々などいろいろな人に支えられて期待されて成り立っていると思っています。僕たちができることはこれまでの取り組みを全力でやって誠意を見せることと、一番大きいのは予選会を突破して結果で恩返しをするということだと思います。僕たち選手は残りの期間全力で過ごしていきますし、当日もたくさんの応援をいただければと思っています。これからも選手一丸となって頑張って参りますので、応援のほどよろしくお願いします!
保科HC:箱根駅伝はやっている我々だけでは到底行きつける場ではなく、多くの皆さんにご支援いただいてようやくチームとして狙えるというところまで来られました。ますは、10月15日の予選会で毎年力を出せなくて泣いてしまう選手もいるのですが、今年に関してはみんなが笑顔でゴールして力を出し切ったというような予選会にしたいと思っています。あと数週間かけて調整をして磨いていって、終わったあとにそういう笑顔が見せられるように頑張りますので、当日応援のほどよろしくお願いいたします。
ーーお忙しい中ありがとうございました!
(取材:長沢美伸)