第4回目は、慶大蹴球部出身の廣瀬俊朗さん(現株式会社HiRAKU代表取締役)と山田章仁選手(現九州電力キューデンヴォルテクス)の対談!廣瀬さんは日本代表主将も務め、山田選手も日本代表を経験し現役選手として活躍されている。お二方の大学時代のことや現役大学生伝えたいこと、慶大やラグビーの魅力など伺った。
かけがえのない大学4年間
——経歴、今のお仕事など、自己紹介をよろしくお願い致します。
廣瀬:理工学部在籍中に、東芝に入社しました。今はHiRAKUという自分の会社を開いて、頑張っています。ラグビーは5歳の頃に始めて30年間続け、35歳まで頑張りました。
山田:私は卒業してからも15年間、ラグビーをさせてもらっています。トシ(=廣瀬)さんとワールドカップに出場して、ラグビーというワードを皆さんが知ってくださって、より充実した競技生活を送れています。今地元に帰っていて九州電力にいるのですが、今まで学んできたことを活かして、ラグビーを頑張っています。
——廣瀬選手にお伺いしたいのですが、株式会社HiRAKUはどういう会社ですか
廣瀬:「HiRAKU」という名の通り、色々なことを切り拓いたり、おもしろいことをやったりして、それで社会とかいろいろな人に喜んでもらいたい。そして、自分も楽しいことにつながればうれしいというそういう会社です。
——なぜ慶大に進学したのですか
山田:私は元々色々な価値観を持った人に出会うのが好きで、高校入学の時もそういう思いで、小倉高校に進学しました。世界でグローバルにいろいろな学生に会いたかったのと、もちろん日本中でもいろいろな人が集まるから、そういうみんなとキャンパスライフを過ごして自分の価値観を広げていけたらなというところで、慶應に進学しました。
廣瀬:ラグビーの強いところでやりたくて、慶應はその時ちょうど創部100周年に向けて強くなっていました。上田元監督に誘われたというのと、理工学部に指定校推薦の枠があったので、高校生時代に進学を決意しました。
——どういう4年間でしたか
山田:ラグビーに関していくと、私は途中に留学もさせていただいて、本当にいろいろなラグビーの仲間も得て、自分の価値観を広げることができました。ラグビー部の話だと、入ったときはちょっとベスト8ぐらいだったのですが、私には慶應が100周年ぐらいの時の強いイメージがありました。在学中に強い慶應を取り戻したかったので、試合に出るときには優勝したいと、決勝戦に行きたいと、そういう思いで自分自身やってきました。チームや組織を強くするには、個人個人が強くならないといけないのかなというところで自分に矢印を向けて、切磋琢磨した4年間だったかなと思います。それと同時に、ラグビーだけじゃなくて一緒に旅行に行ったり、仲間と一緒に楽しい思い出もたくさん作れたりしたので、かけがえのない素晴らしい4年間だったなと思います。
廣瀬:同じような感じかな。
山田:トシさんの場合キャプテンですからね。
廣瀬:そうか、そうだね。キャプテンとしてはあまりうまくいかなかったけれど、次の人生に繋がるいい経験ができました。100人以上部員がいて、キャプテンをやるって大変だったなって今思います。それを若いうちにやらせてもらえたのは良かったです。未だに慶應は、ラグビーに限らずだけど、慶應って言ったらいろいろな人が助けてくれるというか。なのでありがたいなと思います。特にラグビーは。
——印象に残っている試合は
山田:トシさんがちょっとだいぶ昔になるから、ちょっと思い返す間に俺が喋っておくわ。
廣瀬:40年前くらいだな。
山田:いやそんなにいかないでしょ(笑)
廣瀬:そんないかないか(笑)
山田:大学選手権、久しぶりの早慶戦の決勝戦だったと思います。慶應にとっても大学選手権決勝というのは久しぶりで。でも雪が降ってしまって観客が少なかったなというのがイメージとしてあります。早慶戦の観客のことだと、1年生のときに出た早慶戦で、秩父宮が満員で衝撃を受けました。満員の中でプレーできるんだというのも嬉しかったですし、いろいろな思い出がある中、ハイライトでいくとやはり決勝戦が印象に残っています。1年次から、卒業するときには強い慶應を取り戻したいという思いも決勝戦で魅せることができました。結果は負けてしまいましたが、準優勝というワードについて、普通に考えると優勝できなかったという話だと思うのですが、私個人としては準優勝がすごく誇らしかったです。
早稲田に負けたけど、大学の中では2番目に優勝ということだし、そういう準優勝が嬉しく誇らしく、一番印象に残っているのがその決勝戦です。悔しさも嬉しさもありながらですね。
記者:早大は五郎丸選手が出場されていましたよね。
山田:出てたね。ゴロ(=五郎丸)と一緒の年だし、彼は早稲田で1年生から活躍していて。大学4年生の決勝戦は五郎丸もそうだったし、他にもたくさんスタープレイヤーがいたので、すごく何か強いというか、強かったです、早稲田。
廣瀬:私は関東学院大学に負けて引退しました。あまりにも素晴らしいチームだったので、その試合が一番印象に残っています。
——今でも同期の方と交流はあるのですか
廣瀬:交流は今もあります。この間フランスに行ったのですが、朝走っていたら、たまたま後輩に会ったり、帰りの飛行機でもまた別の後輩と一緒で、いろいろ話したりとか。会おうという感じで待ち合わせて会うときもあるけど、偶然会えるみたいのもあって、何か関わりを持てたりとかそういうのが結構面白いですね。
山田:トシさんも言ってたけど先輩や後輩など世界中にみんながいるので、この前はトゥールーズでみんなでランチできたり。世界中で活躍している皆さん多いですよね。
廣瀬:そうね。
山田:僕はラグビー中心の生活になっているけど、皆とお会いできるのは非常に嬉しいですね。
——後輩の結果は今でも気になりますか?
