今年で塾野球歴7年を数え、ついに最終章を迎えた吉川海斗(法4・慶應)。リーグ戦初出場を果たした昨季は、代打や代走の切り札、内外野守れるユーティリティープレイヤーとしてチームに貢献した。今季はレギュラーとして、最上級生としてチームを引っ張り、王者奪還を目指すと誓った。
全てはチームのために
慶大野球部2022年度。結果的に春季2位、秋季3位と優勝こそ逃したものの、レギュラー陣をみれば秋季リーグで三冠王を獲得した萩尾匡也(R5環卒=現読売ジャイアンツ)を筆頭に、経験と実力を兼ね備えた選手が名を連ねていた。プロ志望届を提出した選手が6名いたことがそれを物語っている。そのような個性派揃いのチームのなか、吉川はチームのためにと自己犠牲を厭わなかった。
昨春開幕戦となる東大1回戦、7回から途中出場で一塁手につき、神宮デビューを飾る。「個人的にはバッティングが好きという思いが一つあったのですが、そこはチームのためにという思いでずっとやってきた」という吉川。チームの勝利が至上命題、ならばそれに対して自分が最も貢献できる「フィールド」で輝こうと、日々模索し続けた。昨季出場した試合は19試合だが、スタメンとして出場した試合は0。代打に代走、守備固め、さまざまな起用法があるなかで与えられた役割を全うした。「代走であったり代打、守備固め、それもいろいろなポジションで出たことで、チームに貢献できたというのがあったのでそこは非常に嬉しく思います」と、昨季を振り返った。打席数は少ないながらも、打率をみると春季4割(5打数2安打)、秋季5割(4打数2安打)、本人が「好き」という打撃面でも結果を残した。
彼にとっての「フィールド」は、決してグラウンドだけではない。ベンチでも、「ひたすらチームの勝利のために、声を出すとか、出てる選手のサポートとかを一生全力でやって。監督に声をかけられたとき、その瞬間に気持ちを切り替える」と、試合に出ていない時でも自分にできることを”考動”した。縁の下からチームを支え続ける吉川の献身性は、欠かせない存在となっていた。
吉川の1年間のその軌跡を、神様はみていた。昨秋早慶戦、それも優勝がかかったカードの初戦、8回裏より代走の守備交代として、左翼手のポジションにつく。直後の9回表、吉川に打席が回ると、思い切り振り抜いた打球は、右翼ポール際に飛び込む値千金の一時勝ち越し本塁打となった。「今までずっとチームのためにとやってきた思いが、恩返しとなってやってきたのかな」と、その時その時を尽力した1年間の最後に、野球の神様が吉川に微笑んだ。
チームを引っ張る
吉川の健闘虚しく、惜しくも優勝を逃してしまった慶大。吉川自身も「僕的にはチームの勝利に貢献するためだけに、自己犠牲を払ってやってきた。でも昨シーズンは悔しい思いが一番にくる」と振り返り、あくまでチームの結果にこだわっている。今季も「チームの勝利に貢献するために、自分がどのようなことをできるのかというのをひたすら考えてやっていきたい」という。しかし今季の吉川は、もはや昨年のそれではない。最上級生として迎える今季、先輩としての自覚、チームへの責任感を強く抱いている。「今まではどちらかいうと『ついていく側』というのが大きくあって、頼りがいのある先輩とかもたくさんいたのですが、今年は最上級生ということで、自分がチームを引っ張るであったり、自分がチームを鼓舞するとか、喝を入れるとか、そういった責任があるのかなと思っているので。今年からはチームを引っ張るということを中心にやっています」と、最上級生としての自覚と責任を語った。高校時代にはともに甲子園に出場し、大学時代もあらゆる貢献の仕方で追いかけてきた「先輩」の姿はもうそこにはない。今度は、吉川自身が後輩たちの「先輩」として、大きな背中を見せてくれることだろう。
昨季はリーグ戦で爪痕は残したものの、途中出場のみでスタメンとして出場した試合はない。「去年とは違って、スタメンとしてチームの中心となって試合に出る」と決意した吉川。薩摩おいどんカップでは、中堅手のスタメンとして試合に出場している。昨季まで萩尾が守っていた、ナイン全体を見渡せるセンターラインの最深部である。今季の吉川は、「勝利への執念」のまなざしを慶大の「フィールド」に注ぎ、チーム一丸となって優勝を成し遂げてくれるに違いない。
(記事:野上賢太郎)