2022年11月6日、秋季リーグ戦連覇を狙った慶大は早慶戦に連敗し、「チーム下山」の戦いが幕を閉じた。当時主力だった主将・下山悠介(現・東芝)ら多くの4年生が抜け、チーム事情は厳しかった中で、堀井哲也監督は廣瀬隆太(令6商卒・慶應)を次期主将に据えて賜杯奪還を目指した。そして1年後、「チーム廣瀬」は2年ぶりの秋季リーグ戦優勝、明治神宮大会制覇を成し遂げた。今回は偉業の当事者たちであり、今春卒業する4年生たちが「チーム廣瀬」の1年間の戦いぶりを振り返る。
満を持して迎えた秋のリーグ戦は、開幕カードの立大戦を連勝で制すると、春に勝ち点を落とした法大戦も4戦の激闘の末に勝ち点を奪取、東大戦も連勝で勝ち点を3として、同率首位で並んでいた明大との天王山を迎える。「春は完敗して、最も意識していた相手」であった明大戦では、第1戦と第3戦で明大エース・村田賢一(現・福岡ソフトバンクホークス)を慶大打線が完璧に攻略して勝ち点を奪取した。廣瀬自身も「チーム廣瀬」の大きな成長を肌で感じた瞬間だったという。
「春の段階では明治に勝つイメージが全くできていなかったので、(秋に)ここまで粘って勝つことができたのは、本当にチームとして成長したし、ワンランク(レベルが)上がったなと感じました」
そして最高のチーム状態を保ったまま、慶大は「勝てば優勝が決まる」早慶戦へと突入する。第1戦をサヨナラゲームで落とし後がなくなった慶大だったが、第2戦を完封で制して1勝1敗として迎えた第3戦。春の早慶3回戦に続き廣瀬が先制本塁打を放って試合を優位に進め、投手陣が終盤の相手の追い上げを振り切り、慶大は2年ぶりの秋季リーグ制覇を達成した。秋の早慶戦で慶大が勝ち点を奪取したのは6年ぶり(ポイント制の2021年秋を除く)のことで、廣瀬も納得の表情で早慶戦をこう振り返った。
「ワセダは早慶戦にすごく強くて昨秋も負けていたので、今年こそは絶対勝ってやるという思いで試合に臨んでいました。また(チームも)これまでの明治や法政との戦いで勝ってきていたのでみんな自信を持っていたと思いますし、早慶戦もそのままの流れで勝てたかなっていう感じでしたね」
また「早慶戦あたりから徐々に自分が納得いくスイングができていた」と語るように、自身の打撃についても自信を持ち始めていたというが、続く明治神宮大会でもその打棒が炸裂する。初戦をコールド勝ちで突破して迎えた準決勝・日体大戦、廣瀬は1点をリードされた6回に逆転3ランを放ちチームを勢いづけると、8回にもソロ本塁打を放って突き放した。続く決勝・青山学院大戦でも8回に試合を決定づける犠飛を放ち、チームの4年ぶりの明治神宮大会優勝に貢献した。
新チーム結成当初は想像もできなかった日本一の瞬間を、廣瀬はこう振り返った。
「1年間でこれだけ一人ひとりが成長した結果、リーグ戦最下位争い(をするほどのチーム)から日本一になれたと思いますし、優勝するべくして優勝したというよりは、はい上がってきてからの優勝なので、その点で本当に優勝の価値があると思いました」
昨秋のプロ野球ドラフト会議で福岡ソフトバンクホークスから3位指名を受けた廣瀬は、現在一軍昇格を目指してファームで腕を磨いている。自慢の豪打はプロでも健在で、春季キャンプでもフルスイングが首脳陣の目に留まることもあった。また廣瀬は大学野球での経験をもとに、プレーとは別に意識していることがある。
「大学野球は純粋に勝ちに向かって、チームスポーツとしてどのようにチームに貢献できるかを考えながらやってきた4年間でした。プロはまた少し変わってきますけど、それでも(大学では)主将をやらせてもらったので、チームとして動いていく中で自分がプレー以外の部分でどのように貢献できるかを学ぶことができましたし、そこをプロの世界でも活かして頑張りたいと思います」
プロの世界に飛び込み、より一層高い意識を持って日々の鍛錬に取り組んでいる廣瀬。入団会見で目標に掲げた「ホームラン王」を獲得する日も、そう遠くないだろう。
(記事:宮崎秀太)