廣瀬:すごく観ているわけではないですが、今年良いなとか、結構もがいているなとか、結果は追っています。今年から監督も新しくなりましたし、楽しみだなとかそういう感じです。
山田:良い選手いるのかなという感じで観ますね。最近は結果見て「負けちゃったか」みたいな感じのこともあるけど、その中でもみんなはやりがいを持って、やれているといいかなという思いがあります。まだ私自身も選手で勝って学ぶことがすごく楽しいので、勝って欲しいなという思いが強いし、早慶戦とかビックゲームだとビックプレーをする選手がいるのかなとか。もちろんチーム全員で戦うのですがその中で光るプレーはあるのかなとか、そういう目線でビックゲームを観ることがあります。
対戦相手も試合が終われば仲間、みんなで一つのものをつくる
——慶大ラグビー部で学んだことで、その後の人生に活きたことはありますか
廣瀬:こういう瞬間というよりは積み重なっている印象ですけど、慶應は結構いろいろな人がいますよね。幼稚舎出身の人もいるし、僕みたいな地方の人もいる。本当にいろいろな人がいるんだなというのは、普通のいわゆる強豪校に行くと割とストイックにラグビーしてきた人だけってなるかもしれないので、すごい勉強になったと思います。慶應って緩い感じもあるけど、でもみんなに光るものがあって、面白いなというのが、慶應ラグビーで学んだことですね。同期以外も先輩もOBも皆そうだし、いろいろな人がいるっていうのが、一つ学べたことです。
山田:チームメートに頼れることかな。自分でやらなきゃって思いがちだけど、人生って。慶應のみんなは一人ひとりに得意なところやジャンル、仕事とか諸々あって。みんなが頼りになるからこそ頼れるようになったし、社会に出ても人に頼って良いのだなと。あまり一人で抱え込まないで、チームとして一つ自分の達成したいこともやっていけるということが、志の高い仲間がいて学べましたね。
——チームで戦う良さはどこに
山田:性格含めいろいろな選手いるから、好きなプレーや得意なプレー、苦手なプレーがあって。そういうのを補ったり、得意なプレーをしてもらったり、そういうプレーができるのがチームプレーの良さだし、慶應のラグビーでいくとそういうところに気を配れるところが良いと思います。良い学生が多いので、慶應のラグビーがチームでまとまってお互いのいいところを試合で披露できたり、お互いの苦手なとこを補っていける。日本で一番それができるチームだと思います。それを早慶戦というか、大学ラグビーの中で一つ自身に誇りに思ってもらいたいなと。
廣瀬:アキ(=山田)みたいに足速くないけれど、活躍できるところあるしみたいな(笑)。工夫次第で何とかなるところがあるし、お互い補っていけるから、自分の良さをどうチームに活かしていこうかというのが成立するのがラグビーなので、そういうところがラグビーは良いですね。あとは、喜びもやっぱり増えますね、一人でやってるときより大きいです。一人のスポーツでも素晴らしいんだけど、15人でやったら15人の喜びをみんなで共有できますし、120人ぐらい部員がいたら、みんなで喜べるってすごい素敵なことだなと思いました。
——組織を大事にする必要があると思いますが、良い組織づくりの秘訣、大切なこと、必要なこと
廣瀬:「その目標良いじゃん」って思ってもらえるのが、大事なことかなと思ってます。二つ目は、組織とか作るのもそうだけど、その人の良さが活きていたらなお嬉しいと思います。組織としての目標とか目的はあるけれど、この人がどうすれば自分らしさが出せて、どう組織に入っていけたらハッピーなのかなということ考えるのが大事かなと。
山田:お互いの経験とか意見をリスペクトすることかな。人間だから自分の思うことは伝えていきたいけど、やはり隣の人をリスペクトできないと自分もリスペクトしてもらえない、話を聞いてもらえないというのは、あるんじゃないかなと思うので。みんなのやりたいことが完全にできるというのは不可能だけど、それをしっかりリスペクトしてというのをベースに物事を進めていくのがいいんじゃないかなと思っています。
——ラグビーの魅力は何だと思いますか?
