今季の六大学野球も残すはあと“1カード”。野球部と共に勝利を渇望し、苦楽を乗り越えてきた應援指導部。先日、彼らは早慶戦を前に、最後の全体練習を行った。その様子を取材した。
應援指導部は、1946年に前身の應援部から名称変更する形で結成された。組織的応援の先駆けとして、早稲田大学と共に早慶戦での応援合戦の歴史を紡いできた。現在は、吹奏楽団とチアリーディング部の2部門体制で、100人を超える部員が所属している。
5月28日、早慶戦4日前。練習場の扉の向こうは既に学生たちの熱気と緊張感で満ちていた。今回は一年生も参加し、初めて部員全員が揃った。午後6時、総合練習は始まった。最初に行ったのは[試合前企画]の練習。ここでは、慶應義塾高校の応援歌である「烈火」が慶早戦限定で披露される[一貫校企画]、早慶両応援団による[陣中見舞い]の最終確認が行われた。続いて、野球応援の担当者3名により慶早戦の心得が伝えられた。そして午後7時50分、本題である[試合想定練習]が幕を開けた。ここでは、9イニング分の攻撃時/守備時の応援の確認と実践演習が交互に行われた。休憩時間を挟みつつ、練習は4時間に及んだ。午後10時、応援企画責任者による締めの挨拶をもって、総合練習は終了した。
今回は特に印象的だったことをいくつか取り上げようと思う。
まず何といっても、その想定の徹底ぶりだ。今季の早稲田大学は強い。先制点を挙げた試合は全て勝利している。早慶戦ではさらに脅威となるだろう。練習では、相手に先制点を許さない守備時の声援、逆に慶應の先制点を後押しする攻撃時の応援。これらを試合序盤から全力で行うよう全員の目線を揃えた。劣勢時の想定も抜かりなかった。リリーフピッチャーが連打を打たれ窮地に陥った際の応援、エラーにより失点した際の応援、徐々に点差をつけられスタンドが敗戦ムードに傾きつつある際の応援。また、本間颯太朗(環4・慶應)主将が逆転ホームランを打った(想定)際には、部員同士で抱き合い、心から喜びを分かち合っていた。誰よりも球場に赴き、悲喜を味わった彼らだからこそ、ここまで緻密な設定での準備が可能なのであろう。
細部までの追究は、個人のタスクの増加と複雑化にもつながる。何種類にも及ぶ応援歌の振り付け・演奏をただ覚えるだけでは、この役目は務まらない。本番では試合展開に応じて楽曲も選択され、応援コールの言葉も書き換えられる。また、内野/外野に分かれた陣形を組まねばならず、意思疎通が難しくなる。“早慶戦の神宮”の観客数・歓声の規模はともに他大学との試合とは桁違いだ。この異様な雰囲気の中、全員が上手く連携をとり、迅速かつ適切な判断を下し、何時間にもわたり応援し続けることは至難の業である。
応援企画責任者のIさんは以下のようにアドバイスを贈る。「應援指導部一人一人が目の前の観客に投げかける言葉、抑揚、表情、タイミング等への小さな工夫が積み重なることで、“消化試合”は“熱闘”に変わります。ただ、5時間以上に及ぶ長丁場です。オン・オフの切り替えを意識し、自身の体調もいたわりつつ戦い抜いましょう。」
野球応援担当のEさんはこう語る。「観客数が多いので、中途半端な応援にならないよう、観客一人一人を大切にする気持ちを忘れないことです。そのためには、應援指導部皆が観客の目線で考えることが重要です。自分だったらどういう言葉・振る舞いに心を揺さぶられるのかと常に考えて行動することが、観客をうまく巻き込んだ応援につながると思います。」
野球応援担当のKさんは應援指導部の極意を語った。「私たちは皆、選手・観客を鼓舞するべく応援しています。ですが、それは自分自身を勇気づけるためでもあると思うんです。チャンステーマがかかった瞬間、自分も奮い立たされる感覚になります。また、日常生活では出せない自分を、応援席では全開放出来ます。應援指導部は私にとって一番熱くなれる大切な場所なんです。」
先日の明治大学の結果を受け、慶應の今季の優勝の芽は潰えた。勝てば優勝となる早稲田大学に比べ、選手・観客の士気が下がってもおかしくない。おまけに当日は悪天候が見込まれる。“逆風満帆”である。しかし、應援指導部の心の炎は消えてはいなかった。人は、心の底から何かを思うとゾーンに入ることがある。目の前で早稲田に優勝はさせない。練習中の彼らはみな“ムソウ”状態だった。チアリーディング部はその指先に、吹奏楽団はその音に、応援を呼びかける者はその声に、身を任せた。この日、若き血に燃ゆる者たちの情熱は、束となり、闘魂と化した。この力を、神宮へ。
(記事:竹腰環、取材:岩切太志、大泉洋渡、牧瀬藍、林佑真、工藤佑太)
最後まで記事を読んでいただき、本当にありがとうございます。4月8日に行われました、リーグ戦開幕前の総合練習も取材を行っております。ぜひご覧ください!
・【應援指導部】最後の総仕上げ! 総合練習の様子をリポート/野球開幕直前特集 No.4 | KEIO SPORTS PRESS (keispo.org)