山田:ポジションが15個あるようにお互いに助け合って、一つトライなり、何かボールを一つ追いかけるなり、みんなで向かって走れるというところじゃないかな。
廣瀬:対戦相手は試合中こそ敵だけど、終わったら皆仲間だし。レフリーも一緒に試合を作ってくれる仲間だし、という感じでラグビーをやっている人は皆友達というところかな。ファンの人もそうですね。一緒にワールドカップ見て、隣にイングランド代表のサポーターがいても全然何もないしみたいな。むしろ、良いトライしたらおめでとうとか、そういうカルチャーはすごい素敵だと思いますね。
——ラグビーW杯が開催されました。今年は早慶戦の集客も本気でやっています。ラグビーをあまり観たことがない方に向けて、ラグビー観戦の楽しみ方を教えてください
廣瀬:その人の好きなポイントってそれぞれだと思っていて、それによるけども、そこにきっと楽しみ方があるのかなと。ぶつかるのが好きだったら、それを楽しいんだらいいと思うし、ボールが動くのが好きだったらとか、そういう要素もあると思うので「これを観ろ」という観点は無くても楽しいんじゃないかなと思います。本当にベーシックな原理原則というか、何か立ってプレーしないといけないとか、横から入ったりしてはいけないとか、1個1個の反則というよりはもっと原理原則を理解すると、分かりやすくなるかもです。
山田:選手も分からないくらいルールは難しいので、走る人が思いっきり全力で走るところを見て楽しむとか、タックルとか人に当たるというのはなかなか日常じゃ見れないし、人に本気で当たるというシーンを楽しむ感じでいいかなと思います。トシさんの話にもありましたが、試合中の表情と、試合終わってノーサイドのみんなで泣いたり笑ったり、喜んだりする姿を観るのも良いですね。試合中と違う表情が試合後に見れると思うので、表情を見てもらうのも新鮮かなと思います。あそこまで激しくやっていたのに、終わったらどうして称え合うんだろうというような、敵と味方のシーンとかが観れると「ラグビーっていいな」と思ってもらえるのではないかなと思います。
学生スポーツ、早慶戦の魅力に迫る
——学生スポーツの良さとは
山田:大人が介入できない素晴らしい4年間だと思うので、思いっきり自分たちのやりたいことがやれるのが学生スポーツですね、良くも悪くも。社会に出るといろいろなしがらみとかつまらないこととかもあったりする。もちろんその中から素晴らしいものができたなって思うときもあるけど、自分の思いでできる。あとは、失敗をできるのも、大学スポーツの良さですね。プロの世界に行くと、負けたらダメ、失敗したらダメという話になると思うけど、何かいろいろチャレンジできるのが大学スポーツだし、そうすることで思ったよりも良いようなものができたりするのかなと思います。
廣瀬:期間が限られてるというか、来年はまた全然違うチームなっているというか、今しかないというのは一つ魅力だなって思います。そこに尽きますね。だから今年のチームのことしか応援できないという思いが結構強いです。
——一つ学生たちにアドバイスするなら何を伝えますか
山田:俺は気にしてなかったのですが、周りの目を気にしないことかな。
廣瀬:(笑)
山田:やりたいことをやっぱりやった方がいい。大人の目を気にすると「これはできないな」とか、できない理由とかが見えてきてしまうけれど、そういう周りの目を気にしないで自分のやりたいことをやる。法律に触れない範囲で。
山田:トシさんは「道を切り拓く」でしょ?
廣瀬:そうだな(笑)。そうね。アキはグローバルに見てたけど、俺はグローバルな視点では見ていなかったからそういう視点があればなと。日本国内ではなくて、世界という視点で、その上で何か道を切り開いてほしい。
——お二人にとって「慶應ラグビー」とは?
廣瀬:よく鍛えられて、知的に、かつ泥臭くプレーできるという感じかな。
山田:試合前後のギャップが一番激しくて、それを見せれるのが慶應かな。試合中はひたむきにプレーして、あとは爽やかな姿を見せてくれると、なんか良いなと思ったりします。
——早稲田はどういう存在ですか
山田:強い。強いイメージしかないけどね。
廣瀬:うん。
山田:強いなって感じです。
——今と昔で変わったことは何ですか
山田:YouTubeでもインターネットでも何でも、全体的に情報はすごい取りやすい時代になったし。トシさんも言ったようにグローバルな目線で、就活とかやりたいこと、周りとのお付き合いなど、何かそういうグローバルな目線で人生の階段を上っていってほしいです。特に慶應の学生にはそういう力、自信もあると思うので。確かに山田にも当時そういうのものがありましたけど、それがすごく楽しくて充実するし、今もこれからもそういう時代になると思うので、そういうマインドで進めるのも良いのかなと思います。
廣瀬:臆せずにというのと、あとは情報がたくさん入ってくるから、「分かった気になってるかもしれないけどやってみたら違う」ことってたくさんあると思うから、やりたいなと思ったことをやってほしいなというのがあります。体感してるとか、分かっているというのがすごい大事かなとも思うし、アキも言ってたけど失敗できる。たくさん失敗しておいた方が良いかなって思います。何かそれを身をもって知っているというのが大事だと思うので、座って何かを理解したというよりも、アクションと一緒に理解してほしいなと思います。
——今の慶大ラグビー部の印象、大学ラグビーの印象
山田:日本一の形って何でも良いと思うんです。大学選手権優勝が一番かもしれないけど、慶應のラグビーが日本一と言えるところがたくさんある。強い集団だったり、志が高い人間が集まっていたりとか、すごく細かなところに気が配れる。そういう学生が日本一集まっている、それは伝統的に慶應のラグビー部が日本一と誇れるところではないかと。今年もそういうイメージは今年というか、ずっとイメージはあります。
廣瀬:新しい監督の中で愚直に、真面目にやってるのかなと思います。結果が思ったようには出てないけど、変わらず自分たちのスタイルを信じてやり切ってほしいです。早慶戦でいうと、その試合はどうなるかというのはやはり分からない、今の結果が必ずしもそのまま反映するとも限らないと思うから、そこはそこで別の試合と思って「この一戦」という思いを持ってやってくれたら嬉しいかなというふうに思っています。
——お二人にとって早慶戦とは
山田:うわ難しいこれ。そのパターンね(笑)単刀直入に、かけがえのない80分でどうですか?(笑)
廣瀬:いいね(笑)
山田:かけがえのない80分はちょっとアレだな。チャレンジできる80分?違うな。難しいな、トシさんから答えてもらって良いですか?(笑)
廣瀬:他の試合と一緒の80分だけどね。でも、歴史がやっぱり違うかな。いろいろな思いをした人たちや、それを楽しみにしている人がたくさんいる中で、自分たちが試合ができるという。相手も同じような思いを持って挑んできてくれる試合なので、すごい誇り高いというか、そういう試合ですね。ラグビー部の名だけでなく、大学の名も背負って戦っていると思うので、すごくやりがいのある試合です。伝統とか想いとかインパクトというものを皆が知っているからこそ、盛り上がるのかなと。あとは、日付が決まっていることも大きいですね。11月23日に毎年開催するというのも決まっていて、「OB会もこの日にしようかな」とか。日付が決まっているというのも一つのポイントかなと思います。
山田:私からはライトなものいきます。慶應らしさを表現できる80分かな、人生で一番。人それぞれ自分らしさがあって、自分らしさを表現できる80分。これは試合に出ていない選手にも言えると思いますね。試合に出れない悔しい思いとか、早慶戦を見ることによって応援の仕方とか、今後の人生に向けて「俺はこういう人間なんだ」という自分らしさを再確認できるというか。自分はこういう人間になりたいんだとか、思える80分ですね、早稲田を前にして。
——現役選手たちにメッセージをお願いします
山田:思いっきり楽しんでもらいたい。
廣瀬:結果だけに捉われずにプロセスも大事にして欲しいというのと、今この瞬間こそ楽しいというか、贅沢な時間だと思うのでそれを思いながら楽しんで欲しい。
——読者にメッセージをお願いします
廣瀬:早慶戦ぜひ応援してほしいというのと、楽しんで欲しいというのが一番です。ラグビーをもっともっと好きになって、ラグビーだけでない大学スポーツも愛してくれたら嬉しいですね。何か面白いアイディアがあったら一緒に何かやりましょう!
山田:大学のラグビー、どんどん一緒に盛り上げていきましょう!
――ありがとうございました!
(取材:野上賢太郎)
♢廣瀬俊朗(ひろせ・としあき)慶應義塾大学理工学部卒。在学時は蹴球部主将を務め、ラグビー日本代表の主将も経験。現在は株式会社HiRAKU代表取締役として活躍
♢山田章仁(やまだ・あきひと)慶應義塾大学総合政策学部卒。在籍時は蹴球部で活躍し、2015年には日本代表としてW杯の舞台に立つ。九州電力キューデンヴォルテクス所属